√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選)   作:高津カズ

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9章『両面の便箋』・7

マックス(そういえば由香里さんも大学受験で栞さんと確執があったんだよな)

     マックス、由香里に問う。

マックス「由香里さんは……やっぱり大学受験のことで栞さんと?」

     由香里が暗い表情で口を開く。

 由香里「……そうね。同じ大学に行く約束を反故にされ、

     彼女はその上を目指した。

     母親にも色々言われたわ、『なんであなたは出来ないの』って。

     当の栞も、

     『由香里も絶対上にいける。一緒に頑張ろう』って私を励ました。

     でも、そんなのおためごかしじゃない。自分を正当化してるだけ。

     そう思ったから、私は栞の言葉を聞き入れず当初の志望校を受けた。

     ……でも、その志望校も落ちてしまった」

マックス「それで栞さんを避けたのか?」

 由香里「そのせいで家でも針の筵よ。栞の顔なんて見たくもなかったわ」

     由香里が昔を思い出して、辛そうな表情をする。

マックス(栞さんが亜弥さんを演じたせいで、栞さん自身も変わっていった。

     それに7人は恐怖し、絶望を与えられ、嫌悪を感じた)

マックス「それぞれに栞さんとの摩擦があった。

     それで、関係が悪化して栞さんは孤立し追い込まれていったわけか」

     マックスの言葉に7人は黙り込む。

 由香里「……あなたはどうなの?」

     沈黙を破るように、由香里が口を開く。

マックス「え?」

 由香里「あなたは何も気づかなかったの? 文通していたんでしょう?」

マックス「俺は……」

     由香里の言葉に、マックスは考える。

マックス(確かに、当時の俺は深いところまでは気づいてやれていなかった)

マックス「落ち込んでいた事は知っていた。

     けどここまで深刻だとは気づかなかった」

 由香里「そう。

     信頼していた文通相手に気づいてもらえなかったことは、

     辛かったでしょうね」

     由香里が非難するように言う。

マックス(まずい。このままでは俺に矛先が向いてしまう。話題を変えよう)

マックス「で、その結果が『偽装自殺』か。

     なんで彼女はそんなことをしたと思う?」

     マックスは7人に問う。

  理子「それは……消したかったんでしょ、亜弥さんを」

     理子が反応する。

  田中「気まずいまま卒業したくなかったんですよ。そうですよね?」

  大森「僕もそう思う。亜弥さんを演じたせいで僕たちの関係は悪くなった」

マックス「お前たちはどう思う?」

     マックスは残りのクラスメイトに問う。

  渡辺「栞にも罪悪感があったんじゃないか?」

  野津「そうかもな」

     野津が渡辺の言葉に相槌を打つ。

  美咲「亜弥さんを消せば元通りになると思った」

 由香里「忘れたかった。許して欲しかった」

マックス「そうか……栞さんは仲直りしたかったんだな。

     元通りの、仲の良い8人に」

     そう言って押し黙る7人にマックスは更に問う。

マックス「でもなんで隠してた? 事情はわかったが、偽装は偽装だろ?

     本当に自殺したわけじゃない」

     マックスの問いに、美咲が答える。

  美咲「みんな、あなたが週刊誌か何かの記者だと思ったからよ」

マックス「ゴシップライターってことか?

     でも俺は文通相手だと最初に名乗ったぞ。

     お前らだって俺のことは栞さんに聞いて、

     知っていたみたいじゃないか」

  美咲「よく言うわね。あなた、私に会うために野津くんを騙ったでしょう。

     そんな人のこと、信じられるわけ無いわ」

マックス「それは俺も必死だったんだよ」

  美咲「だからって褒められた行動じゃなかったわね。

     全力なのは結構だけど、

     引き際と言うものを覚えたほうがいいわ、『マックス』くん」

     美咲が皮肉混じりに言う。

マックス「俺のことはいいから理由を教えてくれよ。もう濡れ衣は晴れただろ」

     マックスの言葉に美咲はため息をつきながらも答える。

  美咲「……法で裁かれるような罪を犯したわけじゃない。

     けど、後ろめたい過去である事は事実よ。

     私はアナウンサーなの。そんな過去を記事にされたら困るのよ」

  理子「私だってそうよ。こんな過去を記事にされたら、

     娘の活動に支障がでるじゃない」

  渡辺「俺は教師で、甲子園を目指す野球部の監督なんだ。

     最近は父兄も色々とうるさいんだ。些細な事でも問題にしたがる。

     過去の事で苦情が出たら、俺は監督ではいられなくなるかもしれん。

     また夢を諦めなきゃいけないなんて、耐えられねえ。」

マックス「なるほどな」

     マックスは頷く。

マックス「お前らはどうだ?」

     マックスが大森にふる。

  大森「僕は……優香にばれたくなかった。嫌われたくなかったんだ。

     もし結婚が破談なんてことになったら……」

  田中「私はあの一件で人生が狂ったんです! 思い出したくも無いんです!

     それでも今の職場で新たな目標を見つけ頑張っています!

     それまで奪われたらたまったものじゃないですよ!

     そうですよね!」

  野津「……俺は言うまでもないだろ」

マックス「由香里さんは?」

     マックスが由香里に問う。

 由香里「私は次期館長の座を他の候補者と争っているのよ。

     どんな些細なことだろうと、

     それを理由に付け込まれる可能性がある。

     そう思って黙っていたの」

マックス「それで隠してたのか。

     確かに俺が記者だったら隠したいと思うのは、

     無理もないことかも、な」

マックス(とりあえず過去の真相は解明した。あと、知りたいことは……)

マックス「それで高校卒業後、栞さんは?」

 由香里「京都の大学に進学するために、母親と一緒に松江から出て行ったわ」

マックス「今はどこにいるんだ?」

 由香里「知らないわ。連絡先も居場所も」

マックス(親友だった由香里さんが知らないんじゃ、

     他のヤツが知ってるとも思えないが、一応聞いてみるか)

マックス「他のみんなは? 知ってるヤツはいないのか?」

  美咲「私も知らないし、連絡も取ってない。他のみんなもそうでしょう?」

     美咲の問いに、残りのクラスメイトは揃って無言でうなずく。

マックス(まあ、そうだろうな)

マックス「……結局、栞さんの手がかりは無しか」

     マックスがため息をつきながら呟く。

  田中「いいかげんにしてくれますかね!

     あなたが栞に会いたいだけなら勝手に探してくださいよ!

     なんでそのために、

     私たちの過去まで詮索されなければいけないんですか!」

     田中が痺れを切らしたかのように、突然叫ぶ。

マックス「それは、それが栞さんの手がかりになるかと思ったから……」

  田中「じゃあもういいですよね! 話は終わりましたよね!

     ならもう聞くことはありませんよね!

     もう忘れたいんですよね! もう関わらないで欲しいんですよね!」

マックス「……」

     マックスは田中の勢いに押され、黙り込む。

  田中「……私は帰ります」

     田中はそう言って、その場から去る。

  野津「俺も店があるんで帰らせてもらうぜ」

  大森「ぼくも……」

     野津と大森がそれに続く。

  理子「そろそろ夫が帰ってくる頃だから……」

  美咲「私も暇じゃないしね」

     理子と美咲もその場を去る。

 由香里「……じゃあね」

     由香里も去る。

マックス(……)

     マックスは無言でその光景を見つめている。

  渡辺「まあ、そういうことだ。お前も帰ったほうがいい。

     ここにいても、もう意味は無いぞ」

     渡辺がマックスに言う。

マックス「それはこの場所にってことか? それとも松江にって意味か?」

  渡辺「……さあな」

     渡辺はマックスの肩を軽く叩くと、その場を去る。

マックス「……」


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