Fate/チェインクロニクル   作:ブロx

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長編に挑戦。(笑)
短編物ばかり書いていた作者の初めての連載物です。
生粋のFateファン、生粋のチェンクロファンの皆々様。こんなのあのキャラじゃない!設定が違う!と思った方。これは作者の妄想の産物です。
チェンクロの主人公が出てきますが、原作等とは別人と捉えて下さい。

尚このSSは様々な映画、ゲームのネタが含まれます。例えばコマンドー。俗に言う『組合員』でない方は訳が分からないかもしれません。






第1話

 

 

 

―――義勇軍。

 

 ユグド大陸に生きる者でその名を知らぬ者はいない。

義勇軍とは、異形の魔物である黒の軍勢に対抗する為に一人の男が結成した軍団である。

 

 彼らの敵、黒の軍勢は何処であろうと時と場合を考えず出現する。例えば恋人と語らっている時であったり、食事をして心豊かに救われている時であったり。人々は、常に恐怖と戦っていた。

 

 ユグド大陸の時の聖王は、黒の軍勢を打ち倒す為大陸中から兵を集め戦ったが、ついには討ち死に。首都である王都も陥落してしまった。

 

 人々を蹂躙する恐怖の対象、黒の軍勢。ユグド大陸は正に滅びる瀬戸際であった。しかし、義勇軍はこの大陸を救ったのだ。

 

「光をつかむ」

 

 義勇軍隊長、ユーリ。義勇軍の長にして創設者。時には熱く、時には冷静に、時にはおちゃらけてみせる事が出来る傑物。

 

「光を、つかむ…」

 

 敵を威圧する為、己を鼓舞する為、仲間を助ける為にこの言葉を常に発しながら戦ってきた彼。

 

「光を、ツカム」

 

そして今は、

 

「光を、掴んだ。その先がこれか」

 

―――とんだジョークだな。

 

仲間と共に光を掴み、彼は人々を守ってきた。

 

「その守ってきた人々に結局は殺される。それが、俺というコメディアンの最期か」

 

「ユーリさん・・・!」

 

「ユーリ!しっかりしろ!!」

 

「隊長!!!」

 

愛した人、相棒、信を置いている仲間達が彼に声をかける。

 

「どうやら、俺はここまでみたいだ…」

 

「今治癒の魔法をかけています!大丈夫、傷は浅いですよ!」

 

「こんな傷くらい、今まで何度も何度も修羅場を潜り抜けてきた隊長ならへっちゃらだろう!?」

 

「傷がふさがらない・・・。何で?何でなの!?」

 

 義勇軍は大陸を跋扈する黒の軍勢を打ち倒した。それは誰にも成しえなかった偉業。誰にも出来なかった夢物語。

 

だから、

 

『あんた、怖いよ。次は私達を斬るのでしょう?』

 

 背中からひと突きだった。襲って来た刺客は、黒の軍勢でもなければ暗殺に特化した者でもない。何の変哲も無い一般人だった。

 

お前達が怖い。お前達が次に何をしでかすのか、分からない。その一心が、彼に刃を届かせた。

 

「…みんな。義勇軍は、解散だ」

 

「そんな・・・!」

 

「何弱気な事を言ってるんだ隊長!!」

 

 驚愕する仲間達。だが義勇軍の隊長である彼がそう言わねば、この凶行は止まるまい。

 

 ユグド大陸に生きる人々の天敵、人々の恐怖の対象を義勇軍は打ち倒した。

 

では、その恐怖の矛先は?その感情が次に向かうのは?

 

「俺は皆が。…皆が傷つくのなんて嫌だ」

 

―――矛先が傷つけるのは、自分だけで良い。隊長である俺だけで。

 

「・・・、・・・・団長」

 

「団長さん・・・!」

 

「皆泣くな。これも、運命が廻った結果だ」

 

 義勇軍の長。軍団の長。彼は隊長とよく言われるが、実は団長とも呼ばれ親しまれていた。

 

「ユーリ!オイラはいつでも、傍にいるからね!!!」

 

泣き顔を己の顔に押し付けてくる相棒の妖精ピリカ。

 

「・・・ユーリさん」

 

そして愛する女性、フィーナの。

 

「私は、貴方を愛しています」

 

「知ってるさ」

 

初めての告白と涙で溢れている笑顔。それが、彼の人生最期の光景だった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――蟲の匂いがする。

 

死んだ彼がまず最初に感じたのは悪臭だった。くさい。臭う。

 

「問います。あなたはいつの時代の、何処の英雄ですか?」

 

「・・・・・・はい?」

 

―――おい。どういう状況だこれ。

 

「死んだ筈の俺の目の前に、急に現れた君の事をまず先に問いたいんだが?」

 

「質問を質問で返さないで下さい。私が先に聞いてるんです」

 

「アッハイ」

 

―――1つ分かった。この女はフィーナと同じだ。怒らせたらとんでもない事になると見た。

 

「・・・何処の英雄といわれても。英雄なんて柄でもないし?ユグド大陸生まれの唯の人間だよ俺は」

 

「ユグド大陸?」

 

「ああ。まさか知らない?」

 

「聞いた事が無いですね」

 

―――妙な事になってきたぞ。辺りを見渡せば薄暗い地下牢、洞窟みたいな部屋。目の前には死んだ眼をしたナイスバデーな美人ときたもんだ。

 コメディアンな俺は、小粋なジョークを言って口説かずにはいられない。

 

「おお!ホントにでけえな!!おお!ホントにでけえな!!」

 

「・・・? 何で二度も言うんですか?」

 

「言ってない。コダマ」

 

「コラ!!初対面の人に下品禁止!!!」

 

ボカッ!と効果音を出しながら現れたのは、

 

「・・・ピリカ?」

 

「そうとも!オイラさ!」

 

彼は驚く。まさか死に別れた相棒の妖精にまた会えるとは。

 

「いつでも傍にいるって言っただろ?相棒!」

 

「ああ・・・そうだったな」

 

彼らはどんな時だって、二人で何でもやってきた。

 

それは彼が死んだ後でも変わらない。ただ、それだけの事なのだろう。

 

「とにかく。 貴方の名前を教えて下さい」

 

「・・・名前か。そういうあんたは?」

 

「人に名を尋ねる時はまず自分から名乗るもんだよ?おねーちゃん」

 

「…失礼しました」

 

居住まいを正す、女性。

 

「私は間桐桜。貴女を召喚したマスターです」

 

「・・・召喚だって?」

 

「はい。貴方はこの土地、冬木で起こる聖杯戦争で我が間桐家が戦う為に召喚されたサーヴァント。我が家の為、貴方の願いの為戦ってもらいます」

 

「だって。偉くなったもんだねオイラ達」

 

「あんたの家の為ってのは分かるが、俺達の願いっていうのは?」

 

「・・・本当に何も知らないのですか?」

 

「申し訳ない・・・」

 

女、桜の死んだ眼が冷酷という色を携えてきた。

 

「はいは~い!!オイラは分かるよ!」

 

小さな羽を広げ、くるくると空中を回るピリカ。

 

「先程から気になってましたが、あなたは?羽の付いた妖精?」

 

「オイラはピリカ!ハードボイルドな妖精さ! 聖杯戦争っていうのは聖杯を手に入れる為に七騎のサーヴァントが殺し合う戦争。色んな時代で名を馳せた、信仰された英雄は死んだら英霊になるんだけど、マスターはその英霊をサーヴァントとして使役して一緒に戦うんだ!」

 

「ほうッ!」

 

「そして戦争を勝ち抜いた一組のマスターとサーヴァントは聖杯を手に入れ!二人とも何でも願いが叶っちゃう!!うわっはあ!!!」

 

「そりゃすごい!ひゃっほーい!!!」

 

万歳!万歳!!バンザアアァイ!!!

 

「…まあ、その通りです。ですので、是非とも戦ってもらいたいのです」

 

「 やなこった 」

 

鋭くなる彼の眼光。

 

 さっきまでの雰囲気はどこへやら。桜は歴戦の兵の風格が漂う眼前の彼を、死んだ瞳で見つめる。

 

「願いが叶うとか何とか御題目を並べてるけど、結局はただの人殺し大会って事だろう?魔物がいつ、どこからともなく現れて人を皆殺していく世界でもあるまいし。古の英雄を侍らせて皆でお遊戯会ってか、いい趣味だな」

 

「まあまあ抑えて抑えて。…気付いてると思うけど、ここはユグドじゃない別世界。この世界にはこの世界のルールがあるって事さ」

 

「・・・それじゃあ仕方ないな」

 

「確認しますが、戦っては頂けないので?」

 

見つめる桜。考える彼。

 

―――正直聖杯戦争など乗り気ではない。だが目の前の彼女の瞳はどこか放っておけない雰囲気がある。

 

「前向きに検討。って事で今は一つ」

 

「・・・構いません。それで貴方の名前は?いい加減自己紹介ぐらいして下さい」

 

「俺の名はツカム。ユグドという大陸で義勇軍を率いていた」

 

「……そうか、ここではその名前でいくんだね。 オイラはその相棒ピリカ!ツカムと一緒に黒の軍勢っていう魔物と戦ってたんだ」

 

「義勇軍、ですか。それは一体どういう…?」

 

「桜よ」

 

 しわがれた声。そして何かの音。

大量の蟲が人に群がって来たら、きっとこんな音をその人は聞くのだろう。そんな異音がする。

 

「サーヴァントの召喚は上手くいったようじゃな。・・・男一人に妖精一匹じゃと? 桜、令呪を見せてみよ」

 

「……はい、お爺さま」

 

 現れたのはまるで枯木のような翁だった。手の甲を見せる桜。まるで死人の表情。そして、桜の手に触る翁。

 

「うん?おかしいのう」

 

「……何か問題がございましたか。お爺さま」

 

目を見開く表情を翁は作ると、天を指差した。

 

「お前が召喚したのはこやつらではない。上におる」

 

「上に……?」

 

桜が天井を見ると、そこには蛇がいた。

 

「お初にお目にかかります皆様」

 

 紫色の長い髪。手足は長く、目は眼帯に覆われていて見えないが、美人であるか?と聞かれれば百人中百人が首肯するだろう。

 

それほどの美形。まるで蛇のような体躯。それが、地に落ちて来る。

 

「此度の聖杯戦争において、ライダーのクラスにて現界致しました。真名を、」

 

「言わずともよいライダーよ」

 

ライダーの声を中断させる翁。

 

「こんな得体の知れない奴等がおる前で言うものでもあるまい。のう?桜」

 

「……しかしお爺さま。彼とは、魔力による繋がりが確かに感じられますが」

 

「ワシには分かる。こやつ等はライダー召喚の際に付いてきた異物よ。今の聖杯の状態を鑑みれば、おかしくはない」

 

困惑する桜。どうやら翁にしか分からない事があるらしい。

 

「……ではお爺さま。この方は」

 

「うむ。英霊でもない、ただのカスよ。滅するがよい」

 

「……はい」

 

 右の掌をツカムに向ける桜。

これは祖父の命令だ。従わねばならない。

 従わねば、どこぞの馬鹿な人のようになってしまう。虫のように死んでしまった、あの人のようになってしまう。

 

・・・そんな彼女の姿を、ツカムは不思議に思った。

 

「なあアンタ」

 

「・・・ぬ?」

 

桜の左手を触りながら目線をこちらにやる、お爺さまと呼ばれた何か。

 

―――何でだ?

 

「お前。何故、そんなナリしてその子に触る?」

 

―――お前、魔物だろう? 彼女気持ち悪がってるじゃないか。

 

「 光をつかむ 」

 

―――絆アビリティ発動及び武装選択。 

 

【幸運のおすそわけ・ガラスの装飾・領主の指南・燃え続ける意思・エナジーボール・レイヴン・全力殴打・見抜く急所・暗殺剣・害虫駆除】

 

【武装:炎刀ジュズマル】

 

桜がはっとしたのも束の間。消えるツカム。切り裂かれる魔物。

 

「、、、き、きさ」

 

「黒の軍勢。いや、魔物は殺す。必ず殺す」

 

彼は一体何をしたのか?

 

 簡単に言うと、クリティカル発生率と攻撃力を超上げて虫に対する攻撃力も上げて斬撃が炎属性になる剣を装備して、大きく踏み込みながら横一文字に斬撃を繰り出した。

 

燃え盛り炭になる枯れ木。

 

「・・・・嘘」

 

「逃がしたか。何処に逃げた・・・?」

 

「ツカム!こんな所にいたよ!!」

 

親指大程の大きさの蟲を持ってくるピリカ。魔物の本体の蟲だ。

 

一体どこからどうやって。

 

「オイラは戦場にマナを運ぶ妖精だよ?こんなの朝飯前さ!」

 

まあ理屈はどうあれ、

 

「ほい。プチっとな」

 

500年以上生きた間桐のご老体は、こうして天寿を全うされた。

 

「お邪魔虫は退治した、と。 どう?ツカム。褒めて褒めて!」

 

「サスガダァ…!ピリカに敵う妖精などいるわけが!」

 

イエーイ!!とハイタッチ。

 

「・・・ああそうそう話の続きだけど、義勇軍っていうのは人々の為に魔物と戦う者の事さ」

 

「いえ、その・・・」

 

話がよく飲み込めない桜。当然だろう。今まで己を苛んできた元凶が完全に消えたのだから。

 

「ししし!驚いてる驚いてる。当然だよ!ツカムは義勇軍の団長で、皆の隊長だもん!」

 

「元だよ、ピリカ。俺死んじゃったし義勇軍は解散したんだから」

 

「元義勇軍隊長の俺に敵うもんか・・・って事?」

 

「試してみるか?俺だって元義勇軍だ・・・って事」

 

冗談を言い合う二人。

 

「さて、じゃあ本題に入ろうか」

 

「・・・え?」

 

「間桐桜っていったっけ。サクラ、君はこれからどうする?」

 

「どうって・・・」

 

「前向きに検討って言ったけど、あれは嘘だ。俺達はマスターである君の指示に従おう。それで、君はどうしたい?」

 

「・・・・」

 

 桜は気付いているだろうか?

ずっと暗い死んだ目をしていた彼女の眼が、光を放ち始めている事に。ツカムは今の彼女だからこそ、この質問をした。

 

―――今回の聖杯戦争はもう開始秒読みの段階だ。祖父が消えたとはいえ、嫌でも火の粉は降りかかるだろう。

 

敬愛する己の先輩にも、もしかしたら。

 

「守りたいです」

 

「誰を?」

 

「先輩を」

 

「何から?」

 

「降りかかる火の粉から」

 

―――これは光をつかむ物語。

 

「よし分かった。じゃあ、」

 

手を差し出す、ユグド大陸を救った元義勇軍・隊長。

 

「今日から君は、義勇軍だ」

 

―――冬木における、義勇軍の物語。

 

 

 




次回予告

託された事が幻想なのか。心の渇きが幻想を生むのか。戦いの果てに理想を見るのが幻想に過ぎないことは、魔道の家の誰もが知っている。だが、あの瞳の光が、唇の震えが幻だとしたら。そんなはずはない。ならば、この世の全ては幻想に過ぎぬ。では、目の前にいるのは誰だ。
次回「ワカメ」
劇的なる者が、牙を剥く。

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