√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選) 作:高津カズ
マックス「そして、まだお前たちが話していないことがある」
渡辺「なんだよ」
マックス「文野邸の火事だ」
マックスの言葉に美咲が反応する。
美咲「火事がどうしたのよ」
マックス「文野邸が火事になり、洋子さんが亡くなった。
なのに、昨日の話では火事のことに一切触れなかった」
美咲「だってただの事故だもの。何も無いわ。
当然あなたも知っていたし、話す必要なんてないでしょう」
マックス(相変わらず『火事はただの事故』の一点張りだな。
ここも強気で行くぞ)
マックス「洋子さんに出会ったのが全ての始まりだろう!
その洋子さんが亡くなったのに何も無かったわけがない!」
美咲「!!」
美咲が怯む。
マックス(よし、ここでこれだ)
マックス「この手紙を見てくれ」
マックスが8通目の手紙を取り出す。
マックス「これは8通目の手紙。消印は12月26日。
内容はクリスマスパーティーに関することだ。
みんなと仲直りできて嬉しかったと書かれている」
マックス、由香里を見る。
由香里「……」
マックスは次に9通目の手紙を取り出す。
マックス「そしてこれが9通目。酷く落ち込んだ内容だ。消印は1月11日。
この間に何かあったと思われるが、
この短期間でここまで落ち込むには、
何か大きな出来事があったに違いない」
美咲「そのことに火事が関係しているっていうの?」
マックス「親しい人が亡くなった後に、
嬉しかったなんて手紙が書けるとは思えない。
だから手紙が書かれたのは火事が起こる前、
もしくは火事があったことを知る前のはずだ」
美咲「……」
マックス「この2通の間に起こった大きな出来事でお前たちに関係している事、
それは文野邸の火事しかない」
由香里「別に何も……無かったわ」
マックス「『文野亜弥』は?」
由香里「え?」
マックス「洋子さんが火事で亡くなった時点で、
栞さんが亜弥さんを演じる理由はなくなる。
にも関わらず、栞さんは亜弥さんを演じ続けたのはどうしてだ?」
田中「ど、どうしてそう言えるんですか!
おかしいです。おかしいですよね」
マックス「卒業式の『偽装自殺』だ。
それが卒業式まで亜弥さんを演じていたという証拠だ」
田中「……!」
マックス「始まりがあれば終わりがあるのが当たり前だ。
本来ならその終わりは、洋子さんの死だったはず。
しかしそこで終わるはずの『文野亜弥』が終わらなかった。
つまり、火事が起こった事で新たに生まれてしまったんだ。
『文野亜弥』を続ける理由が」
マックスは少し考える。
マックス(これを言うのは辛いが仕方ない)
マックス「栞さんが亜弥さんを演じ続けなければいけなかった理由。
それは……お前たちが『吉岡栞』を拒絶したからだ!」
由香里「!」
マックス「だから彼女は『文野亜弥』で居るしかなくなったんじゃないのか!」
由香里「違う!」
マックスの叫びに由香里が反応する。
マックス「何が違うんだ!」
由香里「違う…違うのよ」
由香里が消えそうな声で繰り返し呟く。
マックス「違うと言うなら言ってみろ。
なぜ栞さんが卒業式まで、
『文野亜弥』を演じ続けなければいけなかったのか」
由香里「推測よ……ただの推測に過ぎないわ……」
マックス「……」
マックス(このままではラチがあかないな。どうする……)
マックスは消し印の無い手紙を掴む。
マックス(……もうこうなったら奥の手を使うしかないか。
本当は見せたくなかったが、仕方ない)
マックスは消印の無い手紙を取り出す。
マックス「みんな、これをみてくれ。
これは俺に届いた亜弥さん、いや、栞さんからの11通目の手紙だ」
7人が手紙に注目する。
マックス「内容はこうだ」
マックスが手紙を読み上げる。
『私は人を殺してしまいました。
罪を償わなければなりません。
これでお別れです。さようなら』
7人全員が驚きの表情を見せる。
マックス「これはどういうことだ? いったい何があったんだ?
お前たちは何か知っているのか?」
7人は黙ったまま何も言わない。
マックス「別にこれをネタにお前たちをどうこうしたいという訳じゃない。
ただ俺は真実が知りたいだけなんだ」
しばしの沈黙。
暫くして、由香里が決心したように口を開く。
由香里「……わかったわ」
理子「ちょっと、由香里!?」
理子が由香里に叫ぶ。
由香里「……まさかそんな手紙を送っていたなんてね」
由香里が遠い目をする。
由香里「……少しでも許されたくて、ずっと隠してた。
でも、隠すということは、忘れられないってこと。
消えないまま、ずっと心に残り続ける。
どんなに日々を頑張って生きても、死ぬまで永遠に……」
マックス「そうだな。……ある人が言っていたよ、
『秘密は荷物みたいなもの』って。
持っているとどんどん重くなる。
誰かに話して軽くしたいものだって」
由香里「そうね……自分自身で選んだことだったけど……
もう……疲れたのかも」
由香里は自嘲気味に笑う。
由香里「あなた、本当におかしな人よね。
文通してただけの人間に対してここまで必死になれるなんて」
マックス「内容はもちろん、この手紙にはなぜか消印が無かったんだ。
だから気になって」
渡辺「消印が無い? おい、お前それ本当に栞からの……」
由香里「もういいじゃない。私たちの負けだわ。
私たちは彼に……負けたのよ」
由香里は渡辺の言葉を遮るように言う。
由香里「それでも、15年も経った今になって会いに来るなんて、
今でも信じられないけど」
マックス「俺は、気になった事はとことん追求しなきゃ気がすまない。
それだけだよ」
由香里「本当に『マックス』なのね、あなた」
由香里はそういうと、クラスメイト達に問う。
由香里「みんな、もういいわよね」
由香里が回りを見回す。
由香里「あれから私たちは、それぞれ新しい人生を歩んできた。
でも心は15年前のあの教室で止まったまま。
だからその心を動かすために、この荷物を降ろしても……」
7人は何も言わない。
しかししばらくして、各々が無言で頷く。
マックス「……ありがとう、みんな」
マックスは頭を下げる。
由香里「でも……」
マックス「え?」
由香里「聞いたこと、後悔しないでね」
由香里が真剣な眼差しで言う。
マックス「……後悔したくないなら、とっくに東京に帰ってる」
由香里「……わかったわ」
由香里は一呼吸置くと、口を開く。
由香里「実は、火事があった12月25日。私たちも文野邸にいたの」
マックス「なんだって!?」
由香里「正確には、起こる前。
私たちは文野邸でクリスマスパーティーをしていた」
マックス「クリスマスパーティーがあったのは、火事と同じ日だったのか!」
由香里「ええ」
由香里、過去の話をする。