崇められても退屈   作:フリードg

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第18話 温泉での乱闘は女の子とするに限る!

 

 

 温泉の中に蹴落とした突然の侵入者、或いは変質者は 起き上がってくる気配は無かった。

 

 アカメの蹴りで完全に仕留める事が出来た、殺せた……とまでは思えないが 文句ない手ごたえだった為、意識を刈り取られたかもしれないと 考えている。

 それでも あらゆる可能性を想定しつつ 間合いには入りすぎない様に全員が距離を取っていた。

 

 いや違った。これ以上近付く事が出来ないと言うのが正解だった。それは相手が変質者だからだ、と言った理由ではない。

 

 ……得体のしれない相手だったから。思い返せば返す程、異常な相手だと言う事がこの短い間でよく判ったから。

 

 女性陣の全員が この温泉に入っていた。

 厳しい訓練も受け続け、暗殺者の集団の中でもトップクラス。即ちキルランクの上位に位置しているから 強くなったと言う自覚だってある。常に頭の何処かでは緊張を残していて、対処できる様に備えてきたつもりだった。

 

 あの川での一件から 追う側から追われる側を意識した時から、全員が備えてきた事だった。

 

 だが、この相手は違った。如何に陽気に遊んでいたとは言え、全裸だったとはいえ 有事の際にはしっかり動ける様に備えてきた。機動性、瞬発力等の身体能力においてはトップだと言っていいポニィさえ 直ぐに動く事が出来ず、冷静沈着にチームを纏めてきたコルネリアもコンマ数秒レベルではあるが、何が起こったのか判らなかった。アカメだけが攻撃に転じる事が出来たのは 皆よりも僅かにだが距離があった為以外にない。

 

 それでも、こんな傍まで接近された事は今までない。……今の今まで侵入してきた気配さえしなかったなんて、今までに無かった。

 

 

 此処は温泉だ。入ろうと衣服を脱げば衣擦れの音が、湯の中に入れば飛沫がたって その音が必ず出る。

 

 なのに、あの男が話しかけてきて、何度か話をし、更には陽気に歌をうたってから 漸く気付く事が出来たのだ。 完全に出し抜かれた。これでもしも――相手が命を奪いに来る暗殺者であったとしたら? と考えただけで背中に冷たいものが走る。脚に感じる温泉の温度を忘れてしまう程に。

 

「……アカメちゃん。武器、持ってきてる?」

「……ここには無い。服を脱いだ場所に」

 

 ツクシがアカメに武器の有無を確認するが……やはり持ってきていない様だった。傍にある事はあるが、現状からでは、気が遠くなるほどの距離においてある。つまりは全員が丸腰の状態。常に最悪の状態を想定しなかった落ち度だと言っていい。

 

 だが、今は反省をするよりどうやって乗り切るかだ。

 

 アカメを初めとする全員が 武器のある脱衣スペースに目を一瞬だけやると、その次に間合いを図りつつ 水面から目を逸らさずに見ていた。

 

 ぶくぶくぶく~ と泡が湧き出てきているから、まだあの下にいるのだろうが、決して油断は出来ない。

 

「……できればこのまま沈んでて欲しいんだけどね。そうもいかないかな」

 

 コルネリアは ハダカを完璧に見られた事に少なからず動揺をしていたが、今はちゃんと引き締めている様だ。女としての羞恥心の全てを捨てられた……と言う訳ではないが、仕事モードに入れば そんな事を気にする様な愚行は起こさない。

 両腕で咄嗟に胸を隠していたのだが、それは止めて構えつつ 全員を後ろに下がらす様に手で指示をしたその時だ。

 

「いやぁ……、随分と酷い事するじゃん! オレが何したんだよー。あー 顔いてっ」

「「「「!!!」」」」

 

 有り得ない。

 そう言える光景を目の当たりにしていた。自分達は一番最初に脱衣スペース、つまり臣具を置いてある場所に目をやったが それはほんの一瞬だけであり、その後は一瞬たりとも目を離さなかった。

 

 ずっと濁った水面を見ていたと言うのに、あの男は……直ぐ後ろにいたのだ。丁度岩場に座っていた。

 

「だけどまぁ 良い蹴りだったぜー! えっと、キミはアカメ……だったっけ? アカメっちっ! NICEキックっ♪ でも ちょーっとばっかはしたないんじゃないかなぁ? 女の子が裸で足技は色々と問題あるだろ~~♪ まぁオレには 眼福眼福って感じだけどね~♪ 皆ナイスバディだぜー!」

「っっ!!」

 

 アカメはその言葉を訊いて 思わず顔を赤らめた。でも それは一瞬だ。アカメだけに限らず、全員が。

 

「へぇ……」

 

 それを感じ取った様で 男は 笑っていた顔が一転していた。

 

「(チェルっちもしっかりしねぇとなぁ。この子らの方が上手だぜ? ま、この子らもチェルっちも発展途上。これからだけどな)」

 

 よっこらしょっ、と言いながら彼は岩場から移動。それはアカメたちの脱衣スペースの方だった。

 

「っ! 皆ッ!!」

 

 武器を奪われでもすればもう完全い勝機は無い。

 それだけは何としても回避しなければならないと、全員が駆け出し、湯から出たその時だ。ばさっ と其々の顔に何かが掛かり、視界が完全にふさがれてしまった。

 

「くっ……!! ……あっ これは……?」

 

 アカメは素早くそれを手に取って視界をクリアにしたが、投げられたのは何なのかの方に意識が向いた。

 

「ほら。服着なって。湯冷めするぜ?」

「………」

 

 目の前の男が投げたのは全員の衣類だった。そして 衣類だけじゃなく……。

 

「どういう事……?」

 

 其々の武器 臣具だった。

 

「どういう事~ も何もこれってキミらのだろ? え、ひょっとして裸族だったりすんのか??? そりゃ失礼っ」

「そんな訳ないよっっ!!」

 

 顔をまた赤くさせたツクシは 声を上げつつ、衣服は後にして銃を構えた。

 其々が臣具を装備し、完全な臨戦態勢を取った。

 

「はははっ。良い具合に育ってるなぁー 色んな意味でよ? でもま、今日はそう言うのやる気ないんだ。ちょっと遊びに来た程度だからさ? それにそんな殺気向けられる程、酷い事した? オレは優しいんだぜ?」

「……そんなもの信じられると思うか? お前、一体何者だ」

 

 アカメは剣を向けながらそう聞く。

 

「あれ? 前に会った事あるし 話した事もあるんだけど……。覚えてないの?」

「知らないよ! アンタみたいな変態!!」

「変態は酷いなぁ……。せめて えっちぃ~☆ って言ってほしい。てか、言ってくれ! 特にそっちの巨乳ちゃんと美乳ちゃんに行ってほしいっ!」

 

 ツクシとコルネリア。2人の方を見てそう言った男。それに強く反応したのがポニィだった。

 

「ぺったんこで悪かったな!!!」

「いやいや、そんな悲観するなって。そっちはそっちで良いぞ!?」

「うっさいわっっ!!」

 

 ぐっ とサムズアップされながら言われてもなんら嬉しくないポニィは思わず飛びかかろうとしたが、コルネリアに泊められた。

 

「……私達はアナタと会った事も無ければ話した事もない。……何者?」

 

 冷静にそう聞く。

 陽気を装った問答でこちらの油断を誘おうと言うのか、或いは何かを狙っているのか、それは判らなかった。でも、判る事はある。この男は間違いなく強い。……これまでに出会った誰よりも強い。隙だらけに見えて全く近づく事が出来ず、間合いが見て判る距離の倍、10倍はあるかの様に遠かった。

 

「んん? あれ?? ……あ、そっか。そう言えばそうだった! わりぃわりぃ。そりゃ判らんわな?」

 

 何かを思い出した男は、ただただ笑ってそう言っていた。

 その意図が判らないコルネリアは訝しむ様子で見ていたのだが……次に男が取った行動で全てが判明する。

 

「オレだよオレ。……ほーれ これでどーだ!?」

 

 男が手をかざすと同時に、周囲の闇がまるで蟲の様に這い回ってきた。それらが男の姿を覆い隠し、軈て漆黒のマントを纏った怪人へと変貌を遂げたのだ。

 

 その姿――見た事がある。

 

「お前は!!」

 

 アカメは もう動き出していた。

 そう、この男の正体は あの河川で戦った得体のしれない男だった。全ての攻撃を無にする。当たっている筈なのに当たっていない。……斬っても斬れない。撃っても当たらない。全ての攻撃を無力化しているかの様な相手。

 

 この場にいない男達を含む、全員で攻撃したのに全て通じなかった男。

 

 だが、それでもアカメは突っ込んだ。

 万全の状態でも完全にあしらわれた相手だ。もしも、あの時殺すつもりだったとしたら、この場の誰もが生きていなかっただろうと思える。そんな相手がまた現れた。……それも、最も信頼する男性陣。ランクトップの2人もいない状態。

 

『……このままでは 確実に殺られる! でも 仲間たちは殺らさせない! 私が時間を稼ぐ!』

 

 アカメの行動の意図は全員に伝わった。だから、それに応えようと全員が其々の責務を全うしようと行動したその時だ。

 

「っとと、こーら! いきなり人に剣を振るっちゃ駄目だろ?」

 

 男はアカメの渾身の速度、力を使って放った剣撃を二本の指先で防いだ。人差し指と中指で挟み込んで止めた剣は まるでビクともしない。

 

「ぐっ……!!!」

 

 力を込め、振り払おうとした時。

 

「こらこらこら まずは 話を訊きなさいってば」

 

 アカメの頭に軽い衝撃を受けた。どうやら、小突かれた様だった。

 その後は皆の方を見た。真剣な顔つきで。

 

「……実は キミらに大事な話があるんです!」

「「「「………」」」」

 

 

 真剣な顔だったのに、次の瞬間には霧散。良い笑顔でばっちり決まっていて、更にはウインクしながら高らかに宣言。

 

 

「オレはキミらの敵じゃありませーんっ! 仲良くしようぜー!」

「「「「そんなの信じられるか!!!」」」」 

 

 

 

 

 

 

 勿論、誰も信じる者などいなかった。

 

 その後は アカメを筆頭に飛びかかるのだが 悉く躱された。コルネリアが攻撃した時に限っては胸を盛大に揉まれた。1つ攻撃したら2回はやられ、遠くから援護射撃をするツクシには 2発撃ったら6回は揉まれた。

 激高して飛びかかるポニィには 足を掴んで足の裏を思いっきりこちょばす。失禁しそうになるまで。

 アカメに何とか救われたポニィは暫く戦線離脱。セクハラ三昧を受けたほかの2人も悶死しかけた。そんなアカメには。

 

 

『クール系肉食女子も、好きだぜ? それにうんうん。すげぇ綺麗な黒い髪に、綺麗な目だ。大好きだ~♪』

 

 

 急接近されて、ムチュ~~☆ とその唇を奪った。

 

 

 

 

 そして 暫く戦った?後。その場に立ってる者は1人だけだった。

 

 

 

 


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