逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-   作:坂下郁

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zero-45様『大本営第二特務課の日常』とのコラボ第二回。

吉野大佐率いる大坂鎮守府側も、すでに南洲の査察部隊が乗り込んでくることを事前に察知。所属艦娘に警鐘を鳴らしつつ、南洲の真の狙いを探る。

(※)御注意

○この章はzero-45様の作品世界とコラボレートしたお話ですので、コラボ作はちょっと苦手、こういった形での内容に興味が無い、趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨です。

○拙作と先様の両方をお読みいただけますと、より楽しんでいただけます。

zero-45様 連載
【大本営第二特務課の日常】
https://novel.syosetu.org/80139/

○内容としては互いの世界観を崩さず、更に作品世界の物語を絡ませつつも、今まで続いている連載の中に自然な形として組み込む話を目指しております。


31. 標的

 大坂鎮守府第一講義室。

 

 かつてこの部屋で、大坂鎮守府の発足にあたり吉野大佐が演説を行い、艦隊総旗艦の長門が所属全艦娘を代表しそれに応えた。『菊水の契り』として後世の士官学校の教本にも名を残す、艦娘を率いる提督の心構えとそれに魂を賭けて応じる艦娘の意気の全てが凝縮された魂のやり取り。命を賭けさせる側が賭ける側に何をもって報いるのか、命を賭ける側が何を誇りとして死に赴きながら生を誓うのかを余すことなく伝える名演説であった。

 

 

 そして今、同じ部屋に再び集められた艦娘達。

 

 教導艦隊の根拠地らしく演壇を兼ねた教壇には、全ての艦娘が菊水の紋のもと心を一つにしたあの日と同じく、吉野三郎大佐が立つ。あの日を境に、全員が吉野三郎というただ一人の男を、主と、司令官と、強さと、友と、夫と定めて全てを委ねた。

 

 『自分は君達の命を貰う、その代わり自分は君達と共に在り、共に死ぬ、力無き者であるが共に往こう、それが今の自分が君達に確約出来る唯一の契約だ。自分は確かにそう言った』

 

 それは大阪鎮守府の発足宣言を結んだ吉野の言葉であり、今日の話はその引用から始まった。

 

 

 教壇に立つ吉野を挟む様に、左右には時雨と(潜水棲姫)が侍り、正面の席には艦隊総旗艦の長門が座る。いつもと違うのは、情報室から出てきた漣が演台近くの端末を操作している事だ。荘厳な曲調でBGMが流れ始める。『ワルキューレの騎行』、誰が言うともなく、自然と部隊を体現する曲として用いられることが増えた。

 

 「そしてその契約を守るため、諸君たちにも協力してほしい」

 

 集まった艦娘達の表情が引き締まる。吉野の口から重要な事が語られるようとしている。

 

 「大本営は、まだ我々、大本営麾下独立艦隊第二特務課に不信があるらしく、査察部隊を送り込んでくるようだ。時期は未定、というより査察である以上事前告知はないものと思われる。自分は、我々のあるがままを、しっかり見せたいと考えている。しかし相手にも思惑がある、これがセレモニーで終わるか、新たな試練となるか、全て我々にかかっている」

 

 そこまで言うと吉野はいったん言葉を切り、演台脇の椅子に腰かけ、全員に視線を投げかける。

 

 吉野自身が収集した情報、そして既存システムに損害を出しながらも漣のハッキングで手に入れた情報、それらを総合すると、間違いなく大本営から査察部隊が派遣されてくる。

 

槇原南洲特務少佐率いる六名の艦娘から成るチーム、通称MIGO(ミーゴ)。すでに複数拠点で提督の不法行為を摘発しているが、吉野にとっての問題は、この特務少佐こそトラック泊地で代理指揮を取り深海棲艦の強襲を退けたとされる人物であることだ。そして報告書の裏にある事実も相応に掴んだ。提督の負傷と秘書艦の深海棲艦化、艦娘による泊地封鎖、この少佐はトラック泊地に乗り込み事態を収拾し、その秘書艦を大本営に連行した。なら槇原少佐が今回照準を合わせているのは---。

 

 

 「一体何故査察部隊に目を付けられるようなことになったのでしょう?」

 おずおずと手を上げながら朝潮が生真面目な表情をやや青ざめさせ質問する。

 

 「それはですね…」

 先ほどより砕けた口調になった吉野がやや言いよどみながら、それでも意を決したように口を開く。

 

 

 「提督はせくはらを疑われちゃってるんです」

 

 

 その場にいる全ての艦娘の目が鋭く光り、自分以外の全員に素早く視線を送り合う。せくはら…折り目正しい紳士に有るまじき下種の振る舞いにして、由緒正しき変態紳士にとって息をするより自然な振る舞い。だが艦娘全員は考えていた。誰がそんな浦山怪しからん事をしてもらっているのか、と。夜毎のお布団潜り込み案件でさえ、金縛りにあっているが如く頑なに何もしてこない。益荒男どころか植物プランクトンのような男をどうやってそんな気にさせたのか?

 

 榛名が発言の許可を求める。

 

 「何もしてもらえないことを『せくはら』と呼ぶなら、その査察官に報告すれば提督に何かしてもらえるんでしょうか? あ、でも、放置プレイとか言い張られちゃう…? むぅ…榛名、頑張りますっ!」

 

 「その手がありましたかっ!」

 妙高がぽんっと手を打ちながらウンウンと頷く。他の艦娘もざわざわとしだした。

 

 唐突にBGMが切り替わる。荘厳な騎行曲から一転し、巫女とナースが繰り返し連呼される元祖電波ソングと呼ばれる曲が講義室に鳴り響く。漣が珍しく慌てて多少端末を操作していたが、気持ちのこもらない感じで軽く詫びる。

 

 「あっちゃー、このパソもシステムクラック受けてたとは。サブちゃんごめん、BGMこのままで」

 

 吉野が堪らずに力説する。

 

 「この場面でエ○ゲ曲とかヤメテお願いだから。ただでさえ提督せくはら嫌疑掛けられてるのにぃぃぃっ!。だいたいみんながアレです、色とりどりのメイド服とか網タイツのピンヒールとか、バ○ガールとか、画面の向こうの提督さん達のリビドーを煽りまくるような恰好で鎮守府を闊歩するからこんなことになったのっ!! なんか提督が無理矢理みんなにそんな恰好させてるみたいな空気になってるのよ!?」

 

 最前列に座る長門は半ばあきれ顔で吉野を眺める。長門の目には、着席した瞬間にごく自然にグラーフが背後に回ったかと思えば頭を胸の置台にされ、右手は時雨とつなぎ、左手で(潜水棲姫)の頭を撫でている吉野の姿があった。

 

 

 

 「…改めまして、査察対策会議を行いたいと思いマス」

 所変わって執務室で、疲れた表情で会議の開催を宣する吉野。今この場にいるのは漣、長門、朔夜(防空棲姫)の三人だ。

 

 「提督よ、なぜこの三人だけを残したのだ」

 壁に寄りかかり腕を組む長門が疑問を口にする。艦隊総旗艦の長門、深海棲艦部隊の頭といえる朔夜(防空棲姫)、そして情報室室長の漣、大坂鎮守府の中心メンバーともいえる。

 

 自席に座りデスクに肘を付きながら顔の前で手を組む、いわゆるゲンドウのポーズで、吉野は()()の査察対策を話し始める。

 

 「んー、さっきの『せくはら』の話も本当なんだけど、あれは口実だと提督は疑ってます。今度の査察部隊、多くのケースで当該拠点での戦闘行為、提督の死亡や重傷、それと深海棲艦の関与があるんだよねぇ」

 

 多言無用、の前置きをしながら、吉野と漣は、トラックの件も含めこれまでに集まった情報を整理して他の二人と共有する。

 

 「へぇ…確かに胡散臭い査察官ね。まさか私たちに喧嘩売りに来るって訳?」

 「トラック泊地の秘書艦は瑞鶴か。まさかそんなことが起きていたとはな」

 「ご主人様が大隅大将配下の諜報部隊(インテリジェントコープス)なら、この槇原少佐は三上大将配下の強襲部隊(アサルトフォース)、うんにゃ、暗殺部隊(アサシネーションチーム)って感じにしか思えないナリ」

 

 朔夜と長門がそれぞれに感想をもらし、漣が自分の端末を操作して画像を各自のタブレットで閲覧できるようにする。

 

 「む」

 「あら」

 「おいイチゴパンツ」

 

 送られてきた画像、そこには入浴直前と思われる、たれ○んだのトランクスに手をかける吉野の裸形が写っていた。

 

 「こいつは失礼、てへっ☆」

 ウインクしながら自分で自分の頭をコツンとする漣。入れ替わりに槇原南洲少佐と彼のチームの画像が表示される。だが吉野は、先ほどの自分のマジで脱いじゃう5秒前の写真が、艦娘達の持つ()()()()()()で共有され、しかも『会員制コミュニティ入会受付中・特典は提督のマル秘写真(添付よりピー(放送禁止)なやつ♡)』のメッセージまで送られていた事を知る由もなかった。なお漣、確信犯の模様。

 

 「じゃぁ提督は、コイツらの狙いは何だと思ってる訳?」

 「万が一提督の命を狙うような輩なら、この身に代えても長門が許さぬ」

 

 視線が吉野に集まる。そしてその吉野の視線はデスクの下へ向かう。デスクの下からは見上げる時雨の視線がある。

 

 「えっと時雨サン? どうしてそんな所にいるのかな?」

 「デキる秘書はご主人様が会議中、机の下に潜ってご奉仕するものだって聞いたからだけど?」

 「………明石?」

 こくりと頷く時雨。条件反射的に吉野は叫ぶ。

 「あかしぃぃぃぃいいいっ! (以下略)」

 

 激情に駆られても瞬時に素に戻るのが吉野のいいところである。いまだ机の下から上目遣いで見上げる時雨の頭を撫でながら、他の三名を見据えながら鷹揚に言葉を紡ぐ。

 

 「うーん、確証を持つには情報が少ないんだけどね、時雨サンが狙いだと思わせたいんじゃないかなぁと提督は思いマス」

 

 

 

 南洲たち一行を乗せた部隊の専用艇PG829しらたかは呉を出航し瀬戸内海を東へと向かう。波静かな瀬戸内海の海面は鏡のように日の光を反射して煌めき、夕暮れ時ともなれば島々により生まれる陰影と相まって絵画のような美しさだ。

 

 そんな詩的な光景に目をくれることもなく、南洲と六名の艦娘-春雨、羽黒、ビスマルク、鹿島、秋月、龍驤-は作戦準備に余念がない。

 

 

 「時雨という秘書艦を大本営に連れてゆく、それが狙いだと思ってるだろうな」

 

 

 吉野三郎大佐-知れば知るほど厄介な相手だと思う。大隅大将を後ろ盾に持つ、元諜報部員にして現提督。後ろ盾がどうこうという輩はこれまでも沢山いたし、南洲はその手のことを気にするタイプではない。むしろ吉野大佐の経歴自体が南洲に警鐘を鳴らす。“影法師”と呼ばれ、大隅大将の()()()()を処理し続けてきた諜報部員にして、卓越した狙撃スキルの持ち主。

 

 「ん、時雨狙いちゃうんか?」

 龍驤が疑問を投げかける。どこまで本当か分からない話が多く転がる大坂鎮守府だが、この時雨にしても艦娘と深海棲艦の中間的な存在で、戦闘時には通常の能力を遥かに超える戦闘力を発揮するということだ。この艦娘を抑えさえすれば、吉野大佐が何をしているのかを白日の下に晒すことができる。だが―――。

 

 「それ以外にも複数の深海棲艦が所属している。公式話では鹵獲や投降受入とあるが、果たして…所属艦娘をフォールダウンさせた可能性もゼロではない。この線から当ろうと思う。大坂鎮守府近辺海域で、まずは()()()()()()()()()でもしようと思ってる」

 


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