√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選)   作:高津カズ

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10章『木洩れ日の便箋』・9

○文野邸(15年前・火事直前)

 

     文野邸の玄関のチャイムが鳴る。

文野教授「はいはい。あれ、栞さん。どうしました?」

     栞が入ってくる。

   栞「すいません。忘れ物したみたいで」

文野教授「そうですか。

     せっかくですから、お時間あったらお茶でもどうですか?」

   栞「あ、ありがとうございます」

 

 

○文野邸・リビング(15年前・火事直前)

 

     文野と栞が座っている。

文野教授「ありがとう、栞さん。あなたには洋子のことでご迷惑をかけた」

   栞「いえ、そんな」

文野教授「クラスメイトの方との関係も上手くいかなくなってしまったようで」

   栞「……それはもういいんです。今日ですべて元通りですから」

文野教授「そうですか……」

     文野は遠い目をする。

文野教授「私も洋子も栞さんのおかげで夢が見れました。

     しかしながら、そろそろ夢から覚めて、

     現実と向き合って生きていかなければいけないですね」

   栞「え?」

リビングに焦げ臭いにおいが流れてくる。

   栞「ん、あれ? なんだろうこのにおい……」

文野教授「たしかに変なにおいがしますね……ちょっと見てきます」

     文野が立ち上がり部屋の扉をあけると、煙が一気に入り込んでくる。

文野教授「うわっ!」

   栞「文野教授!」

文野教授「これは……!? まずい! 洋子!」

     文野は洋子を探しに煙の中に入っていく。

   栞「教授!」

     栞も後を着いていく。

 

 

○文野邸・廊下(15年前・火事当日)

 

  洋子「亜弥!どこなの亜弥―!」

     洋子が燃え盛る廊下で、叫んでいる。

文野教授「洋子!」

  洋子「あなた!亜弥が!亜弥がいないの!」

文野教授「亜弥ならここにいる!大丈夫だ!」

   栞「私は大丈夫だから!早く!」

文野教授「逃げるぞ洋子!」

     文野が洋子を抱える。

  洋子「亜弥……」

   栞「ママ……」

  洋子「……亜弥じゃない」

   栞「え?」

  洋子「あなた亜弥じゃない!誰よ!?亜弥をどこにやったの!?」

     洋子、栞を突き飛ばし、館の奥へ戻る。

文野教授「洋子!」

   栞「う……」

文野教授「栞さん、大丈夫ですか?」

   栞「わ、私は大丈夫ですから。早く洋子さんを!」

文野教授「あ、ああ」

     教授は洋子を追いかける。栞も付いていく。

  洋子「亜弥!亜弥―!」

     洋子はリビング手前の廊下で叫んでいる。

教授教授「洋子!」

     文野の制止も聞かずリビングへ入る。

     文野も後を追うが、リビングはすでに火の海。

  洋子「あ……」

     洋子、火の海の中、何かを見つける。

  洋子「亜弥!」

     洋子の視線の先には、亜弥の写真。

  洋子「亜弥!無事だったのね!」

     洋子、火の中へ走り出す。

文野教授「そっちはダメだ!洋子!」

     文野も追いかけようとするが、栞に腕をつかまれる。

   栞「ダメっ!」

文野教授「栞さん……!」

   栞「あ……」

     次の瞬間、目の前の炎が勢いよく燃え盛る。

教授教授「うっ……!もう駄目だ」

     文野、栞の手を引き、外へと逃げる。

     外へ出ると、由香里が居る。

 由香里「文野教授!栞!?」

     その直後、他の6人が集まってくる。

  ガリ「何があったの!?」

   栞「洋子さんが……」

  ビッチ「洋子さん?そういえば洋子さんは?」

      ビッチの言葉に、文野が首を振る。

   デブ「そんな……」

   サル「マジかよ……」

   チビ「ウソだろ……」

 

 

○介護施設・裏庭(現在)

 

マックス「それが真相ですか?」

文野教授「ええ」

  渡辺「なんだよ、じゃあ……」

  野津「ああ。栞は洋子さんを殺していなかった……」

  理子「じゃあ、なんであんな嘘をついたのよ……」

文野教授「……彼女は自分が殺したと、言っていたからね」

マックス「え?」

 

 

○マンション・文野教授の部屋(15年前)

 

     文野教授と栞がいる。

文野教授「栞さん、今日はどうしました?」

   栞「……洋子さんのこと、謝りに来ました」

文野教授「どうしてあなたが?……栞さんは関係ありませんよ」

   栞「あの時……あの火事の時、私……」

     栞が大粒の涙をこぼす。

   栞「少しだけ……ほんの少しだけ思ってしまったんです……。

     このまま洋子さんが居なくなれば……楽になれるかも、って……」

文野教授「!!」

   栞「洋子さんが私を亜弥さんじゃないって言って突き飛ばしたとき、

     私の心に、悪い感情が芽生えた……。

     私のことを勝手に亜弥さんだと思ったのに、

     今度は亜弥さんじゃないと言う。

     この先もずっとこうやって、

     この人に振り回されていくんじゃないか。

     せっかく、みんなと仲直りできたのに、

     またこの人のせいで……壊れるんじゃないかって」

文野教授「そ、それは……」

   栞「私が文野教授を止めなかったら……

     洋子さんは助かったかもしれない。

     けど、私は……あなたの腕を掴んでしまった」

文野教授「ち、違います……あの時はああしなければ私たちも……」

     栞が首を横に振る。

   栞「洋子さんは私が殺したんです。……亜弥さんと一緒に」

 

 

○介護施設・裏庭(現在)

 

文野教授「……私の責任なんです。

     私がもう少し早く、栞さんに亜弥をやめてもらっていれば、

     彼女は苦しむことはなかった」

マックス「その気持ちは伝えなかったんですか?」

文野教授「伝えたよ。伝えたに決まっている。

     けど、彼女はまったく聞き入れてくれなかった。

     自分が悪いの一点張りだったんだ」

  大森「そんな……栞は悪くないのに……」

文野教授「しかも……

     その償いとして私のために亜弥を続けるとまで言い出した」

  田中「それは、やはり洋子さんの……?」

大森教授「ああ。私から大切なものを奪った償いだと言っていた。

     大切なものを奪ったのは、私の方だったのに……」

マックス「大切なもの……?」

文野教授「洋子の件で再度クラスメイトの仲が壊れそうになっていた。

     だから、栞さんは自分ひとりで全てを背負った。

     そうやって、キミたち7人の関係だけは守ろうとしたんだ。

     ただ、そんな言い方をしていたとは……本当に悔やまれます」

 由香里「……優しすぎるから、栞は。

     器用ぶってるけど……不器用だから」

     由香里が涙をこぼす。

マックス(本当にそうだな……)

文野教授「だから栞さんを含め、

     あなたがたに責任のある方は一人もいらっしゃいません。

     全て私の責任です。本当に……申し訳ありませんでした」

文野が深々と頭を下げる。

 由香里「そんな……もう、いいんです。

     それにあなたは悪くありません。

     悪いとしたら、それは私たち7人なんです」

  美咲「栞に正面から向き合えなかった、私たちの罪です」

  渡辺「もう、直接会って謝る事は出来ません。

     しかし、俺たちはこの事実を忘れず背負って行きます」

  理子「許されなくても、私たちは忘れてはいけないんです」

  大森「罪を忘れるということは、

     かけがえのない友人をも忘れることになる」

  野津「死ぬまで、後悔しながら生きることになってもいい」

  田中「少しでも許してもらえるよう、一生懸命生きていきます」

     7人が各々の気持ちを、文野教授に伝える。

マックス(……これで、良かったんだよな栞さん)

     マックス、空を見上げる。

マックス(栞さん、あなたに会うことは出来なかったけど、

     親友たちにあなたの本当の気持ちを伝えることは出来たよな)

マックス「あ、そうだ……」

マックス(もう一人……会いたい人がいたんだ)

     マックス、文野に近づく。

マックス「文野教授、最後に一つ聞かせてください」

文野教授「なんでしょう?」

マックス「亜弥さんのお墓の場所、教えていただけますか?」

     文野が反応する。

文野教授「……なぜでしょう?」

マックス「伝えたいことがあるんです、亜弥さんに」

文野教授「亜弥に?」

マックス「はい」

文野教授「そうですか……。

     ふふっ、あなたならそう言ってくれると思っていましたよ」

     文野は嬉しそうに笑う。

文野教授「……しかし、間に合ってよかった」

マックス「え?」

文野教授「あ、いえ。

     私が生きているうちに全てをお話できて良かった、という意味です」

マックス(そういえばさっき、期待していたと言っていたな)

マックス「もしかして、消印が無かったのは俺を松江に来させるための……?」

文野教授「……例えどんな手段を講じても、

     人の縁と言うのは思うようにはいきません。

     ですが、私は信じていましたよ。

     松江の雨が運んでくる縁を、ね」

マックス「……縁雫、か」


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