√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選)   作:高津カズ

6 / 19
9章『両面の便箋』・6

○文野邸・リビング(15年前・9月某日)

 

     クラスメイト7人がリビングで、料理を食べながら談笑している。

  ガリ「まさか洋子さんの誕生パーティーにまで呼ばれるなんてね」

 由香里「あそこまで頼まれたんじゃね。

     私たちも協力するって言っちゃったし。

     まあ、いいんじゃない? 美味しいものも食べられるし」

  ガリ「由香里は食べ物の話になるとこれだから」

     由香里とガリは笑顔で話している。

  洋子「それにしても亜弥ちゃん、遅いわね」

     洋子が少し苛立ちながら言う。

  ガリ「栞……亜弥さんがどうかしたんですか?」

  洋子「あの子、まだ着替えているみたいなの」

  ガリ「私、ちょっと見てきますよ」

     ガリが席を立ち、リビングのドアに向かおうとする。

     その時、ドアが開き、栞が入ってくる。

  ガリ「あ、栞……栞?」

     栞の姿を見てガリが言葉を失う。

  洋子「素敵よ、亜弥ちゃん」

  ガリ「あ、亜弥さん……? そんな、嘘でしょ……?」

     リビングに入ってきた栞は、写真の亜弥と同じドレスを着て、

     同じ髪型をしている。

 由香里「亜弥さんが生き返ったみたいじゃない……」

  チビ「『姫が森の姫』……そのまんまじゃないか」

 ビッチ「本当に、似てるわ……怖いくらいに」

     各々が感想を口にする。

  ガリ「……」

   栞「どうしたの?」

     言葉を失うガリに、栞が声をかける。

  ガリ「本当に栞なの……?」

   栞「当たり前じゃない。

     あ、でも洋子さんの前ではちゃんと亜弥さんでお願いね」

  ガリ「……ここまでする必要があるの?」

   栞「え? だってこれは洋子さんの……」

  ガリ「栞、気持ち悪いよ……」

   栞「!」

 

 

○宍道湖・夕方(現在)

 

マックス「たしかにそれはひどいな」

  美咲「本当に後悔しているわ。なんであんなこと言ったのか。

     でも、本当に亜弥さんが生き返ったみたいですごく怖かった。

     ホラーの類は苦手だったから……気持ち悪くて」

  理子「でも、面と向かって言われたら栞だってショックだったはずよ」

  美咲「わかっているわよ。だからその償いをしようと思ったわ」

マックス「そういえばカンニングの件はその後だったな。

     もしかしてそれが償いか?」

  美咲「そうよ。彼女を守って、罪滅ぼしをしたかった」

  田中「そんなもののために殴られて、私はとばっちりですよ」

マックス「何を言ってる。実際に濡れ衣だったわけだから自業自得だろ」

     マックスはため息をつく。

マックス(まあいい。そういえばもう一人、彼女を傷つけたヤツがいる。

     彼女を気づかう行動をしたくせに、保身のために逃げたヤツが)

マックス「デブ、お前も栞さんにひどい事をしたよな」

  大森「ぼ、僕はそんなことしてないよ」

マックス「そうかな」

     マックスはカラコロ工房での写真を見せる。

マックス「お前が栞さんとカラコロ工房に行った時の写真だ。

     栞さんを元気づけるために誘ったくせに、

     ビッチに見られたからといって逃げ帰ってきたんだろ?」

  理子「え? そんなの見てないわよ」

マックス「なに? それは本当か?」

  理子「嘘ついてどうするのよ。

     デブと栞が二人でカラコロ工房に行ってたなんて、

     今初めて知ったわ」

マックス「デブ、どういうことだ! お前、嘘をついたのか!?」

  大森「そ、それは……」

マックス「何があったんだ。話してくれ」

  大森「……」

  理子「話しなさいよ。私を使って話を捏造したんだから、

     聞く権利あるわよ」

     黙る大森に、理子が言う。

  大森「あれはカラコロ工房からの帰り道だった……」

     大森が話し出す。

 

 

○カラコロ工房帰り道・夜(15年前)

 

     デブと栞が歩いている。

   栞「あ、雪だ……初雪だね」

  デブ「そ、そうだね」

   栞「今日はありがとう。

     私が元気ないのを知ってて、誘ってくれたんだよね」

  デブ「あ、うん……」

     デブは落ち着かない様子で、返答する。

   栞「どうしたの? さっきからなんかそわそわしてる」

  デブ「え? いや、そんなことないよ」

     デブは周りをちらちらと見る。

   栞「もしかして……私と一緒に居るの、恥ずかしいの?」

  デブ「そ、それは、あの」

   栞「それとも……怖いの?」

  デブ「うっ……!?」

     デブは言葉に詰まる。

   栞「そっか……あなたも……」

  デブ「ご、ご、ごめん! ごめんなさい!」

     デブはそう言うと、走ってその場を去る。

 

 

○宍道湖・夕方(現在)

 

  大森「僕は逃げてしまったんだ。

     あの頃、栞はみんなに避けられていたから。

     だからもし誰かに見られていたらと思うと怖かったんだ。

     僕も同じように避けられるんじゃないか、って」

  理子「それで私を嘘の言い訳に使おうとしたの? 最低ね」

マックス「自分から誘ったくせに、結局怖気づいて逃げたのか」

  大森「……そうだよ。

     それを栞にも見透かされていたみたいだし、耐えられなかった」

     大森はうつむく。

マックス(これで残りはサル、チビ、由香里さんか。

     しかしサルとチビには栞さんを恐れる要素が見当たらないな)

マックス「チビ、お前は栞さんの事が怖かったわけじゃないよな」

  野津「当たり前だ。俺に怖いもんなんてねえ」

マックス(こいつは栞さんが怖かったわけじゃない。

     となるとやはり理由はあれか)

マックス「じゃあ、栞さんとの関係がこじれたのは学園祭の後の件が原因か?」

  野津「……まあな」

マックス(未遂とは言え犯罪は犯罪、当然か。

     しかしそれは亜弥さんとは何の関係も無い気がするが……)

マックス「でもそれは亜弥さんとは何の関係も無いんじゃないか?」

     マックスが野津に問う。

  野津「……」

     野津は答えない。

マックス(答えないか。なら他のヤツに聞いてみよう。

     男女関係は女に聞くのが一番かな)

マックス「ガリはどう思う?」

     マックス、美咲に聞く。

  美咲「野津くん、栞のことが好きだったでしょう?

     だから男の子と楽しそうに文通しているのが、

     嫌だったんじゃないかしら。

     亜弥さんの事がなければ文通なんてすることも無かったんだし、

     栞との事も、そういうのがあって焦っていたんだと思うわ」

     美咲は小さな声で答える。

マックス「なるほどな」

マックス(次はサルだな。サルはあのことじゃないかと思うんだが)

     マックスはサルに問う。

マックス「サルはどうだ?

     やはり暴力事件を告発された事を恨んでいたのか?」

  サル「恨んでないって言ったはずだ」

     サルが怒り気味に言う。

マックス「それは知ってるよ。当時は、って意味だ」

     サル、少し考え話し出す。

  サル「……頭では分かっていたさ、暴力事件を起こしたんだからな。

     けど、すんなり納得できるほど当時は大人じゃなかった」

マックス「それで、野球部引退後荒れてたのか」

  サル「でもそれは気持ちの整理をつけられない自分に苛立ってたんだ」

マックス「じゃあ、栞さんのことは当時も恨んでなかったのか?」

  サル「恨んでいなかったって言ったら、嘘になる。

     けど、それが理由ってわけじゃない」

マックス「じゃあ、何があったんだ?」

  サル「栞が大学に合格した日、偶然会ったんだ。

     それで栞に、

     『自分だけ合格できて嬉しいのか』って言ってしまったんだ」

マックス「そんなこと言ったのか!」

  サル「志望校に落ちて絶望してたんだよ。野球の道が絶たれ、荒れて。

     やっと立ち直って新たな目標に向けて死ぬ気で頑張ったのに。

     なのに、栞は手放しで喜んでいた。それでカッとなって……」

マックス「やっぱり恨んでいたんじゃないか」

  サル「だからカッとなってって言ってるだろ。その後死ぬほど後悔したさ。

     けど素直になれなくて、結局謝ることが出来なかった」

     サルはそう言って下を向く。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。