√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選) 作:高津カズ
○宍道湖湖畔・夕方(現在)
マックスは黙って由香里の話を聞いている。
由香里「これが経緯よ」
マックス「なるほど。そういう事情があったのか」
マックス(発端は記憶障害のある洋子さんのためだったのか。
それにみんなも協力的な態度だったんだな)
ガリ「文通はその少し後くらいから始めていたと思うけど」
マックス「さっき、文通を始めた理由は全員知らないと言っていたが、
本当に知らないのか? 少しの心当たりもないのか?」
みんな無言で首を横に振るが、由香里だけが反応する。
由香里「私は知ってるわ」
マックス「知ってるのか?」
美咲「知っていたの? 由香里」
由香里「ええ。栞が文通を始めるって言ってたときに聞いた事があって」
マックス「なんて言ってたんだ?」
由香里「『亜弥さんに友達を作ってあげたい』って言っていたわ。
『10年前なら文通かな』って。」
マックス(亜弥さんに友達? どういう意味だろう)
マックス「どういう意味だと思う?」
マックスが理子に問う。
理子「さあ、わからないわ」
理子は首を横に振る。
マックス「サル、お前わかるか?」
渡辺「俺がわかるわけ……あ、でも」
マックス「なんだ?」
渡辺「文野教授、俺たちが日帰り旅行に行ったって聞いたとき、
すごい羨ましそうにしてたな。なあ、チビ」
野津「そうだっけな。まあ、言われてみればそうだった気もするが」
渡辺と野津が答える。
マックス「亜弥さんは友達がいなかったのか?」
野津「俺が知るかよ」
マックス「メガネ、お前はわかるか?」
田中「私も知りませんよ。けど亜弥さんは優秀でした。
そういう人間は得てして孤立しやすいですから」
田中は自分のように語りだす。
由香里「始めたきかっけは亜弥さんのためだったみたいだけど、
文通自体は楽しかったみたい。返事を心待ちにしていたわ」
マックス「……それで、その後はどうなったんだ?」
マックスが田中に聞く。
田中「亜弥さんを演じるようになってから、
すごい勉強が出来るようになりました」
マックス「なんで亜弥さんが関係あるんだ?」
田中「亜弥さんのノートです。そのノートのお陰で成績が上がったんです」
マックス「ノートなんてどこから見つけたんだ?」
田中「亜弥さんの部屋で見つけたと言っていました」
マックス「亜弥さんの部屋?」
田中「洋子さんの相手をする合間に、
亜弥さんの部屋で勉強していたそうです。
部屋は生前のまま残されていたみたいで、
ノートもそこにあったそうです」
マックス(亜弥さんの部屋、か)
マックスは考え込む。
マックス(そうか! 亜弥さんの幽霊の正体は栞さんだったのか!)
田中「そこからの栞の成績の上がり方は凄くて……」
美咲「それで田中くんはカンニングしたって言い出したのよね」
マックス「で、ガリに殴られたってわけか」
美咲「頬を叩いただけよ」
美咲がマックスを睨む。
マックス「……にしても、成績が上がっただけで怖がりすぎじゃないか?」
田中「怖いですよ! 大庭高校伝説の天才ですよ!
そんな人がついているんじゃ私に勝ち目はありませんよ」
マックス「それでパニックになったわけか。
お前みたいな秀才にはありがちだな。」
マックス(それでメガネは栞さんを恐れたのか。
そして心なしか距離を置くようになった、というところだな)
マックスが残りの6人に問う。
マックス「メガネの事情はわかった。でも他のヤツはどうなんだ?
メガネ以外で栞さんの成績が上がって、
怖いヤツがいるとは思えないが。
他になにか理由があるのか?」
野津「俺は別に怖くなんかなかったぜ」
マックス(こういうのは女が敏感に感じ取っていたかもな)
マックスは理子の方を見る。
理子「……成績だけじゃない。見た目も変わったの。
以前の栞からは考えられないくらい変わった。別人みたいだった」
マックス「え? なんでだ?」
理子「同じよ。亜弥さんの部屋に行ったのが原因なの」
○京町商店街(15年前)
栞「ビッチ、ごめん。待たせちゃったかな」
ビッチ「あ、栞。ううん、そんなに待ってないわ」
ビッチが栞の方を見る。
ビッチ「なに? その服すごい可愛いじゃない! どうしたの?」
栞「本当? 実はこれ、亜弥さんの服を参考にアレンジしてみたの」
ビッチ「亜弥さんの?」
栞「うん。亜弥さん、すごいセンス良いんだよ。
自分でアレンジしたおしゃれな服がいっぱいあったんだ」
ビッチ「そうなんだ! 亜弥さんってファッションセンスも凄いのね」
ビッチが栞の顔をみて何かに気づく。
ビッチ「あれ……? 栞、もしかして化粧してる?
そういえば髪型もいつもとちょっと違うよね」
栞「あ、うん。変かな?」
ビッチ「全然変じゃないけど……それも亜弥さんの?」
栞「うん。化粧に関するノートがあって。それを真似してみたの」
○宍道湖・夕方(現在)
理子「化粧も髪型もファッションも。今までの栞とは全く変わった。
栞が亜弥さんになっていった」
マックス「それは綺麗になっただけじゃないのか?
確かにお前は雑誌掲載の件で確執があったかもしれないが、
そこは認めてやれよ」
理子「……そんな単純な事じゃないわ」
理子が言う。
マックス(ビッチも栞さんが怖かったのか。他のみんなもそうなのだろうか?
ちょっと突っ込んで聞いてみるか)
マックス「お前たちは今まで栞さんを下に見ていた。
その栞さんが自分たちより上に行くなんて考えもしなかったか?
それが怖かったのか?」
美咲「違うわ」
美咲が反応する。
マックス「そういえばガリは栞さんのことを守っていたんだよな。
けれど、栞さんが強くなれば守る必要がなくなる。
守っているという優越感に浸れなくなる」
美咲「違うわよ!」
美咲が叫ぶ。
マックス(この反応。ガリにも何かあったに違いない。
こういう場合、聞くのは同じ女性が適任だろう)
マックス「ビッチ、ガリにも何かあったのか?」
理子「そういえば栞にひどい事を言ってたわ。
普段は守っているつもりだったくせに」
マックス「ガリ、そうなのか?」
美咲「……そうよ」
マックス「何があったんだ?」
マックスの問いにガリが重い口を開く。
美咲「あれは9月にあった、洋子さんの誕生パーティーの時だったわ」
マックス「洋子さんの誕生パーティー? そんなのにも行ったのか」
美咲「洋子さんが栞に友達を呼ぶように言ったらしいの。
正直迷ったけど、文野教授にも頭を下げてお願いされたから」
美咲が語りだす。