√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選) 作:高津カズ
○松江荘・部屋
マックスが帰ってくる。
マックス(クラスメイトたちから聞いた15年前の真実。
15年前の出来事。『文野亜弥』の正体。俺の文通相手『吉岡栞』。
そして、卒業式の『儀式』。その全てが判明した)
マックス「判明はしたが、結局栞さんには会えなかったな」
マックスは勢い良く布団に寝転がる。
続けて11通目の手紙を手に取り、開く。
『私は人を殺してしまいました。
罪を償わなければなりません。
これでお別れです。さようなら』
マックス(そうなると、この『殺した』というのは、
『文野亜弥』のことだったのか?
そしてそれが償わなければいけない罪だと、
栞さんは感じていたんだろうか)
マックス「……本当にそうなのかな」
マックス(だいたい、亜弥さんは25年前に病気で亡くなっている。
すでに亡くなっている人を殺すなんて出来ない。
仮に偽装自殺のことを言っているとしても、
ここまで気に病むものなのか?
それに15年前の事もあそこまで頑なに隠す必要があったとは、
やはり思えない。
あの場では一応納得はしておいたが、
理由も取ってつけたような感じだった。
もしかして、他にもっと重要なことを隠しているのか?)
マックス「だとしても、漠然と問い詰めてものれんに腕押しだよな……」
マックスは寝返りをうつ。
智子「お客さーん。お帰りですか?」
智子が部屋に入ってくる。
マックス「智子ちゃん。今日は休みで出かけてたんじゃなかったの?」
智子「はい。さっき帰ってきました。
それで、部屋で休んでいたんですけどなんか落ち着かなくて」
マックス「働き者だなあ」
智子「お客さんはいつまでお休みなんですか? まさか無職……」
マックス「いろいろ事情があるんだよ、俺にも」
マックス(……智子ちゃんにもやっぱり隠し事とかってあるのかな。
気になるしちょっと聞いてみよう)
マックス「ちょっといいかな」
智子「なんですか?」
マックス「やっぱり智子ちゃんにも人に隠したい過去や秘密ってあるの?」
智子「当然ですよ。女の子の半分は秘密で出来てるんですから」
マックス「なんかどこかの頭痛薬みたいだな」
マックスは得意げに言う智子にため息をつく。
智子「どうかしたんですか? なんか浮かない表情ですけど。
もしかして人探しが難航しているとか?」
智子がマックスの浮かない表情を察して言う。
マックス「え? ああ、難航って言うか、
正直諦めようかと思ってたところなんだ」
智子「あら、どうしたんですか? せっかくここまで来たのに。
諦めて後悔しないんですか?」
マックス「まあ、そうなんだけど。でももう手がかりがなくてね。
八方塞りなんだ」
智子「うーん」
智子が何かを考えるように首をひねる。
マックス「あ、いや、智子ちゃんが悩む事じゃないと思うけど」
智子「そういう時は初心に還るのがいいんじゃないかしら」
マックス「初心?」
智子「初心というか原点というか」
マックス「それって気持ちの問題ってこと?」
智子「それもそうですけど。
例えば、松江に来るきっかけになった物とか、最初に行った所とか。
そういうのをもう一度見返してみるのもいいかも知れませんよ」
マックス(物とか場所……)
智子の言葉にマックスは考える。
マックス(『物』は当然、手紙だ。消印の無い手紙。
そして、『場所』は手紙の住所。俺の文通相手の家。
まあそれは結局、文野教授の家だったんだけど。
しかも火事で更地に……)
マックス「あれ?」
マックスが何かに気づく。
マックス(そういえばあいつら火事のことには一切触れてなかったな。
火事で亡くなった洋子さんは、全ての始まりだった。
それなのに一切触れなかったのには疑問が残るな……。
……ん? 始まり……?)
智子「お客さん?」
マックス「え?」
智子「大丈夫ですか、ボーっとして」
マックス「あ、ああ、大丈夫。わるいわるい」
智子「何か悩んでいるようですけど、お風呂に入ってきたらどうですか?
さっぱりしていい考えが浮かぶかもしれませんよ」
マックス「ああ、そうだな。そうさせてもらうよ」
マックスは立ち上がる。
智子「あ、すいませんお客さん。
実はお風呂の調子が良くなくて、お湯が出なくなっちゃったんです」
部屋を出ようとするマックスを智子が引き止める。
マックス「え? なにそれ、ちょっと勘弁してよ。言い出したのそっちだよ」
智子「話の流れじゃないですか。
そういうわけで、すいませんがお風呂は他でお願いしますね。
あ、これは近くの温泉の場所です。どうぞ」
智子が、温泉の住所の書かれた手書きのメモ用紙をマックスに渡す。
マックス「あ、ありがとう」
マックスはそれを受け取り、見る。
智子「どうかしました?」
マックス「あ、いや。見た目どおり可愛い文字書くなあって思っただけだよ」
智子「えー? 何言ってるんですかお客さん!」
『バシッ!』
マックス「いたっ」
智子がマックスを叩く。
智子「お客さん、誰にでもそんなこと言ってるんですかー?
そんな本当のこと言われても、私は全然嬉しくないんですからね」
智子は少し照れながら、言う。
マックス「その割にはすごい嬉しそうだけど……」
智子「いいかげんにしてくださいっ。私はそんな軽い女じゃありませんっ」
マックス「はあ」
智子「とにかくそういうことなんでお願いしますね。
では、失礼しまーす」
智子がニコニコしながら部屋を出て行く。
マックス(悩んだ時は風呂……か。
そういえば昔、手紙にもそんなこと……)
マックス「そうか!」
マックスは鞄に手を突っ込み、便箋を取り出す。
8通目と9通目の便箋。
マックスはそれを読み返す。
マックス(彼女が落ち込み始めたのは9通目の手紙からだったな)
マックスは8通目と9通目の消印を見る。
マックス「ということは、
12月26日から1月11日までの約二週間の間に、
何かがあった可能性が高い。
ここまで落ち込む、決定的な何かが」
マックスは不意に8通目の便箋の消印に目をやる。
マックス(26日……ちょっとまてよ。
文野邸の火事が25日だから、書いたのは火事の直後だな。
投函したのは25日の夜か26日の朝……)
マックスは少し考え、しばらくして手紙を置く。
マックス(俺の推測はおそらく間違っていないはずだ。
だとしたら、あいつらはまだ重要な事を隠している)
マックス「ここまで来たら引き下がれない。
栞さんに繋がる可能性がある限り、諦めてたまるか」
小雲『どんな真実も受け入れる覚悟はあるのか?』
マックス「!!」
マックスの脳裏に小雲の言葉がよぎる。
マックス(あのじじいも思わせぶりなこと言いやがって)
マックス「その時は、その時。
今は自分の思うようにやるだけだ。
俺はいつでも全力の、マックスだからな」
9章・完