※ご注意
zero-45様【大本営第二特務課の日常】
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と世界観のごく一部を共有している側面がありまして、今回は先方のキャラに登場して頂き物語が展開しています。コラボというほど緊密ではありませんが、こういう時もあるんだね、という感じでご理解いただければと思います。
舞鶴鎮守府司令部棟内、司令長官室。
秘書艦の千歳が普段通りに開けた部屋のドアの向こう、重厚な作りの執務机に座る、短く刈り上げた頭に額から側頭部に掛けて大きな傷跡のある男。その男が、歓喜としか表現できない表情でPCの画面を覗き込んでいる。
「やっぱコイツとやりてえもんだな」
「司令官、輸送機が到着しました。あと緊急電が入っているのをご確認されましたか…って聞いてますかそこのエロオヤジ、お仕事ですよ」
ちなみに輪島中将が見ていたのは裏物ではあるが、千歳の想像したような内容ではなく、大坂鎮守府の漣から入手した映像である。
「千歳か。今いい所だったのによ。俺のお楽しみを邪魔したんだ、その価値がある話なンだろうな、おい」
毒付く上司の態度の悪さを意に介さず、狂犬の秘書艦は淡々と情報を伝えてゆく。
「価値の有無はお好きに判断なさってください。まず緊急電から。大本営内海軍病院から精神に変調をきたした佐官が一名脱走し現在逃走中、見つけ次第射殺とのこと。それと…その、艦隊本部から輸送機が到着、翔鶴、神通、神風、霧島の四名の受領、滞りなく終了し営倉に収監済みです。…司令官、聞いてもいいですか?」
ぎろりと鋭い視線を返す輪島中将だが、千歳は臆する事なく質問を続ける。
「あの四人は一体なぜ舞鶴に? 重犯罪者なら艦隊本部で軍事法廷を開廷し処分を決すればよいのでは? それにあの四人の纏っている空気…本当に私達と同じ艦娘なのでしょうか?」
輪島中将はぎいっと椅子を大きく鳴らし体勢を直すと、些か不機嫌そうに答える。
「外国への
「えっと…槇原南洲特務少佐です」
輪島中将は無言のまま
◇
「…司令官、本当に来ますか?」
「俺も技本に関する事を色々調べたンだがよ、俺の勘が正しけりゃあ奴は必ず来る………いや、すでに来ていたようだな」
千歳と輪島中将が立つのは、舞鶴鎮守府の司令部棟前である。この施設の奥に移送された四人を収監した営倉がある。中将の命により、正面を除き他の出入り口は全て封鎖、司令部棟を中心に所属艦娘による包囲網を形成し、南洲を待ち構えていた。ほどなく、正面から続くアプローチ沿いに、背中に
「槇原ァ、なんだぁオイそのでっかい刀、竜でも殺せそうだな。
「ウチの…? あの四人をどうするつもりだ?」
「詳しい事は知らねえが、あの四人は艦娘と深海棲艦を行き来できンだろ? そんな貴重な戦力、なんで外国にくれてやらなきゃなんねーンだ? 『抵抗あれば処分しろ』って指示だからよ、連中には書類上死んでもらうさ。そして舞鶴で建造した事にして掻っ攫う。…槇原、お前は何で命懸けで追っかけてきたんだ? あの中にお前の女でもいるってか…まさかな」
艦隊本部の指示を逆手に取り、堕天艦を自身の戦力とする-輪島中将はそう明言し、一方でそれを追って舞鶴に現れた南洲の意図が掴めず、わざと揶揄するような口調で挑発する。それに対する南洲の言葉は、
「人間だろうが艦娘だろうが、生き方は自分で決めるものだ。その権利を奪うな。あいつらがここに留まり戦う事を望むなら、俺はそれでも構わない。だが…そうじゃないなら、力づくでも連れ帰る。邪魔しないでもらえると、無駄な血を流さないで済むんだがな」
「はっ、言ってくれるねェ。手前…俺達は戦争やってんだろうが!! 人類が勝つために、生き残るために、俺達は勿論艦娘だって死ぬ気で戦い続けてンだよ、猫の手一つだって無駄にできる訳ねーだろうが。夢見ンのもほどほどにしておけよ」
分かった事は簡単で、分かりあえない事をお互い理解したということ。
「手前ら、手ぇ出すんじゃねえぞ。…千歳ェ、
いくつものサーチライトが照らす夜の司令部棟前で、二人の男の間で緊張が一気に高まる。輪島中将が司令部棟を包囲する艦娘達の手出しを禁じ、にやりと凄愴な表情を浮かべる。何も答えず、南洲はがしゃり、と重い音を立て背中の大剣を抜き脇構えに構える。それに対し、脇差を千歳に預けた輪島中将は、自然体から静かに腰を落とし、左手で同田貫の鯉口を切り柄に右手を添える。
分かった事は簡単で、さり気ない所作を見るだけでお互い無傷では済まない技量を有してること。
◇
艦娘達の間での
Gihonpink@gihonpink1・1時間
返信先:@megane-slitさん、他68人
にらめっこ
Gihonpink@gihonpink1・1時間
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めいどきた
Gihonpink@gihonpink1・1時間
返信先:@hentaisaさん
それはあなただけです
Gihonpink@gihonpink1・1時間
返信先:@megane-slitさん、他14人
やばい
ちなみにGihonpinkは明石で、Megane-slitは大淀である。
南洲から武器の準備をしてほしい、そう頼まれた明石だが、出来るのは技本経由で多少の武器と移動手段を秘密裏に融通するくらい、このままでは南洲は犬死する可能性が高い。そう思い、もともと宇佐美少将付の秘書艦であり、かつ南洲の事もよく知っている大淀に意見を求めた。
最初は驚きのあまり開いた口がふさがらない、そんな表情をしていた大淀だが、考え始めた。一連の経緯は、マクロで見れば艦隊本部の健全化につながり、宇佐美少将の動きも私利私欲だけではなく、清濁併せ飲むという意味では理解しなければならない部分も多い。だがそれでも思い出す言葉があった。
-感傷的な人だと思います。
-逆にそんな人なので、彼から目が離せなくなる艦娘が出ても、女性として言うなら、不思議はないでしょうね。
それは槇原南洲を評した自分の言葉。理不尽さをも含むMIGOへの措置を通して権力を引き寄せようとする将官たちを見ていると、ぼろぼろになっても真っ直ぐに進もうとする南洲の覚悟が好ましく見えてしまう。この時点で、大淀は覚悟を決めた。
「できるだけの事はやりましょう、明石さん。以後のやりとりはTwi⚫︎⚫︎erで。私に考えがあります。あとは槇原少佐次第な所もありますが…」
一斉に広範に、それでいて分かる相手には分かるーモーニングスター、つまりMIGOの春雨を暗示するこの
大淀のこの目論見は成功し、かつて南洲に救われた事のある艦娘はもちろん、艦隊本部の処置に内心納得していない、後に艦隊派と呼ばれる一部の将官も輪に加わってきた。そうして南洲が舞鶴を
◇
今の南洲は右腕は義手で視界は左眼のみとなった分、出来る事が限られている。常に左眼だけで相手を視界に捉える都合上、半身になり左半身を敵に晒しながら、刀身の長さを利して横薙ぎに切り払う構えを見せる。僅かに重心を左脚に移し踏み込む姿勢を見せたと思うと、南洲は軽く後方へと跳ぶ。
「ひっかけ問題かよ。昔から苦手なんだよな」
その僅かな重心の移動を見逃さなかった輪島中将だが、気持ちが逸った分その動きに釣られ抜かされた。抜いた以上しょうがないと、右足で踏込み片手抜討で正面から掛かる。南洲は着地と同時に大きく振りかぶりながら突っ込み低く重たい刃風と共に真っ向から大剣を振り下し、振り切った輪島中将の刀を上から狙う。がきん、という鈍く低い金属音がし、地面を固めるコンクリートに大きな亀裂が入る。
「これを躱すのかよっ!!」
南洲はすぐに体をひねり視界を確保、大剣を構え直そうとして驚愕の表情に変わる。輪島中将は、南洲の斬り下しを躱すと、むしろ大振りの隙をつき、南洲の視界の死角となる右側から、一撃目に続き左足を大きく踏み出し、右膝をついた低い姿勢から真向を両断しようと迫っていた。南洲は咄嗟にラリアートのように、大剣の側面で相手を叩き飛ばした。自分から跳び威力を殺しながら、ふわりと着地した輪島中将は、納得と不満が混じった表情を見せる。
「
-円連…確か
膠着状態に入るかと思われたその時、司令部棟の奥が内側から爆ぜ壁や窓ガラスの破片が飛び散る。突然の事に、営倉を包囲していた艦娘達の輪が乱れる。すでに何名かが司令部棟に突入し、またある者は輪島中将の護衛に回ろうとし包囲網が綻ぶ。飛び交う悲鳴と怒号、司令部内でも戦闘が始まっているようだ。輪島中将が忌々しそうな様子を見せる。
-地下からか、クソッ! にしてもやべえな、ウチの連中は近接戦闘なんざ訓練もしてねェからな。
「やめろ手前らっ!! 動くなっつただろうがっ、同士討ちになるぞっ」
騒然とした現場の騒音に隠れるように、再び壁が爆ぜ金属のすれ合う音がしたかと思うと、
「不意打ち上等っ! が、甘ェんだよっ!!」
振り返りざまに両脇を締め一気に振り下ろされた同田貫は、激しい金属音と火花を散らしながら棘鉄球を打ち、その軌道を逸らし直撃を許さない。朦々と立ち込める埃と破壊された司令部棟の壁、その破口から春雨が三人の深海棲艦を連れて現れた。場を凍らせる威圧感を放つ鬼級姫級に対し、一瞬自分の刀に目を向けた輪島中将だが、子供が急に飽きた遊びを止めるように態度を豹変させる。
「もうやめだ、刀の腰が伸びちまった。業物だったんだがな」
千歳が中将に近づき脇差を返す横を、そのまますたすたと南洲の元まで進んだ春雨は、他の三名と合わせ輪形陣を組むように南洲を守る。また舞鶴の艦娘も輪島中将の元に集まり、彼を守る様にする。勝利よりも被害の方が明確にイメージできるなんてー秘書艦の千歳の顔が青ざめる。
「南洲、霧島さん以外は私たちと一緒に来るそうです、はい」
「ええ、その通りよ」
一人遅れて司令部棟前に現れた霧島は、見えない線があるかのように、舞鶴の艦娘が守る輪島中将の隣で立ち止まる。
「私には、槇原少佐を慕うほどの思い出がありません。それに、例えこんな体でも、艦娘として生まれた意義に従って戦いたい。私の計算に拠れば、中将の言葉に嘘はないわ。だから、私はここに留まります」
満足げに頷いた輪島中将は、両手を広げ南洲に近づきながら、取引を持ちかけ始めた。艦娘同士の本格戦闘は彼も本意ではない。
「よし、槇原ァ、霧島の着任で手前らが俺の縄張りに踏み込んで施設をぶっ壊したことは水に流してやる。後は、手前が連れてく三人と、俺の同田貫に見合う代償、払ってもらおうか」
春雨が警戒を強めるのを制し、南洲が大剣を背負い前に出る。
「金はねーんだよ、悪いけど」
「知ってるさ、もっといい物があるじゃねェか―――」
一瞬で抜かれた脇差が、南洲の右腕を肘下から切断する。どさり、と地面に落ちた自分の右腕をぼんやりと眺める南洲。上体をかがめそれを拾い上げた輪島中将が、にやりと笑う。
「コイツぁ頂いとくぜ槇原ァ。手前は俺が
そして輪島中将は、惜しむような口調で南洲に対する。
「手前は戦い方、変えるんだな。剣技は噂通り、いやそれ以上だがよ、戦いは生き残ってナンボ。相討ち狙いになる前の手前と遣り合いたかったがな…」
その言葉に、斬られた作り物の右腕を見つめる南洲と、かける言葉を見つけられずただ寄り添う春雨と翔鶴。そんな一群を憐れむ様に見ていた輪島中将は、振り返ると自身の艦娘達に手で合図をし、撤収に取りかかる。
「後は勝手にしろ。手前らが生きようが死のうが、俺にゃ関係ねえ。次に