逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-   作:坂下郁

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zero-45様『大本営第二特務課の日常』コラボ第三回。

吉野大佐の策に嵌った南洲は、大坂鎮守府近海で深海棲艦勢との戦闘に突入する。

(※)御注意

○この章はzero-45様の作品世界とコラボレートしたお話ですので、コラボ作はちょっと苦手、こういった形での内容に興味が無い、趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨です。

○拙作と先様の両方をお読みいただけますと、より楽しんでいただけます。

zero-45様 連載
【大本営第二特務課の日常】
https://novel.syosetu.org/80139/

○内容としては互いの世界観を崩さず、更に作品世界の物語を絡ませつつも、今まで続いている連載の中に自然な形として組み込む話を目指しております。


32. 強行

 議論は続く中、長門が端的に話をまとめる。これまでの情報を整理しながら、彼女なりに得心がいったのだろう。

 

 「査察などと考えるから分からなくなるのだ、これは時雨を標的に見せかけた、我々の哨戒線への奇襲攻撃だ。そう考えれば全てすっきりする」

 

 吉野は長門の意見に同意するように深く頷き、自分の見解を述べる。

 「今の時点で、時間の主導権は相手さんにあるから、まずはそれを取り上げて、ついでに場所もこっちで決めちゃおう。そのために…そうだねぇ、夜間哨戒の計画を少し見直してリークしてみようか。もし喰いつくようなら、軽―く相手しちゃってくれるかい、朔夜(防空棲姫)サン。これで相手の狙いも色々見えてくるんじゃないかな」

 

 軽い口調のまま策を立てた吉野。 “影法師”と呼ばれた狙撃手が、自分が優位に立つ時間と場所に標的を誘う姿を垣間見た長門は、頼もしさと酷薄さの両方を覚え軽く身を震わす。一方で戦場にあるかの如く朔夜(防空棲姫)の表情が楽しげに歪むのを見て、茫洋とした表情で吉野が釘を刺す。

 「ああ、言っておくけど沈めるのは厳禁。大坂鎮守府近海で査察部隊が沈められたとなると、相手にしたらそれこそ最高の口実だからね。まぁ、そんな『捨て艦』まがいの手は使ってこないとは思うけど」

 

 「我々はどうすればいい、提督よ」

 暗に自分達の出番はないのか、と腕を撫しながら長門が問う。

 「そうだねぇ、彼らが乗り込んできた時にもてなしてあげて?」

 

 後に吉野は自分のこの言葉を激しく後悔することとなるが、それは後の話である。

 

 

 

 南洲達は大坂鎮守府まで約30km、六甲アイランドの陰に隠れ相手側からはこちらの様子を窺えない港湾警備拠点の阪神基地に滞在し、通信傍受と解析、作戦立案にあたっていた。阪神基地は、かつて大阪湾や紀伊水道等海域の防衛及び警備を任務としていた旧海上自衛隊の基地であったが、深海棲艦との緒戦、わけても()大阪鎮守府防衛戦で壊滅の憂き目に合った場所でもある。

 

 そして今夜、南洲達が動き出すのだが、結論から言えば吉野の術中に嵌ったことになる。

 

 

 六甲アイランドの前面に進出したPG829を守る様に、鹿島と龍驤が展開する。部隊の『目』として電探とソナーを備える鹿島は早期警戒・管制艦の役割を担い、技本による新しい試作装備を先行実装した龍驤は夜間索敵と今回に限っては威嚇攻撃を担う。二人を追い越すように他の四名が大阪鎮守府北西15km地点、戦艦レ級が担当する哨戒海域を目指し駆け抜けてゆく。

 

 そんな四人を見送りながら鹿島の方を見やる龍驤は、チームに本格的に合流して初めて分かったこともある、そう思っていた。龍驤も勿論南洲のことは隊長としては信頼している。秋月もそうだろう。だが部隊の初期メンバー四名は完全に『槇原南洲』という一個人への感情で動いている。その傾向が特に強いのが春雨と鹿島、ついで羽黒。ビスマルクもそうだが非常にウブな感じがする。

 

 -あやういチームやな…。

 

 「なぁ鹿島、ちょっとええか…」

 龍驤は鹿島へと近づくが、鹿島は思いつめたような表情をして両手で龍驤を突き飛ばし、三式爆雷を投下する。

 

 

 そして次の瞬間に鹿島は水柱に飲まれ、龍驤が立ち上がった時にはその姿は消えていた。

 

 

 「おやびんの指示通り、やっつけた。けど、危なかった」

 暗い海面に目元まで顔を出し、水面に白い髪を広げながら様子を窺う(潜水棲姫)。彼女もまた鹿島同様、大坂鎮守府部隊の『目』として警戒を続けていた。ほぼ同時にお互いを発見し攻撃に入ったが、龍驤を庇った分碧の雷撃が先に届いた。鹿島を案じながらも警戒態勢を崩さない龍驤を見ていた碧だが、ふと何かを思い出したように潜航を始め、そのまま海域を後にした。

 

 -お腹空いた、お握り食べたい。それに指示、守る。

 

 吉野が(潜水棲姫)に与えた指示はシンプルなもの。南洲の部隊の『目と耳』-鹿島を沈めずに退けることだった。

 

 

 

 

 「話が違うじゃない? まぁいいわ、深海棲艦には違いないもの。ねぇそこのアナタ、ちょっと色々お話ししたいんだけど、いいかしら」

 

 平静を装い、いつも通りの強気な物言いで目の前にいる深海棲艦に話しかけるビスマルクだが、内心は早鐘のように鼓動が高まり、最高度の警戒サイレンが心中で鳴り響いていた。

 

 -こいつら…防空棲姫に戦艦棲姫二体(ダブルダイソン)か、マズい状況ね。アトミラール、裏をかかれてるわよ。

 

 「………貴様如キニ『深海ノ姫』ガ耳ヲ貸ス価値ノアル話ガデキルトハ思エナイガ…?」

 吉野の言いつけもある、朔夜(防空棲姫)は査察部隊と邂逅したら、相応の警告を与え追い返すつもりで尋常ならざる我慢を自分に強いている。

 

 気だるげな戦艦棲姫、ヤマシロと“姉”は、朔夜の左右でやる気無さそうに佇んでいる。なお姉の方の個体名はフソウと思われるが、頑なに姉である。

 

 「ヤマシロ、青いはずの空がこんなに暗く……あ、流れ星」

 「姉様いまは夜ですよ。嗚呼……ホントなら暖かい布団の中でぬくぬくしているはずだったのに……不幸だわ」

 

 -片方がヤマシロ、もう片方がその姉…ということは…?

 春雨の様子が明らかに変わったことに誰も気づかず、朔夜とビスマルクがにらみ合う中、唐突にそれは起きた。

 

 「…ヤマシロ、ほら、白い流れ星が…こんなに近くぅぅうううっ!!」

 

 “姉”がもんどり打って海面を転がってゆく。“姉”が流れ星と見た物は、春雨が渾身の力で投じた棘鉄球(モーニングスター)の直撃だった。普段の春雨とは異なる好戦的な行動に皆驚くものの、これが開戦のゴングとなった。

 

 「ハハハッ、ソウイウツモリナラ遠慮ハイラナイワネッ」

 -殺シハシナイワヨ。ケレド相手ガ弱ケレバ死ヌカモネ。提督、悪イケドソコマデ責任持テナイワヨ。

 

 一気に事態が動き出す。朔夜(防空棲姫)が叫び、ビスマルクが身構え、春雨が疾走し、姉が現実逃避し、ヤマシロが不幸を嘆く。秋月が四基八門の長10cm砲を一斉射撃でヤマシロを捉えるが、その左右に侍る巨大な艤装の手で阻まれた。

 

 「ビスマルクさんっ!!」

 普段ならここで間髪入れずにビスマルクか羽黒、あるいは両方から一斉砲撃が加えられるタイミングである。だが、今回は春雨の暴走のせいで作戦自体が破たんしている。秋月の目には、急速接近して距離を潰し、ビスマルクに超至近での殴り合いを仕掛けている朔夜(防空棲姫)の姿が映っていた。

 

 ビスマルクは朔夜を突き放すことができず、春雨もモーニングスターを振り回して“姉”を追い回しており、理由は違えど近接戦闘中の二組に支援砲撃を行えず、羽黒はヤマシロを抑える秋月の支援を行うために方向を変えている最中で、南洲隊としては最も避けたかった個別戦闘に自ら陥ったことになる。

 

 「さっさと引きぃっ! ウチら嵌められてとるでっ!! 鹿島がやられたっ」

 龍驤から緊急通信が入り、闇夜を切り裂いて急降下爆撃隊が朔夜たちに迫る。

 「深海勢は動くなっ! アンタらはうまいこと避けぇーやっ!!」

 

 先行実装された新しい試作装備-空母系艦娘に夜間攻撃能力を付与する航空戦力、彗星艦爆で構成される美濃部隊、またの名を芙蓉部隊。沖縄戦前後、全軍特攻の風潮の中それに抗い、夜襲戦法により成果を上げ続けた稀有な存在として今もその名が知られる。

 

 それでも相手が悪かった。

 

 戦艦棲姫への集中爆撃で、春雨と秋月の退路確保には成功したが、ビスマルクが相手取っているのは選りによって朔夜、本来の名は防空棲姫である。

 

 「面白イコトシテクレルジャナイ。…サテ、私タチニチョッカイヲ出ス愚カナ人間ニ挨拶シヨウカシラ」

 

 多少の被弾を受けたが、自分に突入してきた美濃部隊を全機撃墜し、涼しい顔で嘯く朔夜。右手で掴んでいるビスマルクを無造作にヤマシロに投げ渡す。春雨と秋月の退路を死守しようと、一人で戦艦棲姫二体を相手取った羽黒はすでに鹵獲されている。

 

 

 

 逃走を続ける春雨と秋月を追う朔夜の目がPG829を捉えた。速度を上げ距離を詰めるうちに、奇妙な物が視界に飛び込んできた。駆逐艦達と入れ替わる様に突進してくる一人の艦娘-龍驤の姿だ。

 

 「無傷なのはウチだけやし、美濃部の仇も取らんと尻尾巻く訳にはいかへんしな。隊長、さっさと逃げーや」

 

 タックルをするように朔夜の腰にしがみ付き、動きを止めようとする龍驤だが、容易く組み止められ、無防備な背中に集中砲撃を受け沈黙。軽いため息をつき顔を上げた朔夜めがけ、突如PG829から探照灯が照射される。まともにそれを見た朔夜の視界が回復した頃には、南洲達を乗せた母艦ははるか遠くに立ち去っていた。

 

 

 

 「…えっと朔夜サン、『軽―く相手しちゃった』結果がコレぇ? 提督ワケガワカリマセンケド」

 

 執務室の吉野の目の前には、ディアンドル風ミニスカートドレス、要するにオクトーバーフェストの格好をさせられたビスマルク、コルセット状の腰回りになったハイウエストスカートに白いブラウス、いわゆる童貞を殺す服姿の鹿島、超ミニスカ仕様以外はシンプルなデザインのメイド服姿の羽黒が、器用にもキッコーな感じで縛り上げられている。そしてもう一人、水色のスモックにミニスカートと黄色い帽子という園児服を着せられた龍驤が後手に縛り上げられている。

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

(提供:たんぺい画伯)

 

 「感謝してよね、テイトク。誰も沈めてないし、入渠させて新しい服まで着せてやったんだからね」

 「おやびん、指示通りにした。褒めて」

 

 バ○ガール姿の朔夜(防空棲姫)と黒いメイド服姿の(潜水棲姫)が全身でアピールしてくるので、吉野は取りあえず両手でそれぞれの頭を撫でてやる。

 

 「コイツら、強いけど綺麗な戦い方だから、怖くはないね。けどウチで鍛えればいい線いくんじゃない?」

 

 滅多な事で相手をほめない朔夜(防空棲姫)がここまで言うのは珍しい。だが一連の事態について報告を受けた吉野は、さらに頭を抱え、毛根の心配をする羽目となった。経緯はどうであれ、公式に通知のあった大本営の査察部隊を拉致したと言われても反論の余地がなく、奪還のため大兵力を送り込まれても不思議ではない状態に一気に陥った吉野は、先手を打たねばならない、と珍しく焦りの色を表に出していた。

 

 「漣サン?」

 「ほいさっさー」

 

 漣はどこかに通信を行うと、右手でOKサインを作る。漣のデスクに近寄ると、ヘッドセットを頭に付ける吉野。通信先はPG829しらたか、応対した相手は言うまでもなく―――。

 

 「…誰だ」

 聞きなれない男の声がヘッドフォンから聞こえてくる。

 「あー…、こちらは大坂鎮守府で、自分は司令官をしている吉野三郎大佐ですけど、そちらは…?」

 「こちらから名乗らせたいってか。まぁいい…大本営艦隊本部付査察部隊、隊長の槇原南洲少佐だ」

 

 

 様々な思惑の結果、本来交わらない人達が誤解を深めたまま初めて触れ合った瞬間である。印象は最悪の物だとしても。

 

 

 「あーやっぱりねぇ…。いえ、現在こちらで、そちらの所属と思われる艦娘四名を()()しましてね。事後について貴見を先に聞くべきだと思いまして」

 「………………………ご配慮ありがたいね。明日迎えに行くよ。だから…首を洗って待っていてくれ」

 

 ヘッドセットを漣に返し自席へと戻ると、喰いつきそうな目つきでこちらを睨みあげるビスマルク達四名を見て、深々とため息をつきながら吉野は椅子に深々と身を預ける。

 

 

 「んー、厄介な人を完全に怒らせちゃったみたいだねぇ、どうしようかな」




なんと支援絵を頂くという! ありがたいことです。


『無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~』
https://novel.syosetu.org/83197/

の作者たんぺい様からの贈り物です。

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