√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選)   作:高津カズ

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10章『木洩れ日の便箋』・8

○大田市・介護施設

 

     マックスがやってくる。

     入り口前に7人がいる。

  渡辺「おせえ」

マックス「悪かったって」

  田中「面会許可は取ってあります。早く行きましょう」

     田中が促すように言う。

マックス「まだ会ってなかったのか?」

 由香里「あなた抜きで、会いにはいけないわ」

     由香里が言う。

 由香里「で、どうだったかしら。栞が見ていた景色は」

マックス「え? ああ、綺麗だった」

 由香里「……栞がいつも見ていたもの、見えた?」

     由香里が少し微笑んで言う。

マックス「そうだな……」

     マックスは少し考える。

マックス「俺には見えてなかったかもな」

 由香里「……そう」

 

 

○介護施設・裏庭

 

     8人がやってくる。

     車椅子に座った文野が、海を見ている。

マックス「初めまして、文野さん」

     マックスの声に、文野が振り向く。

文野教授「初めまして、マックスくん。

     そして栞さんのお友達の皆さん、15年ぶりだね」

 由香里「覚えていてくれたんですか?」

文野教授「当然です、忘れられるわけありませんよ。

     あなたたちにはご迷惑をかけた」

     文野は頭を下げる。

  大森「そ、そんな……」

文野教授「謝って済むことではないのは分かっています。

     ただ、あなたたちには一度も謝罪の言葉を言えなかった。

     申し訳ありません」

  理子「文野教授……」

文野教授「償いというわけではありませんが15年前から今まで、

     私が知っていることは全てお話します」

  美咲「ありがとうございます」

     美咲はそう言うと、マックスに振る。

  美咲「じゃあ、早く聞きなさいよ」

マックス「え、俺か? いいのか、俺が聞いても」

  美咲「一応、ここまで来れたのもあなたのおかげだから」

マックス「ガリらしくなくて気持ちわ……

     おっとこんなこと言ったら噛まれてしまうな」

  美咲「わかってきたじゃない。ほら、早くなさい」

マックス(お言葉に甘えて、俺が質問させてもらおう。

     まず、第一に聞きたいのは……)

マックス「単刀直入に聞きます。栞さんの居場所、知りませんか?」

文野教授「……」

     マックスの問いに、文野は黙る。

マックス(この反応、もしかして……)

マックス「……知らないんですか」

文野教授「いや、そうじゃないんだ」

     文野はうつむく。

マックス「どういう……ことですか?」

文野教授「彼女はもう……」

マックス(もう? もうって……まさか)

マックス「もう、この世には居ない、ってことですか……?」

文野教授「……」

     文野教授は答えない。

マックス「そんな……」

 由香里「……」

     由香里が口を押さえる。

     クラスメイトたちも各々悲壮の表情を浮かべる。

マックス(もう亡くなっていることに少しの覚悟も無かったわけじゃないが、

     やはり実際直面すると……重い)

マックス「……そうですか」

マックス(……でも、ここで喚き散らしても事実は変わらない。

     他の話を聞こう。一番重要なことを)

     マックスは、消印の無い手紙を出す。

マックス「俺がここまでやってきたのは、元々この手紙が始まりなんです。

     消印の無い、亜弥さん……栞さんからの11通目の手紙。

     文野教授、何か知りませんか?」

文野教授「知っているよ」

マックス「本当ですか!?」

文野教授「ああ。……それは私が出したものだからね」

マックス「え!?」

     マックスは驚愕する。

マックス「あなたが、俺に!?」

文野教授「彼女のことを風の便りで知ったとき、

     彼女の願いを叶えてあげようと思ったんだ」

マックス「栞さんの願い?」

文野教授「彼女には大学卒業後しばらく仕事の手伝いをしてもらっていてね。

     彼女はキミにきちんと別れを告げられなかった事を後悔していると、

     時折、口にしていた。

     実は……私ももう長くなくてね。

     その前に、彼女の願いだけは叶えたかったんだ」

マックス「……消印がなかったのはなぜです?」

文野教授「その手紙を別の封筒に入れてあなたの実家の住所に送りました。

     ご両親にその手紙を息子さんに渡してもらうよう、

     依頼した手紙を入れて」

マックス「なんでそんな回りくどいことを?」

文野教授「そうですね……期待していたのかもしれませんね」

マックス「期待?」

文野教授「……」

     マックスの問いに、文野は答えない。

マックス「……内容については? なぜこんな内容を?」

     マックスは手紙を見ながら言う。

文野教授「私はその手紙の内容を知らないんだ」

マックス「え?」

文野教授「キミはその手紙を11通目と言ったが、違うんだ」

マックス「どういう意味です?」

文野教授「それは栞さんが15年前、キミに送れなかった手紙だ」

マックス「俺に送れなかった手紙!?」

文野教授「ああ。彼女は、『別れの手紙』と言っていた。

     それを、私が預かっていてね」

マックス「預かっていた?」

文野教授「あの火事の後、

     彼女が文通をやめようとしていたから私が止めたんだ。

     その手紙はその時、彼女から私が半ば取り上げるように預かった。

     しかし捨てることも出来なくて、ずっと持っていた」

マックス(火事の後……ということはやはり)

マックス「『人を殺した』というのは、やはり洋子さんの……」

     マックスの言葉に、文野が反応する。

文野教授「『人を殺した』!? どういうことです!?」

マックス「あ、いや、この手紙に……」

文野教授「見せてください」

     文野は奪い取るように手紙を手に取る。

文野教授「……」

     文野は悲観と驚きの表情を浮かべ、手紙を読んでいる。

     マックスは文野へ問う。

マックス(これも一応、聞いておかないとな)

マックス「文野教授と栞さんは、その……そういう関係だったんですか?」

     マックスの言葉に、文野は頭を抱えながら首を横に振る。

文野教授「……違うよ。君たちが何を勘違いしたかは知らないが、

     私と彼女は決してそんな関係ではない」

マックス「じゃあなぜ、栞さんは洋子さんを……」

文野教授「違います!」

     マックスの言葉を最後まで聞かず、文野は叫ぶように否定する。

マックス「!!」

文野教授「……申し訳ない。

     しかし、栞さんは洋子の死には関係ありません」

マックス「クラスメイトたちにも洋子さんは自分が殺したと、

     言っていたようですが……」

     マックスの言葉に文野は落胆する。

文野教授「ああ……皆さんにもそんなことを……。

     違います……違うんです」

マックス「……違うと言うのなら、火事の真相を教えてください。

     15年前のあの日……本当は何があったのか」

文野教授「それはかまいません。

     しかし疑惑の当事者である私が話したとして、

     信じてもらえるのかな」

マックス「俺はあなたの言葉を信じます」

文野教授「……ありがとう」


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