崇められても退屈   作:フリードg

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あらすじとは関係ない方向性に向かってると思ってる今日この頃。


第15話 死ぬのなら頂く!

 

 

「と、言う訳で、無茶&無理しちゃった、チェルっち。無事に届けに来たよぉバーバラ。タエっち」

「やれやれ……、アンタの取柄は、臆病すぎるってトコにあったのに、何してんだい」

「うぅ……、返す言葉もありません……」

 

 ババラやタエコが身を潜めていた場所は、古びた小屋。有事の際は、この小屋に逃げ込む手筈になっていて、それもしれっと 彼は聞いていたから、そのままチェルシーを抱えて連れて返ってきた。

 因みに、連れて帰ってきてくれる間は、文句の雨霰だったチェルシー(内容はほぼセクハラに対するもの)だが、ババラに痛烈な一言をいわれてしまって、ぐうの音も出ない様子だった。

 

「チェルシー! 無事でよかった……」

 

 タエコは、チェルシーの傍へと駆け寄った。

 けがのない事を確認した後、彼の方を見る。

 

「本当に感謝します」

「なんのなんの。言っただろ? チェルっちとタエっちの2人は、お気に入りなんだぜー♪」 

 

 よしよし、タエコの頭を撫でる。

 珍しく、頭を撫でるまでに留まっている様子だった。

 

「それに、2人は媚びてこないからなっ~。簡単に落ちない所も、燃える! うんうん とっても良い所だ!」

「だーれが、アンタなんかに媚びるかっっ!! ちょ、ちょっと助けたからって、ちょーしに乗らないで!」

「おっ? 照れてるか? チェルっち」

「照れるか!?」

 

 楽しそうに?言い合いをしている2人を見てババラは、再び軽くため息。

 

――これまで、オールベルグの頭領にも、血の滲む、断腸の思いで了解を出して、この強大な戦力である彼を懐柔する為に、タエコに似た少女や、美麗な娘たちを使い、尽させた事がある。

 因みに、タエコ自身の性質は彼には完全に把握されている為、掌を返す様な対応をさせれば、心証が悪くなるだろう、と言う事で彼女は任務に入れなかった。

 

 当初こそ、オールベルグの誰もが、彼は強さを除けばただの好色家だと判断していたのだが……、続けていく内にそれは誤りである、と言う事を直ぐに理解する事になった。

 何度も何度も尽そうとしては、失敗し続けてきた。それどころか、飽きた、と言わんばかりに だんだん姿を見せなくなった。

 どういう訳か、心を腹の底まで読めるとでも言うのか、仕込んだ女達は全て失敗。気にかけてくれる様に残ったのは、タエコを含む、僅か数人と言う状態になった。

 

 諦める切っ掛けになったのは、心底つまらなさそうな顔。何の興味もない、と言わんばかりの乾いた顔を見た時だった。

 

「それで、チェルシー。ちゃんと手掛かりは得たんだろうねぇ? 何もありませんでした、出来ませんでした。なんて言った日には、コイツにマンツーマン訓練コースを受けるてもらうよ」

「っっ、ちゃ、ちゃんと見ました!! 見ましたって!!」

「えー、それ ぜーんぜん、罰になってないじゃん。そんなにビビんなくってもチェルっちー オレ、優しく教えてやるぜ??」

「うっさい!」

 

 と、言う訳で色々とあったが、ちゃんと何人かは覚えていたチェルシーが、人相を必死に紙に書いていた。

 さらさらさら~、と書いたのは2人分。

 

「なんだい。子供じゃないか」

「……私より、少し小さいぐらいだ」

 

 2人に見せて、その素顔から大体の年齢を察した。

 まだまだ、大人になり切れていない幼さが残る子供だという事も。

 

「他のヤツは? たった2人ってこたぁないだろう?」

「はははは。チェルっちは、勇敢にも突っ込んでいってさ? バーバラ。敢え無く返り討ちにされちゃってー」

「私が説明するから黙ってて!」

 

 チェルシーは、両手で男を追いやると、 ちゃんと説明をした。

 

「打ち止めです。……ちょっと、目が曇ってたと言わざるを得ませんが、そっちの眼鏡をかけてない方。直前まで殺気を消してて……、今更ながら思い出してますけど、威圧感も半端なかったです。幸いにも、顔はバレてないですけどー……、もう近づきたくないって感じです。帝具使ったとしても」

「……もうちょっと早くにその感覚を出しとくべきだったね。まぁ、命あっただけでもマシってもんさ。それに、相手の顔が判ったのも同じだ」

 

 次にババラは、タエコを見た。

 人相は、確かに子供……だが、天狗党の連中を軽く一掃されてしまった事実は変わりない。子供である事も考慮したら、非常に危険な相手だという事は間違いない。

 

「(だが、若いモン同士だったら、ウチのタエコに勝てるヤツはいないさね……)」

 

 絶対的な自信がそこにはあった。

 幼いころから育ててきた逸材なのだから。

 

「……次はこっちから仕掛ける番だね」

 

 タエコも、自分と近しい歳の刺客が相手である事を聞き、静かだが……氷の様な冷徹さと炎の様な闘志を胸に秘めていた。

 

 こんなシリアスな場面なのだが。

 

「まぁ、まぁ、楽にいこーぜ? タエっち。それにチェルっちも」

 

 がくっ、と腰が抜けるかの様な発言が飛ぶ。

 

「はぁ……、あ、私密偵さん達に、この顔が町にいないか、周囲を調べてきてもらいます」

「ん? 1人でだいじょーぶ? また、ついてい「来なくていい」はいはい」

 

 速攻の拒否に、両手を上げていた。その仕草を見て、チェルシーは思う。……今回は何だか、早々に引き下がった気がした、と。だが、それ以上は気にせず、町の方へと向かっていくのだった。

 

「あ、チェルシー。私は着いていく。少し、心配だから」

「た、タエコさん……、ありがとうっ! 大好きだよーー!」

「ぶーぶー、せーっかくオレ、助けてあげたのになぁ」

 

 タエコと2人で、チェルシーは町の方へ。

 文句言ってた彼に対して、チェルシーは悪戯っ子な顔をして、舌をべーっ、と出していた。

 

「ふむふむ。可愛いからOKかなぁ」

 

 なお、彼にとってはその素顔も可愛いので、OKとした。

 

「ババラ」

「……あん?」

 

 所が一転。突然、名前を呼ばれて……、それも普通通りに読んで、少々驚いたが、ババラはそれを表情に出さずに、振り返る。

 

「タエっちは、確かに強くなったけど、今回の相手は、なかなかやる子達だ。久しぶりに、ワクワクしたくらいだからな」

「……成る程。アンタ チェルシーを助ける為に応戦した、って事か。いや、遊んだ、と言った方が正しいかい? ……で? ただ忠告をくれただけじゃないんだろう?」

「勿論。チェルっちもそうだけど、タエっちは元祖。知っての通り、オレのお気に入りでもあるんだなぁ。タエっちが死ぬ様な事になったら、攫ってくけど、文句ないよな? メラルーもOK出してるし」

「……(タエコが負けるかもしれない、と言う事か? ……それ程の使い手が……)タエコを失うのは痛手だが、それでも、育ててきた情ってもんはある。死ぬくらいならマシかもしれないねぇ。他の誰でもないアンタが連れてくならね」

 

 手を振って答えるババラ。 

 殺し屋が情を持つというのは、御法度だ。情と言うものに、流されて死んでいった者達は数知れないのだから。それを踏まえてでも、ババラは一笑した。

 

「ふん、何処に連れてくか知らないが、嫁に貰ってくれるって事かぃ?」

「おっ、タエっちが嫁さんかぁー、悪くないかな? だけど、オレ、どっちかっていうと一夫多妻が心情だしなぁ、タエっちってば、ちょっぴり一途っぽいとこ、あるしー、どうしよっかなぁ。困っちゃうなぁ~♪」

「後ろから刺されない事だね。鬼の住処が何処なのかわからないが、メラ様が了承している以上、儂は構わないよ。だが、泣かせたりしたら、承知しないよ。………ああ、後はタエコの子供が生まれたら、オールベルグで引き取りたいね。良い使い手になりそうだ」

「おばあちゃんと言うより、お母さんだな。バーバラは」

 

 暫く笑いあった後、いつの間にか煙の様に男は姿を見せなくなった。 

 ババラでも見る事も、追う事も出来なく、そしてもう気配を察知する事が出来なかった。

 

「ヤツぁ、ほんと一体なんなんだい……」

 

 以前オールベルグの隠れ家にて、一戦交えた間柄。

 戦える者を総動員しての戦いだったが、完全に子供扱いをされてしまった。……オールベルグのトップ、頭領をもだ。

 

「パンドラの箱、と言わざるを得ないだろうねぇ。…………………いや、或いは」

 

 ババラは、ゆっくりと空を見上げた。

 雲が流れており、間に顔を出す太陽の光。……その光の中に大きな影はいないかどうかを、目で追った。

 

 それは言い伝え、伝説の話。

 

 長らく戦ってきたババラも、勿論その伝説は知っている。影が出ている時に――悪行を働いた者。そう、と判断された者が、目の前で突然、光が降り注いできて消し炭にされたのも見た事があった。

 

「(……アイツが、アレ(・・)だっていう可能性だってあるだろう。だが、アレ(・・)に人格があった? ……考えても答えが出る訳じゃない、な。……忠告は聞いておいた方が良いだろうねぇ)」

 

 ババラはそう呟くと座ったままの体勢で、暫く目を閉じ 休息に努めるのだった。

 






結論:タエコとチェルシーは可愛い

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