※戦闘シーンでは艦娘同士が戦います。そういうのはちょっと、という方はブラウザバック推奨です。
夜の終わりにして朝の始まりが徐々に近づく、夜戦と呼ぶには遅い時間帯。龍驤の部隊の突入を成功させるため陽動を担う攻撃隊が技本機動部隊に迫りつつある頃、海面でも別な激突が始まっていた。
スタングレネードで動きを封じた機動部隊を拿捕し
-これだけ派手に命令違反したんだ、宇佐美のダンナも甘い顔はしてくれねーだろう。それでも、俺は
南洲も技本艦隊の艦娘達も、身体と心に手を加えられ、望まぬ形で戦場に立っている事では共通している。それでも南洲は自分の生きる道を見出したと言う。彼をそう
縮まった距離は、その敵の姿を鮮明に示す。突入してくるのは顔の上半分が両サイドを鋲で止めたフェースガードで覆われ、真っ黒な衣装をまとった深海棲艦。額から生えた二本の太い角、魚雷発射管と融合したような生物状の艤装を構えたその姿は
「ナンデサ…何デ来ルノヨ」
「何モ…何モ、見エナイママ…沈ンデイケ!」
刻一刻と夜明けが近づくとはいえ未だ夜の終わりに始まる反航戦。目標とする機動部隊が陣形変更を行うため慌ただしく位置を入れ替えはじめたのを南洲隊が遠目に見たあたりで、
「この秋月が健在な限り、やらせはしません!」
秋月が左手を前に振り出し両脚を肩幅より広げ砲撃の反動に備えると、腰にマウントされた長一〇cm砲ちゃんが手足をばたつかせながら砲身を海面に向ける。最大毎分一九発の発射速度を誇る連装砲が唸りを上げ、発砲により巻き上がる爆風が秋月を中心とする海面を波立たせ、長いポニーテールとミニスカートを大きく揺らす。その砲撃により撃ち抜かれた魚雷が次々と爆発し水柱を林立させる。
-お前がいなきゃ俺はトラックで死んでいたかもしれん…秋月、ありがとうな。軍人として、俺の行動は間違っている。けどな、それでも譲れない…いや、譲りたくない物があるんだ-
雷撃の過半を撃ち抜き、ふうっと大きく肩を上下させ安堵のため息を漏らす秋月が、出撃前の南洲の言葉を思い出しながら問い返す。
「この秋月、ご期待に応えられているでしょうか。これからも必ずお守りしますから」
回避行動から反転した南洲隊は、技本水雷戦隊同士の連携を妨げるように分断しながら攻撃に移り、三様の戦いが始まる―――。
◇
肩を上下させ安堵のため息を漏らした秋月の死角から黒い影が急速に迫る。しゃがみ込んだ姿勢から一気に突き上げるように放たれた右貫手の突きが頸動脈を狙い閃く。
「―――!!」
秋月が気配に気づき反応した時点ではすでに遅く、角の生えたフェースガードで隠され表情の伺えない顔がすぐ傍まで迫ったが、その刹那激しい衝撃音とともにその影は飛び退いてゆく。左腕の艤装で迫る
「秋月さん、この人は私に任せてください。他の人と合流してここを突破してください」
秋月の方を見ることなく、ややハイライトを落とした深紅の瞳から放たれる春雨の視線は
「こんにちは…いいえ、久しぶりです、
ゆらゆらと
「ソンナツモリジャ………私ハ…私ハ…アンナ事望ンデナカッタノニ…。アナタハ…アナタコソ…アナタガアアアァ!!」
叫びはそのまま行動に置き換わる。激しい波の飛沫を残し突入する神通と、右腕をしならせモーニングスターを投擲する春雨。これ以上言葉で語ることはない、それだけが二人の共通認識だった。
春雨のすぐ間近まで飛び込んだ
◇
「クッ、何デ振リ切レナイノヨ…!』
長い白髪を揺らしながら、必死に逃げようとする
腰の左右にマウントしていた大きな両腕、戦艦棲姫のそれを彷彿とさせる艤装だがすでに魚雷発射管を備えた左腕はもう戦力にならず、自分の被害は左半身に集中している。至近弾のせいで頭部からの出血が止まらず、血が左目に入り視界が妨げられ、イライラする。
自分にまとわりつくショートボブの重巡娘は、従順そうな顔立ちをしているくせに、その目は冷静に自分の状態を値踏みしている。最初に左側の艤装に与えた至近弾、そこからは常に自分の左側を占位するように巧みに動き回り、的確に砲撃を加えてくる。いくら自分が動き回り振り切ろうとしても、加速に乗る前に進路を塞がれ思う様に動けない。ならばと右腕の艤装で砲撃しようとしても、今度は自分自身の体が邪魔をして思うように左側を砲撃できない。というより、そういう無理のある姿勢での砲撃しかさせてもらえない巧みな体捌きと位置取り。相手はこちらの砲撃を無駄のない動きで躱し、いよいよ手を伸ばせば届くような距離まで近づいてきた。
「羽黒さんっ、お待たせしましたっ」
唐突に海原に響く綺麗な声。反射的に見てしまった。駆逐艦…あれは
「させませんよ」
耳元で優しく囁く声がして背中に悪寒が走った。あっちは囮か。恐慌をきたした私は、壊れた左側の艤装を滅茶苦茶に動かす。とにかくこの場を逃れなきゃ。相手も予想外だったのだろう、腕の形をした艤装のラリアートを無防備に喰らい一瞬動きが止まった。
今しかない、もう一人が近づいてくることも忘れ、右側の艤装を向け至近距離から砲撃する。同時に長一〇cm砲の集中砲撃を受け、右側の艤装も大破してしまった。けどまだやれる。今度は照月の姉に砲を向けた所で思わず絶叫してしまった。右肩を外された。間髪入れずに左肩も同じ。くっ…人型だとこういうことがあるのか。
「秋月ちゃん、ありがとう。…この深海棲艦は、私が母艦まで連行しますね。大丈夫、入渠してまたすぐに戻ってくるから先に行ってて。うん? あとはほら、大坂で習った特殊な縛り方で」
-途中間も空いたが、お前とも長い付き合いだよな。…お前が本気になれば、うちの部隊で一番強いかもしれない。けどな、無理しなくていいからな。お前自身が納得できるその時が来たら、撃てばいい-。
至近距離で直撃弾を受け中破した羽黒は、拘束した
「はい、司令官。その時は今なんだ、そう思ったらもう怖くなくなりました」
◇
「甘いわねっ!!」
自分に向け急速に迫る複数の雷跡を、ビスマルクは不敵な笑みを浮かべながら巧みな体捌きで躱し切る。長く豊かな金髪を揺らし、水面を踊るに疾走する姿は、バレエやフィギュアスケートを彷彿とさせる。そんな美しさと裏腹に、凶悪な力をそのまま形にした四基の主砲はその間にも眼前の相手、駆逐古姫に向け斉射する体勢を取る。ここで駆逐古姫が言葉を発しなければそのまま砲撃戦へと移行していただろう。
「ヤルジャナイカ、コノ駆―古姫―――、ウグアアッ、コノ音…一体何ダ!?」
駆逐古姫の言葉が遮られ、一瞬だが技本機動部隊の辺りだけ朝が訪れたように眩く光り、思わず顔を顰める超高音のノイズが耳を貫く。この瞬間こそ、低空から侵攻した龍驤の航空隊が技本機動部隊に
「―――っ、あれがRJの秘密兵器って訳ね …。それよりも、せっかくの名乗りがさっきのでよく聞こえなかったわ。えっと…クチコキ、でいいのかしら?」
ニヤリと頷きかけ、すぐに青ざめた顔色に一瞬で朱が差し、ぷんすか、それ以外に表現できない表情で駆逐古姫が叫ぶ。
「口こきって…! ソンナ卑猥ナ名前デ人ヲ呼ブトハ、何ト破廉恥ナヤツダッ!」
小首を傾げて考えたビスマルクだが、何事かを思い出した様子で白い頬を真っ赤に染め、やはりぷんすか、それ以外に表現できない表情で叫び返す。
「な、何を言い出すのよ、し、失礼ねっ! でも、あれをそういう風にも言うのね、日本語は奥が深いわ…」
真っ赤な顔で俯き無言のまま立ち尽くすビスマルクと駆逐古姫。
この海域だけに訪れた時ならぬ凪は、左方向から突入してきた筑摩の主砲の斉射により破られ、まともに砲撃を受けた駆逐古姫は爆炎に包まれる。慌てて左腕に構えた、無数の砲身を備える大型の艤装を盾にしたが、至近距離から20.3.cm砲連装砲四基の集中砲火を浴び続け艤装は大きく破壊され、ついにその場に膝を付くように崩れ落ちる。うっすらとほほ笑んだまま近づいた筑摩は、連装砲の砲口を駆逐古姫の後頭部に押し当てる。そしてそのままの姿勢で僅かな視線をビスマルクに送り口を開く。
「ビスマルクさんが隙を作ってくれたおかげで全弾命中させられました。…動かないで、命令なので死なせませんが、死なない程度には撃ちますよ」
駆逐古姫の微かな動きを見逃さず、躊躇なく警告する筑摩。そこに春雨が右腕を押さえ痛みに顔を歪めながら合流してきた。
「ハ…ハル? ちょ、ちょっとどうしたのよ? …って折れてるじゃないっ!!」
ふらりと自分の胸に倒れ込んできた春雨を抱き留めたビスマルクだが、その右腕が砕かれているのを知り愕然とする。
低い姿勢のまま腹部を押さえ身構えていた
少なくとも春雨にこのまま戦闘続行させる訳にはいかない、ビスマルクはそう判断し、反論を許さない凛とした声で春雨に、そして筑摩に宣言する。
「…
色々盛り込んだために普段より文字数が2割ほど多いという始末です。最後までお読みいただいた方、ありがとうございます。