√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選)   作:高津カズ

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9章『両面の便箋』・5

○宍道湖湖畔・夕方(現在)

 

     マックスは黙って由香里の話を聞いている。

 由香里「これが経緯よ」

マックス「なるほど。そういう事情があったのか」

マックス(発端は記憶障害のある洋子さんのためだったのか。

     それにみんなも協力的な態度だったんだな)

  ガリ「文通はその少し後くらいから始めていたと思うけど」

マックス「さっき、文通を始めた理由は全員知らないと言っていたが、

     本当に知らないのか? 少しの心当たりもないのか?」

     みんな無言で首を横に振るが、由香里だけが反応する。

 由香里「私は知ってるわ」 

マックス「知ってるのか?」

  美咲「知っていたの? 由香里」

 由香里「ええ。栞が文通を始めるって言ってたときに聞いた事があって」

マックス「なんて言ってたんだ?」

 由香里「『亜弥さんに友達を作ってあげたい』って言っていたわ。

     『10年前なら文通かな』って。」

マックス(亜弥さんに友達? どういう意味だろう)

マックス「どういう意味だと思う?」

     マックスが理子に問う。

  理子「さあ、わからないわ」

     理子は首を横に振る。

マックス「サル、お前わかるか?」

  渡辺「俺がわかるわけ……あ、でも」

マックス「なんだ?」

  渡辺「文野教授、俺たちが日帰り旅行に行ったって聞いたとき、

     すごい羨ましそうにしてたな。なあ、チビ」

  野津「そうだっけな。まあ、言われてみればそうだった気もするが」

     渡辺と野津が答える。

マックス「亜弥さんは友達がいなかったのか?」

  野津「俺が知るかよ」

マックス「メガネ、お前はわかるか?」

  田中「私も知りませんよ。けど亜弥さんは優秀でした。

     そういう人間は得てして孤立しやすいですから」

     田中は自分のように語りだす。

 由香里「始めたきかっけは亜弥さんのためだったみたいだけど、

     文通自体は楽しかったみたい。返事を心待ちにしていたわ」

マックス「……それで、その後はどうなったんだ?」

     マックスが田中に聞く。

  田中「亜弥さんを演じるようになってから、

     すごい勉強が出来るようになりました」

マックス「なんで亜弥さんが関係あるんだ?」

  田中「亜弥さんのノートです。そのノートのお陰で成績が上がったんです」

マックス「ノートなんてどこから見つけたんだ?」

  田中「亜弥さんの部屋で見つけたと言っていました」

マックス「亜弥さんの部屋?」

  田中「洋子さんの相手をする合間に、

     亜弥さんの部屋で勉強していたそうです。

     部屋は生前のまま残されていたみたいで、

     ノートもそこにあったそうです」

マックス(亜弥さんの部屋、か)

     マックスは考え込む。

マックス(そうか! 亜弥さんの幽霊の正体は栞さんだったのか!)

  田中「そこからの栞の成績の上がり方は凄くて……」

  美咲「それで田中くんはカンニングしたって言い出したのよね」

マックス「で、ガリに殴られたってわけか」

  美咲「頬を叩いただけよ」

     美咲がマックスを睨む。

マックス「……にしても、成績が上がっただけで怖がりすぎじゃないか?」

  田中「怖いですよ! 大庭高校伝説の天才ですよ!

     そんな人がついているんじゃ私に勝ち目はありませんよ」

マックス「それでパニックになったわけか。

     お前みたいな秀才にはありがちだな。」

マックス(それでメガネは栞さんを恐れたのか。

     そして心なしか距離を置くようになった、というところだな)

     マックスが残りの6人に問う。

マックス「メガネの事情はわかった。でも他のヤツはどうなんだ?

     メガネ以外で栞さんの成績が上がって、

     怖いヤツがいるとは思えないが。

     他になにか理由があるのか?」

  野津「俺は別に怖くなんかなかったぜ」

マックス(こういうのは女が敏感に感じ取っていたかもな)

     マックスは理子の方を見る。

  理子「……成績だけじゃない。見た目も変わったの。

     以前の栞からは考えられないくらい変わった。別人みたいだった」

マックス「え? なんでだ?」

  理子「同じよ。亜弥さんの部屋に行ったのが原因なの」

 

 

○京町商店街(15年前)

 

   栞「ビッチ、ごめん。待たせちゃったかな」

 ビッチ「あ、栞。ううん、そんなに待ってないわ」

     ビッチが栞の方を見る。

 ビッチ「なに? その服すごい可愛いじゃない! どうしたの?」

   栞「本当? 実はこれ、亜弥さんの服を参考にアレンジしてみたの」

 ビッチ「亜弥さんの?」

   栞「うん。亜弥さん、すごいセンス良いんだよ。

     自分でアレンジしたおしゃれな服がいっぱいあったんだ」

 ビッチ「そうなんだ! 亜弥さんってファッションセンスも凄いのね」

     ビッチが栞の顔をみて何かに気づく。

 ビッチ「あれ……? 栞、もしかして化粧してる?

そういえば髪型もいつもとちょっと違うよね」

   栞「あ、うん。変かな?」

 ビッチ「全然変じゃないけど……それも亜弥さんの?」

   栞「うん。化粧に関するノートがあって。それを真似してみたの」

 

 

○宍道湖・夕方(現在)

 

  理子「化粧も髪型もファッションも。今までの栞とは全く変わった。

     栞が亜弥さんになっていった」

マックス「それは綺麗になっただけじゃないのか?

     確かにお前は雑誌掲載の件で確執があったかもしれないが、

そこは認めてやれよ」

  理子「……そんな単純な事じゃないわ」

     理子が言う。

マックス(ビッチも栞さんが怖かったのか。他のみんなもそうなのだろうか?

ちょっと突っ込んで聞いてみるか)

マックス「お前たちは今まで栞さんを下に見ていた。

     その栞さんが自分たちより上に行くなんて考えもしなかったか?

     それが怖かったのか?」

  美咲「違うわ」

     美咲が反応する。

マックス「そういえばガリは栞さんのことを守っていたんだよな。

     けれど、栞さんが強くなれば守る必要がなくなる。

     守っているという優越感に浸れなくなる」

  美咲「違うわよ!」

     美咲が叫ぶ。

マックス(この反応。ガリにも何かあったに違いない。

     こういう場合、聞くのは同じ女性が適任だろう)

マックス「ビッチ、ガリにも何かあったのか?」

  理子「そういえば栞にひどい事を言ってたわ。

     普段は守っているつもりだったくせに」

マックス「ガリ、そうなのか?」

  美咲「……そうよ」

マックス「何があったんだ?」

     マックスの問いにガリが重い口を開く。

  美咲「あれは9月にあった、洋子さんの誕生パーティーの時だったわ」

マックス「洋子さんの誕生パーティー? そんなのにも行ったのか」

  美咲「洋子さんが栞に友達を呼ぶように言ったらしいの。

     正直迷ったけど、文野教授にも頭を下げてお願いされたから」

     美咲が語りだす。


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