Fate/チェインクロニクル   作:ブロx

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エフィメラさんが出ない。 
『ゆゆゆい』というゲームが配信され、待望のミノさんが出た。 運命力が足りた。
 エフィメラさんが出ない。 運命力が足りない

な”ん”で”だ”よ”ぉぉぉぉおお!!!!

ミノさんSSを書いたからか? ならばエフィメラさんSSを書けば出るのか?

教えてくれ、ブロxはあと何回フォーチュン(笑)リングを回せばいい?
ブロxはあと何回、☆5と☆4のあの子を殺せばいいんだ・・・。
ユグドは何も言ってはくれない。運命を廻してもくれない。










第20話 仲間

 

 夢で過去を視る事は、往々にしてある。 

それは今も大好きなあの歌のように、今も輝いているあのメロディーのように。

 

『隊長。 次の目的地は海の外か?』

 

『いいや、まずはこのユグド大陸から黒の軍勢を駆逐しようと思う。・・・すまないがフィーナ、いいかな?』

 

その日。 黒の王との決戦を終え、義勇軍一行は大陸の外の大海を目指そうとしていた。

 

『私は構いません』

 

『団長が決めた事なら、是非も無いさ』

 

『ありがとう、皆』

 

『まずは俺達の故郷であるこの大陸を万全にしないとってな。やってやるぜ隊長!

・・・・? なんだよエフィメラ、何か文句でもあるのか?』

 

 黒の軍勢の大元を倒す為、団員であるフィーナの為。

次の足がかりはこの大陸の外側。だがそこに向かう前に、この義勇軍はユグドに生きる人々を守る事を選択した。

 

『―――アンタ、本当にこんな所で足踏みしてていいの?』

 

『おいッ!!』

 

『いいんだカイン。 何が言いたいんだ?エフィメラ』

 

義勇軍特攻隊長兼、魔法兵団隊長エフィメラはその流麗な眉を歪ませながら、声高に言う。

 

『ユグドを守る事にかまけて、フィーナの事やクロニクルをほったらかしにしていいのかって言ってんのよ』

 

『海を渡る事は容易じゃない。 この大陸から黒の軍勢を絶滅させ、かつ大海を渡る術を探す。それが最適解だと俺は思ってる』

 

『ギルドや私達魔法兵団、各地の仲間にこの大陸を任せてさっさと海に出ればいいじゃない!』

 

『それは・・・』

 

『―――いいんですよ、エフィメラさん』

 

二人の論を遮って、ユグド大陸義勇軍・宰相フィーナが力強く笑顔で口にした。

 

『私は、私達の団長に付いて行きます。どこまでも』

 

『そうですよ。それに、手早くこの大陸の黒の軍勢を殺してしまえば済む話じゃないですか。 ねえ、パーシェルさん?』

 

しっとりと濡れた紅蓮色の瞳が、盾持つ騎士に声を掛けた。

 

『私は隊長様の、皆の盾です』

 

そして思い思いに、声を団長に掛ける団員達。

 

『モチロン!ぼくもいるよ~!!』

 

『私達もです』

 

『俺達も!』

 

『フィーナ、アンジェリカ達も・・・。皆ありがとう』

 

『――――フン、せいぜい過労死しない事ね』

 

『エフィメラッ、待てよ!!』

 

『カイン、…いつもの事でしょ? エフィメラなりの応援よ』

 

『分かってるけどさ・・・・』

 

 時に怒り、時に笑い、士気を上げる義勇軍の面々。

この後、義勇軍はユグド大陸から黒の軍勢を全て駆逐。

 

いよいよ未知の大海へと歩を進める筈であった。

 

『・・・・・・』

 

 胸に灯り続け、熱を上げ続けているこの赤い炎。

奴らを殺し、奴らを消し去り、奴らを絶滅させる。

 

その冷徹なる意志が、感情ですら無いその想いが、彼を最期まで動かし続けていた。

 

―――小さな足で駆け抜けた草の原。

 

―――寝る前に必ず聞かせてくれた子守唄。

 

―――もう二度と見ることの出来ない我が生家。

 

 かえせ

 

―――男の矜持と勇気を背中で教えてくれた父。

 

―――人間としてのあるべき姿を、眼差しと詩で謳ってくれた母。

 

―――片時も、今も決して忘れていない幼馴染のあの横顔。

 

 かえせ

 

―――もう戻れないあの日々。

 

 かえせ

 

―――黒に呑まれ、もう掴めないあの憧憬。

 

 かえせ

 

―――お前達は塵だ。

 

 かえせ

 

―――お前達は害だ。

 

 かえせ

 

―――悪は、黒はこのユグドに栄えない。

 

俺が絶対に栄えさせない

 

『あの日々を返せ。 あの日々に帰せ』

 

俺のはじまり、かえしてくれ。

 

 

どうかもう一度。

 

 

 

 

 

 

『――――これが。

これがツカムさんの………』

 

一目でこれが夢で、元義勇軍隊長の心なのだと彼女は分かっていた。

 

『やあサクラ。 見ちゃったかい?ツカムの中を』

 

『ピリカ。 何故あなたがここに?』

 

『今のオイラはちょっと特殊だからね。死んだツカムと一心同体、ってわけじゃないけどそれに近しい存在なんだよ』

 

『………ツカムさんは、憎んでいるのですか?黒の軍勢を』

 

『ううん、違う。分かってるはずだよ?ツカムを召喚したサクラなら』

 

 妖精は苦しいような引き攣ったような表情を口元に浮かべる。

とても妖精らしくない、でもどこか懐かしい顔だ。

 

『…………。感情なんて、無い。 ただ殺意という想いが消えない……』

 

『そう。 ユグド大陸でオイラが初めて会ったあの頃のツカムは、凄かった。

ご飯は食べないし鍛錬は欠かさないし、黒の軍勢を見つけたら即突撃。

負傷しても痛がらないし、無口で感情も表に出さなかった。見てるこっちが叫びたかったよ』

 

『何かがごっそりと無い代わりに、何かでごっそりと埋まってる―――』

 

『ちょうど、ツカムに会う前のサクラのようにね』

 

昂然と顔を上げる。 だからこそ自分は、彼を召喚出来たのか。

 

『でも君がシロウのにーちゃんやワカメのにーちゃん達に救われたように、ツカムも義勇軍の仲間に救われた。

 殺意に身を委ねそうになっても仲間を、大陸の皆を守るという意志はずっとここにあったんだよ。

あの人は、オイラ達の隊長は皆の団長なんだから』

 

でも、と。 妖精はどこか既知を感じさせる表情で言う。

 

『…でも。 ユグドに残って黒の軍勢を絶滅させると言ったツカムの顔は、オイラが昔よく見た顔だった』

 

『――――…』

 

『三つ子の魂百までだっけ? 極論かもだけど、ツカムは見たくなかったんだよ。

自分がいないユグド大陸で、黒が他人を傷つける事が。忘れられなかったんだよ、黒に対する完全な殺意を』

 

『―――フィーナさんは。他の皆さんはそれを知らなかったのですか…?』

 

『まさか。 皆知ってたよ、ツカムが無意識に抱いてるそれを。だからオイラ達義勇軍の想いは、昔も今もただ一つ』

 

『―――光をつかむ』 

 

『誰しもに、ね』

 

それが義勇軍に所属した我らが唯一つ共有した、真の―――。

 

『………もうじき目が覚めるけど、サクラ。 この世界に黒の軍勢が来てると知った以上、ツカムはもう止まれない』

 

『はい』

 

『生前そうだったように、あの人はこの世界のヤツらを一人ででも絶滅させる。 

黒はね、伝染するんだよ。人から人へ。人から世界へ』

 

ゆえに其の名を、黒の軍勢と我らは呼ぶ。

 

『この冬木の街を自分の故郷のようにはしたくないと、目覚めた君にツカムは言う。君をひどく拒絶するかもしれない。

でも、……でもどうか、』

 

彼を。あの人をどうか見捨てないで。

 

『何を言ってるんです? ピリカ』

 

『サクラ……?』

 

『今の私は冬木の義勇軍団長で、ツカムさんは大事な大事な団員。 団員の幸せを考えずして何が団長ですか?何が義勇軍ですか?』

 

『―――――』

 

『この街と私の仲間を泣かせる奴は、黒だろうと白だろうと願望機だろうと容赦しません。厳しい事を言われようとも。

だって私、選びましたから』

 

死ぬまでこの足でこの道を。 私は、皆を守る。

 

たとえ全て綺麗事だと罵られようとも。

 

『…ははっ、ハードボイルドだね。 君は』

 

『知りませんでしたか? 義勇軍の長は皆こうなんですよ』

 

ハードでなければ生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない。

 

 

 

 

 

 

タイミングはぴったりであった。 目を開けると同時に、男の後ろ姿が見える。

 

「何処へ行くつもりですか? ツカムさん」

 

「・・・・サクラ。 おはよう、ちょっと散歩にね」

 

「そんな戦装束で散歩だなんて。 テルモピュライの隘路にでも往くのですか?」

 

 冬木の街のとある空き家に桜達はいた。アインツベルンが聖杯戦争の為に用意しておいた場所である。

周りを目端で見やれば、凛や士郎達の姿は見えない。

 

どうやら眠りすぎたようだ。 自分も、眼前の彼も。

 

「――――俺は黒の軍勢を滅ぼさなきゃならない」

 

「何故です?」

 

「選んだから」

 

「…一人でですか?」

 

「俺は元義勇軍隊長だ。 一人で、何処へだってどこまでも闘って往けるさ」

 

「私達の助けは要らないと?」

 

「ああ。 必要ない」

 

真一文字に口元を結び直しながら、彼は強く言った。

 

「知らなくてもいい事は人生山ほどある。この世界の君達は本来なら、ヤツらを知らずに済んだ。

でもまだ間に合う。 ヤツらの本当の怖さ、恐ろしさ、それをよく知ってるのは俺とピリカだけ。

 明日の今頃には、サクラやシロウやシンジ達は何事もなく日々を過ごしてる。それは本当に、幸せな事だ」

 

「死にますよ。 ツカムさん」

 

「知らなかったのか? 俺はもうとっくに死んでる」

 

 くるりと背を向ける彼。

どのような手段を使おうとも、手足が無くなろうとも。

 

この街を、この世界を黒に染まらせやしない。 背中がそう語っていた。

 

「・・・一つだけ言ってなかった事がある。最期に伝えておこう」

 

「――――はい」

 

「サクラに逢えて良かった。 俺以上に、君は義勇軍の団長をしていたよ」

 

 教える事はもう何も無いと、歩み始めるツカム。

今男の胸中にあるのは、冬木の義勇軍の一員として共に闘えた事への誇り。

 

それを秘めたまま。 亡霊はたった独りの戦場へとその足を―――

 

「―――ユーリさん」

 

・・・・・。誰の事だ? 

 

「貴方がユグド大陸で義勇軍団長として闘っていた時、貴方は団員を見捨てましたか?」

 

・・・・ああ、自分の名前か。

 

「一人で闘いに往くと言った仲間に、貴方は『往け』と、言った事がおありですかッ」

 

・・・すっかり忘れてた。

 

「光とは! 自分一人だけで掴めるモノなのですか!!皆がいたからこそ、貴方は掴めたのではないのですか!?」

 

やわらかい、そして力強い感触がこの背を叩く。

 

「今の貴方は私の大切な団員で、信頼している仲間です! 一足先に自由になど、団長であるこの私がさせません!!」

 

 両手が後ろから身体の正面に回される。

前に進もうとしても、動かない。動かせない。

 

彼にだけは掴んだこの手を引き剥がせない。

 

 

『―――ユーリさん。 私、信じていますから。…どこまでも』

 

 

「・・・思いのほか頑固だな、サクラは」

 

「そうですよ。だから私には、ツカムさん達皆が必要なんです」

 

「そうか。 それじゃあ・・・・仕方ないな」

 

 桜の手を掴みかえし、振り返る彼。

いやでも目に入る女性の瞳が濡れている。

 

『―――隊長! 俺達、何処までも一緒だぜ?』

 

『もし離れ離れになっても、心は一つだよ。 ね?隊長さん?』

 

『ユーリさん。傷付いたら何時でも言ってくださいね? 何処だろうと、すぐ飛んでいきますから!』

 

 自分とした事が、本当に忘れていたらしい。

こんな顔を俺は誰にもして欲しくないと、心に刻み付けていた筈だったのに。

 

『アンタの事、皆ほっとけないのよ。 皆ね』

 

『ぼくの奇術はこの大陸に住む皆の為、そして隊長さんの為にあるんだ!』

 

『隊長様こそユグドの、私達の盾です』

 

『ユーリさん。私は全てを、そして貴方も守りたい』

 

『この私が仕官したのは貴殿の義勇軍だ。紫雲は常に、貴殿の道と共にある』

 

 ホントにふてえ野郎だな、自分は。

誰かがいないと、俺は我を忘れる大馬鹿者らしい。

 

「バカには仲間(ダチ)が必要だからな。 ・・・一緒に闘ってくれるか?サクラ」

 

「勿論です、私達は義勇軍ですから」

 

 

 

 

 

 

「―――切嗣さん。 あたし達の学校…めちゃめちゃになっちゃったよ」

 

 誰もいない筈の衛宮邸に、ぽつんと一人。 藤村大河は昨日学び舎で起きた事件を思い起こしていた。

 

「最近頻発してるガス爆発がついに学校でもかぁ……。 全くやんなっちゃうよね」

 

 偶々非番で実家にいたのが幸いだった。 大河はそう言って押し黙る。

勤め先の穂群原学園が、原因不明の爆発で半壊。 教員を含め全生徒は本日自宅待機となっていた。

 

全ては英雄王の宝物の流れ弾によるものなのだが、彼女がそれを知る術はない。

 

「………士郎達、大丈夫かな。 大人として心配だよ…」

 

 倫理担当の教師が一人行方不明になってしまった事や、士郎や桜達義勇軍の事。

語りたい事はいっぱいあるのに、何故か二の句が継げない。

 

縁側に座り込んで目を瞑る。亡き想い人に、大河は心で語りかけていた。

 

「・・・・!」

 

「―――て、あれ? アーチャーさん?」

 

 見つかる事はないと高を括っていたのだろう。 

大河が後ろを振り向くと、凛のサーヴァント・アーチャーが音も無くそこにいた。

 

「どうしたんです? こんな所に」

 

「・・・なに、散歩がてらだ。 そういう君こそどうしてここに?」

 

「あはは。 いや何か、この家にいなくちゃと思いまして」

 

 自分はここでこの家を守らなくてはならない。何が何でも。

そうしなければ二度とここには帰ってこれないと、大河は強く感じていた。

 

心の何処かで。

 

「・・・・・君も災難だな。 

衛宮士郎や義勇軍などというロクデナシ共と関わり合いになるとは。 素直に同情しよう」

 

「……う~ん、そう思います?」

 

「そうとも。 だから今すぐ、この街を出たまえ」

 

「ごめんなさい。それは出来ません」

 

 敵は異世界の黒き敵であり、軍勢。この冬木の街にいて良い事など無い。 皆死ぬし、皆逃げられない。誰かが食い止めない限りは。

 

「アーチャーさん達皆がこの世のモノではない何かと今夜闘おうとしているのは、何となく分かります。 この街が危険に晒されている事も。

だから私はこの家を守るんです。皆がいつ、帰ってこれるように」

 

「それは嬉しい事だな。 だが、それで君が死ぬ事になれば元も子も無いと思わないのか?」

 

「大丈夫ですよ。私、運だけは良いので」

 

「・・・・・」

 

 爛々と輝く瞳。

こんな眼をした藤村大河はどうにもならない事を、ロクデナシ共の一人である弓兵には分かっていた。

 

「そんなにもこの家が大事かね?」

 

「はい」

 

「・・・・そんなにも、あの衛宮士郎が大事か?」

 

「家族ですから」

 

「―――あの男は他人を不幸にするぞ」

 

「………」

 

「意外かもしれないが、私はそれなりに人生経験が豊富でね。だからああいう輩をよく知っている。

 自身よりも他者が大切だと思える思考。見知らぬ誰かの為に命を簡単に投げ出せる精神。

・・・貴女は最初から知っていた筈だ。 これを異常と、偽善と言わずして何と言う?」

 

「……昔からちっとも変わってないですからね、士郎は」

 

「自分は誰かの為にあらねばならない。 耳に心地良い文言だが、そこに自己の為という根本が無いのがあの男だ。

そんな歪みを抱えたまま生きていけば、辿り着く先はただの一つ。

―――醜悪な正義の体現者。人の迷惑しか生み出さない害悪だ」

 

 弓兵はいつものように淡々と事実を述べる。 

まるで見てきたかのように。まるで歴史書を綴るように。

 

「貴女が心を砕く程の生き物ではない。・・・・元より、生き物ですら無い」

 

「…士郎は人間です」

 

「違うとも。私が断言しよう。 奴は史上最低のロボットだ。ただ、人のフリをするのが誰よりも上手いだけのな」

 

 この街で衛宮士郎は元義勇軍隊長と打ち解けた。セイバーという相棒と絆を深めた。

だからってこれから何が変わる? 

 

変わらないよ、何も変わらない。

 

 ただ誰かの為に生きて、憎悪と死人が未来永劫増える。

どっちかなら・・・・死んだ方が良い。

 

「あの男は、」

 

「―――士郎は、」

 

アーチャーは採点する。 あの男は百点中百点の人でなしだと。

 

藤村大河は証明する。 百点中百点の―――  

 

「私の自慢の弟です」

 

「・・・、・・・何?」

 

「あの子はいつも誰かの為に闘い、いつも誰もが悲しまないようにと想い続けてる人間です」

 

 話にならない。

人間は普通そんな風には思わない。 誰だって自分が一番大事で、愛してさえいる。それをしないなんて奴は人間として破綻している機械だろう。

 

・・・そんなアーチャーの心を診たのか。

 

大河は今にも泣き出しそうな眼前の男に、誇らしげにこう言った。

 

「衛宮士郎は人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむ事の出来る人です。

だってそれが一番、人間にとって大事な事なんですから」

 

「―――――」

 

「あの子なら、間違いなく皆を守る正義の味方になれると私は信じています」

 

誰よりも傍にいた、この姉貴分が言うんだから。

 

「――――そんな台詞は、衛宮士郎には勿体無いな」

 

「あはは。 恥ずかしいから、士郎には内緒にして下さいね?」

 

「・・・ああ、」

 

頬の肉が震える。 男はずっとこの筋肉を使う事を忘れていた。

 

「墓場まで、持っていくとも」

 

若い頃によく浮かべたこの顔を。

 

 

 

 

 

 

「………ねえ父さん、母さん。 私もう時期、そっちにいくわ」

 

 冬木の街の外人墓地の一角に、その場所はあった。 父と母の眠る静かな土地。 

もう何度足を運んだのか分からない。そしておそらく、もう二度とこの足で訪れる事は無いだろうこの墓場。

 

「遠坂としてこの聖杯戦争に勝つ。十年前に死んじゃった父さんの無念をこの手で晴らす。……なんて、聞いたら怒るかしら?」

 

 彼女、遠坂凛のサーヴァント・アーチャーは今ここにはいない。 席を外せと、命じたからだ。

・・・こんな自分の姿など、何処の誰にも見られたくは無かった。

 

「敵は英霊サーヴァントだけじゃなくて、異世界の化け物もプラスなんて。 冗談キツいわよね、母さん」

 

 今からこの世すべての悪と戦えと言われても、凛はもう驚かない。

ピリカから聞いた話では、黒の軍勢とは異世界を跋扈した正真正銘の邪悪だという。

 

何度も何度も世界を覆い、滅ぼしてきた悪の化身。

 

「父さんなら、逃げろって言うかしら……」

 

記憶の彼方の父は何も言わない。

 

「母さんなら、私の自慢の娘として闘えって言うかしら……」

 

母は何も言う事は無かった。 十年前からここに入るまでずっと。

 

「どっちを選ぼうと、結局は死ぬ事に変わりはない。 何処の誰が言った言葉だったかしら、すべての生命の目的は死ぬ事だって」

 

 自堕落に生きようと必死に生きようと、人は目的が無くては生きられない。

一見格好良くても、他の誰かから見ればわたしはひどく格好悪い。逆も同様。

 

「―――でも。何でなのかしらね、……恥じる事だけは選びたくないの、私」

 

 胸に拳を当てる。 自分だけの誇りを、遠坂凛としての矜持を奮い立たせる。

・・・そうよ。どうせ最期倒れるなら、前のめり。

 

「遠坂先輩。 ………奇遇ですね」

 

 凛に声を掛けたのは後輩の間桐桜だった。サーヴァントであるライダーとツカムは傍にいない。

気が合うのか、ここには自分だけで墓参りに来たようだ。

 

「よく眠れた? 桜」

 

「ええ、おかげ様で」

 

手持ち無沙汰な、リボンがよく映えるいつもの後輩。

 

「墓参りは終わったの?貴女」

 

「―――、ええ先程。…ここは遠坂先輩の?」

 

「父と母よ」

 

「そうですか。 せっかくですし、私もお参りしてもいいですか?」

 

「―――……」

 

桜は、凛から目を逸らさない。

 

「いいわよ」

 

「ありがとうございます」

 

しゃがみ込み、目を閉じ手を合わせる。

 

「………。そういえば十年くらい昔にね、父と母がよく言っていたのを思い出したわ」

 

「――――……」

 

「私達の娘は、誇りだって。 何処に出しても恥ずかしくない自慢の宝物だってね」

 

先輩は語り続ける。

 

「―――私も。片時もそれを忘れた事は無いわ」

 

「…………っ…」

 

口を硬く閉じたまま、祈り続ける。

 

 声が出せなかった。

今出してしまったら、何もかもぶちまけてしまいそうで。

 

「そのリボン、いつも良く似合ってるわよ。いいセンスね、桜」

 

「――――はい」

 

 昔から、貴女は不器用だ。

桜は思った。

 

 

 

 

 

 

 公園内には、昨日の出来事があったせいか寒風のみが席巻していた。

この物騒なご時勢、好き好んで外に出る人間はいない。 だがそんな人がもしいるとしたら、

 

それは仕事人か、決戦を前に作戦会議をしている戦士達だけだろう。

 

「衛宮。 今回の聖杯には、異世界の軍勢が詰まってるって話だ」

 

「・・・何でも願いを叶える願望機が聞いて呆れるな、慎二」

 

「僕も昨日このメイドさん達と合流してから知った事なんだけど、お前と同意見だよ。

あ~あ、・・・魔法のランプなんてお伽話、信じた僕が馬鹿だった」

 

「千一の夜を超える位の逞しさがお前の売りだろう? 慎二」

 

「そりゃこっちの台詞だよ、鉄人衛宮」

 

 二人の傍にはセイバーとライダーが霊体化もせずに佇んでいる。

今の彼女らの敵は一つ。異世界の黒だけだからだ。

 

「イリヤスフィールの従者達よ、貴女方は最初からこの真実を知っていたのか?」

 

「ううん。 気付いたのは、アサシンとキャスターがイリヤに還ろうとした時」

 

「我が主イリヤスフィール様は聖杯の、言わば門のお役目を司っています。 

開け閉めが自由というわけではありませんが、あの方なら開きかけた門の中を視る事は十分可能です。

…そして十中八九、今夜にも門は全開になるでしょう」

 

「力づくで、ね」

 

セイバーの問いに、白の従者達は淡々と事実を言う。

 

「・・・今この瞬間にも門が開く可能性は?」

 

「ありません。 まだ私達が生きていますから」

 

「イリヤが死んでる可能性は?」

 

「セラに同じく」

 

 門が開けば、この世界は文字通り黒に染まる。それが発生していない。 

つまり、まだ開門には時間がかかるという事。

 

「――――私は、聖杯とは希望だと思っていました」

 

「セイバー・・・」

 

「門をくぐれば目映い光が降り注ぎ、人々を救ってくれる聖が有ると…」

 

 騎士は地面を見つめている。 その胸中にあるのは自戒か、憤怒か。

かつて聖杯が欲しいと豪語していた剣の英霊は、もうどこにもいなかった。

 

 

―――我を過ぐれば憂いの都あり。

我を過ぐれば永遠の苦患あり。我を過ぐれば滅亡の民あり。

義は尊き我が造り主を動かし、聖なる威力、比類なき智慧、第一の愛、我を造れり。

永遠の物のほか物として我よりさきに造られしは無し。しかして吾れ永遠に立つ。 

 

汝等ここに入るもの一切の望みを棄てよ。

 

・・・・結末は喜劇では―――

 

「―――セイバー。 聖杯を壊そう」

 

「はい。 貴方ならそう言うと信じていました、マスター」

 

 夕陽が美しく映える冬木の街。 

勇と義の戦士達の手と眼が重なり合い、蒼く輝いた。

 

 

 

 

 

 

―――思えばこんな自分に、一大事が待っているとは夢にも思わなかった。

 

 歩く。

 

私はもっと惨たらしく、蟲の魔術師として蔵の中で生涯を終えるのだと。 

 

 間桐桜が歩く。

 

 

―――思えば自分の人生、こんな事に直面するとは思ってもいなかった。

 

 歩く。

 

私はもっと優雅で、魔術師としての道を歩んで死ぬのだと。 

 

 遠坂凛が歩く。

 

 

―――思えば十年前のあの日から、こんな事が待っているとは薄々感付いていた。

 

 歩く。

 

俺は最初から、地獄に向かって進み続けているのだと。

 

 衛宮士郎が歩く。

 

 

―――思えば十年前から僕の人生、こんな事になってもおかしくなかった。

 

 歩く。

 

良くできた妹を持つと、兄は死ぬまで大変だからな。

 

 間桐慎二が歩く。

 

 

「―――やあ、遅かったじゃない?」

 

「悪いねピリカ、道が混んでた」

 

「じゃあ皆遅刻だね」

 

「皆同着だねって言ってくれよ」

 

一堂に会する人間と英霊達、そして亡霊。

 

「第一級の霊地で高所でもあるこの柳洞寺なら、」

 

「聖杯降臨にはベストです」

 

かつて敗北したこの場所が終点とは上出来だ。

 

「私達は、もう負けません」

 

「油断は敗北を招きますよ? サクラ」

 

「では試してみましょうか? ライダー」

 

「やれやれ。 やはりバカには仲間が必要だな」

 

「お前が言うなよ、アーチャー」

 

「慎二にそう言われちゃお終いだな、お前」

 

「ししし! 皆頼もしいね!ツカム」

 

「ああ。そうだな」

 

 魔界の如き歪さを孕む参道を登る義勇軍。

かつて侍が守っていた山門は、地獄の門と化している。

 

「―――待っていたぞ、セイバー」

 

くぐった先には、黄金のパライゾが待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 




次回予告

人の世の喜びも悲しみも、一瞬の星の瞬き。
万物流転。全てが宇宙に仕組まれた、巨大なイルミネーションだとしたら。
底知れぬ闇の中にしつらえられた、ただ一つの椅子に座り、
いつ果てるとも知れぬ、無数の光の象徴を食べ続ける者。・・・そして守る者。
それは誰か。
次回『大英雄王との闘い』
それが、我が運命なら。





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