√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選)   作:高津カズ

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10章『木洩れ日の便箋』・5

○ウォーターワークス(15年前)

 

     栞と、7人が座っている。他に客はいない。

     7人は皆、落胆の表情でうつむいている。

  サル「洋子さんって、亜弥さんを探しに火の中に戻ったんだってな……」

  チビ「そうみたいだな……」

  デブ「や、やっぱり、記憶障害のせいなのかな」

 メガネ「……栞のせいですかね。栞が亜弥さんを演じたから」

  ガリ「やめなさいよ、メガネ。私たちだって協力したわ」

 ビッチ「そ、そうよ。理由はそうだとしても誰の責任でもないわ。

     これは不幸な事故だったのよ……」

   栞「……」     

     栞は端の席で黙って座っている。

     由香里が栞に話しかける。

 由香里「栞……ごめんね」

   栞「なんで由香里が謝るの? 由香里は悪くないよ」

 由香里「私が発案者だもの。私がパーティしようなんて言ったから」

   栞「そんな……。関係ないよ。由香里には感謝してるよ」

 由香里「栞……」

  ガリ「栞、あなたは洋子さんの一番近くに居たからすごく辛いと思う。

     けど、一人で抱え込まないでよね」

     そう栞に話すガリの表情は暗い。

   栞「……」

     栞はその表情を見て、目を伏せる。

 由香里「栞……」

     由香里とガリの励ましの言葉にも、栞はうつむいて黙っている。

 メガネ「で、でも、栞が一番の原因じゃないですかね」

  サル「お前なあ……」

     メガネの言葉にサルが怒りをあらわにする。

 メガネ「だってそうじゃないですか! 格好まで亜弥さんに似せて!

     中身だってもう亜弥さんでしたよ! 亜弥さんになっていました!

     それで障害がひどくなったんじゃないですか!

     やはりやめるべきだったんです! そうです、そうですよね」

 ビッチ「もしかしてあんた、栞に成績を抜かれたことまだ根に持ってるの?」

 メガネ「それを言ったらビッチもですよね!

     ビッチも栞に負けたじゃないですか!

     雑誌に掲載されたのはビッチじゃなくて栞でしたからね!」

 ビッチ「あ、あれは負けたとかそういうのじゃないわよ!」

  ガリ「やめなさいよ二人とも!」

     ガリが言い合う二人に割って入る。

 ビッチ「何よ、偉そうに! あなたに止める資格があるの!?

     栞にひどいこと言ってたくせに!」

  ガリ「それは……」

 ビッチ「あれがあなたの本心なんでしょ!」

  ガリ「違う!」

 ビッチ「庇ってる振りして、周りに良い顔したかっただけじゃないの!?」

  ガリ「違うっていってるでしょう!?」

  サル「おい、やめろって! チビ! お前も止めろ!」

  チビ「あ、ああ!」

  ガリ「サル、あなたは栞を恨んでたくせにこういう時だけ……!」

  サル「そ、それは今関係ないだろう!」

  ガリ「チビだって……」

  チビ「……!」

 由香里「もうやめて!!」

     由香里が大声で叫ぶ。

 由香里「やめてよ……。

     なんで……なんで私たちが言い争わなければいけないのよ……」

     由香里は泣いている。

  ガリ「……よく言うわ」

 由香里「……え?」

  ガリ「あなただって栞に約束破られて恨んでたじゃない」

 由香里「う、恨んでなんか……」

  ガリ「どうだか。あなたのお母さん、教育ママみたいだから、

     事あるごとに栞を引き合いに出されて、

     うんざりしてたんじゃないの?」

 由香里「……!」

     由香里は黙り込む。

  ガリ「図星ね」

   栞「……」

     栞はクラスメイトが言い争っている間、黙って下を向いていた。

     しかし、次の瞬間口を開く。

   栞「……ごめんなさい、みんな」

 由香里「ち、違うの栞」

   栞「正直に言います」

 由香里「え?」

   栞「私が洋子さんを殺しました」

     栞の告白に一同は言葉を失う。

   栞「私が、殺したの」

 

 

○日御碕灯台(現在)

 

マックス「栞さんが殺した!? 本当にそう言ったのか!?」

 由香里「そうよ。栞は確かにそう言ったわ」

     マックスは頭を抑える。

マックス(どういうことだ? 火事は事故なんじゃないのか?)

 由香里「さすがに驚いて声が出なかった。

     でも、信じられなかった。だってあれは事故。

     それに栞が洋子さんを殺す理由が見当たらない」

マックス「……理由については聞いたのか?」

 由香里「……一応ね」

 

 

○ウォーターワークス(15年前)

 

 由香里「冗談、よね?」

     由香里が栞に聞き返す。

     栞は首を横に振る。

  ガリ「あれは事故でしょ……?」

 ビッチ「そ、そうよ。だいたい栞には洋子さんをその……

     そうする理由が無いわ……」

     ビッチの問いに、栞は静かに答える。

   栞「……邪魔だったから、洋子さんが。

     だからみんなが言い争う必要なんて無い。全部私の責任」

     栞はそう言うと、立ち上がる。

 由香里「栞……」

   栞「そして、私は文野直樹さんのために……

     まだ『文野亜弥』で居ることにします。

     ……さようなら」

 

○日御碕灯台(現在)

 由香里「でも結局、それだけ言い残して出て行ってしまった」

マックス「それを聞いてお前たちはどう思ったんだ?」

     マックスは美咲に話を振る。

  美咲「……簡単に信じられたわけないでしょう」

マックス「でも、その後卒業まで関係が悪化したままだった。

     ということは、お前たちは栞さんの話を信じたんだろう?」

  理子「たしかに信じられなかったけど……」

マックス「なんだ? 何かあったのか?」

  理子「……栞が出て行った後、みんなで話し合ったの」

 

 

○ウォーターワークス(15年前)

 

     栞以外の7人が無言で座っている。

  サル「……なあ」

     サルが口を開く。

  サル「栞の言ってたこと、本当だと思うか?」

  ガリ「思うわけ……無いでしょ」

  デブ「そ、そうだよ。だって、事故じゃないかあれは」

 ビッチ「事故じゃなくても栞には理由が無いでしょ……」

 メガネ「そ、そうですかね。私たちがわからないだけかもしれませんよ」

  チビ「……」

     チビが由香里を見ている。

  チビ「……なあ、由香里」

 由香里「……なに?」

  チビ「お前火事の時、文野邸に俺たちより先に着いていたよな。

     何か知らないか?」

 由香里「私は何も……」

     由香里の頭に、文野と栞が一緒に逃げてきた光景が浮かぶ。

 由香里「あ……」

  チビ「何か……知ってるんだな?」

 由香里「そ、それは……」

 ビッチ「……言いなさいよ、由香里」

 由香里「……文野邸から文野教授と一緒に逃げてきたの、栞が」

  ガリ「栞が!?」

  サル「なんでだ? 火事の前に全員帰ったはずだぞ」

  チビ「……もしかして」

     チビが何かに気づいたかのように呟く。

  チビ「栞は文野教授に会いに戻った……?」

  サル「どういうことだよ」

  チビ「栞と教授は……そういう関係だったってことなんじゃ……」

 メガネ「そ、そうなんですか!? だとしたら、納得できますよ!

     洋子さんが邪魔だったって言葉に! そうですよね!」

  デブ「そんな……嘘だよ」

  サル「……証拠が無い」

  チビ「文野教授に会うために戻って、火事で二人だけ逃げてきて、

     当の本人が、殺したって言ってるじゃないか……。

     それにさっき、文野教授のために亜弥さんを続けるって……」

  ガリ「そうかも、知れないけど……」

  チビ「……由香里はどう思う?」

 由香里「……え?」

     チビが由香里を見る。

 由香里「わ、私は……」

     由香里はチビの顔色を伺う。

 由香里「栞と教授は……そういう関係だと思う」

 メガネ「やっぱりそうなんじゃないですか!

     由香里が言うなら間違いないですよね! そうですよね!」

     7人は何も言わなくなる。

  サル「……でもどうするんだ?」

  チビ「どうするって……どうすればいいんだよ」

  サル「警察に言うとか……」

  チビ「……警察はやめよう」

 メガネ「なんでですか!? 犯罪じゃないですか!」

  チビ「うるせえ!」

     チビがメガネの胸倉を掴む。

  チビ「なんだお前は!? 栞を犯罪者にしたいのか!?」

 メガネ「だって犯罪ですよ!」

  チビ「……俺たちが黙っていれば犯罪じゃねえ!」

 メガネ「そ、そんなの!」

  チビ「身内が犯罪者になるのはもうたくさんなんだよ!」

     チビはメガネを、壁に投げつける。

 メガネ「うわっ!!」

  チビ「……警察に行きたきゃお前が行けよ。そんな勇気無いだろうけどな」

  サル「チビ……」

  チビ「……くそっ!」

 ビッチ「で、でもどうするのよ? チビの気持ちはわかるけど……」

 由香里「……」

     7人は黙ったまま。


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