√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選)   作:高津カズ

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9章『両面の便箋』・8

○松江荘・部屋

 

     マックスが帰ってくる。

マックス(クラスメイトたちから聞いた15年前の真実。

     15年前の出来事。『文野亜弥』の正体。俺の文通相手『吉岡栞』。

     そして、卒業式の『儀式』。その全てが判明した)

マックス「判明はしたが、結局栞さんには会えなかったな」

     マックスは勢い良く布団に寝転がる。

     続けて11通目の手紙を手に取り、開く。

 

 

『私は人を殺してしまいました。

罪を償わなければなりません。

これでお別れです。さようなら』

 

 

マックス(そうなると、この『殺した』というのは、

     『文野亜弥』のことだったのか?

     そしてそれが償わなければいけない罪だと、

     栞さんは感じていたんだろうか)

マックス「……本当にそうなのかな」

マックス(だいたい、亜弥さんは25年前に病気で亡くなっている。

     すでに亡くなっている人を殺すなんて出来ない。

     仮に偽装自殺のことを言っているとしても、

     ここまで気に病むものなのか?

     それに15年前の事もあそこまで頑なに隠す必要があったとは、

     やはり思えない。

     あの場では一応納得はしておいたが、

     理由も取ってつけたような感じだった。

     もしかして、他にもっと重要なことを隠しているのか?)

マックス「だとしても、漠然と問い詰めてものれんに腕押しだよな……」

     マックスは寝返りをうつ。

  智子「お客さーん。お帰りですか?」

     智子が部屋に入ってくる。

マックス「智子ちゃん。今日は休みで出かけてたんじゃなかったの?」

  智子「はい。さっき帰ってきました。

     それで、部屋で休んでいたんですけどなんか落ち着かなくて」

マックス「働き者だなあ」

  智子「お客さんはいつまでお休みなんですか? まさか無職……」

マックス「いろいろ事情があるんだよ、俺にも」

マックス(……智子ちゃんにもやっぱり隠し事とかってあるのかな。

     気になるしちょっと聞いてみよう)

マックス「ちょっといいかな」

  智子「なんですか?」

マックス「やっぱり智子ちゃんにも人に隠したい過去や秘密ってあるの?」

  智子「当然ですよ。女の子の半分は秘密で出来てるんですから」

マックス「なんかどこかの頭痛薬みたいだな」

     マックスは得意げに言う智子にため息をつく。

  智子「どうかしたんですか? なんか浮かない表情ですけど。

     もしかして人探しが難航しているとか?」

     智子がマックスの浮かない表情を察して言う。

マックス「え? ああ、難航って言うか、

     正直諦めようかと思ってたところなんだ」

  智子「あら、どうしたんですか? せっかくここまで来たのに。

     諦めて後悔しないんですか?」

マックス「まあ、そうなんだけど。でももう手がかりがなくてね。

     八方塞りなんだ」

  智子「うーん」

     智子が何かを考えるように首をひねる。

マックス「あ、いや、智子ちゃんが悩む事じゃないと思うけど」

  智子「そういう時は初心に還るのがいいんじゃないかしら」

マックス「初心?」

  智子「初心というか原点というか」

マックス「それって気持ちの問題ってこと?」

  智子「それもそうですけど。

     例えば、松江に来るきっかけになった物とか、最初に行った所とか。

     そういうのをもう一度見返してみるのもいいかも知れませんよ」

マックス(物とか場所……)

     智子の言葉にマックスは考える。

マックス(『物』は当然、手紙だ。消印の無い手紙。

     そして、『場所』は手紙の住所。俺の文通相手の家。

     まあそれは結局、文野教授の家だったんだけど。

     しかも火事で更地に……)

マックス「あれ?」

     マックスが何かに気づく。

マックス(そういえばあいつら火事のことには一切触れてなかったな。

     火事で亡くなった洋子さんは、全ての始まりだった。

     それなのに一切触れなかったのには疑問が残るな……。

     ……ん? 始まり……?)

  智子「お客さん?」

マックス「え?」

  智子「大丈夫ですか、ボーっとして」

マックス「あ、ああ、大丈夫。わるいわるい」

  智子「何か悩んでいるようですけど、お風呂に入ってきたらどうですか?

     さっぱりしていい考えが浮かぶかもしれませんよ」

マックス「ああ、そうだな。そうさせてもらうよ」

     マックスは立ち上がる。

  智子「あ、すいませんお客さん。

     実はお風呂の調子が良くなくて、お湯が出なくなっちゃったんです」

     部屋を出ようとするマックスを智子が引き止める。

マックス「え? なにそれ、ちょっと勘弁してよ。言い出したのそっちだよ」

  智子「話の流れじゃないですか。

     そういうわけで、すいませんがお風呂は他でお願いしますね。

     あ、これは近くの温泉の場所です。どうぞ」

     智子が、温泉の住所の書かれた手書きのメモ用紙をマックスに渡す。

マックス「あ、ありがとう」

     マックスはそれを受け取り、見る。

  智子「どうかしました?」

マックス「あ、いや。見た目どおり可愛い文字書くなあって思っただけだよ」

  智子「えー? 何言ってるんですかお客さん!」

    『バシッ!』

マックス「いたっ」

     智子がマックスを叩く。

  智子「お客さん、誰にでもそんなこと言ってるんですかー?

     そんな本当のこと言われても、私は全然嬉しくないんですからね」

     智子は少し照れながら、言う。

マックス「その割にはすごい嬉しそうだけど……」

  智子「いいかげんにしてくださいっ。私はそんな軽い女じゃありませんっ」

マックス「はあ」

  智子「とにかくそういうことなんでお願いしますね。

     では、失礼しまーす」

     智子がニコニコしながら部屋を出て行く。

マックス(悩んだ時は風呂……か。

     そういえば昔、手紙にもそんなこと……)

マックス「そうか!」

     マックスは鞄に手を突っ込み、便箋を取り出す。

     8通目と9通目の便箋。

     マックスはそれを読み返す。

マックス(彼女が落ち込み始めたのは9通目の手紙からだったな)

     マックスは8通目と9通目の消印を見る。

マックス「ということは、

     12月26日から1月11日までの約二週間の間に、

     何かがあった可能性が高い。

     ここまで落ち込む、決定的な何かが」

     マックスは不意に8通目の便箋の消印に目をやる。

マックス(26日……ちょっとまてよ。

     文野邸の火事が25日だから、書いたのは火事の直後だな。

     投函したのは25日の夜か26日の朝……)

     マックスは少し考え、しばらくして手紙を置く。

マックス(俺の推測はおそらく間違っていないはずだ。

     だとしたら、あいつらはまだ重要な事を隠している)

マックス「ここまで来たら引き下がれない。

     栞さんに繋がる可能性がある限り、諦めてたまるか」

  小雲『どんな真実も受け入れる覚悟はあるのか?』

マックス「!!」

     マックスの脳裏に小雲の言葉がよぎる。

マックス(あのじじいも思わせぶりなこと言いやがって)

マックス「その時は、その時。

     今は自分の思うようにやるだけだ。

     俺はいつでも全力の、マックスだからな」

 

 

     9章・完


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