Fate/チェインクロニクル   作:ブロx

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今回は前編後編に分けてみました。書いてて愉しいと思ったのはナイショ。







第17話 灯り (前編)

 

 

 

 

 

 

 夢を見ている。

サーヴァントと契約したその日から、何度か見てきている夢。

 

・・・とある英雄の半生。 騎士として生き、民草の理想の王として責務を果たしてきた英傑の生涯を。

 

―――望み。願い。暮らし。笑い。涙。

 

かつてこの国に息づき、溢れていたもの。

 

それらは、ある日微塵に踏み潰されて、一握の風となった。

 

風は巻かれて地表を覆い、巨竜となった。

 

 いま、嵐が竜を追い詰める。

 

怒りと悲しみの祖国の素顔が、荒れた空気を燃え散らす。

 

―――騎士王よ。 貴方は人の心が分からない。

 

吹きつける風の行進が、心に刺さる。

 

 

 ・・・その英雄は、民と臣下を導く事が出来なかった。 戦に勝利できても、報われる事が無かった。

 

その身が尽きるその日まで。

 

 

 

 

 

 

「―――最期まで。 ちゃんと頑張ったんだよ、あいつは」

 

 理想の王になろうとしたんだ。

人々の模範、騎士の王としての責務を全うしたんだよ。

 

―――セイバーはな、誰が見たって凄い奴なんだよ。

 

 起床した衛宮士郎は、夢でセイバーの生涯を見ていた。

英雄の生き様。おとぎ話の王の一生を。

 

「・・・頑張ったのなら、頑張った分幸せにならなきゃ嘘じゃないか」

 

 そうさ、そうだとも。 ならせめて、今ここに居るセイバーの為に俺が出来る事を。

しかしそれは何だ?

 

あいつの好きな物は? 幸福を感じる時は? 心安らぐ場所は?

 

「―――よし」

 

疑問は尽きない。人は考えてばかりいるから悩む。

 

「思い立ったが吉日。・・・かな」

 

だから行動していれば、悩む事だけは無い筈だ。

 

 

 

 

 

 

「・・・は? デートに誘いたい?」

 

「ああ」

 

 穏やかな朝を迎える、ここ衛宮家。

今日は暖冬なのか。時期は冬のはずだが、この肌を刺す冷気は何とも心地よい。

 

「誰をだ?」

 

「セイバーをだ」

 

 朝は生物にとって始まりの時間。

何事も始まりが肝心だというのだから、朝という時間は救われてなきゃいけない。

 

物を食べてる時のように静かで、豊かで。

 

「――――マジか? 衛宮」

 

「マジだ。 慎二」

 

静かでも豊かでもない驚愕の朝を、間桐慎二は迎えていたのだが。

 

「・・・・勇気は買うよ。 僕達凡人を代表して、お前が英霊をデートに誘うんだからな」

 

「ありがとう」

 

「皮肉で言ってんだよ」

 

「分かってる」

 

 深い溜め息をつく慎二。

柳洞寺での一大決戦を終えて一息つけると思ったら、これか。

 

「え?ていうか何? お前セイバーの事好きなわけ?」

 

「ああ。そうだ」

 

 今日は日曜日。

だが明日の穂群原学園校内新聞の一面はこれにしよう。

 

―――穂群原のドラえもん、好きな女性もドラえもん。

 

 ほら、あのタヌキって初期は黄色だし。

でもセイバーは金髪だろとか言われたらどうしようかな・・・。

 

金色も黄色も遠目からは似たようなもんだって、でっち上げればいいか。

 

「友人として、心から祝福するぜ。衛宮」

 

「ありがとう」

 

「い~え~~。どういたしまして」

 

「それでだ慎二。 デートのいろはってやつを教えて欲しいんだが・・・」

 

「お安い御用さ。なんせ僕は自他共に認めるモテ男だからね。この時期最強完璧なデートプランを伝授してやるさ」

 

持つべきものは何といっても友達だ。・・・・だろ?

 

 

 

 

 

 

「シロウ。 オカワリをお願いします」

 

「はい、セイバー」

 

「ありがとうございます」

 

 本朝3杯目の、大盛り白米。 

それをとても静かで豊かで救われてるような表情でかっ込むセイバーは、まるで女神だ。(士郎談)

 

 慎二からデートプランを伝授されたものの、士郎はいまだセイバーを誘い出せずにいた。

 

「・・・・こんな顔してちゃあな」

 

「何か言いましたか?シロウ」

 

「いや、何でも無いよ」

 

「改めまして皆さん。 昨夜の戦い、本当にお疲れ様でした」

 

 手に持つ箸を置き、身を正して頭を下げる間桐桜。

その言葉には労いと感謝の意があった。 同じく、遠坂凛も頭を深々と下げる。

 

皆が無事に生きて帰ってこれて良かった。助け出せて良かった。手を貸してくれてありがとう。

 

彼女らの想いは、義勇軍の皆に充分伝わっていた。

 

「何をいまさら・・・。俺達はもう一蓮托生だろ」

 

「貸し一つって事にしといてやるよ、遠坂」

 

「…現在。この冬木の聖杯戦争において、私達以外で残るサーヴァントはバーサーカーとランサーのみ」

 

「ランサーはおっかないが、はっきり言って今の僕達の敵じゃあない。じっくり対策を考えようぜ?桜」

 

「イリヤさんは冬木市郊外の森の奥の奥、そこのお城にいるとの事。

……来たいなら、いつでも掛かって来いと別れ際に言ってました」

 

「油断してるわね、あの幼女」

 

―――油断? 何の事かな?これは余裕というものよ。

 

「との事です。遠坂先輩」

 

 凛なら上記のようにそう言うだろうという事で、あらかじめイリヤから伝えられた言伝を述べる桜。 

鳩が豆鉄砲食らったような。 というのはこういう顔を言うのだろう。

 

面食らう凛の顔は、思いのほか面白かった。

 

「一本取られたな、リン」

 

「黙ってアーチャー。 あのロリっ子絶対ギャフンと言わせてやるんだからッ」

 

「しかし、あのイリヤスフィールが先にこちらに攻めてくる可能性もある。当面の間は情報収集になるだろう。

・・・ランサーは一撃必殺の宝具持ち。そのマスターの正体は未だ分からず。

バーサーカーは一騎当千で万夫不当。そしてそのマスターもまた強者。 同時に相手をするのは避けたいな」

 

「ししし! ツカム!!それでもオイラ達は負けないよッ!!!」

 

「この戦争も、終わりが見えてきたわね」

 

 願いが叶う万能の釜。願望機・聖杯。

それの取っ手が、義勇軍達には見えてきていた。

 

中身は未だ見えずとも。

 

「今日はせっかくの日曜ですし、休日を満喫するとしましょう。外はいいお天気ですしね」

 

「ライダー、昨夜の約束を果たさせてもらってもいいか?」

 

「勿論です。ちょうど甘味が食べたい所でした」

 

「私はちょっと自室で魔術の研究を」

 

「セイバー俺とデートしよう」

 

「僕は映画でも見てくるよ。ブレイブハートがリバイバル上映してる」

 

「では今日は皆さん思い思いの休日を。………、……今なんて言いました?」

 

「知らないのか? ブレイブハートだよ桜。時は13世紀末のスコットランド。

イングランドに恋人を殺されたスコットランドの英雄ウィリアム・ウォレスの、その波乱万丈な生涯を描いてる。

彼の掲げる『FREEDOM』とは?『BRAVE』とは?

そしてウォレスの友人だったロバートの、最後の言葉と行動。あとこの映画、なんと言っても素晴らしいのは音楽だと僕は思うん」

 

「懐古趣味は結構です、兄さん。衛宮先輩今なんて言いました?」

 

「そうですシロウ。 デートとは一体何ですか?きちんと説明して頂かないと!」

 

「デートだよデート。俺と一緒に出掛けようって事だ」

 

「む。馬鹿にしないで頂きたい、言葉の意味くらい知っていますとも。

何故私と一緒に出掛けるのか、その理由を聞いているのです。そんな暇なぞ私達には無いでしょうに!」

 

凛とアーチャーが、顔に掌を当てている。

 

「いいや、今がその時だ。俺は今日セイバーとデートする。 これは決定事項なんだからな」

 

「我が儘な…!」

 

「我が儘だな」

 

「・・・ワカメのにーちゃん。一体あの兄ちゃんはどうしちゃったんだい?」

 

「さあ? 自分が存外欲張りだって事に気付いたんじゃないのか?」

 

 いざ往け、光あれ。

立ち往け。 我らが穂群原のドラえもんよ。

 

「・・・さてライダー、俺達はもう行こうか」

 

「実は前々から行きたいと思っていた甘味処がありまして。今日はよろしくお願いします、ツカム」

 

慎二とピリカが笑い、凛とアーチャーがセイバーにデートの意味を教えている最中。

 

「―――ツカムさん。ライダー」

 

ガッシと、掴まれる肩と肩。

 

「はい・・・?」

 

「協力を、お願いしますッ!!」

 

義勇軍団長は仲間に手助けを願い出た。

 

 

 

 

 

 

「ケーキバイキングですか、シロウ」

 

「ああ。ここのはどれも絶品なんだ」

 

 冬木の街にある高層ビル。

そこの八階の一室にある、ケーキやらデザートやらが食べ放題のお店。

 

値段はお手ごろ。味は絶品。醸す雰囲気スイーツ然。

 

「・・・なあ、サクラ。 何故俺とライダーまでここにいるんだ?」

 

「マスターであるサクラの命令には絶対服従ですよ?ツカム」

 

「これは護衛、なんですそうなんです。尾行?監視?出歯亀?何の事です?」

 

「分かったOK、お好きなようにボス。 俺は貴女の下僕だい」

 

 ツカムが抱いてた桜のイメージとは随分とかけ離れているが、彼女とて華の女生徒。

気になってる男子が今から他の娘とデートするなんて知ったら夜も眠れない。

 

「うぬぬ…ッ! 私も先輩と一緒にケーキを食べたいッッッ」

 

「シロウと今度行ってくればいいじゃないか?」

 

「ホハ!? そうですね、そうしましょうッ!」

 

 彼女は人並みのデート・逢引きなどには無頓着であった。

何故なら、それをしようとかしたいという思考自体が無いから。

 

・・・誰かの為に生きようとする人間さんの悪い癖だ。 事を急ぐと元も子も失くす事に気付かない。

 

その発想は無かったと言わんばかりの表情を、桜は浮かべた。

 

「―――しかし、幸せそうな顔ですね」

 

 ライダーが見つめる先には一組の男女。

急なデート、つまりは逢引きで混乱しているだろうセイバーの表情が、士郎の行動によってほぐれていく。

 

「シロウが?セイバーが?」

 

「両方です」

 

―――行こう行こう。いつも先を急ぐ。

 

 そしてある日、死ぬ。 

たまには足を止めて、人生の楽しみを味わうべきだ。

 

「聖杯戦争の真っ只中だっていっても、息抜きは必要さ。シロウにもセイバーにも」

 

「私達にも?」

 

「誰にでもかな」

 

「あ!ちょっとツカムさん!ライダーも!! 先輩達どこかへ行っちゃいますッ!!追いかけますよ!!?」

 

 必死な。でもどこか楽しそうな顔で、桜は士郎達の後を追う。

桜と初めて会った時の顔。ツカムとライダーの脳裏に今も浮かんでいる、あの死んだような眼。

 

あの時の彼女は、もういない。

 

 

 

 

 

 

「ここは………?」

 

 バイキングを終え、水族館やら色んな所にセイバーを連れて行った。

そして本日のメインイベント。

 

慎二曰く、ここが今最もアツい店だという。

 

「ぬいぐるみ店。 プライドのある男ならこんな店死んでも来やしないが、セイバーとなら別だな」

 

「ほう…、中々可愛らしい物で溢れてますね、シロウ」

 

「気に入ってくれたようで何よりだ」

 

 動物のぬいぐるみを手に取り、顔を綻ばせるセイバーの表情は喜びで満ちている。

デートの当初はどこか固く見えたが、この顔を見たらそんな杞憂なんて吹っ飛んでしまう。

 

・・・ああ、安心した。

 

「おや?………シロウ、この獅子のぬいぐるみ」

 

「うん?」

 

 カッコいいというよりかは可愛らしさが目立つライオンのぬいぐるみ。

セイバーはそれを持ったまま、ジッと見つめ続けている。

 

「・・・獅子ってこのライオンの事か?セイバーはライオンが好きなのか?」

 

「―――ネコ科の動物の中で唯一群れを作って、その群れ、プライドっていう名前がついてまして。

狩りも力を合わせて行ってまして、一頭が獲物を見つけると獲物を囲むようにどんどん距離を縮めていくんですね」

 

「え? あ、ああ。まるでハンターなんだよな、ライオンって」

 

「そう、何頭か、こう追いかけて。で、もう何頭かはちょっと待ち伏せするような形でそっちに追い込んでいって、そこで仕留めるみたいな感じなんですよね。

何で他のネコ科動物と違って、こう、チームワークの良い狩りを行いますね」

 

 電波でも拾ったのか?

はたまた彼女の類まれなる獅子への愛情が、獅子愛好家としてのセイバーの血を解き放ったというのか?

 

・・・俺にはよく分からないな。

 

「フレンズなんだな、セイバーは。・・・・それ、欲しいのか?」

 

「シロウッ!!よろしければこれを是非所望したい!!!」

 

「勿論構わないさ」

 

 そう答えた俺に対して、セイバーは花が咲いたような表情を見せる。

そんなに嬉しかったのか。見てるこっちの方が嬉しいのだけど。

 

・・・・セイバーには、自分自身を幸せにする望みが必要だと、改めて思う。

 

 だってあんなにもセイバーは頑張ったんだ。 祖国の為に、民の為に、王として。

今だってそうだ。俺や桜、慎二たち皆をその剣と細腕で守ってくれた。

 

頑張ったのなら、その分幸福にならなきゃ嘘だ。

 

 購入したライオンのぬいぐるみを抱きしめているセイバー。

とても幸せそうに。とても満足そうに。

 

「セイバー。そろそろ家に帰ろうか?」

 

「ええ。 日も暮れてきましたし、帰還しましょう」

 

 冬にしては良い陽気な一日だった。

慎二のお陰で慣れないデートだって出来たし、セイバーには喜んでもらえた。

 

冬の夕暮れ。 やさしく微笑んでこちらを迎えてくれるのは、我が騎士王だけなのだ。

 

「―――セイバーは、一体何を望んでるんだ?」

 

 だから知りたいと思ってしまった。

夢でなんかじゃなく、現実で。その口から直接聞きたい。

 

叶えたいと、思ってしまった。

 

「………シロウ。 私が聖杯に望むのは」

 

―――分不相応にも。

 

 

 

 

 

 

「見事な甘味でしたねサクラ。あの店は、老舗あたりでしょうか?」

 

「よくご存知ねライダー。 正確には明治時代から続く、ギリシア風味が強い甘味処よ。

ギリシア風はお好き?」

 

「ええ、ゾッコンです」

 

「ライダーもお目が高いわ」

 

 士郎とセイバーの醸し出す空間に居ても居られなくなったのか。はたまた純粋に見失ったのか。

桜とライダーとツカムは、三人で時間を共にしていた。

 

「実に美味しかった。ユグドにはあんな美味しい甘味は無かったかな。・・・・おや?」

 

 走り往く一陣の風。

歯を食いしばり、ただがむしゃらに走る男が一人。 

 

悔しい。無念。義憤。悲哀。憤怒。 男、衛宮士郎が浮かべる表情は、三人の目を引くものだった。

 

「・・・デートが失敗したのか?」

 

「だからと言ってあんな顔をするでしょうか?」

 

「追いかけましょう! ワケを聞かないと!」

 

 そっと。

ツカムは己の首を指でなぞった。

 

桜とライダーが士郎を追いかける。

 

あの日。 衛宮邸の居間で見たセイバーの瞳を思い出し、ツカムは桜の後を追った。

 

 

 

 

 


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