断罪の姫と正義の剣   作:Vaan

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すみません。とても遅くなってしまいました。
ChapterⅤになります。


ChapterⅤ

「───小湊龍雅。

ふむ…忘れていた。この地には、あの男がいたか」

 

「……お知り合いですか?」

 

「ああ、お前たちが私の下に就く前に、一悶着あったのだよ。

別に大したことではないが、その一件で彼に恨まれていてね」

 

見た目中年の男と、年齢20代ぐらいの女がそこにはいた。

 

彼らから醸し出される雰囲気というものは、暗く、鈍重で、普通の人間ならば思わず死が連想されるだろう。

 

「だが、奴は何を考えているのか………どうせ私を殺そうとしているのだろうが」

 

それは無理もなく、彼らは人ならざる者。

人間の魂は糧でしかない。

 

「……まあいい。

彼もまた『断罪の姫』の降臨を促そうというのなら、今は泳がせておく他ない。

利用させてもらうとしよう」

 

だが、ローラントと薊に名乗ったこの男は、同一存在ですら下に見る。

薊や一色、龍雅であっても道具として見ていた。

 

「ローラント様。その件についてですが、私に良い考えがあります」

 

そんなローラントに、彼へ従う女が一人、彼へと一つ提案する。

 

「…ほう。ならば言ってみろ。

本当に良い考えであるのならば、実行しようではないか」

 

ローラントの言葉にその女は、口元を異常に吊り上げ、不適な笑みを歪ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───痛かった………」

 

「別にいいだろ?

上手くいったんだし、これが一番手っ取り早かったんだ。

それにもう治ってんだろ」

 

「そんなこと言ってもさ!

もうすぐで俺の手が無くなるところだったんだぞ!」

 

時は進み、俺は龍雅からエイヴィヒカイトの使い方を学び終わった。

今は次の日の昼。場所は学校の屋上。

 

それまでの経緯をざっくり話すとすれば、俺は当たり前のように龍雅が現れたことに驚く。

そして、彼もまた俺や一色のように、聖遺物の使徒であることを知り、さらに驚いた。

まあ、「教えてやる」と言われた以上、龍雅が無関係ではないということは予想できるが、今の現状が非日常的なのだ。

驚愕しかしない状況であるので、仕方ないと思ってほしい。

 

ちなみにエイヴィヒカイトを使用するための訓練は、それはそれは辛い方法だった。

言えば、一色が持ってた拳銃で押さえつけた俺の手を、数秒毎に撃つという単純なもの。

単純と言っても、普通の人間ならショック死してもおかしくはないだろうし、いくら俺が人外になっていても、失敗すれば手がなくなっていたのは間違いない。

 

「小湊君、こんな無理なことをしなくても流石に良かったんじゃない…?」

 

「何も考えてなかった癖に、俺に指図するんじゃねえ。

てか、俺はお前のことは信頼してねえし、さらっと輪の中に入ってんじゃねえよ」

 

横にいた一色が口を挟む。

まあ何故彼女がここにいるかというと、大した理由はない。

これまでの経緯のように、彼女は嫌々ローラントに従っているらしく、日常生活まで彼に指図される筋合いはない。

一応害はないということで、龍雅を宥めて彼女を側に置いている。

 

「……龍雅、落ち着け。

一色さんもどうやら事情があるみたいだし……それにローラントとか言ってた、あの男の情報もくれたじゃないか」

 

まあ昼食を一緒に食べているわけであるが、他の奴らというか、例えば同じクラスの女子と一緒に食べればいい気がする。実際誘いはあった。

しかし、敢えて彼女はそれを総て断り、俺達の元へとやってきたのだった。

 

「信頼してるわけじゃねえんだ。こちとらな」

 

俺は別に一緒にいるのは構わないのだが、龍雅は彼女が気に食わないらしく、一色を目の敵にするように接していた。

 

「それに、お前はどうやってこいつを活動位階に引き上げようとしていた?」

 

「それは……」

 

言葉を濁し、目を逸らす一色に対し、龍雅は呆れたと言わんばかりに溜息を吐く。

 

「まあいい……。悪いがこの後用事あるから、先行くわ」

 

ゆっくりと重い腰を上げた龍雅。

 

「……ああ、そうなのか。それじゃあまた後で」

 

背を向けた彼は俺の言葉に、ひらひらと右手を振って反応し、この場を去っていった。

 

「───龍雅は……一体どこを視てるんだろうな……」

 

「え……?」

 

「俺は今まで、あいつの親友としてやってきたのに……全く分からないや……」

 

「…………」

 

なし崩し的に出来事に巻き込まれて、率直に嫌な気分ではある。

けれど、もしかしてこのままこの出来事を進んでいけば………彼が何を想って、何を望んでいるのか、これから理解できるのかもしれない。

 

何となく、そう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───放課後。

 

「あ、薊。ちょっと良いか」

 

帰ろうと思っていた時のこと。

 

「龍雅?見てないけど……どうかした?」

 

龍雅と同じクラスの笠原匙が声を掛けてきた。

俺とも交流はあるものの、特に龍雅と仲が良く、その繋がりで仲良くなった男友達の一人。

 

「そっか……見てないならいいんだけどさ……。

薊はもう帰り?」

 

「そうだけど……何かあった?」

 

「ああ、あいつ昼休みから姿を見ないんだ。

もしかして薊なら分かるんじゃないかと思ってさ」

 

「龍雅が?

午後の授業もまさか出てないのか?」

 

匙はこくりと頷いた。

 

龍雅が授業をサボるなんて初めてだ。

口は悪いが少なくとも優等生で、授業だって黙々とこなすし、俺の知る限りでは皆勤賞だった。

昼休みの様子を見る限りでは、体調を崩した様子ではなかった。

 

それが何故……。

 

「……まあ、もし見掛けたらで良いから、俺に連絡を一つくれって言っておいてくれない?」

 

「分かった。……見掛けたら伝えとくよ」

 

「サンキュー。じゃ、頼むわ───」

 

 

───匙が去っていった後、俺は思案する。

嫌な予感がしているわけじゃないが、探した方が良いかもしれない。

ここ最近の不思議体験のせいもあるが、何となく不安な気持ちなのだ。

 

だから探す。

匙から言われたからではなく、そんな単純な理由。

 

「……一応、一色さんにも連絡しとくか」

 

そして、一色へと事情を説明した後、俺は龍雅を探し始めることにした。

 

 

 

───今思えば、ここまで総て上手くいき過ぎていた。

龍雅との出会いも、葵との出会いも何もかも……。

 

「彼女」の魂を秘め、俺はここから戦いの中に、その身を投じることになる。




次からは戦闘に行きたいところです。
頑張って書いていきたいですね……。

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