√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選)   作:高津カズ

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10章『木洩れ日の便箋』・6

○日御碕灯台(現在)

 

 由香里「結局答えは出なかった。

     でも、みんな警察になんて行けなかった。

     自分の手で、友達を犯罪者にしてしまうかも知れない。

     そんなこと、怖くて出来るわけがない」

マックス「だから結果的に、隠すことになったのか」

 由香里「……ええ。

     でも、本人に聞く勇気も無くて……。

     栞とも自然と距離を取り始めた」

マックス「それが火事の真相か……」

 由香里「……そうよ」

マックス(それで栞さんは文野教授のために亜弥さんを続けたのか。

     ただそれがどう『偽装自殺』に繋がるのか)

マックス「亜弥さんを続けた理由が文野教授だとして、

     『偽装自殺』をした理由は?」

     マックスの言葉に少し考え、由香里が答える。

 由香里「……私たちに対する当て付けじゃないかしら」

マックス「当て付け?」

 由香里「私たちが栞を追い込んだせいで、

     栞は文野教授を拠り所にするしかなかった。

     その結果、洋子さんを手にかけることになってしまった。

     『文野亜弥』も私たちが追い込んで自殺したって、

     言いたかったんだと思う。

     でなければあんな手の込んだことしないわよ」

マックス「洋子さんの事を自分から言ったのも、それが理由だと思うか?」

 由香里「……私たちを後悔させたかったんでしょうね」

マックス「パーティーは成功したんじゃないのか?」

 由香里「上っ面だけだったってことでしょう?

     心の中では憎んでいた。私を道化として嘲笑っていた」

マックス「手紙の内容はどう説明する?」

 由香里「……良い子ぶりたかっただけよ」

マックス(……本当にそうか?)

     マックスは考える。

マックス(本当に当て付け? 栞さんはずっとみんなを恨んでいたのか?

     それが『偽装自殺』の理由なのか?)

マックス「……違うな」

 由香里「え?」

マックス「そんなんじゃない。

     だって栞さんはお前たちのことを、

     恨んでなんかいなかったと思うから」

 由香里「そんなわけないでしょう?

     栞をそんな事をするまでに追い込んだのは私たちなのよ!

     恨まれていたに決まっているじゃない!」

マックス「少なくとも栞さんは当て付けや復讐なんかで、

     そんなことをする人じゃない」

 由香里「あなたに何が……!」

マックス「俺にはわからなくても、あなたならわかるだろう!

     栞さんはそんな人間じゃないって!」

 由香里「!!」

マックス「由香里さんだけじゃない、お前達もだ。

     お前たちも本当はわかっているんだろう?

     お前達は後ろめたいから黙ってたんじゃない。

     自分たちが過去を隠すことで栞さんが幸せになれるなら、

     それでいいって。

     その先それで苦しむことになっても栞さんのために……

     全てを背負うって」

     マックスは手紙を取り出す。

マックス「……これは俺に届いた10通目の手紙だ」

     マックスは手紙を読む。

 

 

『こんにちは、お手紙ありがとう。お元気にしていますか。

私は最近辛いことが多くあり、ずっとふさぎ込んでいました。

誰からも遠ざけられ忘れられ、無かったことになる。

自分で選んだ道だったけど、このまま生きるのが辛いと思う事もありました。

でも先日、手紙をもらいました。差出人不明の手紙。

『私はあなたのしたことを忘れません。

 でもあなたは私のことを忘れてください』

と、震えた字で書いてありました。

それを見て思ったんです。みんなは私以上に辛かったんだって。

そして、嬉しかった。

こんな手紙を嬉しいっていうのも変ですよね。でも嬉しかった。

だって私のためを思って言ってくれたんだから。

相変わらず素直じゃないですけどね。

もう、今の気持ちを言葉にしてぶつけ合う事は出来ないけど、

最後まで今の私と繋がってくれた人がいた。

それだけで、私は強く生きていけます。

失ったもの、壊れたものは元には戻らない。でも新しく作ることは出来る。

私、作ります。新しい私を。

でもマックスくんはずっとマックスくんのままでいて欲しいです。

言いたい事は素直に言えるマックスくんのままで。

私はこれから新しい私で生きていきます。

そしていつか、昔と変わらない笑顔で笑える日がくること、願っています。

 

                              文野亜弥』

 

 

     マックス、手紙を読み終わる。

マックス「栞さん宛の差出人不明の手紙。

     誰からかは……言わなくても分かるよな」

 由香里「……栞!」

     由香里がぽろぽろと大粒の涙を流している。

  美咲「由香里? 由香里が……そんな手紙を?」

マックス「それと、栞さんは誰からの手紙か気づいていたようだな。

     『相変わらず素直じゃない』、か」

 由香里「うっ……ううっ……!」

マックス「……羨ましいな、親友っていうのは。

     たったこれだけの言葉で気持ちが通じるんだから」

     マックスの言葉に美咲が憂いの表情を浮かべる。

  美咲「……そうね。由香里は紛れもない親友ね。

     私たちはこんな手紙、渡せなかった」

  渡辺「……そうだな」

マックス「栞さんは由香里さんの手紙をもらって、

     『偽装自殺』をすることを決心した。

     けどそれは、自分が許されたいからじゃない。

     『文野亜弥』に苦しんだお前たちのためだ。

     お前たちに、全てを忘れて新しい未来に進んで欲しかったんだ」

  大森「僕たちのため……」

マックス「栞さんは忘れられた存在になるのが怖かった。

     でも、ただ一人親友だけは忘れないと言ってくれた。

     自分を忘れて新しい道を歩んでくれと言ってくれた。

     そしてそれは栞さんも同じだった。

     お互いがお互いを想うあまり、食い違ってしまったんだな」

 由香里「そうよ……本当はわかって、いたの。栞はずっと栞のまま。

     亜弥さんになんか、なって、いないって」

     由香里が言葉にならない言葉でつぶやく。

マックス「そうだな。

     栞さんは決して栞さんを忘れてなんていなかったはずだよ」

マックス(9通目の手紙の意味。多分そういうことなんだろう)

 由香里「けど、素直に、なれなかった……子供だったの……私は。

     栞が……栞が優しすぎるからいけないのよ……!」

  野津「……そうだな。栞は、優しすぎた」

  理子「そうね……。いつも他人のことばかり優先して……自分は二の次」

  田中「私たちは栞の優しさに……甘えすぎていたんですね」

     7人は各々に想いを口にする。

 由香里「……会いたいよ……栞に……会いたい……!」

     由香里が涙声で言う。

  理子「私も……会いたい。会って全部謝りたい」

  美咲「私も謝りたい。許してもらえなくても、ううん、許さないで欲しい。

     絶対に許さないで、私たちを責めてほしい」

  渡辺「そうだな。栞の気が済むまで、俺たちを責めればいい」

  野津「俺はそういう趣味はないけど……でも許されなくていいのは同感だ」

  大森「そうだよ。ただ僕たちが会いたいんだ。会いたいだけなんだ」

  田中「会ってくれないなら、会ってくれるまでいつまでも待ちます!

     そうですよね!」

     7人が口をそろえて叫ぶ。

マックス「そうだな。みんなで栞さんに会いに行こう」


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