√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選) 作:高津カズ
○日御碕灯台(現在)
由香里「結局答えは出なかった。
でも、みんな警察になんて行けなかった。
自分の手で、友達を犯罪者にしてしまうかも知れない。
そんなこと、怖くて出来るわけがない」
マックス「だから結果的に、隠すことになったのか」
由香里「……ええ。
でも、本人に聞く勇気も無くて……。
栞とも自然と距離を取り始めた」
マックス「それが火事の真相か……」
由香里「……そうよ」
マックス(それで栞さんは文野教授のために亜弥さんを続けたのか。
ただそれがどう『偽装自殺』に繋がるのか)
マックス「亜弥さんを続けた理由が文野教授だとして、
『偽装自殺』をした理由は?」
マックスの言葉に少し考え、由香里が答える。
由香里「……私たちに対する当て付けじゃないかしら」
マックス「当て付け?」
由香里「私たちが栞を追い込んだせいで、
栞は文野教授を拠り所にするしかなかった。
その結果、洋子さんを手にかけることになってしまった。
『文野亜弥』も私たちが追い込んで自殺したって、
言いたかったんだと思う。
でなければあんな手の込んだことしないわよ」
マックス「洋子さんの事を自分から言ったのも、それが理由だと思うか?」
由香里「……私たちを後悔させたかったんでしょうね」
マックス「パーティーは成功したんじゃないのか?」
由香里「上っ面だけだったってことでしょう?
心の中では憎んでいた。私を道化として嘲笑っていた」
マックス「手紙の内容はどう説明する?」
由香里「……良い子ぶりたかっただけよ」
マックス(……本当にそうか?)
マックスは考える。
マックス(本当に当て付け? 栞さんはずっとみんなを恨んでいたのか?
それが『偽装自殺』の理由なのか?)
マックス「……違うな」
由香里「え?」
マックス「そんなんじゃない。
だって栞さんはお前たちのことを、
恨んでなんかいなかったと思うから」
由香里「そんなわけないでしょう?
栞をそんな事をするまでに追い込んだのは私たちなのよ!
恨まれていたに決まっているじゃない!」
マックス「少なくとも栞さんは当て付けや復讐なんかで、
そんなことをする人じゃない」
由香里「あなたに何が……!」
マックス「俺にはわからなくても、あなたならわかるだろう!
栞さんはそんな人間じゃないって!」
由香里「!!」
マックス「由香里さんだけじゃない、お前達もだ。
お前たちも本当はわかっているんだろう?
お前達は後ろめたいから黙ってたんじゃない。
自分たちが過去を隠すことで栞さんが幸せになれるなら、
それでいいって。
その先それで苦しむことになっても栞さんのために……
全てを背負うって」
マックスは手紙を取り出す。
マックス「……これは俺に届いた10通目の手紙だ」
マックスは手紙を読む。
『こんにちは、お手紙ありがとう。お元気にしていますか。
私は最近辛いことが多くあり、ずっとふさぎ込んでいました。
誰からも遠ざけられ忘れられ、無かったことになる。
自分で選んだ道だったけど、このまま生きるのが辛いと思う事もありました。
でも先日、手紙をもらいました。差出人不明の手紙。
『私はあなたのしたことを忘れません。
でもあなたは私のことを忘れてください』
と、震えた字で書いてありました。
それを見て思ったんです。みんなは私以上に辛かったんだって。
そして、嬉しかった。
こんな手紙を嬉しいっていうのも変ですよね。でも嬉しかった。
だって私のためを思って言ってくれたんだから。
相変わらず素直じゃないですけどね。
もう、今の気持ちを言葉にしてぶつけ合う事は出来ないけど、
最後まで今の私と繋がってくれた人がいた。
それだけで、私は強く生きていけます。
失ったもの、壊れたものは元には戻らない。でも新しく作ることは出来る。
私、作ります。新しい私を。
でもマックスくんはずっとマックスくんのままでいて欲しいです。
言いたい事は素直に言えるマックスくんのままで。
私はこれから新しい私で生きていきます。
そしていつか、昔と変わらない笑顔で笑える日がくること、願っています。
文野亜弥』
マックス、手紙を読み終わる。
マックス「栞さん宛の差出人不明の手紙。
誰からかは……言わなくても分かるよな」
由香里「……栞!」
由香里がぽろぽろと大粒の涙を流している。
美咲「由香里? 由香里が……そんな手紙を?」
マックス「それと、栞さんは誰からの手紙か気づいていたようだな。
『相変わらず素直じゃない』、か」
由香里「うっ……ううっ……!」
マックス「……羨ましいな、親友っていうのは。
たったこれだけの言葉で気持ちが通じるんだから」
マックスの言葉に美咲が憂いの表情を浮かべる。
美咲「……そうね。由香里は紛れもない親友ね。
私たちはこんな手紙、渡せなかった」
渡辺「……そうだな」
マックス「栞さんは由香里さんの手紙をもらって、
『偽装自殺』をすることを決心した。
けどそれは、自分が許されたいからじゃない。
『文野亜弥』に苦しんだお前たちのためだ。
お前たちに、全てを忘れて新しい未来に進んで欲しかったんだ」
大森「僕たちのため……」
マックス「栞さんは忘れられた存在になるのが怖かった。
でも、ただ一人親友だけは忘れないと言ってくれた。
自分を忘れて新しい道を歩んでくれと言ってくれた。
そしてそれは栞さんも同じだった。
お互いがお互いを想うあまり、食い違ってしまったんだな」
由香里「そうよ……本当はわかって、いたの。栞はずっと栞のまま。
亜弥さんになんか、なって、いないって」
由香里が言葉にならない言葉でつぶやく。
マックス「そうだな。
栞さんは決して栞さんを忘れてなんていなかったはずだよ」
マックス(9通目の手紙の意味。多分そういうことなんだろう)
由香里「けど、素直に、なれなかった……子供だったの……私は。
栞が……栞が優しすぎるからいけないのよ……!」
野津「……そうだな。栞は、優しすぎた」
理子「そうね……。いつも他人のことばかり優先して……自分は二の次」
田中「私たちは栞の優しさに……甘えすぎていたんですね」
7人は各々に想いを口にする。
由香里「……会いたいよ……栞に……会いたい……!」
由香里が涙声で言う。
理子「私も……会いたい。会って全部謝りたい」
美咲「私も謝りたい。許してもらえなくても、ううん、許さないで欲しい。
絶対に許さないで、私たちを責めてほしい」
渡辺「そうだな。栞の気が済むまで、俺たちを責めればいい」
野津「俺はそういう趣味はないけど……でも許されなくていいのは同感だ」
大森「そうだよ。ただ僕たちが会いたいんだ。会いたいだけなんだ」
田中「会ってくれないなら、会ってくれるまでいつまでも待ちます!
そうですよね!」
7人が口をそろえて叫ぶ。
マックス「そうだな。みんなで栞さんに会いに行こう」