√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選)   作:高津カズ

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10章『木洩れ日の便箋』・10

○連光寺(数日後・亜弥の命日)

 

     マックスがやってくる。

     手には花と一通の手紙。

マックス「……」

     マックス、無言で進んでいき、一つの墓石の前で立ち止まる。

『文野家之墓』と刻んである墓石。

マックス「こんにちは、『文野亜弥』さん。今日が……命日なんだってね」

     マックスは花と手紙を供え、墓石の前で目を閉じ手を合わせる。

 

     『サーッ……』(小雨の音)

 

     マックスは雨に構わず拝み続け、しばらくして目を開ける。

マックス「さて、本降りになる前に帰るとするか」

     マックスが立ち上がろうとした時目の前が薄暗くなる。

マックス「ん?」

     マックスが上を見ると、頭上に傘が差し出されている。

     振り返ると、

     顔の半分を手紙で隠すようにかざした女性が立っている。

マックス(!?)

   栞「……」

マックス(栞さん!?)

     マックスは立ち上がり横へ飛びのくと、驚愕の表情で栞を見つめる。

     栞は手紙を墓に供えると、手を合わせる。

マックス(栞さん!? でも栞さんは……!)

マックス「ま、まさか、ゆ、幽霊……!?」

   栞「え?」

     栞は拝むのを止め、呆気に取られたようにマックスを見る。

     そして、マックスに傘を差し出し微笑みながら言う。

   栞「『姫が森の姫』かも」

マックス「ひ、姫?」

   栞「……冗談です」

     栞ははにかみながら言う。

マックス「……じゃ、じゃあ本当に栞さんなのか?」

   栞「はい。吉岡栞です」

マックス「生きて……いたのか」

マックス(……俺にとってはたしかに『姫が森の姫』のようなものだ。

     嬉しいのだが、それ以上に驚いている)

   栞「……」

マックス(しかし……いざとなるとなかなか言葉が出てこないもんだな。

     彼女に聞きたいことなんて山のようにあるのに、情けない)

     その後、二人はしばらく無言になる。

   栞「15年前……」

     沈黙を破るように栞が口を開く。

   栞「亜弥さんと偽って文通したこと、謝ります」

マックス「あ、いやそれは別に……事情は、聞いたから」

   栞「悪いと分かっていてもそれでも……あなたとの文通は楽しかった。

     辛いとき苦しいとき、あなたの手紙が支えになりました。

     やっと、お礼がいえます」

マックス「お礼なんて……それはお互い様だよ」

   栞「それに、私にかけがえのない宝物を与えてくれた」

     栞が一枚の写真を差し出す。

     マックスはその写真を受け取る。

     栞が7人のクラスメイトと撮った写真。

     『15年前』の制服姿で写っている。

マックス「え……?」

     マックスが目をこすると、写真の8人が今の姿に戻る。

     8人の顔は変わらず笑顔のまま。

   栞「どうしたの?」

マックス「……違うよ」

   栞「え?」

マックス「これは、最初からきみの元にあったものだ」

マックス(そう。ただ少し、遠くへ行っていただけなんだ)

     マックスが写真を返す。

   栞「……うん。そうかも知れない」

マックス「そうだよ」

     マックスは空を見上げる。

マックス「雨、もう少しで止みそうだな」

   栞「そうね。もう役目は終えたから」

マックス「え?」

   栞「縁雫」

     栞が微笑む。

     マックスもつられて笑う。

     栞の姿が、15年前の制服姿になる。

   栞「はじめまして。

     会いたかったよ、マックスくん」


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