元・牌のお姉さんにして現在は理論派雀士として活躍する瑞原はやりの対談企画「はやりの目線」の第○○回をお届けする。今回のゲストは横浜ロードスターズのエース、三尋木咏プロだ。日本ランキング一位、史上二人目の七冠達成等、名実共に日本を代表する雀士であり、瑞原プロとは十年近い親交があることで知られているが、意外にも麻雀について話した事は殆ど無いという両者とあって、何と初めての前後編でお送りすることになった。果たしてどんな内容なのか、楽しみにしながら読み進めてもらえれば幸いだ。
WEEKLY麻雀TODAY(以下週麻):
本日はよろしくお願いします。先ずは三尋木プロ、鳳凰位の防衛と永世称号獲得、おめでとうございます。(この対談は10月9日に行われました)
三尋木咏プロ(以下三尋木プロ):
ありがとうございます。正直、今回ばかりは勝たないといけないって追い込んでたから、勝てて本当に良かったです(笑)
瑞原はやりプロ(以下瑞原プロ):
テレビとか雑誌とかでも、絶対に勝つ!って言ってたもんね。ビッグマウスっていうか、自分にプレッシャーを掛けていく咏ちゃんを見たことが無かったから、凄くビックリした。
三尋木プロ:
もうこれしかない! っていう強迫観念みたいなものがその時はあったんだけど、勝って終わったらそういう気持ちが全部抜けていったから、多分もうやらない(笑)
週麻:
何事にも飄々としたイメージがあった三尋木プロから勝ちを意識する強い言葉が出てきたというのは、僕らも驚きました。
瑞原プロ:
咏ちゃんのこれまでを知ってる人程驚く事だったと思うな。さっきもうこれしかない! って言ってたけど、そもそもどうしてそんな事を思ったの?
三尋木プロ:
さっき記者さんも言ってたけど、私って飄々としたイメージがあるって言われてて、実際自分もその通りだとは思うんだけどさ、だからって勝ちに執着してないかと言われたらそうでもなくって、けどそれを表に出したことないなってふと思って。
瑞原プロ:
だからやってみた?
三尋木プロ:
何て言うか、負けに真剣じゃなかったんだよね、私は。勝ったら嬉しいけど、負けたら負けちゃったで完結してたんだよ。傾向とか対策とか、牌譜を見て考えたりもするんだけど、試行錯誤した結果元に戻すってのが恒例になってて、結局何も変わらないまま負けてさ。じゃあ気持ちを変えるしかってことで、自分に発破を掛けることにしたってわけ。
瑞原プロ:
自分で自分を追い込む時って、咏ちゃんみたいに外側からって人は中々居ないんだよね。大抵は自分の中で目標を決めて、内側からプレッシャーを掛けていく。外側からのプレッシャーも感じるんだけど、内からのプレッシャーがそれから守ってくれる。失敗した時だって、自分の中での事だから消化しやすい。けど咏ちゃんは外からのプレッシャーをどんどん強めて自分を追い込んでいった。傍から見ている分にはそれ以上は分からなかったんだけど、その辺はどうだったの?
三尋木プロ:
御飯が食べられないとか、お腹が痛くなるとか、そういうのは無かったんだけど……負けたらどうしようってずっと考えてたねえ。勝ちたいじゃなくて、負けたくないって思ったのは麻雀に関しては初めてだった。だから貴重な経験にはなったよ。こうして口に出したら余計にやる気が失せたから、もう二度とやらないって宣言しとく(笑)
週麻:
そうなると、また横浜番の記者が頭抱えそうですねえ……。
三尋木プロ:
別に私からコメント取らなくても他にも売れっ子はいるじゃんよ。ウチの監督は喋るの好きだし、選手にも雅さんとか真美とかさ。
瑞原プロ:
咏ちゃんはチームの顔でありエースだからね。仕方ないよ。
三尋木プロ:
何だろう、凄まじい説得力を感じる。
瑞原プロ:
咏ちゃんはもう少し自分の影響力を見つめた方がいいね。上が居るからって胡坐を掻くのは良くないよ。
三尋木プロ:
そんな事より麻雀の話しようぜ!
瑞原プロ:
露骨に話題逸らしたね……じゃあ、タイトル戦の話はしたから、今気になってる雀士について聞きたいかな。
三尋木プロ:
気になってる雀士か。定番だけど、豪く抽象的だね。
瑞原プロ:
誰でもいいよ。本当に、誰でも。プロに限らずアマチュアでも、そこは咏ちゃんに任せる。
三尋木プロ:
あー……じゃあ、須賀でいいや。
瑞原プロ:
須賀って、京太郎君?
三尋木プロ:
そうそう。リーグ戦の方は戦う相手がここ二年固定されてるから特に言う事ないだろ、交流戦の方もそれは同じだし、となると今年に入ってよく顔を合わしてる人になる。大沼プロも今更枠だから、そうなると須賀しか残らないんだよねえ。
瑞原プロ:
代表で一緒になる子とかは? あと、チームの若手の子とか。
三尋木プロ:
代表の方も若手の方も、この場で発言はしたくないねえ。目を掛けている子はいる、とだけ。
瑞原プロ:
了解。それじゃあ、京太郎君の話をしようか。
三尋木プロ:
何かその言い回し怪しくない?
瑞原プロ:
そんなことないよ? 取り敢えず、何を以て気になるのかを教えてくれる?
三尋木プロ:
今年に入ってやたら見掛けるから。
瑞原プロ:
確か、今年行われたタイトル戦全てで決勝に進出しているのは咏ちゃんと京太郎君だけなんだっけ。
三尋木プロ:
そうなんだよ。名前は知ってたけど、リーグ違うしポジション違うし、タイトル戦だとアイツは実績が無いから私と当たるのは準決くらいからだし。なのにここまでのタイトル戦全部で顔合わせんだから、そりゃ嫌でも目に入るってば。
瑞原プロ:
それは確かに。
三尋木プロ:
で、鬱陶しいことにアイツ粘りが凄いの。ふるい落とせないんだよねえ、ずっとしがみついて来るっていうの? 雀聖位戦でラス前に倍満ぶち当てたんだけど、堪えるどころかオーラスで跳満和了ったからね。しかも私にぶち当てる気満々のやつ。昔ならいざ知らず、今の色々箔の付いた私に真っ向から来るヤツなんてそういないからね。
瑞原プロ:
咏ちゃんに勝つ為には受け流すのが最良だからね。張り合って潰し合いになるのが一番キツイ。
三尋木プロ:
大沼プロなんかその極地だよ。あの人私を完全に無視するんだ。跳満当てても倍満ツモってもしれーっとしてんの。私の事なんて気にも留めてないのが丸分かりでさ。すんげー腹立つの。
瑞原プロ:
そうなの? 私からはそんな風には見えないけど……。
三尋木プロ:
私以外が和了った時は注視すれば分かる程度の反応をするんだよ。目配せしたり、「ほう」とか言ったり。
瑞原プロ:
へえ……それは、来月の名人戦は要チェックだね。
三尋木プロ:
それで挑戦者決定リーグから落っこちないことを祈るよ。
瑞原プロ:
その辺りは大丈夫だよ、私だってプロだからね。
前編はここまでとなります。後編の更新は10月24日です。お楽しみに。
よく分かるプロリーグの話―タイトル編―
現在、日本プロ麻雀連盟が主催するタイトル戦は七つある。
格が高いものから、
最強位戦(12月)在位:大沼秋一郎 トーナメント方式
名人戦(11月)在位:大沼秋一郎 リーグ戦方式
最高位戦(7月)在位:三尋木咏 リーグ戦方式
雀聖位戦(3月)在位:瑞原はやり リーグ戦方式
雀王位戦(9月)在位:大沼秋一郎 トーナメント方式
鳳凰位戦(10月)在位:三尋木咏 トーナメント方式
風王位戦(5月)在位:東 三尋木咏 西 江口セーラ リーグ戦方式
となる。格の高さは賞金額に準ずる。最強位は二億円。
風王位戦のみ東風戦且つ、東西それぞれのリーグで行われている。
一番歴史が古いのは雀王位戦、以下最高位、名人、最強位、雀聖位、鳳凰位、風王位の順。
七冠を達成したのは小鍛治健夜と三尋木咏の二人。但し、五冠時代に大沼プロが二度全冠制覇を達成している。