√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選) 作:高津カズ
『10日目』
○松江荘・部屋(朝)
マックス、窓の外を見ている。
マックス(松江に来て10日目。今日はいい天気だ。
俺の心も、綺麗に晴れて欲しいもんだが)
マックス「とりあえず、もう一度あいつらから話を聞かないとな。
またみんなを集めてもらうか」
マックスはスーマートフォンを取り出し、電話をかける。
渡辺『……なんだ?』
渡辺が嫌そうな声で応答する。
マックス「ちょっと頼みがあるんだ」
渡辺『断る』
マックス「まだ何も言ってないだろ」
渡辺『言わなくてもわかる。お前の頼みなんてどうせろくなモンじゃない』
マックス「良く分かったな。
実はまだお前たちに聞きたいことが残っているんだ」
渡辺『お前まだ諦めてなかったのか?』
マックス「当たり前だ。疑問が残る限り、俺はここに居続けるぞ」
渡辺『居たいなら勝手に居ればいい。
俺たちには関係ないし、もう話す事もない』
マックス(うーん。さすがに頑なだな。仕方ない少し脅してみるか)
マックス「いいのか? そんなこと言って。
確かに俺は記者なんかじゃないが、
この話を雑誌社に売ることは出来るぞ」
渡辺『なに?』
マックス「証拠の手紙まであるから信憑性は高いしな」
渡辺『お前……俺たちを脅迫するのか?』
マックス「もう話すことが無いって言うのなら、別に問題はないはずだろ?」
マックス(記事にされるのが嫌だと言った手前、こう言えば断れないはずだ)
しばらくの沈黙。
渡辺『……わかった』
マックス「すまないな」
渡辺『ただし、本当にこれで最後だ。約束しろ』
マックス「ああ、約束する」
渡辺『……本当にとんでもない野郎だな、お前』
渡辺はため息をつく。
渡辺『……じゃあ、全員に連絡しておく。場所は、昨日と同じでいいな?』
マックス(昨日と同じというと宍道湖か)
マックスは考える。
マックス(もしかしたら、
今日がここにいられる最後になるかも知れないんだよな。
だったら……)
マックス「そういえばお前たち15年前にみんなで、
日帰り旅行に行ったって言ってたよな」
渡辺『あ? なんだよいきなり』
マックス「いいじゃないか、教えてくれ。どこに行ったんだ?」
渡辺『はぁ……たしか出雲大社と……あとは日御碕神社、日御碕灯台……』
マックス「日御碕灯台?」
渡辺『ガイドブックに書いてなかったか? 日本一の灯台だよ』
マックス「へえ凄いな」
渡辺『灯台の高さ自体はもっと高いのもあるんだが……って、
そんなことは観光ガイドでも読んでくれ』
マックス「はいはい」
渡辺『そういえば、栞と由香里はその後も何回か行ってたみたいだな。
それでいつだったか由香里が言ってたよ。
栞はいつも海じゃなくて陸の方ばかり見てて変って』
マックス「へぇ……」
マックス(こいつの口から自然に栞さんの名前が出るとは、少し驚いたな)
渡辺『で、それがどうかしたのか?』
マックス「あ、いや。じゃあ集合場所は日御碕灯台でどうだ?」
渡辺『なに? なんでそんな遠出しなきゃならないんだよ』
マックス「ちょっと聞いてくれって。
正直、俺も諦めかけていてな。
そろそろ東京へ戻ろうかと思っているんだ。
だから最後に、
栞さんとお前たちの思い出の場所に行ってみたいんだよ」
渡辺『……思い出っていうほどの場所じゃないぞ』
マックス「頼む」
マックスが真剣な声で言う。
渡辺「なんだよいきなりマジになりやがって。
……ったく、しょうがねえな」
渡辺は諦めたかのように言う。
渡辺『……本当にこれで最後だからな』
マックス「ありがとう。恩に着る」
渡辺『お前に感謝されても全然嬉しくねえ』
渡辺が吐き捨てるように言う。
マックス「だろうな」
渡辺『じゃあみんなに連絡しておく。
しかたねえからお前の宿まで迎えに行ってやるよ』
マックス「そうか、悪いな。あ、俺の泊まっている宿なんだが……」
渡辺『松江荘だろ。チビから聞いた』
マックス(……そういえばチビは知っていたんだっけな)
渡辺『もう少ししたら行くから。ちゃんと部屋にいろよ』
マックス、通話を終わる。
マックス(これでお膳立てはできたな)
電話を終えると、智子が部屋に入ってくる。
智子「あのー、お電話終わりました?
お布団片付けてしまってもいいですか?」
マックス「あ、ごめんごめん。どうぞ」
智子「では、失礼しまーす」
智子が布団を片付け始める。
マックス「俺、これからちょっと出かけてくるから」
智子「あら、もしかして帰るの止めたんですか?」
マックス「ああ。もう少し頑張ってみるよ」
智子「そうですか。良かった」
マックス「良かった? なんで?」
智子「え? だって滞在が伸びればうちが儲かるじゃないですか」
マックス「ああ、そういうこと。智子ちゃんは相変わらずだな」
智子「お金は裏切りませんからね」
マックス(……いったいこの娘の過去に何があったんだろう)
智子「……なんですか? 私を見つめて」
マックス「あ、いや」
智子「もしかして……私のこと」
マックス「全然違うよ」
智子「全然って、なんですかそれ! 私じゃ不満ですか!」
マックス「え、ちょ、ちょっと勘弁してよ」
智子「私だって無職の方はお断りですよ!
家族が不幸になるのが目に見てますからね!」
マックス「いやだから無職じゃないんだって……」
マックス(なんだこれ……困ったな)
部屋に渡辺がやってくる。
渡辺「……なにやってんだ? 取り込み中なら出直すが」
マックス「全然取り込んでない」
智子は渡辺の声がすると、急に大人しくなる。
智子「え? あ、来客の方でしたか。ではごゆっくり~」
智子は部屋を出ていく。
渡辺「……行くか」
マックス「……そうだな」