ChapterⅤになります。
「───小湊龍雅。
ふむ…忘れていた。この地には、あの男がいたか」
「……お知り合いですか?」
「ああ、お前たちが私の下に就く前に、一悶着あったのだよ。
別に大したことではないが、その一件で彼に恨まれていてね」
見た目中年の男と、年齢20代ぐらいの女がそこにはいた。
彼らから醸し出される雰囲気というものは、暗く、鈍重で、普通の人間ならば思わず死が連想されるだろう。
「だが、奴は何を考えているのか………どうせ私を殺そうとしているのだろうが」
それは無理もなく、彼らは人ならざる者。
人間の魂は糧でしかない。
「……まあいい。
彼もまた『断罪の姫』の降臨を促そうというのなら、今は泳がせておく他ない。
利用させてもらうとしよう」
だが、ローラントと薊に名乗ったこの男は、同一存在ですら下に見る。
薊や一色、龍雅であっても道具として見ていた。
「ローラント様。その件についてですが、私に良い考えがあります」
そんなローラントに、彼へ従う女が一人、彼へと一つ提案する。
「…ほう。ならば言ってみろ。
本当に良い考えであるのならば、実行しようではないか」
ローラントの言葉にその女は、口元を異常に吊り上げ、不適な笑みを歪ませた。
◇
「───痛かった………」
「別にいいだろ?
上手くいったんだし、これが一番手っ取り早かったんだ。
それにもう治ってんだろ」
「そんなこと言ってもさ!
もうすぐで俺の手が無くなるところだったんだぞ!」
時は進み、俺は龍雅からエイヴィヒカイトの使い方を学び終わった。
今は次の日の昼。場所は学校の屋上。
それまでの経緯をざっくり話すとすれば、俺は当たり前のように龍雅が現れたことに驚く。
そして、彼もまた俺や一色のように、聖遺物の使徒であることを知り、さらに驚いた。
まあ、「教えてやる」と言われた以上、龍雅が無関係ではないということは予想できるが、今の現状が非日常的なのだ。
驚愕しかしない状況であるので、仕方ないと思ってほしい。
ちなみにエイヴィヒカイトを使用するための訓練は、それはそれは辛い方法だった。
言えば、一色が持ってた拳銃で押さえつけた俺の手を、数秒毎に撃つという単純なもの。
単純と言っても、普通の人間ならショック死してもおかしくはないだろうし、いくら俺が人外になっていても、失敗すれば手がなくなっていたのは間違いない。
「小湊君、こんな無理なことをしなくても流石に良かったんじゃない…?」
「何も考えてなかった癖に、俺に指図するんじゃねえ。
てか、俺はお前のことは信頼してねえし、さらっと輪の中に入ってんじゃねえよ」
横にいた一色が口を挟む。
まあ何故彼女がここにいるかというと、大した理由はない。
これまでの経緯のように、彼女は嫌々ローラントに従っているらしく、日常生活まで彼に指図される筋合いはない。
一応害はないということで、龍雅を宥めて彼女を側に置いている。
「……龍雅、落ち着け。
一色さんもどうやら事情があるみたいだし……それにローラントとか言ってた、あの男の情報もくれたじゃないか」
まあ昼食を一緒に食べているわけであるが、他の奴らというか、例えば同じクラスの女子と一緒に食べればいい気がする。実際誘いはあった。
しかし、敢えて彼女はそれを総て断り、俺達の元へとやってきたのだった。
「信頼してるわけじゃねえんだ。こちとらな」
俺は別に一緒にいるのは構わないのだが、龍雅は彼女が気に食わないらしく、一色を目の敵にするように接していた。
「それに、お前はどうやってこいつを活動位階に引き上げようとしていた?」
「それは……」
言葉を濁し、目を逸らす一色に対し、龍雅は呆れたと言わんばかりに溜息を吐く。
「まあいい……。悪いがこの後用事あるから、先行くわ」
ゆっくりと重い腰を上げた龍雅。
「……ああ、そうなのか。それじゃあまた後で」
背を向けた彼は俺の言葉に、ひらひらと右手を振って反応し、この場を去っていった。
「───龍雅は……一体どこを視てるんだろうな……」
「え……?」
「俺は今まで、あいつの親友としてやってきたのに……全く分からないや……」
「…………」
なし崩し的に出来事に巻き込まれて、率直に嫌な気分ではある。
けれど、もしかしてこのままこの出来事を進んでいけば………彼が何を想って、何を望んでいるのか、これから理解できるのかもしれない。
何となく、そう思えた。
◇
───放課後。
「あ、薊。ちょっと良いか」
帰ろうと思っていた時のこと。
「龍雅?見てないけど……どうかした?」
龍雅と同じクラスの笠原匙が声を掛けてきた。
俺とも交流はあるものの、特に龍雅と仲が良く、その繋がりで仲良くなった男友達の一人。
「そっか……見てないならいいんだけどさ……。
薊はもう帰り?」
「そうだけど……何かあった?」
「ああ、あいつ昼休みから姿を見ないんだ。
もしかして薊なら分かるんじゃないかと思ってさ」
「龍雅が?
午後の授業もまさか出てないのか?」
匙はこくりと頷いた。
龍雅が授業をサボるなんて初めてだ。
口は悪いが少なくとも優等生で、授業だって黙々とこなすし、俺の知る限りでは皆勤賞だった。
昼休みの様子を見る限りでは、体調を崩した様子ではなかった。
それが何故……。
「……まあ、もし見掛けたらで良いから、俺に連絡を一つくれって言っておいてくれない?」
「分かった。……見掛けたら伝えとくよ」
「サンキュー。じゃ、頼むわ───」
───匙が去っていった後、俺は思案する。
嫌な予感がしているわけじゃないが、探した方が良いかもしれない。
ここ最近の不思議体験のせいもあるが、何となく不安な気持ちなのだ。
だから探す。
匙から言われたからではなく、そんな単純な理由。
「……一応、一色さんにも連絡しとくか」
そして、一色へと事情を説明した後、俺は龍雅を探し始めることにした。
───今思えば、ここまで総て上手くいき過ぎていた。
龍雅との出会いも、葵との出会いも何もかも……。
「彼女」の魂を秘め、俺はここから戦いの中に、その身を投じることになる。
次からは戦闘に行きたいところです。
頑張って書いていきたいですね……。