Fate/チェインクロニクル   作:ブロx

4 / 28
今回からちょくちょく戦闘シーンが入ります。誰得かってぐらいに雑な描写ですが、どうかご勘弁を。作者は口だけは達者なトーシロです。



第4話 応酬

 

 

 

 

 剣と槍はどちらが強いか。

 

よくよく話題に上がるそれについての回答は、端的に言って様々としか言いようがない。

 

曰く、剣の方が強い。槍なんて突くだけだし、懐に入って斬れば良い。

 

曰く、槍の方が強い。リーチが長いし、剣の間合いに入らずに一方的に突き刺せば良い。

 

曰く、槍ってマイナーだしなんかショボいじゃん。剣の方がかっこいいし。刀剣って華があるし。

 

曰く、槍がマイナーやて?戦場において最も使用された武器は槍。古今東西武器の王様は槍だって事もお前知らへんのかちょっと槍の話でもせえへん云々。

 

等々多岐に渡る。結論など出ない。

 

 仮に。・・・仮に真実がもしあるとすれば、それは武器を使う使い手に問題があるという点。

 

口だけは達者なトーシロが槍を持った所で、刀剣使いのプロ相手に通じるだろうか。逆もまた然り。

 

武器の強弱とは、つまりは使い手の強弱という事。

 

ちなみに銃は論外。強弱とかそういう問題ではないのでここでは割愛させて頂く。

 

 では本題。

 

一流の剣使いと一流の槍使いが戦えばどちらが強いか?

 

答えは――――

 

 

 

 

 

 

「ハァアアア!!」

 

「フッ!!!」

 

 

 ―――剣と槍の激しい撃ち合い。片や斬り、突き。片や刺し、薙ぎ。

 

どちらが槍でどちらが剣かすら分からないほどの速さ。その応酬。

 

銀色の騎士は槍の間合いなど物ともせず瞬時に懐に入り、

 

青色の槍兵は槍を縦横無尽に操り近中遠の距離と間合いを自在に支配していた。

 

驚くべきはその体捌き。控えめに言って、人智を超えている。

 

勢力伯仲。

 

しかし、あえて両者の差を述べるならば、

 

「卑怯者め!!自らの武器を隠して戦うとは何事か!!!」

 

如何なるカラクリだろうか。騎士の持つ剣は、槍兵の目には見えなかった。

 

それ故に、彼は攻撃の手を一旦止め、銀色の騎士の出方を伺っている。

 

「どうしたランサー。止まっていては槍兵の名が泣こう。そちらが往かぬのであれば、私が往くが」

 

「風か・・・?それで武器を覆い、屈折率を変えているという事か。恥知らずの剣使いめ」

 

「本当にそうかな? 英雄とは、どのような武器も使いこなせてこそ英雄。

この手に握るのは斧かも知れぬし、槍かも知れぬ。いや?もしや杖かもしれんぞ?ランサー」

 

「ハッ! ほざけ、剣士風情が」

 

戦士独特の軽口のやりとり。されど、足は止まってなどいない。必殺の一撃を加える為、機は常に窺っている。

 

「…一応聞いておくがよ。お互い初見だし、ここらで分けって気は無いか?」

 

「断る。貴方はここで倒れろ、ランサー」

 

サーヴァント二人が出会えば、両者どちらかが死ぬまで闘うのみ。

 

騎士の鋭い眼光がそう告げていた。

 

「・・・・はぁ。こっちは様子見で来てるっつうのに」

 

―――ホント今日は厄日だぜ、セイバーさんよ?

 

「・・・!これは」

 

魔力がランサーの槍に集まっている。なんと濃密な魔力だろうか。

 

爆発でもするのかな?

 

・・・とんでもない。

 

「―――宝具!!」

 

「ご明察。我が一撃、手向けとして受け取るがいい…!」

 

 これは爆発などでは無く、もっと恐ろしい何かだ。

撓る五体。踏み込み。大地が割れる。槍の軌跡など見えはしない。見せはしない。

 

 

―――その心臓、貰い受ける。

 

 

「 ゲイ・ボルク 」 

 

 

 槍はセイバーの胸を貫き、ランサーは標的にそれを振るう。

 

其の名、刺し穿つ死棘の槍。

 

槍の穂先に一滴の血痕も残さないのが、魔槍の作法だった。

 

 

「・・・え?」

 

 おかしい。と気付いたのは岡目八目、衛宮士郎か。はたまた貫かれた標的のセイバーか。

 

「い、今のは、」

 

槍を振るう。槍が標的に当たる。相手は死ぬ。

 

 これが物の道理だ。なのに、どのような原理か魔槍は振るうより先に標的に命中していた。

 

槍が標的に当たる。槍を振るう。相手は死ぬ。

 

・・・何を言っているのか分からないと思うが。頭がどうにかなりそうだがつまり。

 

「…因果の逆転。過程と結果の逆回し。過程を経て結果へではなく、結果を経て過程に至る。それがその魔槍か、ランサー…!」

 

苦しげなセイバーが種を明かした。

 

べったりと、赤い血がついているランサーの槍がその答えだった。

 

「―――――」

 

致命傷だ。

 

 セイバーは胸に致命傷を負い、息もたえ絶え。あと少し攻め込まれれば、騎士の命は果てるだろう。

 

・・・だというのに、

 

「―――セイバー。貴様」

 

 致命傷を負ったのはこちらだと言わんばかりに、ランサーは憤怒の表情を浮かべていた。

 

「―――かわしたな、我が必殺の一撃を・・・!」

 

血に濡れた己の槍を見て、ランサーは怒気をはらむ言葉を発した。

 

「…ゲイ・ボルク。では御身は、アイルランドの光の御子という事か」

 

「・・・ドジったぜ。これを振るう時は、一撃必殺でなきゃいけないってのによ。有名すぎるのも考え物だ。

そして、己の振るう武器に敵の血を残すなど、己の死も同じ」

 

どうやら魔槍は不発に終わったらしい。つまりは双方、痛み分けといった様子だ。

 

「ランサー!」

 

セイバーが叫ぶや否や、ひょうっと衛宮邸の塀の上に飛び乗るランサー。

 

「悪いがここは引かせてもらうぜ。…うちのマスターは用心深くてな。槍がかわされたら戻って来い等と言いやがる」

 

「逃げるか、貴公」

 

凛としてランサーを睨み据えるセイバー。

 

魔槍をかわしたとはいえ、彼女は致命傷を負っている。

 

だというのに、そんな事実は無かったと言わんばかりに気迫を漲らせているのは流石と言えよう。

 

「・・・追って来たいのなら構わん。だがその時は、決死の覚悟を抱いて来るんだな―――!」

 

恐ろしい形相を残し、ランサーは去っていった。

 

彼を追えば、その先に待ち受けるのは修羅の道。敵を全て殺し尽くさねば決して終わらぬ無道の極み。

 

「参りましょう。マスター」

 

―――伸るか反るか。

 

「待ってくれ!!!」

 

答えは否。傷付いた女性を往かせるなど、彼には出来ない。

 

衛宮士郎は、彼女を止めざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――槍と剣の激しい攻防は終わりを告げた。槍の男を退けたのは、セイバーと名乗る少女。

 

「俺はお前に聞きたい事があるんだ!お前、一体何なんだ?人間なのか?」

 

「…見ての通り、セイバーのサーヴァントですマスター。ですから、私の事はセイバーと」

 

己を止めたマスターの言に不服があるのか。少々不満げな顔をするセイバー。

 

「俺は衛宮士郎。…って違う、そうじゃない。聞きたい事は山ほどあるんだが」

 

「分かっています。シロウと呼べばいいのですね?シロウ。実に好ましい響きです」

 

微笑む、騎士。

 

「あ、ありがとう・・・」

 

―――そんな事、初めて言われたな。

 

照れる士郎。

 

「・・・いや、そうじゃなくて。だからマスターとかサーヴァントとかセイバーのその傷とか!」

 

まずは傷を癒して、セイバーのサーヴァントとは一体何なのか等話し合おうじゃないか。

 

「シロウ。どうやら貴方は正規のマスターではないようだ。…話の場を設ける為にも、私は外の敵を排除してきます」

 

「いや、物騒な事言ってないでまず人の話を」

 

庭を飛び出すセイバー。そして誰かが斬られる音。

 

「はっや!!!待ってくれセイバー!!!」

 

家の外に出ると、剣の切っ先を誰かに向けているセイバーが。

 

「何ですか、シロウ。敵はあと一人。邪魔をしないで頂きたい」

 

「こっちはてんで何も分からないんだ!まずは説明してくれ!!」

 

 

―――誰か説明してくれよ!!!

 

 

「―――では。私が説明しましょう、先輩」

 

声が聞こえた。と同時に、上空から人が降ってきた。

 

 着地の衝撃を全身でもって受け流す為身体は屈める。両足はしっかと大地を踏みしめ、片手は地面。もう片方の手は体の後方もしくは横へ。

 

この時、顔と視線は地面に向ける事。

 

一拍おいて、顔を正面に向ける。

 

スーパーヒーロー着地だ。

 

マネしたくなるのは分かるが、膝に悪いので良い子はマネしないように。

 

―――そこには、見知った顔と見知らぬ顔がいた。

 

「いいや、オイラが説明しよう」

 

「いやいや、俺が説明しよう」

 

「いいえ、私が説明致しましょう」

 

・・・・チラッ。

 

「…じゃあ僕が説明を」

 

「どうぞどうぞどうぞどうぞ」

 

「そんな事だと思ったよチクショウ!!古いネタかましやがって!!!」

 

四者四様の声と、やる気のない男の声。ツッコミ。

 

困惑。これ以上ないほどの困惑だ。そんな士郎の前に颯爽と現れたのは、

 

「貴女…!」

 

「桜?」

 

「こんばんは。先輩方」

 

後輩の間桐桜と羽の付いた小さな妖精、長身の女性。そして二人の男。

 

「サクラ、こういう時は義勇軍参上!って言うんだよ」

 

「え?そうなんですか?・・・・義勇軍参上!」

 

「嘘教えるなピリカ」

 

そんな怪しい奴等に剣を向けるセイバー。

 

「あなた方は何者だ。…いいや、サーヴァントを連れているという事は、邪魔立てというわけか」

 

「 邪魔しに参った 」

 

「いいから黙ってて下さい、ピリカ。ツカムさんも」

 

士郎に近づく桜。

 

「セイバー、矛を収めてくれ。彼女は敵じゃない」

 

「・・・・・分かりました」

 

―――今、己のマスターはシロウだ。極力その指示には従わねばなるまい。

 

「先輩。貴方は戦争に巻き込まれてしまったんです」

 

「え?なんだって?」

 

耳を疑う士郎。一体戦争とは何なのか?

 

 幸せは犠牲なしに得る事は出来ないのか?時代は不幸無しに越えることは出来ないのか?とかジャイアントなロボが出てきそうな命題的なものではない。

 

「―――ふーん、そういう事ね。何も知らないって訳だ、衛宮君」

 

 凛とした音。それを聞いたならば、思わず発生源を探さずにはいられない。そんな鈴の音のような声がする。

 

「・・・お前、遠坂?」

 

尻餅をついていたのだろう。スカートに付いていたほこりを払い、優雅に立ち上がる女性。

 

「こんばんは。素人のマスターさん?」

 

 月光を反射している長い黒髪。鮮緑の瞳。

 この道我が旅。象徴的な赤いコート。

 

憧れの遠坂凛が、士郎に笑みを浮かべていた。

 

「うわ。怖い」

 

「し!ツカムさん、今それ禁句です」

 

「フィーナみたいだね、赤い姉ちゃん!」

 

「見て下さいサクラ。小型機11時の方向。上げ底に見えますか?いいえ違います。あれは本物、間違いありません。そこがいいんです」

 

「信じられない。結局は自分より小さけりゃ何でもいいってのか!!」

 

やいのやいのやいの。

 

「・・・まああれだ衛宮。とりあえず、色々と説明してやるよ」

 

士郎の肩を叩く、同級生の間桐慎二。

 

「慎二・・・?」

 

「お前は巻き込まれたんだ。魔術師共がドンパチする聖杯戦争ってやつにな。あとこいつらだが、」

 

親指を己の後ろに向けながら、やつれた顔で慎二は言う。

 

―――慣れてくれ。

 

疲れ果てて磨耗した慎二の瞳が、全てを物語っていた。

 

 

「・・・今日は厄日だ」

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

昨日の夜、全てを失くして冷たい雪に濡れていた。
今日の昼、命を的に生きる目標を追っていた。
明日の朝、ちゃちな想いとちっぽけな良心が、冬木の街に笑顔を蒔く。
聖杯は、戦争の結果出来るパンドラの箱。質を問わなきゃ何でも叶う。
次回「敵対」
明後日、そんな先の事はわからない。




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。