√Letter ルートレター オリジナルエンドルート投稿作品(落選)   作:高津カズ

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10章『木洩れ日の便箋』・3

マックス「そして、まだお前たちが話していないことがある」

  渡辺「なんだよ」

マックス「文野邸の火事だ」

     マックスの言葉に美咲が反応する。

  美咲「火事がどうしたのよ」

マックス「文野邸が火事になり、洋子さんが亡くなった。

     なのに、昨日の話では火事のことに一切触れなかった」

  美咲「だってただの事故だもの。何も無いわ。

     当然あなたも知っていたし、話す必要なんてないでしょう」

マックス(相変わらず『火事はただの事故』の一点張りだな。

     ここも強気で行くぞ)

マックス「洋子さんに出会ったのが全ての始まりだろう!

     その洋子さんが亡くなったのに何も無かったわけがない!」

  美咲「!!」

     美咲が怯む。

マックス(よし、ここでこれだ)

マックス「この手紙を見てくれ」

     マックスが8通目の手紙を取り出す。

マックス「これは8通目の手紙。消印は12月26日。

内容はクリスマスパーティーに関することだ。

     みんなと仲直りできて嬉しかったと書かれている」

     マックス、由香里を見る。

 由香里「……」

     マックスは次に9通目の手紙を取り出す。

マックス「そしてこれが9通目。酷く落ち込んだ内容だ。消印は1月11日。

     この間に何かあったと思われるが、

     この短期間でここまで落ち込むには、

     何か大きな出来事があったに違いない」

  美咲「そのことに火事が関係しているっていうの?」

マックス「親しい人が亡くなった後に、

     嬉しかったなんて手紙が書けるとは思えない。

     だから手紙が書かれたのは火事が起こる前、

     もしくは火事があったことを知る前のはずだ」

  美咲「……」

マックス「この2通の間に起こった大きな出来事でお前たちに関係している事、

     それは文野邸の火事しかない」

 由香里「別に何も……無かったわ」

マックス「『文野亜弥』は?」

 由香里「え?」

マックス「洋子さんが火事で亡くなった時点で、

     栞さんが亜弥さんを演じる理由はなくなる。

     にも関わらず、栞さんは亜弥さんを演じ続けたのはどうしてだ?」

  田中「ど、どうしてそう言えるんですか!

     おかしいです。おかしいですよね」

マックス「卒業式の『偽装自殺』だ。

     それが卒業式まで亜弥さんを演じていたという証拠だ」

  田中「……!」

マックス「始まりがあれば終わりがあるのが当たり前だ。

     本来ならその終わりは、洋子さんの死だったはず。

     しかしそこで終わるはずの『文野亜弥』が終わらなかった。

     つまり、火事が起こった事で新たに生まれてしまったんだ。

     『文野亜弥』を続ける理由が」

     マックスは少し考える。

マックス(これを言うのは辛いが仕方ない)

マックス「栞さんが亜弥さんを演じ続けなければいけなかった理由。

     それは……お前たちが『吉岡栞』を拒絶したからだ!」

 由香里「!」

マックス「だから彼女は『文野亜弥』で居るしかなくなったんじゃないのか!」

 由香里「違う!」

マックスの叫びに由香里が反応する。

マックス「何が違うんだ!」

 由香里「違う…違うのよ」

     由香里が消えそうな声で繰り返し呟く。

マックス「違うと言うなら言ってみろ。

     なぜ栞さんが卒業式まで、

     『文野亜弥』を演じ続けなければいけなかったのか」

 由香里「推測よ……ただの推測に過ぎないわ……」

マックス「……」

マックス(このままではラチがあかないな。どうする……)

     マックスは消し印の無い手紙を掴む。

マックス(……もうこうなったら奥の手を使うしかないか。

     本当は見せたくなかったが、仕方ない)

     マックスは消印の無い手紙を取り出す。

マックス「みんな、これをみてくれ。

     これは俺に届いた亜弥さん、いや、栞さんからの11通目の手紙だ」

     7人が手紙に注目する。

マックス「内容はこうだ」

     マックスが手紙を読み上げる。

 

 

『私は人を殺してしまいました。

罪を償わなければなりません。

これでお別れです。さようなら』

 

 

     7人全員が驚きの表情を見せる。

マックス「これはどういうことだ? いったい何があったんだ?

     お前たちは何か知っているのか?」

     7人は黙ったまま何も言わない。

マックス「別にこれをネタにお前たちをどうこうしたいという訳じゃない。

     ただ俺は真実が知りたいだけなんだ」

     しばしの沈黙。

     暫くして、由香里が決心したように口を開く。

 由香里「……わかったわ」

  理子「ちょっと、由香里!?」

     理子が由香里に叫ぶ。

 由香里「……まさかそんな手紙を送っていたなんてね」

     由香里が遠い目をする。

 由香里「……少しでも許されたくて、ずっと隠してた。

     でも、隠すということは、忘れられないってこと。

     消えないまま、ずっと心に残り続ける。

     どんなに日々を頑張って生きても、死ぬまで永遠に……」

マックス「そうだな。……ある人が言っていたよ、

     『秘密は荷物みたいなもの』って。

     持っているとどんどん重くなる。

     誰かに話して軽くしたいものだって」

 由香里「そうね……自分自身で選んだことだったけど……

     もう……疲れたのかも」

     由香里は自嘲気味に笑う。

 由香里「あなた、本当におかしな人よね。

     文通してただけの人間に対してここまで必死になれるなんて」

マックス「内容はもちろん、この手紙にはなぜか消印が無かったんだ。

     だから気になって」

  渡辺「消印が無い? おい、お前それ本当に栞からの……」

 由香里「もういいじゃない。私たちの負けだわ。

     私たちは彼に……負けたのよ」

     由香里は渡辺の言葉を遮るように言う。

 由香里「それでも、15年も経った今になって会いに来るなんて、

     今でも信じられないけど」

マックス「俺は、気になった事はとことん追求しなきゃ気がすまない。

     それだけだよ」

 由香里「本当に『マックス』なのね、あなた」

     由香里はそういうと、クラスメイト達に問う。

 由香里「みんな、もういいわよね」

     由香里が回りを見回す。

 由香里「あれから私たちは、それぞれ新しい人生を歩んできた。

     でも心は15年前のあの教室で止まったまま。

     だからその心を動かすために、この荷物を降ろしても……」

     7人は何も言わない。

     しかししばらくして、各々が無言で頷く。

マックス「……ありがとう、みんな」

     マックスは頭を下げる。

 由香里「でも……」

マックス「え?」

 由香里「聞いたこと、後悔しないでね」

     由香里が真剣な眼差しで言う。

マックス「……後悔したくないなら、とっくに東京に帰ってる」

 由香里「……わかったわ」

     由香里は一呼吸置くと、口を開く。

 由香里「実は、火事があった12月25日。私たちも文野邸にいたの」

マックス「なんだって!?」

 由香里「正確には、起こる前。

     私たちは文野邸でクリスマスパーティーをしていた」

マックス「クリスマスパーティーがあったのは、火事と同じ日だったのか!」

 由香里「ええ」

     由香里、過去の話をする。


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