√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選) 作:高津カズ
○文野邸・リビング(15年前・9月某日)
クラスメイト7人がリビングで、料理を食べながら談笑している。
ガリ「まさか洋子さんの誕生パーティーにまで呼ばれるなんてね」
由香里「あそこまで頼まれたんじゃね。
私たちも協力するって言っちゃったし。
まあ、いいんじゃない? 美味しいものも食べられるし」
ガリ「由香里は食べ物の話になるとこれだから」
由香里とガリは笑顔で話している。
洋子「それにしても亜弥ちゃん、遅いわね」
洋子が少し苛立ちながら言う。
ガリ「栞……亜弥さんがどうかしたんですか?」
洋子「あの子、まだ着替えているみたいなの」
ガリ「私、ちょっと見てきますよ」
ガリが席を立ち、リビングのドアに向かおうとする。
その時、ドアが開き、栞が入ってくる。
ガリ「あ、栞……栞?」
栞の姿を見てガリが言葉を失う。
洋子「素敵よ、亜弥ちゃん」
ガリ「あ、亜弥さん……? そんな、嘘でしょ……?」
リビングに入ってきた栞は、写真の亜弥と同じドレスを着て、
同じ髪型をしている。
由香里「亜弥さんが生き返ったみたいじゃない……」
チビ「『姫が森の姫』……そのまんまじゃないか」
ビッチ「本当に、似てるわ……怖いくらいに」
各々が感想を口にする。
ガリ「……」
栞「どうしたの?」
言葉を失うガリに、栞が声をかける。
ガリ「本当に栞なの……?」
栞「当たり前じゃない。
あ、でも洋子さんの前ではちゃんと亜弥さんでお願いね」
ガリ「……ここまでする必要があるの?」
栞「え? だってこれは洋子さんの……」
ガリ「栞、気持ち悪いよ……」
栞「!」
○宍道湖・夕方(現在)
マックス「たしかにそれはひどいな」
美咲「本当に後悔しているわ。なんであんなこと言ったのか。
でも、本当に亜弥さんが生き返ったみたいですごく怖かった。
ホラーの類は苦手だったから……気持ち悪くて」
理子「でも、面と向かって言われたら栞だってショックだったはずよ」
美咲「わかっているわよ。だからその償いをしようと思ったわ」
マックス「そういえばカンニングの件はその後だったな。
もしかしてそれが償いか?」
美咲「そうよ。彼女を守って、罪滅ぼしをしたかった」
田中「そんなもののために殴られて、私はとばっちりですよ」
マックス「何を言ってる。実際に濡れ衣だったわけだから自業自得だろ」
マックスはため息をつく。
マックス(まあいい。そういえばもう一人、彼女を傷つけたヤツがいる。
彼女を気づかう行動をしたくせに、保身のために逃げたヤツが)
マックス「デブ、お前も栞さんにひどい事をしたよな」
大森「ぼ、僕はそんなことしてないよ」
マックス「そうかな」
マックスはカラコロ工房での写真を見せる。
マックス「お前が栞さんとカラコロ工房に行った時の写真だ。
栞さんを元気づけるために誘ったくせに、
ビッチに見られたからといって逃げ帰ってきたんだろ?」
理子「え? そんなの見てないわよ」
マックス「なに? それは本当か?」
理子「嘘ついてどうするのよ。
デブと栞が二人でカラコロ工房に行ってたなんて、
今初めて知ったわ」
マックス「デブ、どういうことだ! お前、嘘をついたのか!?」
大森「そ、それは……」
マックス「何があったんだ。話してくれ」
大森「……」
理子「話しなさいよ。私を使って話を捏造したんだから、
聞く権利あるわよ」
黙る大森に、理子が言う。
大森「あれはカラコロ工房からの帰り道だった……」
大森が話し出す。
○カラコロ工房帰り道・夜(15年前)
デブと栞が歩いている。
栞「あ、雪だ……初雪だね」
デブ「そ、そうだね」
栞「今日はありがとう。
私が元気ないのを知ってて、誘ってくれたんだよね」
デブ「あ、うん……」
デブは落ち着かない様子で、返答する。
栞「どうしたの? さっきからなんかそわそわしてる」
デブ「え? いや、そんなことないよ」
デブは周りをちらちらと見る。
栞「もしかして……私と一緒に居るの、恥ずかしいの?」
デブ「そ、それは、あの」
栞「それとも……怖いの?」
デブ「うっ……!?」
デブは言葉に詰まる。
栞「そっか……あなたも……」
デブ「ご、ご、ごめん! ごめんなさい!」
デブはそう言うと、走ってその場を去る。
○宍道湖・夕方(現在)
大森「僕は逃げてしまったんだ。
あの頃、栞はみんなに避けられていたから。
だからもし誰かに見られていたらと思うと怖かったんだ。
僕も同じように避けられるんじゃないか、って」
理子「それで私を嘘の言い訳に使おうとしたの? 最低ね」
マックス「自分から誘ったくせに、結局怖気づいて逃げたのか」
大森「……そうだよ。
それを栞にも見透かされていたみたいだし、耐えられなかった」
大森はうつむく。
マックス(これで残りはサル、チビ、由香里さんか。
しかしサルとチビには栞さんを恐れる要素が見当たらないな)
マックス「チビ、お前は栞さんの事が怖かったわけじゃないよな」
野津「当たり前だ。俺に怖いもんなんてねえ」
マックス(こいつは栞さんが怖かったわけじゃない。
となるとやはり理由はあれか)
マックス「じゃあ、栞さんとの関係がこじれたのは学園祭の後の件が原因か?」
野津「……まあな」
マックス(未遂とは言え犯罪は犯罪、当然か。
しかしそれは亜弥さんとは何の関係も無い気がするが……)
マックス「でもそれは亜弥さんとは何の関係も無いんじゃないか?」
マックスが野津に問う。
野津「……」
野津は答えない。
マックス(答えないか。なら他のヤツに聞いてみよう。
男女関係は女に聞くのが一番かな)
マックス「ガリはどう思う?」
マックス、美咲に聞く。
美咲「野津くん、栞のことが好きだったでしょう?
だから男の子と楽しそうに文通しているのが、
嫌だったんじゃないかしら。
亜弥さんの事がなければ文通なんてすることも無かったんだし、
栞との事も、そういうのがあって焦っていたんだと思うわ」
美咲は小さな声で答える。
マックス「なるほどな」
マックス(次はサルだな。サルはあのことじゃないかと思うんだが)
マックスはサルに問う。
マックス「サルはどうだ?
やはり暴力事件を告発された事を恨んでいたのか?」
サル「恨んでないって言ったはずだ」
サルが怒り気味に言う。
マックス「それは知ってるよ。当時は、って意味だ」
サル、少し考え話し出す。
サル「……頭では分かっていたさ、暴力事件を起こしたんだからな。
けど、すんなり納得できるほど当時は大人じゃなかった」
マックス「それで、野球部引退後荒れてたのか」
サル「でもそれは気持ちの整理をつけられない自分に苛立ってたんだ」
マックス「じゃあ、栞さんのことは当時も恨んでなかったのか?」
サル「恨んでいなかったって言ったら、嘘になる。
けど、それが理由ってわけじゃない」
マックス「じゃあ、何があったんだ?」
サル「栞が大学に合格した日、偶然会ったんだ。
それで栞に、
『自分だけ合格できて嬉しいのか』って言ってしまったんだ」
マックス「そんなこと言ったのか!」
サル「志望校に落ちて絶望してたんだよ。野球の道が絶たれ、荒れて。
やっと立ち直って新たな目標に向けて死ぬ気で頑張ったのに。
なのに、栞は手放しで喜んでいた。それでカッとなって……」
マックス「やっぱり恨んでいたんじゃないか」
サル「だからカッとなってって言ってるだろ。その後死ぬほど後悔したさ。
けど素直になれなくて、結局謝ることが出来なかった」
サルはそう言って下を向く。