大坂を後にした南洲が、めまぐるしく過ぎた時間を振り返り報告書を作成、彼もまた彼の日常へと帰ってゆく。
(※)御注意
○時間軸としてzero-45様『第二特務課』92話からの流れを受けて進行しているお話です。
○コラボ作はちょっと苦手、こういった形での内容に興味が無い、趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨です。
○拙作と先様の両方をお読みいただけますと、より楽しんでいただけます。
zero-45様 連載
【大本営第二特務課の日常】
https://novel.syosetu.org/80139/
○内容としては互いの世界観を崩さず、更に作品世界の物語を絡ませつつも、今まで続いている連載の中に自然な形として組み込む話を目指しております。
今日大坂を出立する南洲一行だが、南洲を除く面々は未だに夢の世界の住人のままである。昨夜の宴席でのはっちゃけっぷりは南洲にとっても初めて目にするものだった。南洲本人は、実は誰よりも杯を空けていたのだが、「普通こんなもんだろ、人並だぞ」とケロッとしており、酒量に関しての基準が明らかに異なることを窺わせる。
全員で集まって飲んだのは、実は部隊の立ち上げ以来である。部隊の性質上『暗殺成功を祝して乾杯』ともならないため、ある意味当然とも言える。皆の楽しそうな顔を思い返し、またああいう機会があってもいいかもしれないな、と微笑みつつも、六神合体をやっとの思いで解除したのを思いだし、最終的には苦笑いになる。
そんな南洲は、何となく早く目が覚めてしまい散歩を兼ね大阪鎮守府内を歩いている。やがて辿りついた、『電ガーデン』と呼ばれる透明な建材で建てられたドーム型の施設。ここは大坂の艦娘達が集う癒しの場でもあり、本来の気候帯に関わりなく、様々な種類の果実が実を結ぶ不思議空間でもある。
ふと興味を惹かれ温室内を興味深げに眺めながら歩く南洲だが、やがて施設のほぼ中央に位置する半径数mの円形に整えられた芝生までやってきた。その中央には古ぼけた石塔が立っている。
『大阪鎮守府戦没者慰霊の碑』-半分消えかけた状態ながらその一文が刻まれた石碑。
何も言わず石碑を見つめ続ける南洲だが、ぽつりと呟く。
「せめてあいつらにも何か作ってやれれば良かったんだがな…」
背後から小さな足音が聞こえてくるが南洲は振り返らない。足音で誰かは分かる。
「勝手に摘んでしまいました。怒られないでしょうか」
花を両手いっぱいに抱えた春雨が南洲を追い越し、石碑の前まで進むと花を手向ける。春雨がしゃがみ込み目を閉じて手を合わせるのを見て、南洲も石碑に黙礼する。
南洲の言う『あいつら』とは、かつて彼がハルマヘラ島ウェダに置かれた前進基地の司令官だった時に失った艦娘達のことであり、今も彼のもとにいる春雨と羽黒は、その数少ない生き残りである。
◇
大坂鎮守府南側のコンテナヤードへと向かう南洲達だが、その歩みは散漫に縦に伸びている。先頭を行くのは顔を真っ赤にした秋月と手をつなぎながら歩いている南洲。「せっかく大阪まで来たのに、ほとんど出番がありませんでした…」と秋月に涙目で訴えられ、南洲は何とも言えない表情になり、彼女のしたいようにさせている。
その少し後ろを歩き二人を眺めているのが春雨と龍驤。春雨は珍しく何も言わずにそのままにさせていて、龍驤はそんな春雨をにやにやしながら見やっている。
その二人からさらに離れて、どんより項垂れながら羽黒がそれに続いている。
「うううぅ~。いくらお酒が入ってたからって……」
羽黒は自分で気付いてはいないが、いざとなると強気というか芯はしっかりしている。パッと見は気の弱い女王様というのも存外似合っているのかも知れない。
さらにさらに離れて、青白い顔で二日酔いにぐぁんぐぁん揺れる頭を押さえながらゆっくり歩くのはビスマルクと鹿島。この二人が宴席で暴走していたことは敢えて言うまでもないだろう。
そしてだらだらと続く行進の先には、母艦であるPG829しらたかと、ずらりと居並ぶ大阪鎮守府の艦娘達が待っていた。
◇
そういえば来た時も同じように正門の前で出迎えられたっけな―――南洲は目まぐるしく過ぎた大阪での時間を思い出す。査察に訪れた際、鎮守府の正面はピンクや青や黄色、色とりどりのコスプレ姿の艦娘達に
中央には総旗艦の長門、そして
「提督から伝言よ。『片づけしなきゃなので、メンゴ☆テヘッ』…わざわざポーズを付けて声に出して読めってどんな羞恥プレイなのよ、これ」
目の前では自らのポーズに照れながら
「へえ…
片づけ―――何気ないキーワードだが、南洲と吉野大佐だけに分かる暗号めいたものでもあり、納得した表情で南洲は船上の人となり、部隊ともども大坂を後にした。
◇
「
上甲板レベルにある士官室に籠り、つまらなさそうな表情でラップトップに向い毒付く南洲。嫌いな書類仕事ではあるが、査察は報告書を作成し提出、その後上司の宇佐美少将との面談をもって完結する。好き嫌いはともかく、やらねば仕事が終わらないのである。
所定のフォーマットファイルをダブルクリックして開き、とりあえずぽちぽちと書きはじめ要点を整理してみる。非公式とせざるを得ない事柄があまりにも多く、数少ない報告可能な事実を箇条書きで提出した結果、公式報告書として意味を成さず、結果として南洲は得意とはいえない『作文』をすることとなった。
◇
査察報告書
1. 査察概要
対象拠点:大坂鎮守府
対象拠点責任者:吉野三郎大佐
査察担当者:槇原南洲少佐
査察隊:春雨、ビスマルク、羽黒、龍驤、秋月(順不同)
報告書作成者:査察担当者に同じ
秘匿名称:zero-45
査察項目:包括的査察
重点項目:以下3項目
1.艦娘に対するセクシャルハラスメントの疑い
2.艦娘に対する心身への虐待による深海棲艦化の疑い
3.資材資金の不正流用の疑い
具体的な事前情報が寄せられた重点項目1及び2について格段の注意を払い査察を実施。なお重点項目3については具体的な事前情報が無く、現地入りしてからの対応になった。
2. 重点項目に関する査察結果
査察項目1:艦娘に対するセクシャルハラスメントの疑い
査察結果:起訴相当の事実は発見されず
大坂鎮守府は、艦娘の制服に関し独自の方針を持ち運用している。艦娘の制服はそもそも生体部分の保護を主目的に装用するものであるが、その機能をバイタルパート周辺に限定し軽量化する事で、機動性運動性の向上による回避性能を追求した結果、生体部分の露出が多くなり扇情的との批判を生む土壌となっていることが推測される。
その形状色等については装用者の意向も反映されているため個別性が強いものの、全般的には
長門型戦艦一番艦 長門 他数名(画像)
ピンクのキラキラしたミニスカメイド服(同系統のデザインで色違いを着用する艦娘数名確認)
大和型戦艦一番艦 大和(画像1)(画像2)
サイドに腰上まで開いたスリットが入り、ノースリーブの脇は過度に布が少なく横から横チチの見えるチャイナドレス風メイド服
金剛型戦艦三番艦 榛名(画像1)(画像2)(画像3)
袖と胴部分がほぼセパレート、標準的なミニスカート丈、上着の丈が極めて短く下チチの見えるビキニドレス風メイド服
加賀型航空母艦一番艦 加賀(画像)
細かなスパンコールが全体に縫い付けられた青いマイクロミニスカートメイド服
間宮(画像)、伊良湖(画像)
ミニスカオープンバック割烹着
電(画像)、叢雲(画像)
標準仕様メイド服にネコミミカチューシャと腰から垂れる同色の尻尾
(以下六
…何で俺があの
こんこん。
「空いてるぞ」
無造作に返事をすると、秋月がお握りと沢庵、お茶をお盆に載せ入ってきた。椅子の背もたれに寄りかかりながら伸びをしていた南洲は、入室してきた秋月を見て驚きの表情を隠せない。
白と薄茶の市松模様のシックな浴衣に臙脂色の帯。ただその着丈は中破したかのように太腿の中ほどまでむき出しになった超ミニ仕様。
「し、失礼します」
唖然として声を出せない南洲をよそに、ぺこりと一礼するとデスクにお盆を置き、片膝を着きながら南洲が床に散らかした本や制服などを拾い上げる秋月。その姿をなんとなしに見やった南洲は、口に含んだお茶を噴き出しそうになった。
超ミニの着丈と妙に緩い胸元の袷から、本来見えるべきではない部分がさりげなく、それでいて確実にアピールしてくる。南洲にしてはかなり珍しく、ぼんやりと見入ってしまったが、すぐに視線に気付いた秋月が慌てて自分の体を庇うようにし、南洲も慌ててキーボードを適当に叩き報告書を作成しているふりをする。
「あ、秋月…? お前、その…なんだ……どうした?」
「そ、その……鹿島さんから提督はこういうのが好きって聞いたので…。でも私にはこれが精いっぱいで…。ご、ごめんさない、やっぱり心の準備がっ!!」
秋月は差し入れを運んできたお盆で真っ赤になった顔を半分ほど隠しながら、逃げるように部屋から出て行った。
「…続き書くか」
ラップトップのモニターに視線を戻した南洲は呆然とする。これまで書いた報告書が消えている。Ctrl+Zを連打するがタイトルと1. 基本要件、それに無意味な文字数列の羅列しかデータが復旧されない。秋月を見ていたのを誤魔化した際、自分で書いたものをぐちゃぐちゃにした挙句その状態で保存していたことを南洲は知らなかった。軽いため息をついてあっさり気分を切り替えると30秒で書き終え、南洲は差し入れのお握りを頬張り始める。
「そもそも俺に書類作成を頼む方が悪い」
南洲が仕上げた公式査察報告書、そこにはタイトルと査察概要、そしてただ一文。
『コスっちゃう鎮守府。変わってるけれど問題なし、以上』
とだけ記されていた。後日南洲は宇佐美少将に呼び出され、秘書艦の大淀と二人がかりで説教を受け、徹夜で報告書を書き直すことになったのは別の話である。
◇
大坂査察からしばらく経ったある日の事―――。
「提督、槇原少佐から貨物と手紙が届いているよ」
その朝、大坂鎮守府の吉野大佐のデスクに一通の手紙が届いた。いつも通り右に時雨、左に
『誤った情報による査察実施で、大坂鎮守府に迷惑をかけたお詫びも兼ね、俺が壊してしまったTOYOTAスープラGA70 3.0GTターボAの程度の良い車輛を見つけたので贈らせてもらう。ぜひ受け取ってほしい』
今時手紙とは古風だけど律儀な男だねぇ、と吉野の顔がほころんだのも、その後に続く文章に目をやるまでの一瞬のことだった。
『そちらに電話して納品先を確認したら夕張重工とのことだったので、そのように手配しておいた』
吉野は慌てて受話器を取り上げ夕張の工廠へと内線を掛けているが、何かが遅かったらしい。ぷるぷる震えながら肩を落とす吉野と対照的に、受話器越しに聞こえる『スプー弐号機、リフトオフッ』と誇らしげな夕張の声。
様々な思惑によって一瞬だけ重なり合った、本来出会うはずのない者たちに訪れた非日常の時間。それは彼らの日常に僅かな変化を残し、終わりを告げた。
今話にて、zero-45様『大本営第二特務課の日常』とのコラボ完了となります。途中zero様が体調を崩されるなど想定外のこともありましたが、最後まで完走させることができほっとしております。
挙動と個性がはっきりしている第二特務課のキャラを動かし、かつ自作のキャラとうまいこと絡めて行く難しさの反面、個性的な動きをするキャラたちのことを色々考える時間はとても刺激的で、今回のコラボは非常に楽しかったです。
zero-45様、そしてコラボ作におつきあいくださいました読者の皆様、改めて感謝とお礼を申し上げます。
次回投稿分からは、第4章の後段へと場面は切り変わります。