Fate/チェインクロニクル   作:ブロx

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グランドオーダーというゲームが話題沸騰という事を聞いたブロx。
今なら正月フェアで全身タイツ槍師匠が手に入る(暗黒微笑)と言われインストール。
石集めという艱難辛苦を乗り越え、フェア終了間際運よく手に入れたブロx。
次はナイチンゲール姉貴が欲しいなあと伝えると、そいつは(^U^)になった。






第13話 再会

 闇の洗礼。闇の極光。

遥か古代の遺物、前時代の化石の具現を彼女達はその身で感じていた。

 無論、じかに見た訳ではない。直接その身にくらった訳でもない。

言い表すのなら、遺伝子に『懐かしい』と刻まれている。『恐怖』と刻まれている。

 

細胞レベルでの、『記録』の問題だった。

 

「何と凄まじい魔力。……お見事ですね。

無駄な魔力放出も殺気も一瞬で消し、ほんの僅かな余韻すら残さないとは」

 

「見たことも聞いたことも無い魔術。―――イリヤ、もしかして、あれは〝魔法〟?」

 

「五つの〝魔法〟ではないわね。おそらくそれよりも遥か以前。

……私達現人類が生まれた頃よりも前の種族が使った『法』の類でしょう。流石は、キャスターのサーヴァントね」

 

「・・・・勝てる?イリヤ」

 

「リーゼリット!」

 

 冬の聖女・イリヤの従者が、己の同輩を鋭く一喝する。

己の主に対して、勝てるかだと?勝てないかだと?

 それは愚問というのだ。

 

「我が主、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン様は必ずやお勝ちになり、そのお役目を果たす。

私達は、主が突き進むべき覇道を綺麗に掃除する事こそが役割。

 先の貴女の言葉は、断じて口にして良い事ではありません」

 

「・・・セラ。私は、イリヤが心配なだけ」

 

 リーゼリットと呼ばれた従者はその無機質な眼をセラ、己の同僚に向ける。

従者が主を心配してはいけないと言うのか?主に意見してはいけないと言うのか?

 眼は口ほどに物を言う。普段物静かな彼女はその実、多弁であった。 

 

「ありがとうリズ、セラ。

貴女達の主として、こんなにも嬉しい事は無いわ」

 

 全幅の信頼と心配。そのどちらとも、今のイリヤは感じている。

何という幸福。何という冥利か。それに応えぬのは、主失格だ。

 

微笑みを浮かべ、立ち上がる小さき帝王。さあ、出かけよう。

 

「お嬢様。柳洞寺に行かれるのですか?」

 

「いいえ」

 

「・・・イリヤ、じゃあどこに?」

 

「買い物よ」

 

―――買い物?

 

従者二人は、一様に首をかしげた。

 

 

 

 

 

 

『おかあさん!見て見て、綺麗な火花!』

 

『まあっ、凄いわねえ』

 

 幼子の手から、パチパチとイカヅチが鳴る。

それを我が事のように嬉しく思う大人の女性。

 何の変哲も無い親子の会話。

 

そう、自慢の母だった。

 

 いつか、自分もこんな女性になりたい。

そう無邪気にも思っていた。無知にも思っていた。 

 

―――随分懐かしい夢を見ている。幼少の頃、いや、それよりももっと前。

 

まだ母と父が傍に居た、生きていたあの頃だ。

 

『貴女もあの子も、将来はきっと素敵な女の子になるわ。それはお母さんが約束してあげる』

 

『うん!さくら、頑張る!』

 

―――そういえば。

 

 そう確か、あの時母は何かを自分に聞かせてくれた。

≪間桐≫になる前の私に。

 

『……ヤだ。…お家が、お家じゃなくなるなんてヤだ!!!おかあさん!!!』

 

『―――桜。 辛くても悲しくても、忘れないでいてね?』

 

 泣きじゃくる私。

母もまた泣き顔だった事を、おぼろげながら覚えている。

 

そうだ。

 

母はあの時―――、

 

『貴女には、大切な人を守る為の力がある。私の娘なんですもの。

どうか、幸せにね』 

 

そう言って、今生の別れを終える間際、母は私にリボンをくれた。

 

 

 

 

 

 

「お母さん……」

 

 夢から目覚めた桜は、肌身離さず持っている小さな袋の口を開ける。

中には小さなリボンが。

 それは母がくれた宝物。もはや母の形見となってしまった物。

 

「私はセイバーさんを助けられなかった。アーチャーさんを、守れなかった……」

 

 果たしてこれは懺悔なのか。手に持つリボンが額に触れる。

自分は無力なのだと、相変わらず何も出来ない唯の小娘なのだと、亡き母は教えてくれるかもしれない。

 

「私は、この街を守ると決めた義勇軍・団長。

…そう一人で勝手に決めた、自己満足が得意な、もう乙女でもない誰も守れない馬鹿な女。

そうですよね?お母さん…」

 

 誰かを守る?何かを守る?何故なら、そう決めたから?

それは一人前の戦士の台詞だ。

半端で矮小な小娘が語るものではない。

 

 リボンは、何も語ってはくれなかった。

朝日を綺麗に反射するだけで。

 

「……え?」

 

 光るリボンは何も語ってはいない。

ただ、

 

「何か、書いてある?」

 

何かを示しているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シロウ…?」

 

「起きたか?セイバー」

 

 おさまらない鈍痛。言う事を聞かない己の五体。

反して、衛宮邸の寝室は不気味なほど静かだった。物音はなく、人の生活感もない畳部屋。

 柳洞寺から退却したセイバーは、眠る事で体力の回復と傷の治癒に努めていた。

 

「すまないセイバー。・・・俺は、何も援護できなかった」

 

「貴方が謝ることではありません、シロウ。全ては私の力不足によるものです」

 

「・・・セイバー」

 

 己がマスターに回復魔術は望めない。そして、己の望みを叶えるのは自分自身。

自分に出来ることを最大限。いや、最大以上にやり遂げて達成する。

 祖国の為にも。民の為にも。自分の為にも。

 

この私がやらなければ。

 

セイバーの心中。それを分かっている男は、衛宮士郎は彼女に語りかける。

 

「俺は、お前を信じてる」

 

「シロウ…?」

 

「俺はお前のマスターだ。でもそれだけじゃない。

俺はお前という一人の人間を、騎士の王である一人の女性、セイバーを信じる」

 

「………まさか、私の過去を」

 

「ああ。悪いが、夢で見ちまった」

 

「―――――そうですか」

 

 過去の失敗。過去に対する感情。

それらは粉微塵に砕いて潰しても、ミミズの様に這い出てくる。

 よく、昔があるから今があるだとか言って過去を輝かしいと捉えてる人がいる。

 

見てみろ。その結果がこれだ、今の自分だ。

叶えたい望みに縋るしかない、それ以外何も無い負け犬のザマだ。

 誰かが笑っても構わないし、仕様がない。

 

「・・・でも、それが一体何だって言うんだ?

大事なのは今だろう。違うか? セイバーは俺をランサーから守ってくれた。

バーサーカーやアサシン、キャスターの攻撃を死に物狂いで防いでくれた。

 今の俺は、セイバーを信じてる」

 

―――だからあらためて頼む。

この戦争を、どうか俺と一緒に闘ってくれ。我が騎士。

 

「……シロウ」

 

 差し出される掌。

ふと思えば、誰かからこんな風に言われた事は無かった。

前回の戦争の時も。そして生前も。

 

 いつもただただ走り続けていた。

この身は誰かの為にならねばならぬと、人々の先頭に立ち、強迫にも似た観念に突き動かされてきた。

 それが己の義務だったから。他の生き方は、とうの昔に忘れた。

 

「私は貴方の剣です。それにしか、なれません」

 

―――でもそういえば。

 

「なら俺は、お前の鞘になる」

 

―――こんな風に殿方から言われた事も、無かった。

 

不可思議な感覚と差し出される掌の暖かな感触に、セイバーは身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

「…サクラ?こんなにも朝早くに何処へ?」

 

「ごめんなさいライダー。私、ちょっと出かけてきます。兄さん達には書き置きを残しているから」

 

「―――私も行きます」

 

「嬉しいけれど、これは私一人で行かなくちゃいけない事なの。ライダーは皆を守ってて」

 

「…貴女は今の自分の顔を鏡で見た方が良い。まるで死人ですよ、サクラ」

 

「心配してくれて有難うライダー。でも、今夜は昨日以上の決戦になる。今度こそ私は皆を守りたいの。

―――誰かを守る為には、貫き通す力が必要。それを手に入れてみせる」

 

「その力が、もし誰かを壊す事になったら何とします?」

 

「その時は、貴女が私を殺しなさい」

 

 

 

 

 

 

 石畳でできた道を歩く。

気を付けて歩かねば、足先が躓いて容易く倒れるだろう。

しっかりと踏みしめて己が道を歩まねばならない。そんな自分を、太陽は照りつける。

 

 黒い影がくっきりと刻まれる地面。どう歩んでも、どう走っても、どう止まってもどこまでも付き纏う。

 共に道行く孤影は、絶えて物言う事も無い。

 

 

「―――そこな娘」

 

「…………」

 

 ひょろりとした男が、桜の前に立ち塞がった。

血の色のような赤い瞳で、この世の全てを魅せつけて従わせるかのような黄金の髪で。

 

「死んでおけと言った筈だが?―――我の手を煩わせるな」

 

 死刑執行人が下す判決は覆らない。定めは絶対。

だけどその前に、己の意志だけは言わなければ。

 

「申し訳ありません。私には、生きて為すべき事があります」

 

「・・・ほお?」

 

 下された判決に、男の決定に異議を申し立てる。

何たる不遜か。何たる不敬か。断罪しなければ、『男』の名折れだ。

 

「―――だが、好い。

精々舞い踊り、足掻いて我を興じさせよ。雑種」

 

 定められた死すら遠ざけ、条理を覆す。

古来より、そんな事が出来る者は『王』と呼ばれている。

 

 王は愉悦に満ちた笑みを残し、桜の前から去って行った。

 

 

 

 

 

 

 居間のテーブルには所狭しと朝御飯が置いてあって、いつも賑やかだ。

それが朝の衛宮邸の基本。しかし、現在は料理は無く人もまばら模様。

 活気の良さからは程遠い、通夜のような雰囲気がこの空間を包んでいた。

 

「あのサーヴァントのクソッタレが!!くたばりやがれ!!人を舐めやがってからに!!!」

 

 そんな空気を払拭するかのように、無理やり鼓舞するかのように遠坂凛は咆哮した。

昨夜の敗北は私の責任。

私がしっかりしなくてはならない。サーヴァントを盗られた、他ならぬ自分が。

 

「―――リン」

 

「ああいやいや、貴方の事じゃないわよライダー?

昨日は私達を守ってくれて、ありがとね。キャスターの事よ」

 

 お茶の間で激昂する凛と、それに冷たい視線を向けるライダー。

昨夜の戦闘は凛にとって屈辱以外の何物でもなかった。

撤退してここに戻ってきたはいいが、ぐっすりと眠れるはずも無い。

 

 偵察のつもりで寺に行ったら山門をくぐる事無く追い返されて自分のサーヴァントが奪われる。

文句の一つも、そして憤りも出てくるのが人間というもの。

 

「今の私はまるで肥溜めに落っこってるの。

分かる?文字通りドツボにはまって全身クソまみれよ!」

 

「・・・・残念だったな、遠坂」

 

 慎二もまた、無力感を感じていた。

自分は何も出来ないとは思っていた。己の妹にだけ、危害が無ければ良いとさえ思っていた。

 眼前で侍に斬られる女性。屈辱から、その場で叫ぶ事しか出来ない同級生の女性。

 

これらを見て何も思わない者は、男という人種ではない。

 

「・・・なあ、令呪を使ってアーチャーを呼び戻してみたらどうだ?」

 

「もうやってみたわよ!……でも駄目。

あのキャスター、現代の魔術師が全員逆立ちしたって足元にも及ばない程の奴よ!

ホント全く冗談じゃないったら!!!」

 

「なあツカム。義勇軍にキャスターを入れてやればいいじゃないか。

そうすりゃアーチャーは帰ってくるんだろう?その後、キャスターを対処すればいいじゃないか」

 

「シンジ。・・・あんな話を鵜呑みにするのは、どうかと思うぞ?」

 

「仮に約束通りアーチャーを返してくれたとしても、何かしら手は打ってくるでしょうね。

敵の期待通りに動いちゃまずい。相手が予想だにしない、手痛い反撃を行う必要があるわ」

 

 今夜は文字通り決戦になる。

この場にいる誰もがそう思っていた。口にせずとも。

 ここ衛宮邸は彼女達の本陣。しっかりとした万全の戦支度が必要だ。

 

だが、それでも相手を崩せるかどうか。

 

「おはよう皆。今日は冷えるな」

 

「よお衛宮。セイバーは大丈夫か?」

 

「よく眠ってるよ。今は傷の回復に努めてる」

 

「シロウ。絆アビリティは昨日から発動してる。もうじき、セイバーはいつも通りになる筈だ」

 

「助かる、ツカム。朝食の支度をするよ」

 

「起きぬけの所悪いけど、士郎。時は一刻を争う状況よ。

あのデタラメ魔女が、いつ私のアーチャーを積んだ車でこの家の前に乗りつけてから騒いでも遅いのよ!?」

 

「落ち着けって、遠坂。何か策を考えようぜ?」

 

 当面の敵はキャスターとアサシンのサーヴァント。

最強の門番・サムライが守る一つしかない出入り口を突破して、キャスターの罠と魔術を潜り抜けてアーチャーを奪還して引き上げる。

これが出来れば御の字。ミッション達成。

 

「・・・・どうかしてる。奪還屋でも雇いたいくらいだ」

 

「要塞というより異界だな、あの柳洞寺は。・・・所で桜はどこにいったんだ?慎二」

 

「書き置きがある」

 

「どれ。・・・・I'll be back (戻ってくるぜ)?」

 

「サクラは単身、出かけました。皆を守れるようにと」

 

「おい慎二ッ!!」

 

「気持ちは分かるが、そう怒るな衛宮。

あいつは今朝僕の所に来た。あの時の桜の顔を見たら止める事なんて出来ないよ。僕達の団長様には、何か考えがあるんだ」

 

「ねえ。私、一度実家に戻るわ。何か役に立つ物があるかもしれないし」

 

「夜までに何か策を考えよう。今日は学校休みだし。こういう時はどこか出歩いて、刺激を受けるに限る」

 

 負けられない決戦は今夜。

万全以上の戦支度をする必要がある。

 

 

 

 

 

 

「こんな所に階段が……?」

 

 母が眠る墓地から東へ、真っ直ぐに林の中へ行く。

その道の突き当りを右に折れて、そのまま真っ直ぐ行くと大岩が塞がっていてすぐ分かる。

 全身に魔術をかけて岩をどかすとそこには階段が。この下に、一体何があるのか。

 

「―――?」

 

 手に持つ懐中電灯で足元を、壁を照らしながら長い階段を下りると、一直線に地下道が広がる。

自然に出来たものではなくどうやら人工的な物のようで、どこか崩れてる様子も無かった。

 一体いつ頃出来た洞窟なのだろう。

 

何十年、いや何百年。……それ以上前?

 

「―――これって、壁画?」

 

 進み往く桜の周りの壁には、何か模様が画かれていた。

人々の暮らし。人々の争い。失意と希望。あの世とこの世。天と地。

 

「あれ?これって………」

 

 どれくらい歩いたのか。

地下道の先には、一際大きな空間が広がっていた。

何かが鎮座してある訳でも無く、ただただ広い空間が桜の眼前にあるだけ。

 

そして天井には、昨夜見た闇の剣が―――

 

「―――ここは、貴女のような者が来る所ではない。早々に立ち去れ」

 

 突如響く声。

まるで地下に蠢く大蛇のような。絶対に外れない予言をする女神のような。

 男なのか女なのかすら、判別できかねる声だった。

 

「申し訳ありませんが、出来ない相談です。私は間桐桜。…あなたは?」

 

「―――私は墓守。ここを衛り継ぐ者。

もう一度言う。貴女のような生者が、ここに来るものではない」

 

「ここは一体何なんですか?それに、あの闇の剣はたしか、」

 

≪ Eternal Finality ≫

 

 口にする桜。

昨夜、たしかキャスターはそう言っていた。

 

「―――何故、その名を知っている。その名を口に出来る」

 

「……え?」

 

「その名は口に出来ない。発音そのものが、出来ない。

今よりも遥か古代、それ以前を生きた者。受け継いできた者以外には。

貴女は一体・・・?」

 

「質問を質問で返さないで下さい。私が先に聞いているんです」

 

 この空気に呑まれてはダメだ。

桜は下っ腹に力を入れて啖呵をきる。どうやら自分は部外者のようだが、負けてなるものか。

 

「私には為すべき事がある。だからここに来たんです」

 

「―――成る程。死にたがりという訳か」

 

「生きたがりと言ってほしいですね」

 

「―――死にたがりならば教えよう。ここは墓場。

闇の洗礼を受けて散っていった者達の、成れの果てが集う場所」

 

「闇の洗礼?」

 

「―――あの剣は闇の極光・闇の洗礼。人が生きる上で生じる穢れ、悪意、負の感情の集合体。

それらは千古不易、永久に消えないモノ」

 

「その闇に、私は勝ちたいのです」

 

「―――不可能だ。人間を辞めない限りは」

 

「人を辞めずに、勝ちたいのです」

 

「―――ハ、やはりな。お前のような死にたがりは昔から何人もいた。

天を握ると、星を呑むと、歴史に己が名を刻むと。そして結果野垂れ死んで、ここに集まった」

 

 足元を見やると、そこには無数の顔が。

老若男女分け隔てなく。無念と憤怒の表情で。

 

「―――人を辞めずに至った者は英雄と呼ばれ、死後英霊となる。

今や英雄・英霊は星の数ほどいるが、それ未満の者は一体どれくらいいると思う?」

 

 至りたかった。成りたかった。勝ちたかった。

あの人のように。御伽噺のように。皆の為に。自分の為に。過去に打ち勝つ為に。

 でも、無理だった。出来なかった。

 

「―――ここはそんな者達が集まる墓場、云わば闇の神殿。

道半ばの者よ、これは最後通告だ。今すぐここから立ち去れ。それとも、」

 

―――今、ここに来るか?

 

 四方の壁から足元から、それこそ無量大数にものぼる、こちらを見つめる顔。顔。顔。

お前は必ずここに来る。

 光を失い、何も掴めず、落胆して。地の獄に落ちて。

 

己と世界を呪って。

 

「―――我々は、それをここで楽しみに見ているさ。なあ、我が同胞よ」

 

「………わたし、は、」

 

 自分が歩むこの人生には何が待つのか? この顔が知っている。

この道の先には何があるのか? この顔が、声が真実を語っている。

 

―――ただ他人を羨み、蔑み、呪い、不義を行い、この手の内には何も無い。

そのくせ誰かを守る?為すべき事を為す?人は、そんな高尚な事をするようには造られていない。

 

この世に生まれ落ちた時から、人を不幸にするように、設計されている。

 

「…………私は」

 

 お前も。お前も。お前も。

どこかの世界の、元・義勇軍の隊長も。

 

「……光を、掴む」

 

「―――何?」

 

「光をつかむ」

 

 口に出たのはある人物の口癖。

その人はいつも闘っていた。たった一人でも、仲間が出来ても。

 いつだって、自分の意志で。

 

「光を、つかむ」

 

「―――ついに、頭がどうかしたのか?」

 

たとえこの道の先がここだとしても。誰かを不幸にするとしても、

 

「私はこの冬木の街を守ると決めた義勇軍団長・間桐桜。

そして、光を掴む者」

 

「―――光を、だと?」

 

「闇に至ったあなた方に問います。対極に位置する光とは、あなた方が求めた光とは一体何なのですか?」

 

「――――」

 

口と面を閉ざす、声と顔。

 

「それは遥か彼方の天空の事ですか?太陽ですか?月ですか?もしかして星?

残念ながら、現代人はそれをゆうに飛び越してしまいましたよ。

―――違うのでしょう?」

 

「―――光とは、」

 

「私の仲間は言っています。光をつかむ、と。

…疑問を感じた日もあった。自分が一体何をしているのかと途方に暮れる日もあった。

でも、」

 

自分の為すべき事は止めずに、死ぬまで動き続けた。

 

「それ程までしても、今際の際にしか掴めなかった光とは何?闇の対極に位置する極光とは、一体何なのですか?

答えて下さい。どうか若輩者の私に教えて下さい先輩方。

―――さあ答えろッ!闇の具現!!」

 

「―――光、とは、」

 

 自分達は闇。あの黒剣に貫かれ、敗北し、そしてここに集った者ども。

他には何も無い。我々は敗者で、光にはなれなかった。

 

「―――だが、もしあの剣に貫かれてもなお意志を曲げず、己が道を貫いていれば、」

 

光を掴めたのかもしれない。

 

消えない炎を、胸に抱いたままでいられたら。きっと。

 

「―――義勇軍の団長よ。すまないが、敗北した我々には何も答えられない。

・・・求め続けた筈なのに。ずっと、夢見てきた筈なのに」

 

「…そうですか。

でも、私はここに来た事で自分の心を改めて知る事が出来ました。感謝します」

 

 ここにはもう何も無い。

いずれまたこの場所に来る事になったとしても、今はただ己を貫くまで。

 母は示してくれたのだ。これから歩む自分の道を。

 

今際の際に、これまでの自分が間違ってなかったと信じる為に。 

 

「―――運命の審判を告げる銅鑼にも似て、」

 

「?」

 

「―――衝撃をもって世界を揺るがすもの」

 

「…何を?」

 

「―――こなた、天光満つる処より。かなた、黄泉の門開く処へ生じて滅ぼさん。

どうか貴女に、我らが求めた極光のご加護を」

 

 物騒な言葉に反して、紡がれる声は幾分やわらかい。

どこかで聞いた事があるような、どこか懐かしいような。

 

 そして何かが全身に伝わる感覚。

どうやら、自分は託されたらしい。

 光を求めた者達から。彼らの想いと力を。

 

「有難うございます。…また会いましょう、皆さん」

 

「―――もう会う事は無いでしょう。 どうか、幸せに」

 

己が道を歩き、そして部屋が見えなくなる最中、桜は懐かしい人の声を聞いた。

 

―――桜。貴女は何処を目指すの?

 

―――光を。

 

―――桜ちゃん。君は何処までそれを貫くんだい?

 

 

 

―――無論、死ぬまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 桜が決戦を迎えていた頃、衛宮士郎もまた決戦に臨んでいた。

相手は自分の欲しい物を全て持っている。上手く成功させなければ。

 

 取引に応じる時は、相手をノらせておく事が大切だ。

相手の機嫌を損なう事なく、それでいてこちらの要求もしっかり伝える。

 そして両者、Win-Winの関係にもっていかせる事。

 

 叩き潰しては駄目だ。相手は生涯それを忘れない。因縁というのは恐ろしい。

むしろ相手は持ち上げて、油断させた方が良い。実は好意的に、こちらを見てるかもしれない。

 

「―――こんにちは、お兄ちゃん。早速だけど、私と手を組まない?」

 

「魅力的な提案だ。ちょうどこちらも、人手が欲しかった」

 

例えそれが、数日前に自分を殺そうとしてきた相手だとしても。

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

全ては、父に捨てられたあの日から始まった。人は生まれ、人は死ぬ。
天に軌道があれば、人には運命がある。
過去に追われ、師に導かれ、辿り着く果てはいずこ。
この命、求めるべきは彼。目指すべきは彼。討つべきは彼。
 そして、我は何。
次回『師弟』
目も眩む閃光の中を、二人が走る。





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