あの日、あの時のカタワレ時、俺たち、私たちは一緒にいた。
彼女の喜んでいる笑顔を、名前を覚えている。
君の名前は三葉。ーーーーなにがあってもきっと忘れない。---三葉!!
私は、生きる。何があったって……あの人に会うために。
生き抜いて絶対にまた会う。ーーーそう、あの人の名前はーーー瀧くん!!
彗星が落ちる日。彗星が落ちた三年後。
俺は、私は、何かが変わろうとする世界の中で、確かにその名前を憶えていた。
*****
「はッ!!」
朝だ。突き刺すような日差しの中で、俺は、目覚めたのだと自覚する。
心臓が全速力で走った後のように、激しく鼓動している。
一気に体を起こしたせいか、頭がもうろうとして意識の焦点が定まらない。
(なにが……)
一瞬、何もかも忘れしまい、自分の存在すら不確な、あやふやな感覚に襲われる。
それでも無意識に俺は、枕元で鳴るスマフォのうるさいアラームを止めている。
「どうなってんだ?俺は……確か」
立ち上がって見渡すと、自分のマンションの部屋にいるとわかった。
すると、すぐに立ちくらみが起きた。やばい、気分がすごい悪いぞ。
まるで、ミキサーの中で攪拌されたかのようだ。
よろけながらキッチンに向かい、冷蔵庫の中にあった麦茶を喉に流し込んだ。
何時間も彷徨った砂漠でオアシスを発見したような気持だなと、どうでもいい事を考える。
「げ、もう11時。……ってことは親父は会社か……」
時計を確認して、ふと電子時計のカレンダーに目がいった。
日付は8月×日。……なんだ、まだ夏休みじゃないか。ってことはのんびりできるな。
「え?……そんなわけあるかッ!!俺は……」
一気に焦燥感が体を駆け抜けた。
麦茶のおかげでさっぱりしてきた頭が、確かな違和感を告げる。
何かを思い出すように頭を抱えて、それからそっと手のひらを見てしまう。
その行為になんの意味があるのかと考えた瞬間、日記をめくる様に、すべての記憶が蘇ってきた。9月に入ってからの入れ替わりの騒動。彗星。そしてカタワレ時。---三葉!!
「三葉!!」
叫んだ途端、何かの栓が抜けたかの様に、ありとあらゆる事が飛び出してくる。
ーーー糸守町は!?三葉はどうなったんだッ!?
慌てて自分の部屋に駆け込み、スマフォに飛びつく。
焦る手で開き、表示された日付が時計と同じ事に驚く。
(俺は高校二年の夏に戻っている……?)
とりあえずネット検索をしようとしたところで、手が止まる。
どうやら俺はずっと寝るまで誰かとLINEをやっていたようだ。
開きっぱなしだった相手との、新着メッセージが表示される。
おはよー瀧君、ちゃんと起きてる?今日バイトの日だよ!ダッシュ!!
メッセージを確認して俺は、慌ててシフトの確認をする。
そうか、この日は昼から入れてたっけ。……時間を見ても、もう遅刻は確実だ。
って、そんなことより!
すぐさまネット検索しようとしたら、いきなりスマフォの電源が落ちてしまった。
誰だよ!充電してないのはッ……って俺か。
すぐさま充電器につなぐも、すぐに充電されるわけなく、じりじりと汗だけが垂れる。
(バイト、すぐにいかなくちゃ……)
また、違和感が襲ってきた。違和感というよりはずれだ。
俺の感情と思考が、一致してない。
彗星の事、三葉の事が気になって仕方がないはずなのに、俺の体はバイトに行けと急かしている。どんだけバイト好きなんだよ!それどころじゃねえっての!!………。
俺は、ああもうっ!!と叫ぶと、超高速で着替えを済ますと部屋を飛び出た。
無意識の領域で起こる衝動を止められない感じだ。とにかく遅刻はよくないよな。
バイトだからといえ、なにやら自覚を持つべきだってだれかに言われた気がする。
(しょうがない、こうなったら……)
わけがわかんねえ事だらけだ。一体、何が起きてるんだ?
なんで糸守町にいた、俺が東京に戻ってる?しかも時間が戻ってるし!
まあ、いい。何が起こってるか調べてみればいい。誰かに確認するのが一番だ。
(バイト先なら、奥寺先輩や、司もいるかもしれないしな)
ふと、そこでメッセージの送り主が気になった。奥寺先輩かな?あんな風な文体だったっけ?
気になるもスマフォは部屋に置いてきたし、名前は確認しなかった。まあ、どっちにしろ、今はそれどころじゃない。
タイムリープだの、時をかける少年だかなんだかわからないが、三葉との入れ替わりを経験した俺にとっちゃ、こんな事態ちょろいもんだ!!
だが、威勢良かったのはそこまでで、外の情報に触れれば、電子時計が電池切れ掛け、スマフォが壊れていたという事態ではないとわかった。俺はなんで未来の記憶を持ってるんだ?それとも、全部夢だったのか?……自分の記憶を疑いだしてしまう。
だが、それ以上にバイト先に到着した俺は、目を疑った。いや、世界を疑った。
なぜなら、宮水三葉が、そこに当たり前の様に存在していたからだ。
というわけで、瀧君は世界線を越えました。
君の名は。考察とか読んでも入れ替わりとか全く理解していない作者ですが、とりあえず自分設定でやろうと思います。