君の名を忘れない。   作:ばんなそかな

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六話 友との再会

なんやかんやと準備終えた俺たちは、待ち合わせの場所に向かう事にした。

三葉に言われて部屋の鍵をかばんの中から探っていると、いきなり電話が鳴り出す。

名取 早耶香と表示されている事に、俺は息を飲んで驚くと同時に喜びを感じた。。電話を指さすと、三葉にせっつかれて俺は電話に出た。

 

「あ、三葉。待ち合わせなんだけど、ちょっと遅れるかもー。ごめんよー」

「さやちん……」

 

俺は久しぶりに聞いた声に感極まるが、さやちんはこっちを気にせず話を続けている。

 

「もう、てっしーが眠りこけ取って、今起こしたとこなんよ、はよ起きな、てっしー!」

 

わかっとるわ、と向こうからてっしーの声が聞こえてきて、俺は自然に笑みがこぼれた。

ふと、背中を突かれているので振り返ると、三葉がわけわからんジェスチャーをしてくる。

なに?ああ、いやだいだわかったから、そのタコ踊りやめてくれ。

 

「わかった。いいよ、待ってるから。あ、あと今日は瀧くんも一緒に行くことになったから」

「たっきーが?いいよ。ちょっとだけ待っといてねー」

 

なんだそのあだ名と突っ込む前に電話は切れてしまった。

どうやら俺は、知らない間にだいぶ二人と親しくしているようなんだな。

 

三葉は、俺たちが部屋を出るのを見届けると俺の部屋に戻る事にした。着の身着のままだし、財布とかカバンを取りに行ったのだ。待っといてよ!と三葉も言い放ち、女な子走りで走っていきやがった。

 

(はあ、なんだか、忙しい奴だな……)

「ほんと忙しい人だね、瀧さんって」

 

隣を歩く四葉が、俺が思っている事を言う。なんだか心外だ。俺はあんなにあわてんぼうじゃないぞ。

 

「ほんとにあの人の事が好きなのお姉ちゃん?」

「え?」

 

いきなりどきっとするような事を言われ、俺は返事に詰まった。好きとかそういう感情が三葉との間に抜け落ちていることに初めて気づいたのだ。そういう事をすっとばかして、すでになんだかそこに三葉がいるみたいな感覚だ。

 

「顔はイケメンだけど、年下の人とお姉ちゃんが付き合うとは思いもせんかったんよ」

「そう?」

「東京のイケメン男子にして下さい!とかなんとか言ってた人がね、色々変わるもんやね」

(あいつ、そんな事言ってたのか……)

「まあ、ええわ。今日は変やけどちゃんと生活してるようやしね。もう、お父さんがどんな様子でやってるか見てこいってしつこいくらい何度も言われとったからね」

「お父さんが?ふーん」

「おばちゃんも。ってこっちはいつもと変わらない調子だったけど。瀧さんとの関係以外は安心して私も岐阜に帰れるってもんやね」

「……あのね、色々言ってるけど私一応、四葉の姉なんだけど」

 

妹にマジで心配されてる姉というのは、世間一般からして大丈夫なのだろうかと考える。

俺は三葉の事を思ってやって、四葉のほっぺをつねっておくことにした。

そしていひゃい、とつぶやく四葉を置き去りにして進もうと、強く一歩を踏み出したのだがすぐに断念する事になった。

 

「待ち合わせってどこだっけ?」

「やっぱ心配や……」

 

*****

 

待ち合わせの東京駅で待っているとすぐに息を切らして三葉が追いついてきた。男の準備は、早くていいよな、としみじみ感じていると、すぐに糸守トリオの残りの二人がやってくる。なにやらわいわいと言い合いをしている声がこちらに届いた。

 

「もー、やっぱ皆そろっとるやんかー。早く起こそう思ったのにてっしーの部屋汚すぎ」

「俺の部屋なんやから、どうしようと勝手やがな」

「足の踏み場がないのは部屋とはいわんのよ。倉庫っていうの。これじゃ、泊まってく事も出来ないでさ」

「な!そんなのダメやからに。まだ、おじさんとおばさんに言っとらんし」

「はあ、……そこがてっしーに良いところであり、悪いところなんやけどねー」

 

内容が気になる会話をしている二人の姿は、糸守の時とほとんど変わっていない。

てっしーは坊主頭は卒業したのか、短めの髪に似合わない無精ひげを生やしていた。さやちんは大正女学生かというような三つ編み、ぱっつん前髪は捨て去り、美容室で整えたようなショートになっている。後変わった事と言えば、二人が東京のどこにでもいる若者の服装になって言う事くらいだ。俺はそれを見て、胸の奥に何かが詰まる感覚がし足が自然と二人に向かった。

 

「「久しぶりっ!!二人とも!!」」

 

思わぬところで似非姉妹デュエットを発揮し、俺と四葉は二人に駆け寄った。

同郷との久しぶりの再会にさやちんは四葉と、前に出した手をぱちぱちと合わせている。

だが、相手にされず行き場をなくした俺はというとてっしーに怪訝な顔をされていた。

 

「久しぶりって三葉とは、四日前にあったばかりやぞ」

「あ、そうなの」

 

俺からしたらほとんど一月ぶりなんだけどな。しかも、隕石衝突で一度は死に別れた友たちなのだから。男同士の再会を拳で祝おうかと思ったが、今の俺たちは入れ替わっているのだという事を強く戒める。

 

「いやー、本当に隕石から生き残ってくれて良かったなって」

「なんでいきなりあの時の事を?って三葉、あんた泣いとるの!?」

 

こっちに反応してくれたさやちんが俺の方を向いて、驚いて言う。

え、と俺は目元に手をやると確かに濡れていた。どうやら三葉の身体は涙もろい様だ。決して俺がうれし泣きで涙を流しているわけではないからな。ちょっと恥ずかしいし。

なんだか俺の方が先にぼろを出してしまったなと思い、三葉に助けの視線を求める。

 

「今日のお姉ちゃん、なんかちょっと変なんやよ。てっしー、さやちん気にせんといてあげてよ」

「お。なんや懐かしの狐憑きか。それにその髪型も懐かしいなあ」

 

四葉がいらんフォローを入れてきて、てっしーが面白そうに言う。

俺は後ろに手を伸ばして、後ろのポニーテールに横から三つ編みが組み合わさったようなちょっと凝った髪型を触る。そっか、三葉はほとんどこの髪型してないのかな?

 

「いや、今日の三葉は、ちょっと寝ぼけてるだけだから。いつも通りちゃんとしてるからね」

「おう、瀧。元気にしとったか?あ、ちょっとこっちこいや」

 

三葉が俺のフォローに回ろうとすると、てっしーが三葉に肩を回して少し離れた場所に行こうとする。俺もついていこうとするとさやちんに服をつままれた。

 

「三葉、たっきーとなんやあったん?それに今日、熱あるんじゃない?」

「え、なに?」

「化粧しとらんよね。それにかばんの持ち方変やし」

 

化粧は、男として終わる一歩先だと思いなんとか三葉に断念してもらったのだ。日焼け止めは必ず塗らされたけど。俺は学生カバンの様に背負っていた三葉のバックをちゃんと肩に掛ける。

 

「それにその靴。その服にスニーカーは合わないと思うんやけどね。絶対にたっきーの前じゃ、きっちりしたお姉さんスタイルやったのにどしたの?ほら、たっきーも呆れた視線でこっち見とるんよ」

 

横目で見るとこっちの話を聞いたであろう三葉が、額に手を当てて首を振っていた。

いや、さやかさん、あれはきっと自分のふがいなさを恥じているんですよ。

つい自分の感覚で履けそうな靴を選んでしまったのは悪いと思ってるけど、三葉も気づけよ女だろうが、……いや、今は男だけど。ややこしい。

三葉の方を見ると、てっしーから紙袋に入った四角いものを受け取っていた。本か?

 

「瀧が来るってゆうから急いでで準備したんやで」

「てっしーなにこれ?」

「うわっ。瀧にタメ口された。あーいや、えんやけどな。前にも言うたけどどっかで会ったような気がしとってな。まるで、生き別れの兄弟みたいな感じや」

 

てっしーは三葉の肩をばしんと叩いている。そっか、俺は先輩としてこの二人に接していたんだよなあ。はあ、このうすらのんびりとした二人にか……。三年の月日を恨みたくなる。

 

「あー、いいからとっとけや。それは男にとって大事なもんやからに。三葉の名前呼び捨てにしとったからには、いくらか進んだんやろ?これが必要になる時が来るてな。いくら時代は進んでもやっぱこれが一番やからな」

「うん?とりあえずもらっとくよ」

 

三葉は怪訝な表情をするも、背負った俺のショルダーバックに丁寧に入れ始めた。それから俺たちはをぶらぶらと歩き始める。

 

「で、今日は何するつもりなんや?俺、秋葉原に買いに行きたい部品あったんやけど」

「却下。今日は付き合いーな。これから四葉ちゃんを東京案内するんよ」

 

てっしーがあくびをしながら言うと、さやちんが今日の予定を教えてくれた。

 

「案内ってか俺全然、ここらへん知らんし。一年以上東京住んどるけどやっぱ、異邦人って感じやわ。何年経っても慣れる気がしいへん」

「うん、なんだか流れる感覚が違うだよね。たまに山が恋しくなるっていうか」

「たっきーは東京生まれで、ついでに東京育ちやろ?」

「……うん。ざ、雑誌にそう上京してきた人が感じるって書いてあったんよ」

「そうなんだ、とにかくたっきーが来てくれるなら助かるわ。頼むでね東京人」

 

よーし。なんとかごまかしたな。俺はやれやれと首を振ると三葉の隣に並ぶ。三葉はいつもどんな風に接していたのかはわからないけれど、こうしていた気がなんとなくしたのだ。

 

「私もここら辺はよく知ってるから、案内するよ、ほら瀧くんもこっち!四葉の買い物行くんでしょ?」

「そうそう。四葉ちゃんのおみやげをやね」

 

ずいずいと三葉の腕に手を回して、俺は皆の舵を取り、さっさと歩き始めた。

ほー、と傍から見れば仲良くしているカップルのように見える瀧と三葉を見ててっしーが声を上げる。

 

「ほんまいつの間にこの二人、急接近したんや?なまりが移るほど仲良うなっとるで」

「不明やね。けど朝っぱらから男女逆転演劇するし、しまいには、お姉ちゃんが目隠しで着替えしとっててそれを瀧さんが真っ赤な顔して見とったし……」

「ほぁ、ほんと!?てかなにそれ」

 

さやちんが上ずった声で、そ、それは……見てはいけないものを見てしまったんやね、という同情する顔で、四葉の肩にそっと触れた。

 

「まかしとき。四葉ちゃん。三葉とたっきーの歪んだ恋愛関係は私が直してみせるから」

「うん、さやちんだけやわ、頼れるの」

「俺は?」

「「却下」」

 

昼食まで近くのショッピングモールで店巡りをすることに決まった。

服屋やら小物売り場であっちいったり、こっちいったりしていたが結局、俺はてっしーと二人で女たちの金魚のふんと化していた。

全く、女の服なんてわかるわけねえだろ。

お願いされたので、俺が見繕ってやった服は、四葉に誰がそんなお子ちゃま服着るん、と失笑されたし、アクセサリーなんてものを選ぼうとしたらその場で化石になるぞ。

 

「しっかし、以外やったな。瀧が女物の服に詳しいなんてな」

 

暇つぶしに携帯をいじっているてっしーが、つぶやいた。

視線の先では、女三人姦しく服をあっちやこっちや見て回っている。

どうやら俺は東京でファッション触れる機会が多いから、色々センスがいいのだという事に解釈されている。良かった、マジで。女装趣味があるとかは疑われていないようだ。

 

「しっかし、やっぱ女の買い物って長いよな」

「何言っとんや、お前も女やからに、はよ行ってやらんかい」

 

そうなんだけど、と言ってから俺はせっかく二人だけだし聞きたい事を聞いてみた。

 

「あのさ、てっしー。あの隕石落下の時、どうして私の事信じてくれたの?」

「んー?今更かいな、うーん、どうやったかなあ。なんや三葉が必死やったかろうかなあ。お前そんなけったいな嘘つく奴違うしな」

「ふーん、そうだったんだ」

 

まあ、そうだよなと俺が思っているとてっしーがさらに続けてきた。

視線はさやちんの方を向いている。

 

「でも三葉にはほんと感謝しとるで、俺と早耶香を助けてくれて。それに瀧もやな。なんや、瀧は覚えてないんやけど、隕石落ちるって知らせてくれたんやろ」

「うん、そうみたい」

 

俺はてっしーが早耶香と呼び捨てにしている事に気づいた。これは二人の仲が進展したという事なのか?後で三葉に聞こう。

 

「……そういや三葉は糸守の事今どう思っとるんや?」

 

唐突に聞かれたその言葉に俺は、返事が出来なかった。三葉がどう思っているかはわからなかった。てっしーは明後日の方向を見ながらぽつりぽつりと話し出す。

 

「俺はスクラップ&スクラップみたいに糸守を全部作り替えちゃる、みたいな事は考えとったんやけどな。隕石が作り替えるどころかみーんな吹っ飛ばしちまった。あん時は、遅れてきたノストラダムスに万歳なんて思とったわ。でも、こうして東京で暮らしとって前の糸守に戻りたくなることがあるんやけどな」

 

俺はなんだかてっしーの話を聞いていて居心地が悪くなってきてしまった。

そういえばというか、今の身体は三葉でてっしーは三葉に話しかけているのだ。

でも、きっとこれだけは三葉も俺も同じ気持ちだろう。

 

「私も糸守には戻りたい気持ちはあるよ」

 

どうやらまた店の場所を変え始めた三人に、俺とてっしーは追いかけ始めた。

このままじゃうふふ、とかいいそうになってる三葉のテンションをチョップすることで落ち着かせて俺は聞いた。

 

「まーだ買い物は続くの?」

「なんでお姉ちゃんが嫌そうな声だすんよ。やっぱお姉ちゃんが悪影響なんやね。瀧さんはええ人やったから」

 

おお、現金な妹だ。姉妹仲は良さそうで何よりだ。

 

「まだクラスの皆にも買いたい人いるから……後男子にも」

「男子?誰よそれ?」

 

くいついた三葉に、四葉はつんとすました顔で、淡泊そうに言う。

 

「やー、中学の同級生なんだけどね。なんか色々世話してくれたからお礼に何かあげなきゃなあーって思って。ただそれだけ」

「ふんふん、中学生の男の子ね。……そこの男二人、はい意見をどうぞ」

 

面白そうにうなずくさやちんが、俺じゃなかった三葉とてっしーに指を突きつける。

 

「俺?中1の時やろ……電子工作キット?」

「えと、裁縫じゃなくて……ガンプラかな?」

 

どちらもあまり役にたちそうにない事を言ってきた。てっしーのは機械好きならまあいいか?それと三葉、どこで仕入れた情報か知らんが、全く知らん機体を組み立ててもすぐ邪魔になるだけかもしれんぞ。俺は親戚のおじさんにいつ製造だよといわんばかりのタイガー戦車のプラモをもらった時の事が記憶によぎった。

 

「瀧さん、すごいわ。最初に言った裁縫がいいと思う。あいつ色々、ぬいぐるみとか作るの得意やったし」

「じゃあ、ソーイングセットやね。一人だけでええの?」

「うーん、そいつだけ」

 

四葉はいやいや悩むように腕組みをした後、首をかしげて頷いた。

というわけで俺たちは昼飯を挟んでからまた買い物をしようとい事になった。

長い……どんだけ買い物するんだ。俺とてっしーは長い溜息を吐いた。




お気に入り数が700をいつの間にか超えていて驚きを禁じ得ません。いや、ほんとにありがとうございます。
なんだか展開遅い気がするので、出来るだけ早く書くようにしていきます。次回はまだ買い物編が続きます。

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