Fate/チェインクロニクル   作:ブロx

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生粋のFateファン、生粋のチェンクロファンの皆々様。こんなのあのキャラじゃない!設定が違う!と思った方。
この物語は作者の妄想の産物です。フィクションです。

胸糞悪い話が展開されますが、ご容赦を。






第18話 奈落 (中編)

 

 考えに詰まったら、とにかく出歩く事。

閃きは常に己の頭の内にあり、そのトリガーは己の外にある。

 

「―――あの武器の数々が全部宝具だとすると、ヤツは生前複数の武器を操った英雄だったってことになるか?

いやいやツカムじゃあるまいし。・・・まさか投影魔術? 

それこそ有りえない。あれは投影なんて生易しい物なんかじゃない。真作中の真作だ」

 

 独り言を呟く士郎は遠くから見れば変な人だが、隣りのツカムから見れば真剣な益荒男だ。

自分には何が出来るのか。セイバーを助けるにはどうすれば。

 

衛宮士郎は常に考えている。

 

「投影魔術? シロウ、それはどんなものなんだ?」

 

「え? ああ、独り言ばかり言ってすまないなツカム。 投影魔術ってのは魔力を使って物を複製する魔術さ。

創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を想定し、構成された材質を複製し、

製作に及ぶ技術を模倣し、成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現する。

―――俺が使える数少ない魔術の一つでね。刀剣に関してなら、強化よりも消費魔力が少なくて済む」

 

「そんな魔術があるのか・・・。 その投影魔術は言うなれば物造りって事だろう?実は士郎は職人だったんだな」

 

 士郎の話を聞いていると、まるで土妖精の職人達を思い出す。

ツカムは懐かしさを含んだ表情を見せていた。

 

「そんな大層なものじゃないよ、創れるのはせいぜいガラクタとかだし。うちの土蔵にくれば色々見せてあげられるさ」

 

「? 魔力、つまりマナで出来ているのに、消えずにずっと土蔵に残っているのか?シロウ」

 

「ああ。それが投影魔術みたいなんだ」

 

「へぇ~、やっぱり君は職人なんだな。どうだ? この戦争が終わったら土妖精の職人顔負けの鍛冶師として大儲けしないか?」

 

「それも悪くないかもな・・・。って、土妖精って何だ?」

 

 土妖精。職人。導き出される結論は。

・・・ドワーフか何かかな?

 

「ユグド大陸の、迷宮山脈に生きる種族達だよ。職人肌の奴が多くてガラス職人や技術の伝道師に刀鍛冶、なんでも居た。

最高の刀には魂が宿る! なんて言う伝説の刀匠もいたな。職人達曰く、イメージするのは常に最高の物であり、最強の自分だそうだ」

 

「イメージするのは常に最強の自分・・・?」

 

「求道者の精神だな。物造りなんて大層な事は俺には出来ないが、彼らの魂はいつも感じてるし、戦士として振るってもいる」

 

 ツカムが生前に使っていた武器を手にして、今も戦う事が出来る理由。

それは彼らとの絆。

絆アビリティとは、かの日の義勇軍隊長と隊員達の魂のつながり。

 

 その話を聞き、士郎は頭の中で撃鉄のようなもの・スイッチが思い浮かんだ。

 

イメージするのは常に最強の自分。形を成すべき物は、己の内にこそ有る。

 

「・・・ツカム。 ユグド大陸で戦ってた時はたくさんの武器を使っていたんだろ?あの金ぴかみたいにたくさんの武器、魂を」

 

「確かにあの頃は剣だけでなく槍とか鎌とか諸々振るってはいたさ。 状況に合わせて、な」

 

「状況に合わせて・・・・」

 

「ああ。だからあの『アーチャー』は色んな戦場を闘い抜き、戦場ごとに武器を使い分けていた英雄かもしれないな」

 

 そうかもしれない。

『アーチャー』は数多の名のある武器を使い分け、戦っていた英雄であったのかも。

 

でも、何処か腑に落ちない。

 

「―――だがな」

 

 俯いて考えていた士郎が、顔を上げてツカムを見る。

男は怪訝な表情を浮かべていた。

 

「あの金ぴか、武器の使い手って感じじゃなかった。 一度でも自分がその手で振るった武器には、少なからず愛着が沸くもの。ましてや魂が宿った有名な武器だ。 

ヤツにはそれが無かった。 使い捨ての道具って訳でも無いんだろうが、まるで弓使いが矢を射るみたいだったな」

 

「・・・だからこその『アーチャー』か」

 

「かつての義勇軍の仲間にミシディアって弓兵がいたんだが、彼女は矢も大切にしていたよ。弓と矢は一セットだからと。

遊軍首将として無駄撃ちする事が出来ない大切な武器であり、仲間を守る為の宝だと。 

・・・そうなるとあの『アーチャー』は、所持している宝を湯水の如くただ使用し、連射していたって事なんだろうな。

ミシディア達弓兵が聞いたら憤慨しそうだ」

 

 おっと、昔語りがすぎたかな。

ツカムは己の口がすべりに滑った事を恥じ、士郎に頭を下げた。

 

昔話をずっと聞いて喜ぶのは、話している自分だけになる。

 

「―――所持している宝を、ただ使う?」

 

 だがその昔話も、若者には閃きになり人生の糧となる時もある。

 

「・・・ツカム。 どうやら俺達は勘違いをしてたのかもしれない。

あの金ぴかは武器の使い手・担い手じゃなかったんだ」

 

 頭の中で煌く豆電球。

すなわち。 あの金ぴかの正体は。

 

「―――え?」          

 

「? どうしたシロウ。先を言えよ」

 

 話をしながら歩いていたからか。

いつの間にか士郎とツカムの傍に、扉がぽっかりと開いていた。

 

「おい? シロウ?」

 

 地下へと続いているのだろう。まるで深遠へと至る階段だ。

こういうのは近づかない方が良い。

 

だけど・・・・・何故?

 

「呼んでる―――」

 

「おいって!」

 

 教会とはその実、立て篭もる事に特化している。防衛の拠点に適しているという。

宗教における戦いは歴史の教科書を読めば一目瞭然。

 

 現代に建てられたであろうこの教会もその名残か。

狭い階段を下りた先の空間に、何かがいる。

 

「これって・・・」

 

目が慣れてくる。――――何故だろうか。

 

見覚えのある場所、見覚えのある人達。

 

「教会なんだから地下室くらいあるだろうとは思っていたが。・・・・シロウ、まさかあれは」

 

 仄暗い地下室。

そこに安置されている棺の中に、人間が。

 

いつも見ている日常だ。生者で溢れている衛宮士郎の日常。

 

手足は無いが生きている。首と胴しかないが生きている。

 

そうだとも。 死者なんて十年前のあの日から、見ちゃいない。

 

「あ――――あ、――――あの時の」

 

・・・・・あの時のッ!!!

 

―――教会地下のカタコンベ。 やさしく迎えてくれるのは、かつての同胞だけなのか?

 

「やあ―――よく来てくれた、衛宮士郎。 それに異世界人」

 

ズン、と。 肩を叩かれる二人。

 

「だが好奇心は感心しないな。そのような事をすると、見なければいいものを見てしまうハメになる」

 

「神父。何だこれは・・・!?」

 

「ん?見ての通り生者で溢れる何の変哲も無い居間だが?

ああ、魔力生成の場でもあるから、さしずめ魔導工場とも言うかね?」

 

 棺の中の生者には細長いチューブが繫がっていた。そこから何かが吸われている。

生かさず殺さず。人間に無駄な所など無い。

例え歩けなくても物を掴めなくても。

 

頭があれば考える事さえ出来れば、感情が生まれ魔力生成の役に立つ。

 

「―――この外道ッッ!!!!」

 

「まあ落ち着きたまえ。 これは彼らが望んでやってくれている事なのだよ」

 

「・・・・何?」

 

「もう十年も前の事だ。 とある事情で、彼らには身寄りが無くなってしまってね。そこで神父である私がこの子らを引き取った。

善良な誰かが彼らを養子として貰ってくれるまで、もしくは親戚筋が引き取るまでの間。

だが、誰も来なかった」

 

神父の声は、人の美しさを讃える賛美に満ちていた。

 

「働かざる者食うべからずという言葉があるだろう? 彼らは自分から志願したのだ。この教会の、ひいては神父である私の力になりたいと。

彼らの真心だ。心が震えたよ、衛宮士郎。だから全員に力になってもらったのだ、このようにね」

 

そう。 死にゆく者こそ、まこと美しい。

 

「・・・こんな」

 

「―――衛宮士郎。良かったな、念願の再会が叶って」

 

「・・・こんなのが、」

 

歯軋りの音が聞こえる。隣りにいる、ツカムのものだ。

 

「あの災害の折、衛宮切嗣に拾われていなければお前もこの群れの中にいた事になる。

ならばほら? 君たちはあの地獄を生き抜いた絆の同胞・兄弟たちではないか。

まあ、お前は一人助かったわけだが」

 

「こんなのが―――!」

 

「多くの人々の犠牲の上に生きながらえて以来・・・。まさに、十年ぶりの感動の対面だ。―――『生者』と『死者』のな」

 

ツカムが後ろに振り向き、神父・言峰綺礼の胸ぐらを思いきり捻り上げた。

 

「こんなのが、誰かの力になるだって? 笑わせるなこの下衆ッ!!お前は吐き気を催す邪悪だ。

何も知らぬ無知なる者を利用する、自分の利益だけの為に利用する。

神父が何も知らぬ人々を、手前だけの都合でッ!!!」

 

この悪魔は、断じて許せない。

 

「・・・ああ忘れてた。ここは教会だから、サーヴァントは不戦だっていう暗黙のルールがあるんだったな?」

 

―――ああ、そんなものもあったなツカム。

 

「だが俺はただの亡霊。 英霊でもサーヴァントでもない。だからこの外道を斬った所で何も問題は無いってこった!」

 

「これは怖いな。 亡霊でありながら数多の英霊を相手取ったその剣腕にかかれば、ついに私もお陀仏か」

 

「黙れッ!!!」

 

光を、つかむ!!!

 

絆アビリティ発動及び武装選

 

「ランサー。刺せ」

 

―――――、え?

 

それはいかなる手品か。

 

「・・・お、前・・・!」

 

 胸から槍が生えている。

テレビで見た事が有る脱出マジックの一種か?

 

だけれど。こんなにも痛いものだとは知らなかった。 

 

「―――ガッ!ぃ、ハ―――」

 

「ああ、そういえば言っていなかったな。改めて紹介しよう。彼が、私のサーヴァントだ」

 

「ッ!そういう、事か・・・!」

 

 槍兵の槍に刺される二人。

ツカム達は仲良く、『生者の棺』の傍に倒れこんだ。

 

―――助けて。助けて。

 

―――痛い。痛い。 

 

―――苦しいよ。

 

 

―――何でお前はそこにいるんだよ。

 

 

声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 マスターであるシロウと、同盟相手であるツカムが席をはずした。

殿方同士の作戦会議か、はたまた何がしかの閃きの探求か。

 

シロウは常に何処かに出歩いてしまう癖があるようだ。あまり、心配をかけさせないで欲しい。

 

「…シロウ達、遅いですね」

 

「男同士話したい事でもあるのではないですか? セイバー」

 

「………むぅ」

 

「あら? ガールズトークは嫌い?セイバー」

 

「からかわないで頂きたいッ!リン!!」

 

 含み笑いを浮かべるリンとライダー。

おや? サクラとアーチャーがいつの間にかいなくなっている。

 

「リン。アーチャーとサクラは何処です?」

 

「ああ、桜はトイレに行くって言ってたわね。アーチャーは一応周囲の警戒」

 

「…なるほど。 では私も周囲の警戒を」

 

「はいはい。いってらっしゃ―――」

 

「皆さん!!!」

 

 桜が凄まじい形相で部屋の扉を開けた。

ふと後ろを見れば、アーチャーも険しい顔をしている。

 

異常事態だろうか?

 

「―――何事ですか、サクラ」

 

「ライダー! ただちに周囲の警戒を。衛宮先輩とツカムさんはまだ戻りませんか!?」

 

「了解しました、サクラ」

 

「ちょっと落ち着きなさいよ。…アーチャー、どういう事?」

 

「・・・こちらに来てくれ」

 

 アーチャーとサクラが私達を案内し、辿り着いたのはとある一室。

元々は広々として厳かな雰囲気の部屋だったのだろう。

そんな空間を、夥しいほどの黒々とした何かが汚していた。

 

そして誰かの左腕だけが床にあり、この部屋をより印象付けている。

 

「…アーチャーさんと周囲の部屋を探索していたら、ここを見つけまして」

 

「血痕だ。 どうやら数週間前にこびり付いたと見て間違いない」

 

 部屋と左腕を観察する桜とアーチャー。

感覚を研ぎ澄ますと、魔力の残り香をかすかに感じる。

 

「まさか、ここで殺しがあった……? ひどい殺し方を…」

 

「―――妙ですねサクラ、ただの殺し合いではない。 一方的に四方に血だけを撒き散らせている」

 

「まさかサーヴァント同士の戦い?あの左腕はその名残」

 

「サーヴァント同士じゃありません」

 

「――――!」 

 

「この夥しい血のりは複数人の生きた人間のもの。数は少なくても四人。

でも有るのは誰かの左腕一本だけで、他の遺体一つ無いんです。

…誰かが隠したにしても、部屋の外は全くもって痕跡無く綺麗なまま、足跡も窓も無し。 理屈に合いませんよサクラ」

 

「―――この左腕の持ち主は?」

 

「それが変なんです。……移動した跡が無い。 かき消すように姿を消しています」

 

「それともう一つ。 この左腕には令呪があった跡がある。誰かに奪われたようだが・・・」

 

「シロウ達と合流しましょう。ここには何か裏がある」

 

 この教会はどこかおかしい。まるで、不思議の国へと続く兎の穴のような。二度と戻ってこれない奈落の底のような。

そんな所に自分達がいるという現実。シロウとツカムが二人だけで出歩いているという恐怖。

 

そう思い描いた瞬間。

 

「―――!」

 

脳裏に、ここではない映像が浮かび上がった。

 

「…セイバーさん!? 何処へ!?」

 

「後を頼みます、サクラ。リン」

 

 見えたのは仄暗い地下室。数多の棺。

絶え間ない激痛と、恐怖。

 

自分の中の何かがキレる音がする。が、知った事ではない。

 

―――間に合え。

 

セイバーは己が主の危機を救うべく、脇目も振らず障害物を薙ぎ倒し突き進んだ。

 

 

 

続く。

 

 

 


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