Fate/チェインクロニクル   作:ブロx

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第18話 奈落 (後編)

 

 

 

 

 あの時ああしておけばよかった。

この時、こうしておけばもっと上手く事が運べた。

 

もしそれが叶ったなら、少なくても今よりかは自分も含めて皆幸福だった筈。

 

 見果てぬ夢。誰もが脳裏に思い描く、もしも。

すなわち奇跡。

 

「問おう、衛宮士郎。 十年前のあの災害を無かった事にしたくはないかね?」

 

「貴様! 何を言って!!・・・あぐッ!」

 

神父に顔を踏みつけられるツカム。

 

「亡霊などに聞いてはいない。 私は生者である、衛宮士郎に聞いているのだ」

 

青き槍兵・ランサーは気だるげに、ただ黙って倒れ伏す二人に目を向けていた。

 

「聖杯は全てを可能にする。死者を生き返らせることも、永遠の命も、不滅の栄光も。望みのままだ。

よく世人達は、死んだ人間は生き返らないだとか不滅などこの世には無いだとか言っているが、それは違う。

 たまたま見た事が無いからそう言っているだけにすぎない。ここの聖杯は違う。例外なく全てを、見た事が有るにする事が出来る」

 

「こんな所に、聖杯なんて有るものか!」

 

「有るとも。 聖杯は何処にでもある。聖杯とは、もとよりカタチの無いモノだ。

いつ、どこで、何に呼び出すかによって完成度が変わるのだが、呼び出すだけならばこの教会にも資格はある」

 

―――だから。 なあ、衛宮士郎。

 

「望みが無い人間などこの世にはいない。 丁度、君が己がサーヴァントの幸せを想っているように。

あの火の海の中をのうのうと生き残り、助けてくれという声、痛みを上げるあの声を無視した。

 この子だけはという誰かの無垢な願いを踏み潰し、君は自分の意志であの日、あの街を一人歩いた。

そうやって独り助かった君が今や、自身のサーヴァント・セイバーの幸せを祈っている。

 自分だけの望みや意志を胸に、衛宮士郎はここまで来た」

 

 十年前のあの日、何もかもが炎の中に沈んでいった。

微笑みかけた友情も、芽生えかけた愛も、秘密も。そして、あらゆる善意も。

 

全てが振り出しに戻っていった。

 

―――あの日、君がいた地区で生きていたのは君だけだ。

 

・・・そんな声、聞きたくは無かった。

 

「―――シロウッ!!!」

 

 士郎のサーヴァント・セイバーが、けたたましい音と共に到着する。

主を見るや否や剣を振りかぶる。が、その剛剣はランサーの槍にいなされた。

 

・・・・セイバー、そこにいるのか?

 

目が霞んでほとんど前が見えない士郎は、彼女の声と彼女の気配だけが知覚できていた。

 

その士郎の頭を、神父が力強く鷲掴む。

 

「おやおや、やっと来たかねセイバーのサーヴァント。だがまずは己がマスターを救う為、その剣を納めるがいい。

ランサーも槍を引け。

黄金化するであろう新世界の幕開けを、特等席で見ているが良い」

 

「貴様―――。 今すぐその汚らわしい手を、彼から離せ!」

 

「私は今お前の主の願いを聞いているのだ。聖杯に叶えてもらいたい願望を」

 

「何を馬鹿な。 シロウは聖杯を望まない。何より、聖杯はサーヴァントが残り一人になるまで完成しないはずだ」

 

「無論そうだが、今の状態でも大抵の願いは叶えられるだろう。

それで満足いかぬのならば、その時こそ殺し合いを始めればよい」

 

 神父が倒れている士郎の頭を、無理やり起き上がらせる。

前を見ろ。前を見ろ。棺の中を見ろ。

 

自分が歩んできたこの道を、省みろ。

 

「この十年。君はまこと幸福であったはずだ。 

衛宮切嗣に拾われ、魔術を学び、その大きすぎる背中を追った。やりがいと、そして生きがいがあった。

お前と切嗣が共に居た時間は、そう長くは無かったのかもしれん。

 だがよく言うだろう? 一緒にいた時間の長さより中身の濃さだと。

お前は父親のようになると自身で決めた。捨ててきたモノとあの炎から目を背けて。―――それを。

間違いだと思った事が、今まで一度も無かったというのかね?」

 

「――――」

 

 何の為に生きるのか。何の為に闘ってきたのか。

過去から目を背けて。

 

忘却の彼方に追いやって。

 

「怖かろう、虚しかろう。いかに鉄人が如き鎧を纏おうと、」

 

 あの日から続く自分の意志。それを彼らに言えるのか。

胸を張って、お前は口に出来るのか? 

 

「―――心の弱さは守れない」

 

・・・・・。

 

「考えなくても分かるだろう衛宮士郎。 仮にだ、仮にあの災害が無ければ、十年前の出来事をやり直せるとしたら、

君はおろかこの憐れな子らも、少なくとも今現在よりは幸せに生きていたはずではないか?

君自身、魔術などというよく分からないモノに関わる事も、こんな血で血を洗う聖杯戦争に参加する事も無かった筈だ」

 

 それを夢見た事が一度も無いと言えば嘘になる。

本当の両親の元で暖かい食事を取り、明日は晴れるかな等と他愛の無い日常を今も謳歌できたのではないかと。

 

駄目だと思っても、心は。 脳は想い描いてしまう。

 

「欲しいと言えば良いのだ、聖杯が欲しいと。 あの出来事で失われたもの全てを救うのだ。 

与えようとも、他ならぬ神父であるこの私が。存分に自身の望みを叶えるがいい。

君の理想の世界を創れば良い。きっと、今より毎日が楽しくなるぞ?

―――何故ならそれこそが、おまえ自身をも救う、唯一の方法であるからだ」

 

「………シロウ」

 

 倒れた戦士の横顔が、銀色の騎士の憂いを帯びた美しい顔がこちらを慮る気配を感じた。

そして棺の中の生者達が、皆こちらを。

 

『答えて。答えて。答えてくれよ』

 

お前は何故、ここではなくそこにいるんだ。

 

「さあ、欲しいものは何だ?聖杯は何だって叶えようとも。 今までの人生、後悔した事は無かったか?

あの時もっとこうしていたらと、怒りと絶望に燃えた事は?

もう顔も思い出せないあの人達を知りたいと思った時は?

今があの日から続く罪の懺悔と、選択の時だ衛宮士郎」

 

そんな生者の瞳を真っ直ぐに真っ向から迎え。

 

「・・・俺の答えは昔から一つだ」

 

「何だね? 衛宮士郎」

 

「無い」

 

変わらぬ自分の意志を、口にした。

 

「―――――」

 

「いらない。そんな事は望めない。やり直しなんか、出来ない。

死者は蘇らないし、不滅なんてこの世に無い。それは誰も見た事が無いからじゃなくて、真実だから。

それを覆すなんておかしな望みは、持てない」

 

 その真実を認識する度に。

奇跡など有り得ないと心で理解する度に。

 

無力という名の刃が、心に刺さった。

 

「―――それを可能にするのが聖杯だ。万物全て、君の望むままとなる」

 

 でもたとえ。

たとえ過去をやり直せるとしても。それでも、起きた事を戻してはならない。

 

「だって、そうなったら嘘になるから。あの涙も、あの痛みも、あの記憶も。

―――胸を抉った、あの現実の冷たさも」

 

苦しみながらこの道を歩んできた誰か。

 

他人を助ける為に命を賭した誰か。

 

彼らの死を悼み、長い日々を超えてきた誰か。

 

 ・・・確かに居たそんな彼らが。

彼らの消えない想いが、何もかも無かった事になる。

 

「じゃあ、一体それらは何処に行けばいいと言うんだ・・・?」

 

 人はいつか死ぬし、その絶対の真実は虚しく悲しい。

だが同時に、輝かしい思い出を残していく。

 

 俺があの火の海に縛られて今ここにいるように。

衛宮士郎が、衛宮切嗣という人間の思い出に守られているように。

 

 だから立ち上がる。過去を忘れず立ち止まらず、引きずって前へと進む。

 

思い出はその為の礎となって、今を生きている人間を変えていくのだと信じている。

 

・・・たとえそれが、いつかは忘れ去られる記憶だとしても。

 

「―――その道が。今までの自分が、間違って無かったって信じている」

 

「――――そうか。つまり、お前は」

 

「聖杯なんて要らない。俺は置き去りにしてきた物の為にも、自分を曲げる事なんて、出来ない。

・・・だってこれは、あの日俺が選んだ俺の道だから」

 

 立ち上がって前を見据え、口にする。

声は聞こえない。もう、何も響かない。

 

死者は黙し、絶えて物言う事は無い。

 

 

 

 

 

 

―――それが。 彼女のマスターが出した、傷だらけの答えだった。

 

「………―――」

 

 先程まで全身を支配していた怒りは消え、セイバーは言葉と呼吸を失い、

ただ己の主を見つめている。

 

『―――その道が。今までの自分が、間違って無かったって信じている』

 

流れる涙を懸命にかみ殺し、呼吸もままならず目も見えず、血まみれの口を開いた。

 

『置き去りにしてきた物の為にも、自分を曲げる事なんて出来ない』

 

「―――――」

 

 満足に息ができないのは彼女も同じ。

あの冬の夕暮れの時に言ったように、彼女も彼の過去を知っていた。

衛宮士郎がセイバーの過去を夢で見たように、彼女も士郎の過去を夢で見たからだ。

 

 だから頷くと思っていた。聖杯によって、誰のせいでもないあの火の海を無かった事にするのだと。

あれは衛宮士郎が背負うべきものではないのだと。

 

「――――」

 

 だというのに、彼は否定した。

どんなに苦しい過去でも。 それは、やり直す事など出来ないのだと。引きずって進むのだと。

 

「―――シロウ」

 

 自分と彼は似ていると思っていた。

だが、そんなものは自惚れだった。

 

『―――これは、あの日俺が選んだ俺の道だから』

 

 似ていると思ったのは自分だけ。

あの少年の心は強く。

 

彼と自分は同じだと言い繕うだけだった自分こそが、その道を間違えていた。

 

「・・・自らの救いではなく、自らの願いを取ったか」

 

神父は少年を無感動に見つめ、こちらを目指す。

 

「・・・セイバー、君はどうかね? サーヴァントは己が望みの為に聖杯戦争を戦う。

英霊たる君とて、是が非でも叶えたい望みがあるのだろう? たとえば祖国の、世界の救済。

それが君の願いなのではないのかな?」

 

「…それは」

 

その言葉に、彼女の理性は揺さぶられた。

 

 神父は聖杯を譲るという。

拒む理由は無い。その為だけに戦ってきた。その為だけにサーヴァントになったのだ。

 

ならば、シロウが何を言おうと私には関係ない。

 

「この際、君の望みだけでも構わん。そこの腑抜けた己がマスターを斬り殺し、言ってみたまえ。

聖杯は分け隔てなく君の望みを叶えるだろう」

 

―――私は望みを叶える為なら何でもやるのだ。

 

 足が進む。

今にも倒れてしまうだろう己がマスターの下へ。そして彼の瞳を、見つめる。

 

「――――」

 

悔しいけれど、私とシロウは違う。

 

 私は無かった事にしたい。間違いを正したい。

選定の剣を抜いたあの日、あの時私以外にいた筈なのだ。

自分よりも王に相応しく、彼のような瞳をした、平和な国を長く築けた人物が―――。

 

「平和な、国を………」

 

 そう、彼のような瞳をした誰か。

いつか見た事があった、こんな眼をしていた人物が。

 

『―――少女よ。それを手に取る前に、きちんと考えた方がいい』

 

変人の魔術師が、かつての少女に忠告する。

 

『それを手にしたが最後、君は国の道具となり、人間では無くなるよ?』

 

かつて少女であった、あの日の誰か。

 

『――――』

 

あの子娘はあの日、確か何と言っただろうか。

 

『―――掴みます』

 

『・・・何をだい?少女アルトリア』

 

『この国に平和を。―――光を、掴みます』

 

 国を想う彼女の心。

聖剣を手にする前から続く、アルトリアという少女の誓い。

 

もはや他人となってしまった、置き去りにしてしまった誰かの心。

 

・・・それにどうして、気が付かなかったのか。

 

『―――わたしは闘います』

 

 何もかもが無かった事になってしまったら、剣を掴んだあの少女の想いは、心は一体何処に行ってしまうのだろう。

 

―――置き去りにしてきた物の為にも、自分を曲げる事は。

 

「………そうか。 そういう事なのですね、シロウ。ツカム」

 

胸に手を当てる。自分だけの宝物を、炎を確かめる。

 

『メイガス。 わたしは、人間でなくなっても構いません』

 

遠い誓いを思い出す。

 

『国や誰かの道具となり、何もかも失って、みんなにきらわれることになったとしても、』

 

―――たとえ誰にも理解されず、受け入れられる事など無くとも。

 

 彼女は王としての責務を全うすると誓った。

たとえ結末が滅びであろうとも、その誓いは最期まで守られたのだ。

 

光を掴み、それを掲げ続けた消えない想い。

 

自ら望み、剣を掴んだあの日の手は決して、顔を伏せるものではなかったと信じている。

 

少なくとも。それを承知で、あの少女は剣を執ったのだから。

 

―――少女アルトリアよ。貴女は、国や誰かの道具じゃない。

 

―――闘う事でしか、自分を表現できなかったが。

 

「私は、いつも自分の意志で闘ってきた」

『わたしは、いつも自分の意志で闘います』

 

―――それが答え。彼と同じ、胸を張れる、ただ一つの答えだった。

 

「………私が」

 

ああ、私が。

 

「―――私が、愚かだった。 求める必要など、無かった」

 

 奈落の底でも、あの日の炎は間違いなくこの胸に。

少年が思い出させてくれたこの宝物は、今も決して、消える事などなかった。

 

決して、間違いなんかではなかった。

 

「―――聖杯はほしい。けれど、シロウは殺せない」

 

「な――――に?」

 

 怪訝なる神父の顔。

それに、我が剣を突きつける。

 

「判らぬか、下郎。 そのような物より、私はシロウが欲しいと言ったのだ」

 

「・・・聖杯は要らぬというのか、セイバー」

 

「聖杯が私を汚す物ならば要らない。私が欲しかったものは、もう、全て揃っていたのだから」

 

だから私は。

 

ここに立って、今も剣を掴んでいる。

 

 

 

 

 

 

 ツカムと士郎は聞いた。確かに、聞いた。

セイバーという高潔なる騎士の言葉を。

 

彼女がその胸に宿す、蒼く輝く炎を、確かに見た。

 

「立てますかシロウ。さあ、私の手を」

 

「・・・、ああ」

 

「セイバー。・・・俺の事は?」

 

「さあ? 貴方がその程度で動けないとは思いませんが」

 

ツカムが息もたえ絶えに言うが、セイバーはどこ吹く風。

 

「・・・最近のネーちゃん、キツいや」

 

 士郎がセイバーの手に触れる。

するといかなる原理か。士郎の体調がたちまち良くなり、顔色に赤みがかかる。

 

「これは一体・・・。俺はゲイ・ボルクに刺された筈じゃ・・・?」

 

「幸運でしたね、トリックですよ」

 

「・・・は?」

 

 士郎とは違う意味で、赤みがかるセイバーの顔。

今のは彼女なりのジョークだったのだろうか。

 

「コメディアンを気取るには、まだまだだなセイバー」

 

「貴方に似せてみたのですが、どうやら修業不足なようです。

……そこで改めてお願いします、ツカム。

私を。いいえ、私達を義勇軍に入れて頂きたい」

 

「勿論さ、王様。 でもコメディアンの道はキツいし険しいぞ?」

 

「大丈夫ですよ、私にはシロウがいますから」

 

 柔らかい笑みが、士郎を見つめる。

そこには彼女の鞘が。血まみれだけど、しっかりと立っているし傍にいる彼が。

 

「・・・・いや・・・まあ、嬉しいし気になる事は多いけどそれより今は―――!」

 

 士郎が入り口を見やると、そこにはランサーと言峰がいた。

両者とも口を閉ざし、こちらを窺っている。

 

「そうか」

 

 だが言峰綺礼だけは。

初めて見る昆虫を観察するような顔で、心底分からぬというような目で、

 

「――――お前達は、つまらない」

 

そう吐き捨てた。

 

「十年前のあの火災を超える何かを私に見せてくれると期待したのだが。 いや、こうなれば私が聖杯を預かるしかないな」

 

「…戯れ言を。あの血だまりの部屋で、貴様はランサーのマスターを殺し、令呪を盗んだはず。

それはつまり、聖杯戦争に参加し聖杯を手に入れる事が貴様の目的だったからだ。……違うか?」

 

「さてな。 ランサーのマスターから令呪を奪ったのは、私の目的の邪魔になったからだ。

あのマスターは魔術協会から派遣されてきた者でね。 聖杯がああいうものなのだという事を、外部に知られたくなかったのだよ。

せっかくの聖杯を無に帰すなど、勿体無いだろう?」

 

「―――そうか。 ならばもう良い、貴様はここで倒れろ」

 

英霊セイバーが神父に斬りかかるその刹那。

 

「・・・・」

 

神父が、ボソボソと何かを口にした。

 

「な、これは!」

 

光が部屋全体に迸る。

 

「令呪の輝き…!?」

 

「―――なに、紹介ぐらいはしておこうかと思ってね。彼はアーチャーのサーヴァント。

前回の聖杯戦争で、私のパートナーだった英霊だ」

 

 光が収まり、現れる黄金の騎士。

それは紛れも無く。

 

「ギルガメッシュ・・・!!!」

 

その声に、現れた黄金の王と神父が眼光鋭く士郎を見つめた。

 

「やっぱり、当たりみたいだな!」

 

 士郎の読みは当たっていた。

黄金のサーヴァントは数多の武器を使用した英雄ではなく、所有していた英雄。

 

 遥か古代、世界が一つであり武具の概念が生まれ始めた頃、

その王は自身の宝物庫に保有できるだけの極上を集めていた。

 

至高の財。至高の宝を。

 

 王の死後、その宝は世界に散らばり、魔剣・聖剣・魔槍・聖槍など数多の伝説を生み出す事となる。

ゆえに全ての財は、宝具は、元々はかの王の物。

 

全ての始まり。伝説の開祖。

 

其の名、英雄王ギルガメシュ。

 

「ほう? 死にぞこないの癖に頭が回るな、衛宮士郎。彼の真名はそう簡単には分からぬのだが、」

 

「―――少し黙れ、言峰」

 

 ひょうっと、鋭いが小さな音。瞬きを一回。

言峰綺礼という神父の首が、音を立てずに胴体から綺麗に地に落ちた。

 

「令呪を使って我をこのような場所に呼ぶなどと。・・・あと少しでこやつと決着が付くという所でな!」

 

 珍しく、黄金の王ギルガメッシュは怒っていた。

その隣りには、一緒に転移してきたのだろう白い髪をした誰かが。

 

「イリヤ・・・!?」

 

「やっほーお兄ちゃん。…突然で申し訳ないけど、邪魔しないでね?」

 

 そう言うなり、イリヤは拳をギルガメッシュに振るう。

だがそれが届く前に、イリヤの足が崩れた。

 

「―――コフっ」

 

喀血し、動けないイリヤに英雄王は近づき。

 

「・・・・・」

 

その腹に、強烈な拳を見舞っていた。

 

「――――ッ」

 

 意識を失う最中、イリヤは士郎を見つめた。

五体満足の彼を見て、弟の無事を確認して、

 

「…良かった」

 

笑顔で、満足した顔で意識を失った。

 

彼女のサーヴァントは、もう何処にもいなかった。

 

 

 

 




次回予告

降り注ぐ宝刀と神槍。舞い降りる翼。
欲望と圧制と暴力の化身、王と狂戦士が燃える。
圧倒的、ひたすら圧倒的パワーが蹂躙し尽くす。
ささやかな望み、芽生えた愛、絆、健気な野心。
老いも若きも、英雄もそれ以外も、明日も今までも飲み込んで走る炎、閃光。
音を立てて、今日が思い出に沈む。
次回『極星』
不死鳥は、炎を浴びて蘇る。



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