Fate/チェインクロニクル   作:ブロx

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特に読む必要の無いある日の(^U^)との会話ログ。

―――まだエフィメラさん目当てでガチャを回しているのかい?(^U^)
―――勿論ですニーサン。それに麗しきエフィメラさんは我が義勇軍の太陽の女神様です。
―――もっと課金して☆4・5のキャラを引いて売り払えばリングが手に入る(^U^)
―――ふーむ。確かに必ずしも廃課金が悪いとはユグドさんも言わなかった。
―――だったら!(^U^)
―――でもエフィメラさんのビキニよりエフィメラさんの完凸に漕ぎ出す事が幸せの秩序です。
―――秩序、ですか。お前らしい(^U^)
―――玲瓏黒破斬だってです!
―――黒の軍勢達の笛や太鼓に合わせて回収中の深遠の渦の魂の欠片が吹き出してくる様は圧巻で、まるで伝説の義勇軍のバーゲンセールなんだそれが!!
―――総天然色のミズギタリ様やクニアリ様の完凸を見て私が歓喜とフレンド登録を願い出る事くらい、オセアニアじゃあ常識なんだよ!!!
―――今こそ、ユグド様に向かって凱旋だ!絢爛たる黒の大陸は、大海をくぐり年代記を同じくする鉄けむりと薄命は先鋒を司どれ!
―――APを気にするケ物の輩は、監獄の進む道にさながら罪芥となってはばかることはない!
―――思い知るがいい!ヒカリ=ヲ=ツカムのフルネームを!
さぁ!この英雄譚劇こそ内なるさわやか3組が決めた遙かなる望遠カメラ!
進め!集まれ!光を掴め!
私こそが!聖王様!

ハァアアッハハハハハハハハ!!

すぐだ!
すぐにもだ!                     

わたしを迎エいれるノだ!! アハハハハハッハのハーーー!!!

 ・・・要約すると、エフィメラさんが出たので嬉しい。です。
彼女を引けずにいたあの頃からずうっとこの時を想い続けてきた。ようやくその日がやって来た。約三年、長かったぜ(プシュッ
これは夢じゃない。










第21話 大英雄王との闘い

 

 

 

 

 空は月も星も何もかもを覆い隠し、黒く澱んだ大気は寺全体を包み呑み込んでいる。

蟲で蔓延るどこぞの蔵の比ではないこの場所は、言うなればこの世ではなくその外側。 

 ただ喰らい、ただ侵し、時の最果てまで天空を呑み込み続けるだろう。

 

びた、と。頬に何かが触れる。

 

指で拭った黒い泥は、まるで雨のように降り注いでいた。

 

「―――中々壮観なものであろう?」

 

 黄金の王ギルガメッシュが彼らを歓迎する。

指に残るそれを強く握りつぶし、義勇軍は王の前に立った。

 

「今夜がその決着です。『アーチャー』」

 

「であろうな。 だから言峰もこの奥で高みの見物ときている。―――勝つのは我だと、知っているからな」

 

 閉じた掌が拳を創る。 しめる、しめつける。

この場の誰も、それが痛いとは思わなかった。

 

「―――ギルガメッシュ。 貴方は聖杯に何を望む?」

 

「ハ、可笑しな事を。 聖杯は元より我の物だ。自分の物を自分で使うのは至極当然の事であろう?」

 

「………では貴方は聖杯を一体何に使うと?」

 

「決まっていよう。 整理だ」

 

「―――整理?」

 

「アレがこの世に顕現すれば、増えすぎたこの世の有象無象共は瞬く間に淘汰され、必要な人数だけが残る。

無駄なき世界だけが有り、無駄なき人間だけが生きる。分かるか?セイバー。 整理とは、無駄を省くとはそういう事だ。

 今の世にはそれが必要であると、この我は裁断した」

 

 聖杯も、その中身も人類も、有機物無機物も何もかも。 この世界の全ては己の所有物。

ゆえに王が言うべき事は唯の一つ。

 

―――無駄が多いお前達はひどく気持ち悪い。

 

「そんな事を、英霊たる我らが許すと思うか。英雄王」

 

「分をわきまえよ騎士王。万象許すのは何時だろうと何処だろうとこの我だけだ。 ・・・どうやら教育してやる必要があるらしい」

 

 英雄王の周囲に、幾百の煌く巨星が展開される。 その全てが古今無双の武具であり英霊が持つ宝具の原典。

世界広しと言えど、一人の英雄がこれほどまでの規模の武具を揃える事は不可能である。

 

―――どれほどの贅の限りを尽くしたのか。どれほどの暴政を民にしいたのか。 

 

そしてどれほどの偉業の限りを成し遂げ、民を導き国を発展させたのか。

 

 知りたいか?簡単な事だ。

前を見よ、後ろを見よ、上を見よ。 魔の槍だ聖なる槍だ、魔剣だ聖剣だ魔杖だ妖刀だ神弓だ魔矢だ魔斧だ聖盾だ神盾だ―――

 

全て、この我の蔵にある王の財宝だ。

 

「さて。 そこな雑種どもは疾く失せよ、と言いたい所だが」

 

「―――・・・・・」

 

「他人の物を持っていくなと言った筈だ、ドブ鼠」

 

 睨みつけられる彼、衛宮士郎は動かない。 何故なら嫌だからだ。繋いだこの手を、離したくは無いと。 

そして強く想ってもいる。 今離したら最期、この暖かい手の彼女にはもう二度と会えないのではないかと。

 

・・・・だから、

 

「―――セイバー。 奴を倒すぞ」

 

「背中は任せます。 シロウ」

 

交わす言葉は短く、ただ背中を預け合う。 ここが旅路の果てだとしてもきっと彼らに悔いは無い。

 

心はいつも、共に有る。

 

「…手筈通りに。 セイバー」

 

「ライダー、援護を頼みます。 アーチャーは私と共に前衛を」

 

「それは構わないが、弓兵の本分は本来狙撃なのだがな?」

 

「アーチャーが弓を使うですって? 目の前を御覧なさい、キツいジョークですよそれ」

 

桜達マスターとセイバーらサーヴァントが陣形をとった。

 

 

 

□ □ □ □ ワ

□ □ ツ □ □

士 □ □ □ □

□ □ 凛 □ □ 

□ □ □ □ 桜

 

 

 

 

 彼女達の胸中に有るのはこの街の未来と己の将来。

新しい時代を創るのは昔人ではないのだと、英雄王に五体全てでもって告げていた。

 

「―――成る程」

 

 そんな冬木の義勇軍の覚悟を知った、星々すら自在に操る黄金の王は滲み出ている不快感を一切隠さず、

 

「お前達と我の絶対的な違いを、どうやら思い知らせてやらねばならんらしい」

 

パチンと、指を強く響かせた。

 

 

 

 

 

 

 冬木の義勇軍・作戦と目的。 

ギルガメッシュと言峰神父を倒して黒の軍勢の流出を食い止め、聖杯を壊してイリヤを奪還する。

 

黄金の王はサーヴァントであり古今無双の大英雄。 そのため義勇軍総出でもってこれに対処する。

 

『―――皆さん、異論は有りますか?』

 

『サクラ。 戦力を別けた方が良いのでは?あの神父の相手はどうするので?』

 

『英雄王と神父。 そのどちらも化け物で、こちらの全戦力で当たらねば勝てないわ』

 

『………彼奴らが正真正銘の化け物だという事はこの場にいる誰もが理解しています。

私が言いたいのは、我らサーヴァントが囮となって敵の注意をひき付け、目的を果たすべきだという事です』

 

 サーヴァントを分散させてギルガメッシュ及び言峰と戦っている内に、マスター達がイリヤを奪還する。

英霊化け物同士の戦いにただの人間がご丁寧に首をつっこむものではない。

 

 マスターを、桜を守る事こそライダーの使命。 初めて会った時から放っておく事など出来なかった己が主を、眼帯の下から見やる。

・・・似た者同士。 自分が自分である為に、捨ててきた過去の数を数えてきたその瞳。

 

だから。 貴女の未来は私が守る。最後まで。

 

『―――この戦、貴女達人間にとっては九死に一生どころか十死零生。 初めから勝てない類のモノです。我らサーヴァントを犠牲にしない限り』

 

『それは違うわ、ライダー』

 

『…………?』

 

『私の掲げる勝利条件・目的に、誰かを犠牲にするなんて項目は無い。 ここで奴らと闘う。皆で奴らを倒さない限り生きて帰れない。

全員で立ち向かい、全員で勝ち、全員で家に帰るの。

 私の術とライダー、遠坂先輩の魔術とアーチャーさん、先輩とツカムさんの突進力とセイバーさん、兄さんの治癒術、そして絆アビリティ。 

神父の姿をした化け物と金ぴかの暴君を倒すには丁度良い編成よ。 勝率は五分五分といった所ね』

 

『綺麗なねーちゃん! ツカムの絆アビリティを全開放するから、多分これで人間でも英霊の足元くらいには及ぶ筈だよ! 

………でもスピードが命になるから、』

 

『一時間で仕留めよう。 短時間しか発動出来ないが、絆アビリティ全開放の影響下にある俺達全員でもって金ぴかを叩きのめし、』

 

『化け物神父も倒して聖杯もぶっ壊して藤ねえが待ってる家に引き上げる』

 

『ね?簡単でしょ? ライダー』

 

『―――、ツカム。 貴方の絆アビリティはあの黄金の王に無効化されるのでは?』

 

『だろうな。 でも俺は何度でもアビリティを発動する』

 

『効果が無くなっても、すぐに絆が皆を包むよ! にーちゃん、ねーちゃん!!』

 

『………こんな子供だましみたいな作戦、本気で大丈夫だと思っているのですか?』

 

『でもやるしかないじゃない? そうでしょ、桜?』

 

『はい。 だって、私にはまだやりたい事・知りたい事があります』

 

『僕だってそうさ。見たい映画や作品がまだまだある』

 

『皆さんで行きたい所、遊びたい事がまだまだたくさん。 その為にはこの街が必要で、私には皆が必要なんです』

 

『そこに人がいなくちゃ、この街は空虚な箱さ』

 

『私達は冬木の義勇軍。 敵に敢然と立ち向かい、降りかかる火の粉を払う者』

 

『―――分かりました。では一つだけ。 貴女は私が守ります、サクラ』

 

『私たちだろ?ライダー。 一人より大勢。強いに決まってる』

 

『では、―――状況開始』

 

 

 

 

 

 

 義勇軍陣形編成。アマゾンストライク。

キャスターと闘った際に敷いたインペリアルアロー陣では、敵に対して速度及び攻撃力が足りない。

 

為すべきは速攻、そして敵に手も足も出させないほどの撃滅力。

 

「 光を、つかむ 」

 

絆アビリティ発動及び武装選択。

 

【全部】

 

【武装:キクイチモンジ】

 

 へそが震えるほどに重く響く声が聞こえた刹那、桜達全員は気血の巡りが速くなるのを感じた。

心身が高揚し、まるで雲の上を歩いているかのように戦場全体を眺める事が出来る。

 

一歩、また一歩足を動かすと今までの自分との違いが強く感じられる。

 

 かつてツカムが率いてきた義勇軍全軍の力の残滓。 負担は大きく短時間だけではあるが、桜達は今や英雄の領域に足を踏み入れていた。

 

「―――ハァアアアアアア!!!」

 

 一番槍の誉れは陣の先頭、剣の英霊セイバーであった。

その速度まさに疾風。 いや、疾風の中を泳ぐ風竜が如し。

 

「雑種の群れも、こうも纏めれば呆れすら感じさせるものよな騎士王。 

早速だが答えを聞こうか。 我の女になれ、セイバー」

 

 王の無数なる宝物がセイバーに迫る。 

だがその全てを剣で弾き飛ばしながら、風竜は往く。

 

「断る。私はシロウの剣だ」

 

「フハハ、そんなに嫌か?我が花嫁となる事が。 妖精郷すら凌駕する程の贅の限りを味わわせてやるというのに」

 

「英雄王、これは相性の問題だ。 私は彼と離れられないし、彼も私と離れられない。…ただ普通と違う所は、互いを裏切らないという所だ」

 

「これは傑作だ。 よもやこの我を笑い殺す程のジョークを、オマエが言う事になろうとはな。フハハハハ!!!」

 

 風竜を全身串刺しの刑にせよと、王の号令によって宙を飛び舞う幾百の武具。

そのうちの二本が、セイバーの無防備な背中に迫る。 

 

それを、

 

「ありがとうございます、シロウ」

 

「往け、セイバー」

 

 無防備? そこには彼女を守る一人の鞘がいる。 士郎が、剣で王の宝物を弾いた。

・・・いつの間に彼は剣を手に入れたのか。 

 

土壇場に強く、全絆アビリティの開放下にある衛宮士郎は、得意の投影魔術を成功させていた。

 

 令呪使用。サーヴァントの速度を更にブースト。

地を蹴る騎士王。 手に持つ剣の切っ先を我らの敵に向け、突きを繰り出す。

 

 竜は暴風をその身に纏い、鉄槌となって前へ前へと邁進する。

絆アビリティと士郎の令呪の力によって音速を軽く超えた今の彼女がこの手に握るのは、剣にあらず。

 

突き刺すという機構(システム)に全身全霊を傾けた槍。 

 

これを更に突き詰めると、最果てにすら輝きが届く聖槍になるのかもしれない。

 

「―――風王鉄槌(ストライク・エア)!!!」

 

「フ、そうこなくては面白くない。・・・セイバー!!!!」

 

 風王鉄槌を迎え撃つは数多の星の輝き。

かつてイリヤとバーサーカーをも釘付けにした、王の巨星の群れ。

 

竜の暴風は斬り裂かれ、そこには穏やかな大気が―――。

 

「I am the bone of my sword」

 

「 天光満つる処に我はあり 」

≪ I dwell amidst the abounding light of heaven, ≫

 

 アーチャーと桜が同時に詠唱する。

先程セイバーの突きを止めたギルガメッシュの武具と同数のアーチャーの矢が、宙を覆った。

 

「―――Sword barrel full open」

 

「 黄泉の門開く処に汝あり 」

≪ thou art at the gate to the underworld, ≫

 

 連続で掃射されるアーチャーの矢。 だが英雄王に死角無し。

財の出し惜しみはしないとばかりに展開される彼の宝物。

 

其の全てがぐるりと義勇軍を覆い尽くした。

 

「―――陣形変更。ラピッドストリーム」

 

 

 

 

□ □ ワ □ □

□ □ 士 □ □

□ ラ □ □ □

□ □ ツ □ □ 

□ □ 凛 □ □

 

 

 

 

 この瞬間、英雄王は違和感を感じた。

防御を固めるでもなく、一見は一列に並んでるだけの陣形編成。 そして背中で桜を守るように、ライダーが仁王立ちしている。

 

「 出でよ、神の雷 」

≪ come forth, thunder of the gods. ≫

 

「衛宮! セイバーを診せてみろよ!」

 

「頼む、慎二!」

 

―――傷の舐め合いか。 所詮は雑種、まこと白けるわ!

 

 怒りによって感覚が研ぎ澄まされるギルガメッシュ。

王はゴミ掃除の要領で己が宝物を全て射出せんと意思を込め、

 

「――――貴様、」

 

瞬間、全てが凝固した。

 

「………まれ」

 

 義勇軍は全員が全員、ライダーの前にも横にも立っていない。 ゆえにこの陣形。

敵に対して必ず先制を得る事が出来るこの布陣。

 

「 石(かた)まれ 」

 

 ライダーの両眼を覆う眼帯が外れ、露わになった彼女の眼に映るのは黄金の王のみ。

其れは宝石のようにおぞましい程美しく、見る者だけでなく見られたモノをも須らく石化させる魔の瞳だった。

 

邪眼キュベレイ。 神代の女神あるいは怪物のこの眼に映った以上、英雄王は身動きが取れない。 

 

つまり、

 

「これで最期だ!!!」

 

「―――インディグネイション !」

≪ This ends here...Indignation(インデグニション). ≫

 

 

 古の術法が起動する。 キャスターを打ち倒し、かつてこの世の頂点に燦然と光り輝いていた神鳴りが。

どこかに転移でもしない限り避ける事は出来ず、凌駕する事など出来ない。しかもギルガメッシュは邪眼の影響で満足に動けない。 

 

―――詰みだ。

 

 そして義勇軍・アーチャーが更なる魔矢を射る。凛が宝石魔術を用いて攻撃を加える。

桜とツカムは王から視線を離さない。勝負が今ここで決まるという時、相手の側に立って物事を考える事こそ何より重要。

 

本当にこれでよいのか?私は何か過ちを犯していないか?

 

 最古の王が、目を閉じた。

 

「――――つまらんな」

 

 目を開ける。 それはここで終わる自分の第二の生に対しての感想か。或いは、この世に蔓延ってしまった有象無象に対しての感傷か。

 

・・・・もしくは、

 

「詰まらん。 もっと・・・攻めて来いッ!」

 

――――期待か。

 

「そんな…! ライダ、!?」

 

 神鳴りは消え、絆をも消失した義勇軍の足元から、禍々しい程に煌びやかで美しい黄金の武具が飛び出した。

それは彼女達全員の腹部を貫き、灼熱の痛みと冷徹なる恐怖を皆等しく与えさせる、凍てつく波動が如き王の審判だった。

 

「真の王は眼で正す。 この我を誰だと思っている?」

 

 ギルガメッシュの眼から見えない波動がほとばしる。 

それは魔・術・法の全てを無効にし、ヒトを原点に帰化させる王の威光。 

 

「この眼を持つ者はウルクとエリドゥの王である我とアルリムのみ。無駄は要らぬ、偽者も要らぬ、自然だけだ。

自然なヒトの身でこそ挑むが良い」

 

 王を愉しませる事こそ雑種の、有象無象の生きる意味。 そこに絆などという借り物・偽者はいらぬ。

生身で、剥き出しの人間性で、この身に掛かって来い!

 

「 光を、つかむ! 」

 

絆アビリティ再発動。

 

【全部】

 

「―――耳が聞こえぬのか? その五体一つだけで来い、と言っているのだ!!!」

 

 眼光がほとばしる。再々度、全絆アビリティ発動。

ツカムは腹部に刺さっている黄金の槍を手で抜き、口元の血を拳で拭う。

 

瞬間。 またも王の眼光がほとばしり、腹部だけでなく四肢が槍と剣で貫かれた。

 

「ッ・・・・お前は、勘違いをしている」

 

「そのナリでも減らず口を叩く余裕は有るか。 許す、申してみよ」

 

「この力は無駄でも偽者でも借り物でもない。 これは正真正銘、本物だ。俺達皆の」

 

「本物だと? ハ、おかしな事を。 人とは、己の足のみで仁王立つ者を表す言葉。

誰かとの絆?皆の力で勝つ?―――亡霊。お前のそれは、己の足で立てぬ弱者が使う言い訳にすぎん」

 

「だからそれが勘違いだって言ってるんだ、英雄王」

 

 ・・・・絆アビリティの全開放を使いすぎた。全くもって力が出ない。

ツカムの身体は四肢が貫かれていて全く動かせず、かろうじて動かせるのは口だけ。

 

そして何を語ろうとも、暴君ギルガメッシュには届かない。この矮小な亡霊の言葉など。 ・・・でも、

 

「確かに俺は一人じゃすぐ我を忘れるような弱い奴さ。 黒の軍勢との戦いだって、初めはずっと独りで戦ってきた」

 

 ピリカに出会うまで皆に出会うまで。 いつもこの足だけで踏ん張り、剣を振るって生きてきた。

 

「人という字がそう書く物だっていうのは否定しない。 だがこの絆が、皆の力が要らないモノだって事だけは間違いだ」

 

「ほう?」 

 

「皆自分の人生を生きてきた。 俺達は義勇軍になるまで、決して忘れられない消えない何かを抱えながら生きてきた」

 

四肢に力を込める。

 

「ある人は誰かを『選別』するという責務を。 ある人は九つの領を支配するという野望を」

 

腕の肉が削げ落ちる。足の腱と骨が常から外れる。

 

「黒によって滅ぼされた王都を復興するという目的を、土妖精の族長として皆を守るという志しを」

 

両腕と両足の自由がきいた。 腹に刺さってるこの宝剣を叩き斬る。

 

「そしてそれらは俺の義勇軍に入っても変わる事は無かった。 自分が生きてきた過程、積み重なって出来たモノ。

彼らの生き様は力となって俺を、ユグド大陸の誰かを助けてきた」

 

右手に持つ愛刀・キクイチモンジの背を左肩に付ける。

 

「・・・決して。この胸に宿る炎は、偽じゃあない。言い訳でも無い。 これは自分が自分である事の証明。

人の為に生きようと自分の為に生きようとも、ユグドを、故郷を守る事に繫がり継がれていく宝物だ」

 

 地に足を付け、大きく広げる。 縮地剣・ダッシュブレードの構え。

義勇軍隊長・ツカムが今までも、そしてこれからもイの一番に愛用する彼だけの武技。

 

「俺達は皆戦う。何故なら生きる事は戦うって事だから。 だったら俺達は皆戦友だ。戦友ってのは、良いモンだ」

 

戦うのなら勝つ。なら一人より大勢、強いに決まってる。

 

「――――成る程な」

 

 英雄王の笑みが消える。 ふと見やれば眼前の亡霊だけでなく冬木の義勇軍全員が立ち上がっている。

あの人の為、自分の為、目標の為。 差異はあれど、最終目的は一つ。

 

『我らはここを守る』

 

「・・・起きろ、エア」

 

 生まれ出る胎児が見る夢。人間が持つ創造の究極の一。世界の外側から来る純粋な生命。

英雄王が、何かを開ける動作をした。

 

「愉快な高説を聞かせてもらった礼だ、亡霊。 我からも一つ教授してやろう」

 

・・・それは凡そ、一切の歴史に聞いた事も見た事もない奇怪な剣であった。

 

「生き汚いお前達が志しを持とうが義やら勇やらを持とうが、戦おうが関係のない絶対の真実だ」

 

 英雄王のみが持つこの剣に銘は無い。ギルガメッシュはただ『エア』とだけ呼んでいる。

ゆっくりと、だが段々と速く回転しだす円筒状の剣。剣という概念が生まれる前から存在する、武器の原典にして頂点。

 

「この世の全ては我の庭だ。 生きるのならば、我の許しを得よ」

 

「プリーズ。 これでいいか?暴君」

 

絆アビリティ全発動。

 

「下の下だ。 雑念」

 

―――縮地剣・ダッシュブレード

 

―――天地乖離す開闢の星

 

「ツカムさんッ!!!」

 

 時空が歪むほどの重力と風の奔流。 それに逆らう亡霊という名の流れ星。

桜を纏っていた暖かい力はすぐに掻き消え、一直線に突き進むツカムは今や風前の灯。

 

 満身創痍の彼は、慎二も含めたこの場にいる誰よりも脆い。アラバスター石のように脆いだろう。

エアの一撃は英霊だろうと人間だろうと何だろうと全てを無に帰す。

 

百人が百人見て、逃げるべきだ。

 

「ぅ、ぉぉおおおあああああ!!!!」

 

そこに、―――身体に魔力を纏わせて衛宮士郎が走った。

 

「ぉおおおおおッ!!」

 

「うああああああッッ!!!」

 

間桐慎二が、遠坂凛が走った。 

 

・・・・無謀だ。無茶だ。支離滅裂だ。 一体何を考えているのか?

 

「はぁああああああ!!!」

 

 何も考えていない子供なのか。 団長の間桐桜までもが、天地を乖離させた開闢の星に突き進んでいく。

 

「―――、――」

 

 セイバーもライダーもアーチャーも。そして、ギルガメッシュも。

言葉を失くし、眼前の光景に我を忘れている。

 

 この者らは、趣味は自殺と履歴書に書ける阿呆ども。

英霊である彼らには、こいつらは頭の病院から抜け出してきたんですか?としか思えない。

 

「一点突破だ! 皆!!」

 

「大は小を兼ねるのか速さは質量に勝てないのか?

いやいやそんなことはないわ速さを一点に集中させて突破すれば!!どんな分厚い塊であろうと!砕けッ散る!!!!」

 

 何だこの光景は。

見ちゃいられない。まるで低俗な野蛮人だ。 いや、まだネアンデルタール人の方が頭を使う。

 

「ツカム!秘密のツボを押してやる!!あとちょっとだ!!!」

 

でも・・・何で。

 

「私の仲間にッ、手を出すなあああア!!!!」

 

―――何であの頃を思い出すのか。

 

「…う、」

 

 口から発した最初の人物は誰か。 セイバーかアーチャーかライダーか。

それとも、

 

「うぉおおおおおおおああア!!!!」

 

全員か。

 

「宝具を使います! シロウ!!」

 

「駄目だッ!!そんな余裕は誰にも無い!」

 

「頼れるのはこの身体だけか・・・!!」

 

「力を合わせて! 皆!!!」

 

 ここがサーカス場・見世物屋であれば誰もが笑いを抑えられない。

ここにいるのは人間と亡霊と英霊。なのに全員が馬鹿揃い。

 

考えてもみろ。 

 

 この英雄王の一撃は、一たび喰らえばバーサーカーすら容易く全ての命を使い果たす程の力の塊。  

英霊が束になっても勝てる見込みはゼロに近い。

 

そんな中に生身の人間がいる。風前の灯の亡霊がいる。 失笑と呆れを感じるなと言う方が無理というもの。

 

「―――懐かしい」

 

・・・英霊の一人がそう呟いた。

 

「もう全ては終わりだというのに何故か気分が良い。 昔(生前)を思い出す」

 

「こんな風だった時が、かつては有りました」

 

ここではない何処か。理想としたあの場所。

 

誰よりも遠くへ。

 

「マスター達人間が頑張っているのです。―――ならば我らが踏ん張らなくてどうするのですか!!!」

 

 セイバー・ライダー・アーチャー、サーヴァント魔力全放出。 魔力の枯渇は自らの消滅を意味するが、もはや関係ない。

これからの歴史を紡いでいくのは、我らではなく彼らなのだから。

 

「フ、フハッッハハハハハハ!!!! 散り様で我をここまで興じさせるとは!!

予想通り貴様等は、我の最高の玩具であったわ!!!」

 

「――――ッ!」

 

 悲しいかな、地力が違う。 キクイチモンジを握るツカムの指先から力が抜け始める。 

胸に宿る炎は未だ消えず、大地を踏みしめる足の力はまだ衰えていない。

 

 しかし限界は誰にでもある。あと一呼吸でもすれば全身から力という力、精も根も尽き果てるだろう。

 

―――人生、諦めが肝心だ。

 

「・・・光を、」

 

「愚かな亡霊が! この我の眼の前で、貴様等の絆とやらが発揮される事はもはや無いわ!!!」

 

絆アビリティ発動キャンセル及び武装選択。

 

【武装:黒騎士の剣】

 

 ツカムが持つ刀が赤銅色の大剣に変化した。 しかし何を驚いているのか、彼の双眸が見開かれる。

知らないのだ。この剣を生前持った憶えも振るった事も。

 

「………ツカム。 これはあの人からの贈り物だよ。今回だけだってさ」

 

思い出すのは黒い兜と鎧姿の騎士。 相棒の妖精の声に、頷く。

 

「 ―――光をつかむ!! 」

 

 ツカムの胸が黒く。いや、強く輝く。そこには一冊の本が。 

これは今際の際に見る幻か。 兜と甲冑を着た男の後ろ姿が義勇軍に、ツカムに手を振った。

 

それを横目に走る。

 

「・・・・・、な」

 

重力と風の奔流をモノともせず、義勇軍が走る。

 

「皆を、守る―――!!」

 

この街を守る。仲間を守る。

 

「ブチかませ!!! ツカムさん!」

 

闘気に包まれた剣の刺突が、義勇軍が、英雄王に――――

 

「―――読んでおったぞ。 貴様ら」

 

 切っ先がギルガメッシュに当たるその時。 王の上空から鎖が振るわれた。

 

「天の鎖! 我の宝を、秘中の秘を出させたその気概。見事と言っておこう!義勇軍!!」

 

 王と共に有り友を守る鎖。 

それが今、先頭を走るツカムを捕らえる、

 

「―――――」

 

刹那。 金属と金属とが擦れ合うような音が響いた。

 

「――――ま、さか」

 

「・・・・ッ!」

 

 答えは明快にして異常。 ツカムの背中に有りいつも彼の背を守っていた盾。

ユグド大陸義勇軍隊長はそれを片手で掴み、鎖を受け流していた。

 

「ガ、フ―――ッ」

 

 剣で強く心臓を貫かれる英雄王ギルガメッシュ。 意地ゆえか。たたらを踏み、その場に膝は付かない黄金の王。

その顔には笑みを浮かべている。

 

「・・・・成る程、戦友か。 そんな者が常にお前達の傍には立っているのだな」

 

「――――」

 

王を貫いた男と義勇軍はただ黙し、眼で答える。 

 

「我にも友はいる。―――ああ確かに。 友が常にここにおったなら・・・・何処の何にも負ける気はしないな」

 

 懐かしい光景を見たせいか。

最古の王は、酒でも酌み交わしたい気分になってきた。

 

「―――見事也義勇軍。 中々どうして、世の中には愉快なバカが居るものだ」

 

 友と二人、まだ未知だったこの世界を駆け抜けていたあの若き頃。

こんなバカが隣りにいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 全身が薄く消えつつあり、立ったまま意識を失っている英雄王。

それを尻目に、義勇軍が過ぎ往く。

 

全ては順調、作戦通りだ。 次は聖杯を壊すまで。

 

「遠坂。 今の僕達の勝算は?」

 

「多く見積もって8:2って所ね」

 

「どっちが2だ?」

 

「私達に決まってるじゃない」

 

「計算力すごいな、僕は9:1だと思ってた」 

 

「意外ね慎二。 アンタなら勝率0パーセントって言うと思ってたわ」

 

「確率論に0は無い」

 

「兄さん、遠坂先輩。私達は損失無く皆無事で生きています。あとは神父一人だけ。 勝率は変わらず五分五分ですよ」

 

「御立派。 とにかく、傷を癒しながらとっととイリヤを救い出しましょ?」

 

「・・・・アレを相手に、か」

 

「――――そうよ」

 

 柳洞寺の境内から更に奥に行くとその場所はあった。 大地を軒並み飲み干すと表現しても差し支えない、広い池。

 

流麗なるその池はいつもなら月光を反射し、鏡花水月を世人の心に深く刻んでくれる霊験あらたかな場所である。

 

「―――よくぞ来た。義勇軍のサーヴァント、そのマスター達。 そして亡霊よ」

 

 空に穿たれた大孔が池によく映り、孔から出ている黒き泥はこれでもかこれでもかと桜達に現実を見せている。

 

 今は見る影どころか形も無いその池の中央に、神父にして元人間・言峰綺礼は立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

死に伏した神が呼んでいる。全世界を敵にしても、我が元に来るべし。
我は与えん、無限なる力を。我は伝えん、とこしえの愉悦を。
神なる者の壮大なる誘惑。人たる者の壮絶なる決意。
今義勇軍に、最後の戦いが始まる。
次回『一対一』
全てをこの手に、全てをその手に。






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