Fate/チェインクロニクル   作:ブロx

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元々可愛さが鬼畜でロリなイリヤに何でよりによって南斗鳳凰拳なのか。
1つ、幼女は強い!絶対に強い! 2つ、手広げてるフライングイリヤがなんか天翔十字鳳に見えた。 3つ、なんかカッコいい。
巷じゃ魔法少女とか流行ってるfate界広しといえど、肉弾戦するイリヤが見れるのはここだけ!多分。
・・・・え?そんなロリっ子流行らない? ・・・川´_ゝ`)










第19話 極星

 

 

 難敵を打倒するのに必要な物は。

『筋肉』『勝機』『武器』『技術』。

色々あるが、どれもこれも発揮させて活かすには時間がかかる。シンプルではない。

 

必要なのはただ一つ。

 

―――私の目の前から、さっさと消えて無くなれ。

 

「ハァァァァアッ!!!」

 

そんな天下無双の『殺意』を全身に込め、イリヤスフィールは疾走していた。

 

「人形の分際でよく動く。耐えぬ方が身の為だというのに」 

 

 幾重とも言うべき武器、宝具の原典の掃射が幼女に迫る。

これが流星群だ、といっても納得するだろう。同じ物や贋作は一つたりと無く、現在過去未来全ての人類が夢想するこの輝き。

 

英雄王ギルガメッシュの放つ星は、彼岸の如き美しい幾何学模様を呈していた。

 

「――――!!!!」

 

「狂戦士にしては手際が良い。流石は大英雄か?」

 

 バーサーカーはその手に握る巨大な石斧で、星々を次々と叩き落とす。

主に降りかかる火の粉を払う事はサーヴァントの仕事。だがそんな彼に、唯一絶対の任務がある。

 

それは殲滅だ。敵一匹残らず肉片残らずの殲滅だ。為すべき事はただ一つ。

 

地獄を創れ。

 

「……バーサーカーッ!」

 

 ・・・だが悲しいかな。 身に迫るその全てを捌く事は出来ない。

図体が大きい為、イリヤよりバーサーカーの方が英雄王の星々に被弾する率が高い為だ。

 

大きいという事は良い面ばかりあるわけではない。 命中する身体、抉られる眼球、削がれる足。

 

だが、しかし、

 

「―――成る程。そういう事か」

 

 シャープペンシルの芯でも当たったのか? まさか。

傷が付くどころか全く意に介さず、狂戦士は眼前の敵に向かって依然変わらず五体を踏み出した。

 

その様に、英雄王ギルガメッシュは惜しみなく感嘆の声を上げる。

 

「・・・曰く、ヘラクレスは十二の難業を乗り越え神の座に迎えられたと云う。

まさに不撓不屈、人の身で天の星に至ったその気概。まこと天晴れよ!」

 

 賛辞を述べ、指を鳴らす黄金の王。

瞬間、王の周囲に展開されている武器が全て様変わりした。

 

イリヤとバーサーカーの眼が、ギラリと冷徹さを強める。

 

「我(オレ)の蔵の中でも最上級の宝物でなければ、その身を傷付ける事あたわずか。・・・だがそれだけよ。

この通り、英雄殺しの武器は有り余っている。貴様が狂戦士でなければこの戦、分からなかったやもしれぬが」

 

「――――――ッ!!」

 

 物理的どころではない、亜空の如き速度で射出される王の凶き巨星。

それの一つが、ついにバーサーカーの心臓を捉えた。

 

「ハ。それにしても人形、お前も滑稽よな。 その道化ぶりは一体誰から学んだのだ?」

 

「………何を言ってるの」

 

 王の宝物を躱し、その手で弾くイリヤと蘇生したバーサーカー。

だが出来るのはそれだけで、彼女と狂戦士は踏み込めない。

 

敵を打倒する為の、あと一歩が。

 

「我の眼は全てを見通している。 その拳、この世界のモノではあるまい。

あの義勇軍の小僧のように、異世界からもたらされた類であろう?」

 

「――――」

 

「十年前、我はある拾い物をした。それはこの世界とは違う異世界に穴を開けられる代物で、その穴から流れ出た何がしかがお前の元へ来たのだろう。

―――その方が愉しいと思い、我が望んだ事だがこの体たらく。下の下よな。

あの義勇軍とかいう雑種集団の方が、よほどマシというものだッ!」

 

何も出来ず、ただただ躱すことしか出来ない〝聖帝〟イリヤスフィール。

 

「なんの構えも無きその拳。制圧前進のみを旨とし、防御に重きを置かぬその姿勢・・・。

フハッッハハハハ!!! その程度の拳の使い手、我が生きていた時代にはごまんとおったわ!

それで〝聖帝〟などと抜かしたその罪科、死して贖うがいい!!」

 

「――――ッ!!!!」

 

 イリヤを庇い、更に射抜かれる狂戦士。

これで都合、

 

「これで十二度目。もう後が無いぞヘラクレス!!!」

 

「………」

 

 チラリと、己がサーヴァントを見やるイリヤの眼には、ある感情があった。

・・・落胆でもない、失望でも勿論ない。

 

それはシンプルな、闘争心だった。

 

「我と同じく神の血が流れている大英雄ヘラクレスよ、・・・・・狂してさえいなければな」

 

 英雄王の放つ巨星によって抉れた地面。

そこに転がっている岩石をイリヤはがっしと握り、投擲。石はギルガメッシュの顔面へと高速で向かう。

 

それについと、王が目端を動かした瞬間。

 

 少女は己に迫る神速の星をその手で掴み、投げた。

王に迫るこの二つの投擲物の違いは、その速度。

 

眼にも止まらない速さが岩石。眼にも映らぬ速さが星である。

 

さしもの英雄王も、これには気を散らされた。

 

「………バーサーカー、憶えてる? お師さんが死んだ後、二人でたくさん修業をしたね。

前人未到の雪山で、荒れ野で、嵐の中で」

 

イリヤの服の下の身体が、淡く光る。

 

「足がすくむ台風の真っ只中表に出た。止む事の無い雷雨にあたる中、天を見上げた。

膝まで沈むだろう雪道をこの足でただただ行進した」

 

・・・貴方と一緒に。

 

「――――・・・」

 

「貴方はいつも私を守ってくれた。理性の無い狂戦士の筈なのに、いつも私の隣でその腕を振るっていた…」

 

狂戦士は何を察したと言うのか、

 

「――――ッッ!!!!」

 

その眼を、大きく見開いて駆け出した。

 

「貴方はどこの誰にも負けない、世界最強のサーヴァント。………そして、私の家族」

 

 イリヤは笑みを浮かべ、優しい声色で話している。

その主を抱きかかえようと、バーサーカーは急いで主の下へと―――

 

「戻りなさい、バーサーカー」

 

その声と共に眩い光が迸る。 狂戦士は強制的に霊体と化し、イリヤの中へと還っていった。

 

「…たとえ相手が英雄の始祖、最古の英雄王だとしても私の家族は殺させない。 何処の誰にもね」

 

・・・許して頂戴ね。 今はこれしかないのよ。

 

「―――やかましい。人形がさえずるな」

 

 光が収まりながら、ギルガメッシュは己が宝物を展開した。

先程小細工を弄されたのがよほど気に食わなかったのか、その宝物の全てがイリヤを中心に円形に展開される。

 

これを前にしては、もはや逃げ道無し。 敗北以外道は無し。

 

「令呪の輝きか。 人形風情がいっぱしのマスターの真似事とは、一体何の腹積もりだ?」

 

「――――」

 

 イリヤは胸元のスカーフを脱ぎ捨て、衣服の第一ボタンを外した。

彼女の首が露になる。

 

その姿はまるで、断首台にのぼる罪人の様。

 

「成る程。サーヴァントを己が内に戻し、黙って我にその首を断たれることを望んだという事か。・・・では望みどおりにしてやろう」

 

 ギルガメッシュにとって、此度の争いは自身が描く筋書きの通りだ。

全身全霊の勝負でもないし、戦ですらない。

 

慢心すら滲み出ている英雄王は、いま死刑執行の合図を―――

 

「――――勘違いするな」

 

柄にも無く興奮しているのか。

 

音も無く大気が震える。 しらず、王の指が止まった。

 

「セラもリーゼリットもバーサーカーも、私の家族は誰もが大切。

そんな人達が今ここにいると、はっきりいって邪魔なのよ。………お前を殺すにはね」

 

「・・・大言壮語もここまでくれば妄言よな。だがまあ、遺言としては上出来だ。続けよ」

 

英雄王にすら気付かれずに、空間が軋む。

 

「ドイツに『狐潰し』という競技があるのを知ってるかしら? 

縄をピンと引っ張って、フィールドに放った狐や獣を天高く打ち上げてその高度を競う。

……フォックスハントなんかとは違い、相手と同じ土俵に立って行うから一層血生臭いけど、

獰猛な獣を相手取る以上下手をすれば一目散にこちらを殺しに掛かってくる。 意志と胆力がモノを言う闘い」

 

「・・・・・ほう。 それで?何が言いたい?」

 

 イリヤは心で定めた。

自身が全霊を懸けるべき一対一(サシ)の勝負は、今この瞬間をもって他に無い。

 

「―――悦べ。 お前は私に認められている」

 

 それは両手を胸元で交差し、一瞬の静寂ののち時空を捻じ切るように一斉に左右へと広げる独特の構え。

総勢108派ある南斗聖拳最強にして秘伝。天の極星・南十字座。

 

其の名、

 

「 南斗鳳凰拳奥義・天翔十字鳳!! 」

 

 背に現れる伝説の霊鳥。この城中を覆い纏う、彼女の闘気の奔流。 

獰猛な笑みを浮かべる帝王・イリヤスフィールは、二つ無き身を惜しまずにただ前へ。

 

「帝王の拳、南斗鳳凰拳に構えは無い。 敵は全て下郎ッ!!!」

 

刹那に過ぎ行く閃光のように、ただこの一筋の道を駆け抜ける。

 

「…だが。対等の敵が現れた時、帝王自らが虚を捨て立ち向かわなければならない!

すなわち、天翔十字鳳。 帝王の誇りをかけた、不敗の拳ッ!!!」

 

師より教わったこの拳と、胸に掲げるたった三文字の不退転。それが心の華である。

 

「我が南斗極星の拳の秘奥…、天空に座す十字の下に散るがいいッ!!!」

 

「は―――思い上がったな、人形―――!!!」

 

「フ、ハハハハハハーーーッ!!!」

 

イリヤの周囲に展開されている英雄王の宝具。その全てが今、射出された。

 

「・・・・、・・・何?」

 

 ここに来て初めて、ギルガメッシュは真に驚愕の声を上げた。

例えばそれは断頭台で切断したはずの首がこちらを見つめて言葉を言うとか、ホラーじみた何かに似ている。

 

何処の誰が信じようか。 敵を全方位から取り囲んだ己が宝物の射出が、命中せず全くの無為になるなどと。

 

敵・イリヤは無傷のまま黄金の王に近寄り、彼の鎧を斬り裂いていた。

 

「どのような武具を持っていようとも、大気を震わせずしてそれを振る事飛ばす事は不可能。

私は天空に舞う羽根ッ!どんな存在も私を射抜く事はできない!

…貴方がアーチャーでなければ、多少なりともまだ分があったかもしれないけれど?」

 

 バーサーカーに対してギルガメッシュが述べた嘲りを、今度はこちらから返してやる。

依然射出される煌びやかな宝具の原典、当たらない敵の弾、裂かれる英雄王。

 

―――奥義・天翔十字鳳。

 

 己を纏う闘気を、空間ごと広く纏わせる事で場を支配する。

僅かでも空間を震わし、己に害為すモノがあればそれがどのような数であれ大きさであれ、この身に届く事は決して無い。

 

いかなる刀剣斧槍弓杖も命中するという結果を生み出せず、忌々しい呪詛を持った銃砲火器は届く前にみな頭を垂れて地に伏せる。

 

唯一絶対の支配者を前に、敵は自ずから跪くのみ。

 

「最古、すなわち過去という名の恐怖の傑物の大王よ。生前から天上天下すべからく己が庭とし、支配してきた偉大な極星よ。

私達がお前におびえながら生きる事は、今日をもって終わるわ」

 

 恐怖とは過去からやって来るモノ。

昔やったあんな事こんな事。 全て巡り巡って因縁となり、今と将来の人々をがんじがらめにしてしまう。

 

数多の宝具の原典を持ち、後の伝説の礎を築いたこの英雄王が正にそれ。

 

「恐怖は克服しなければならない! 森羅万象を知り尽くし手中に収め、どんなモノにも恐怖しない存在、それが私だから。

帝王とは、ほんのちっぽけな恐怖をも持たぬ者ッ!」

 

 一説によれば、恐怖の対義語は洞察であるという。

理解できないから怖い、道理ではないから恐れる。霊長類・人間は、その恐怖を失くす為に文明を発展させているのだと。

 

その文明の天頂に立って生きる者は、人間達の王であり帝。 人々を照らし、彼らの生を守る星の極。

 

―――この世に極星は二つは要らぬ。

 

「前を見据え、天を見上げ、地に根を下ろして生きる者こそが人間よ。……時には下だけを見て道無き道を歩む事もある。だがッ!!!」

 

人の歩みを、歴史は証明している。

 

「生きるとはッ!過去を乗り越える事!恐怖を打ち砕き克服し、更なるツワモノに至る工程に他ならないッ!!

だから砕けろ。星屑の記憶となって、御空の陰から私達を指をくわえて見ているが良いわ、大先輩。

天よ叫べ! 地よ!唸れ! 今ここに、星は人界に来たる! さあッ!!刮目せよっ!!!」

 

 天地人、皆闘い魔をも打ち滅す存在となる。

彼女はその将であり帝王。

 

「目に見えずとも常に人々を照らし続ける極星は一つ。天に輝く天帝は南十字星!

この〝聖帝〟イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの、将星なのよッッ!!!」

 

このフィールドで今の彼女に勝るモノはなく、

 

「天翔十字鳳!!! 灰になれッ!!!」

 

 現代。

時代の最先端を生きる者が、昔人に負ける道理は無い!

 

「―――見事也。〝聖帝〟」

 

 ギルガメッシュは逃げられない。

〝聖帝〟からは誰であれ何であれ、逃げられない。

 

「貴様は正に、」

 

・・・逃げる必要が、どこにも無いから。

 

「極上であった」

 

 ただただこの世の、己の理を示す。

最古の王は今までも、そしてこれからもそれを教授するのみ。

 

「 ―――エヌマ 」

 

 赤黒い円筒。

手に持つそれは、見るモノに起源の意識を思い起こさせる。

 

胎児の夢、創造の究極、時空を喰らうこの世の外側。

 

ここに彼は振り示す。

 

「 エリシュ 」

 

其の名、天地乖離す開闢の星。

 

口にする事すら憚られ、言葉の真意すら忘却の彼方へと去った何かだった。

 

「極星は一つ。 この惑星を照らし輝くはこの我ただ独り」

 

天を回し、地を熾し、冥を産みだす。

 

「―――原初の記録。あらゆる生命の存在を許さなかったこの星の獄を 先達として今見せてやろうッ!」

 

瞬間。 空間が曲がりに凶り、撓んで放たれた。

 

 怒涛とは正にこれ、疾風とは正にこれ。

この場では息をする事は許されない。息をするという事自体が、意味をなさない。

 

「こ…これは……!?」

 

 全身がバラバラにひび割れる感覚。

支配していた筈の空間そのものが、イリヤの強大な闘気ごと時空ごとズタズタに引き裂いている。

 

―――上にある天にも下にある地にも名が無かった時の事。其れは、天地冥界の三界を別けた。

 

英雄王のみが持つこの無銘の剣には、ただそれだけが刻まれている。

 

「……ゴフッ…! ま、………まだよ!!」

 

・・・帝王は口元の血を手の甲でぬぐい、気血の調子を全身全霊で整える。

 

「貴様はもはや羽根をもがれた鳥も同じ。我にエアを抜かせた褒美として、苦しみ無く一思いに首を断ち斬ってやろう。光栄に思うがいい」

 

 ギルガメッシュが言う言葉は真実であった。

今やこの世全てがイリヤの敵で、彼女を否定し害する無謬の風だ。

 

此岸より生まれた生き物なれば、この世を変革できても勝つ事は出来ない。

 

「―――まだよ」

 

残った搾り滓の闘気を発揮。心肺機能促進。

 

「―――まだよ」

 

震える脚部に魔力と血液を流し込む。

 

「―――まだよ」

 

いつものように、昂然と大地を踏みしめる。

 

「・・・・。何ゆえそこまでして闘う?」

 

「―――」

 

イリヤの命運は、もう尽きている。

 

「貴様の家族とやらは言峰のいる教会に向かった。あ奴の事よ、たっぷりと弄び愉しんで殺すに違いない。

お前の家族は、もはやこの世の何処にもおるまい」

 

「―――、―――」

 

「そしてその脚。 立つ事だけで精一杯なその有様。百人が百人見て、貴様は先程のように拳を振れぬただの木偶だ」

 

もはや何もかも諦め後悔の中、この首を差し出すが賢明という物。

 

「―――、」

 

少女は動かない。

 

「聖杯の器として造られたのならば、その責務を全うせよ。

・・・・知っているぞ?貴様、まだ空であろう?」

 

今のイリヤの内には、令呪で一端戻したバーサーカーの魂しかない。

 

「アサシンもキャスターも、貴様には還っていない。奴等が消滅する時、貴様、穴に通したな?」

 

「―――」

 

「聖杯の中身と、異世界に穴を開けたアレは今や一つとなっている。

聖杯の器である貴様になら、その穴に小粒を通す事は理論上可能。

だが何故そんな真似をする?・・・命が惜しくなった。ワケでもないであろうが?」

 

「―――、―――、―――」

 

「命を捨ててまで守りたいモノがあるのか?・・・それが何なのか本当に分かっているのか?

―――ハ、それは自由か?真実か?それとも平和か?まさか、家族やら愛とやらの為か?

誰も貴様に教えなかったようだから我が教授してやろう。それは幻想だ、小娘」

 

・・・・・。

 

「人間という名の犠牲無くして生を謳歌できぬ獣が、己の醜さを覆い隠して意味も、

目的も無く存在する事を正当化する為に造り出した束の間の幻だ。全て虚構・錯覚にすぎぬ」

 

「――――」

 

「我を見た時から、いや、我の存在を知った時から既に分かっていた筈だ。貴様は死に、聖杯降臨の礎となる。

世界に穴を開けたアレと一つとなっている今の聖杯の中身ならば、サーヴァント七騎全てをその心臓に還らせずとも門は開くだろう。

つまり何をしようと貴様は負け、命を賭して闘う意味は無いという事だ」

 

だから命運は尽きた。諦めよう。首を差し出そう。後悔に濡れよう。

 

――――黙れよ。諦観如きが私の邪魔をするな。

 

「何ゆえだ〝聖帝〟。何故そこまで立ち上がり闘おうとする」

 

「―――退かぬ、媚びぬ、省みぬ。 この道を自分で選択した私に、逃走は無い」

 

死んだ後からでも間に合う事など、生きている間は必要ない。

 

「・・・。そうか」

 

それを聞き、最古の王は答えを得た。 

 

「我の国では、狐を狩る代わりにジャッカルを狩る。Fuchs Prellenならぬ、Royal Harriers」

 

これは全身全霊で行う、王の狩猟である。

 

「 ―――天地乖離す 」

 

ギルガメッシュは今必殺の意志を込め、円筒状の乖離剣エアを振りかぶり、

 

「 ―――開闢の」

 

イリヤ目掛けるその腕に、現界した狂する大英雄が襲い掛かった。

 

「ッ、何!?」

 

「―――――ッ!!!!」

 

 狼狽する英雄王に振るわれる魔の巨椀。

狂戦士として召喚された彼に、この体技・武技を使うことは出来ない。

 

だが今の彼は。 令呪の縛りを噛み砕いて主君を守り、その誇りと勇気を守ると誓った大英雄。

 

其の名、射殺す百頭。

 

 狂していようが、理性がなかろうが、その程度で骨身に沁みている技を忘れるわけが無かった。

 

「――――――ッ」

 

だが。 敵もさる者。

 

「バーサーカー………」

 

 常に英雄王を守り、共に有るモノ。

天上から振るわれる鎖が、ヘラクレスの五体を拘束・停止させていた。

 

「―――――」

 

刹那、最上の宝具で貫かれる狂戦士の身体。

 

「訂正しよう、士(もののふ)よ。貴様の闘い、まこと見事だった」

 

「――――・・・・」

 

 其の命潰え消える間際、サーヴァント・バーサーカーは主を見つめた。

それは自身の娘の顔を見るような表情で、大切な家族の安否を確認するような真摯な瞳で、

 

「――――武運長久を。イリヤ」

 

敵目掛けて駆け出し拳を握る少女。迎え撃つ英雄王。

 

雌雄を決する正にその時、令呪の輝きが両者を包んだ。

 

 

 

 

 

 

「イリヤッ!!!」

 

 令呪の転移に巻き込まれ、イリヤとギルガメッシュとツカム達は一堂に会した。

ついに喀血して倒れ伏せる少女に、衛宮士郎は声を荒げる。

 

笑顔で、満足した顔で意識を失っているイリヤ。

 

 怒りか安堵か悔しさ故か。 

閉じられたその目蓋には、涙の後があった。

 

「先輩!ツカムさん!! 無事ですか!?」

 

 桜達義勇軍の面々が集まる。

彼女らの眼前には、黄金の王と気を失っているイリヤ。ツカムと士郎を守っているセイバー。

 

ランサーと、首が斬り落とされている神父。

 

「…アンタが、綺礼をやったのね?」

 

「注意しろマスター。 闇雲に掛かっていった所で勝てる相手ではない」

 

「分かってるわよ、アーチャー」

 

 一応、遠坂凛をこの歳まで面倒を見てくれたのは、武を教えてくれたのは他ならぬ言峰綺礼である。

どれだけ神父の事が嫌いでも、少なからず彼女は恩を感じている。

 

「一撃で終わらせるわ―――ッ!」

 

だからこれは復讐だ。一撃で相手を屠り、亡き師への鎮魂とする。

 

・・・そう、言峰綺礼は死んだ。首がちぎれて生きていられる生物はいない。

 

「――――生物だったらな」

 

「・・・え?」

 

 首を失った身体が動き、己が首を探す。

それはまるで、おとぎ話に出てくる魔物のようで。

 

「あれは…何?」

 

「・・・テメエ、言峰。まさかとは思ったがお前ッ」

 

 首を胴体にくっつける神父と呼ばれていた何か。

全身から溢れ出る泥。

 

「………ツカムッ!!」

 

ピリカが叫び、ツカムの眼の色が変わる。

 

・・・それはある場所で、黒と呼ばれていた。

 

「ああこれかね? これは十年前ギルガメッシュが見つけてくれたものでね。

驚くべき事に聖杯の中身と似た代物で、快く利用させてもらっている」

 

因子とも。眷属とも。魔神とも軍勢とも。

 

「――――お前、」

 

曰く、滅びの化身。

 

曰く、世界の敵。

 

――――我らの敵。

 

「黒の軍勢ッ!!!」

 

神父は瞳を赤く光らせ、黒色の泥に包まれながらすっくと、何事も無かったかのように立ち上がった。

 

「・・・『アーチャー』には待機を命じていたのだが、まさか私のあずかり知らぬ所でお前達を襲っていたのは驚きだった。

そうなれば、お前達が私に辿り着く事は自明。

事態は可及的速やかに、聖杯を使う事を優先しなければならなくなった。十年前よりも、な」

 

「―――何?」

 

アーチャーと士郎が呟く。

 

「今回は万全なカタチで、聖杯を機能させると言ったのだ。

十年前の火災は悪くなかったが、もはや私にとってはあの程度では足りん」

 

 独り言を言うかのように、神父は言葉を紡ぐ。

念願の夢が叶うのを悦ぶように、唯一無二の娯楽を愉しむ様に。

 

「・・・つまり十年前、あの地獄の原因は―――」

 

「この、私」

 

 アーチャーが鬼の形相で弓を引き絞り、事態は一触即発と化す。

義勇軍と黒の軍勢との闘いが始まるその刹那。

 

純白の服を着た従者二人と一人の男が、階段を壊しながら彼らの前に現れた。

 

「―――皆様。 わたくしはセラと申します。こちらはリーゼリット。

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン様の使者でございます。

主の命により、貴方がたを安全な所までお連れします」

 

「やあ、お待たせ皆。遅くなって悪いね」

 

「慎二! 今まで何処にいたんだ!?」

 

「地球だよ。このメイドさん達とね。

アーチャー、悪いがここは僕らに不利だ。だから今はどうするべきか、分かるだろ?」

 

 飄々と軽口を言う間桐慎二。

これにて、冬木の義勇軍の全員がこの場に集合。

 

勝機は、今。

 

「 光を、つかむ 」

 

―――絆アビリティ発動。

 

【山猫の真髄・剣術道場・魔剣の指導・超高校級の殺人鬼・猫人の導き・二天一流・格闘家・冒険者支援・戦場の武器商人・戦鬼の闘気・疾風迅雷・ベテランの実力・レイヴン・名家の誇り・おすすめの靴・二人三脚・居合いの達人・強敵戦闘指南】

 

今、奴らを殲滅する為だけに。

 

「―――駄目です。ツカムさん」

 

 速度を上げるアビリティを全開及び黒の軍勢に対する攻撃力を上げに上げる。

だがそれを、間桐桜は令呪でキャンセルさせた。

 

「・・・・何のマネだ?サクラ」

 

「よかった、やはり令呪が効きましたね。……何のマネとは心外です。

ここは敵地で、今は退くべき時。違いますか?」

 

「君は見た事も聞いた事もないだろうが、あれは黒の軍勢といって俺とピリカの敵だ。今ここで滅ぼす必要がある」

 

「………そんな傷で、ですか?」

 

 ツカムは士郎と同じく、ランサーの槍に刺された。

槍の呪いはランサーが健在な限り続いている。

 

士郎は何故か元気だが、ツカムは・・・。

 

「急所は外れている。俺は運だけはいいからな。だから、邪魔しないでくれ」

 

 セイバーが士郎と初めて逢った日、彼女はゲイ・ボルクを躱せた。

それは彼女の未来予知に等しい直感と、高い幸運によるものだが。

 

「いいえ、その理屈はおかしいです。…重ねて命じます。ツカムさん、今は退きます」

 

「――――」

 

「ツカム! サクラの言う通り、今は退く時だよッ!!」

 

「では皆様、どうぞこちらへ」

 

 純白のメイドさんに促され、駆け出す義勇軍の面々。

イリヤも一緒に、とはいかなかったが。

 

「・・・良いのか? イリヤスフィールの従者達よ。

己が主を放って敵前逃亡とは、従者の名が泣くのではないか?」

 

 アーチャーがセラとリーゼリットに訊く。

主の安全を第一に考えるのが、従者としての勤めのはずだ。

 

「―――これは我が主の命令です」

 

「イリヤは貴女達を守れと言った。私たちは、それに従う」

 

 歯を食いしばり、白の従者達は口にする。

彼女達の覚悟、そしてイリヤの矜持を無駄にするわけにはいかない。

 

義勇軍は疾風の如く駆け出した。

 

 

 

 

 




次回予告

はじめから感じていた、心の何処かで。
強い憎しみの裏にある渇きを。激しい闘志の底に潜む悲しみを。
似た者同士。
自分が自分であるために、捨てて来たモノの数を数える。声にならない声が聞こえてくる。
次回『仲間』
一足先に自由になった誰かの為に。





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