√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選) 作:高津カズ
○ウォーターワークス(15年前)
栞と、7人が座っている。他に客はいない。
7人は皆、落胆の表情でうつむいている。
サル「洋子さんって、亜弥さんを探しに火の中に戻ったんだってな……」
チビ「そうみたいだな……」
デブ「や、やっぱり、記憶障害のせいなのかな」
メガネ「……栞のせいですかね。栞が亜弥さんを演じたから」
ガリ「やめなさいよ、メガネ。私たちだって協力したわ」
ビッチ「そ、そうよ。理由はそうだとしても誰の責任でもないわ。
これは不幸な事故だったのよ……」
栞「……」
栞は端の席で黙って座っている。
由香里が栞に話しかける。
由香里「栞……ごめんね」
栞「なんで由香里が謝るの? 由香里は悪くないよ」
由香里「私が発案者だもの。私がパーティしようなんて言ったから」
栞「そんな……。関係ないよ。由香里には感謝してるよ」
由香里「栞……」
ガリ「栞、あなたは洋子さんの一番近くに居たからすごく辛いと思う。
けど、一人で抱え込まないでよね」
そう栞に話すガリの表情は暗い。
栞「……」
栞はその表情を見て、目を伏せる。
由香里「栞……」
由香里とガリの励ましの言葉にも、栞はうつむいて黙っている。
メガネ「で、でも、栞が一番の原因じゃないですかね」
サル「お前なあ……」
メガネの言葉にサルが怒りをあらわにする。
メガネ「だってそうじゃないですか! 格好まで亜弥さんに似せて!
中身だってもう亜弥さんでしたよ! 亜弥さんになっていました!
それで障害がひどくなったんじゃないですか!
やはりやめるべきだったんです! そうです、そうですよね」
ビッチ「もしかしてあんた、栞に成績を抜かれたことまだ根に持ってるの?」
メガネ「それを言ったらビッチもですよね!
ビッチも栞に負けたじゃないですか!
雑誌に掲載されたのはビッチじゃなくて栞でしたからね!」
ビッチ「あ、あれは負けたとかそういうのじゃないわよ!」
ガリ「やめなさいよ二人とも!」
ガリが言い合う二人に割って入る。
ビッチ「何よ、偉そうに! あなたに止める資格があるの!?
栞にひどいこと言ってたくせに!」
ガリ「それは……」
ビッチ「あれがあなたの本心なんでしょ!」
ガリ「違う!」
ビッチ「庇ってる振りして、周りに良い顔したかっただけじゃないの!?」
ガリ「違うっていってるでしょう!?」
サル「おい、やめろって! チビ! お前も止めろ!」
チビ「あ、ああ!」
ガリ「サル、あなたは栞を恨んでたくせにこういう時だけ……!」
サル「そ、それは今関係ないだろう!」
ガリ「チビだって……」
チビ「……!」
由香里「もうやめて!!」
由香里が大声で叫ぶ。
由香里「やめてよ……。
なんで……なんで私たちが言い争わなければいけないのよ……」
由香里は泣いている。
ガリ「……よく言うわ」
由香里「……え?」
ガリ「あなただって栞に約束破られて恨んでたじゃない」
由香里「う、恨んでなんか……」
ガリ「どうだか。あなたのお母さん、教育ママみたいだから、
事あるごとに栞を引き合いに出されて、
うんざりしてたんじゃないの?」
由香里「……!」
由香里は黙り込む。
ガリ「図星ね」
栞「……」
栞はクラスメイトが言い争っている間、黙って下を向いていた。
しかし、次の瞬間口を開く。
栞「……ごめんなさい、みんな」
由香里「ち、違うの栞」
栞「正直に言います」
由香里「え?」
栞「私が洋子さんを殺しました」
栞の告白に一同は言葉を失う。
栞「私が、殺したの」
○日御碕灯台(現在)
マックス「栞さんが殺した!? 本当にそう言ったのか!?」
由香里「そうよ。栞は確かにそう言ったわ」
マックスは頭を抑える。
マックス(どういうことだ? 火事は事故なんじゃないのか?)
由香里「さすがに驚いて声が出なかった。
でも、信じられなかった。だってあれは事故。
それに栞が洋子さんを殺す理由が見当たらない」
マックス「……理由については聞いたのか?」
由香里「……一応ね」
○ウォーターワークス(15年前)
由香里「冗談、よね?」
由香里が栞に聞き返す。
栞は首を横に振る。
ガリ「あれは事故でしょ……?」
ビッチ「そ、そうよ。だいたい栞には洋子さんをその……
そうする理由が無いわ……」
ビッチの問いに、栞は静かに答える。
栞「……邪魔だったから、洋子さんが。
だからみんなが言い争う必要なんて無い。全部私の責任」
栞はそう言うと、立ち上がる。
由香里「栞……」
栞「そして、私は文野直樹さんのために……
まだ『文野亜弥』で居ることにします。
……さようなら」
○日御碕灯台(現在)
由香里「でも結局、それだけ言い残して出て行ってしまった」
マックス「それを聞いてお前たちはどう思ったんだ?」
マックスは美咲に話を振る。
美咲「……簡単に信じられたわけないでしょう」
マックス「でも、その後卒業まで関係が悪化したままだった。
ということは、お前たちは栞さんの話を信じたんだろう?」
理子「たしかに信じられなかったけど……」
マックス「なんだ? 何かあったのか?」
理子「……栞が出て行った後、みんなで話し合ったの」
○ウォーターワークス(15年前)
栞以外の7人が無言で座っている。
サル「……なあ」
サルが口を開く。
サル「栞の言ってたこと、本当だと思うか?」
ガリ「思うわけ……無いでしょ」
デブ「そ、そうだよ。だって、事故じゃないかあれは」
ビッチ「事故じゃなくても栞には理由が無いでしょ……」
メガネ「そ、そうですかね。私たちがわからないだけかもしれませんよ」
チビ「……」
チビが由香里を見ている。
チビ「……なあ、由香里」
由香里「……なに?」
チビ「お前火事の時、文野邸に俺たちより先に着いていたよな。
何か知らないか?」
由香里「私は何も……」
由香里の頭に、文野と栞が一緒に逃げてきた光景が浮かぶ。
由香里「あ……」
チビ「何か……知ってるんだな?」
由香里「そ、それは……」
ビッチ「……言いなさいよ、由香里」
由香里「……文野邸から文野教授と一緒に逃げてきたの、栞が」
ガリ「栞が!?」
サル「なんでだ? 火事の前に全員帰ったはずだぞ」
チビ「……もしかして」
チビが何かに気づいたかのように呟く。
チビ「栞は文野教授に会いに戻った……?」
サル「どういうことだよ」
チビ「栞と教授は……そういう関係だったってことなんじゃ……」
メガネ「そ、そうなんですか!? だとしたら、納得できますよ!
洋子さんが邪魔だったって言葉に! そうですよね!」
デブ「そんな……嘘だよ」
サル「……証拠が無い」
チビ「文野教授に会うために戻って、火事で二人だけ逃げてきて、
当の本人が、殺したって言ってるじゃないか……。
それにさっき、文野教授のために亜弥さんを続けるって……」
ガリ「そうかも、知れないけど……」
チビ「……由香里はどう思う?」
由香里「……え?」
チビが由香里を見る。
由香里「わ、私は……」
由香里はチビの顔色を伺う。
由香里「栞と教授は……そういう関係だと思う」
メガネ「やっぱりそうなんじゃないですか!
由香里が言うなら間違いないですよね! そうですよね!」
7人は何も言わなくなる。
サル「……でもどうするんだ?」
チビ「どうするって……どうすればいいんだよ」
サル「警察に言うとか……」
チビ「……警察はやめよう」
メガネ「なんでですか!? 犯罪じゃないですか!」
チビ「うるせえ!」
チビがメガネの胸倉を掴む。
チビ「なんだお前は!? 栞を犯罪者にしたいのか!?」
メガネ「だって犯罪ですよ!」
チビ「……俺たちが黙っていれば犯罪じゃねえ!」
メガネ「そ、そんなの!」
チビ「身内が犯罪者になるのはもうたくさんなんだよ!」
チビはメガネを、壁に投げつける。
メガネ「うわっ!!」
チビ「……警察に行きたきゃお前が行けよ。そんな勇気無いだろうけどな」
サル「チビ……」
チビ「……くそっ!」
ビッチ「で、でもどうするのよ? チビの気持ちはわかるけど……」
由香里「……」
7人は黙ったまま。