断罪の姫と正義の剣   作:Vaan

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chapterⅢです。
よろしくお願いします。


ChapterⅢ

「───自分から頼んでおいてなんだけど、藤真君。

本当に放課後も良かったの?私の我儘なのに……」

 

「別に気にしなくていいよ。

一回頼まれたからには、最後までやらなきゃ気が済まないだけだし」

 

昼休みから放課後に飛ぶ。

俺は一色さんを連れて昼同様に、学校内の案内をしていた。

龍雅からは妙なことを言われたが、無下にするわけにもいかず、放課後も彼女の頼みに乗ったのだった。

 

「………ありがとう」

 

彼女は少し照れくさそうにお礼を言った。

まあ、こういう姿を見れただけでもありがたく、俺としては得をしている。

どこからどう見ても年相応の可愛い女の子であるし、龍雅の勘も多分何かの間違いだろう。

寧ろ腹黒いなんてとんでもないくらいだ。

「さて……もう粗方見終わったかな。

最後に何か聞きたいことある?可能な範囲でなら答えるけど」

 

やることは終えたわけだが、心残りや見逃している所があったらと思い、彼女にそんなことを投げ掛けてみた。

幸い俺は部活はやってなく、用事も特にないので、時間は有り余っている。

頼られたからには役に立ちたい。

 

「あ、それなら屋上をもう一回見たいんだけど……」

 

「屋上?またどうして?」

 

「その…ちょっとみたいものがあって……多分見れば分かると思う」

 

屋上で見たいもの。

あの殺風景な屋上に何かあったのだろうか。

思い出せないがとりあえず、彼女の要望通り屋上に向かうことにした。

 

 

 

「───なるほど…。観たいものってこれのことか」

 

「そう。お昼に此処へ来たとき、綺麗な眺め観れるかなと思ったんだよね」

 

彼女の言う通り、目の前には綺麗な景色が広がっていた。

空の奥に輝くのは夕日。

その鮮やかなオレンジ色の夕日に照されている町の様子。

なんとも幻想的で神秘的。

 

この学校に通いながら、まさかこんな景色が観れるとは知らなかった。

肌寒くなった屋上には、俺達二人だけ。

耳には穏やかな風の音だけが聴こえ、一層その景色を美しく魅せている気がした。

 

さらに言えば、美しいものは町の様子だけではない。

 

「…ん?どうしたの?」

 

「あ、いや……なんでもない…」

 

夕日の輝きを浴びている彼女もまた、一段と美しかった。

想わず惚れてしまいそうなくらい、目に、脳に、焼き付いていく。

其ほどまでに彼女の光景も素晴らしく、栄えるものがある。

 

 

「……ねえ、藤真君」

 

「どうした?」

 

「貴方は、私を『良い人』だと思ってるの?」

 

夕日から延びる光を纏った彼女は、ふとそんなことを聞いてきた。

 

「もし、そうだとしたら……その考えは止めた方が良い」

 

彼女の表情は景色を眺め、喜ぶ顔ではなく、ただひたすらに悲しそうな顔。

 

「あ……もしかして昼の時の?

あ、あれはその……龍雅も悪気があるわけじゃ────」

 

勿論俺は昼間のことを思い出す。

彼女が突然こんな話をし始めたのはきっと俺達の話を聞いていたからだろうと、そう思ったからだ。

しかし、彼女の口からは予想外な一言が発せられた。

 

「────私、人殺しなの」

 

美しく照らされた彼女の口から出た言葉。

それはこの黄昏の景色に似つかわしくない、不釣り合いな言葉だった。

 

「……は?何を言って……」

 

急に言われたことで頭が追い付いていない。

そもそも訳が分からない。

何故彼女が人殺しなんて羅列を出したのか。

 

「そのままの意味。

人を殺したことがあるの。何人もね」

 

冗談かと思った。

けれど、彼女の表情はさらに重く悲愴に塗りつぶされていく。

とても嘘なんて思うことができないぐらいに。

 

「小湊君の予想通り。

私は腹黒くて、人殺しという裏の顔も持ってて、それに……」

 

彼女は静かに距離を詰める。

足音を立て、ゆっくりと静かに。

その距離は身体一つ分しか存在せず、彼女の落ち着いた吐息、彼女の甘い心地いい香り、彼女の吸い込まれそうな黒い大きな瞳。

彼女を最も近くで感じることができた。

 

だが、その意識は薄れる。

 

「人間を辞めてるの」

 

「─────!!? 」

 

彼女の吐き捨てるような言葉をを聞いたその瞬間、景色が反転した。

一色は俺の足を横に足払いをし、

気付いた時には、身体を床に打ち付けられていた。

 

「……身体、満足に動かせないでしょ?」

 

彼女は倒れている俺の上に馬乗りになり、軽く俺の身体に手を添える。

俺は自分の身に起きた出来事に混乱しながらも、起き上がろうとするが─────起き上がらない。

 

びくともしないのだ。

彼女の女の子らしい細腕一本だけで、俺の身体は床に抑えつけられていた。

 

「これは……一体どうなって……」

 

「見ての通り、私の腕だけで藤真君の身体を抑えているだけ。

まあ、私自身はただ触ってるだけなんだけどね」

 

確かに彼女の腕や様子は、全くと言っていいほどに力を入れている動作は見受けられない。

ただ俺の上に乗って、胸板の辺りに手で触れているだけ。

端から見ても、俺がジタバタしているのがわざとらしく思えるだけだろう。

 

「何でこんなことを…!」

 

「理由は簡単。

私が普通の人間じゃないって理解してもらうこと、それと藤真君もまた『同じ』だということね」

 

「…え?」

 

「分からない?私もあなたも、既に『魔人』へと堕ちているということ」

 

なんともぶっ飛んだ話だ。

混乱し過ぎて、異性が覆い被さっていることに胸の高鳴りも感じない。

普段ならこんな電波な事は、無視しておくのが手っ取り早い。

聞かぬが吉だ。

 

でも、彼女の訳の分からない発言を、疑うことができない自分が何故かいる。

それどころか詳しく聞かなければならないと思えた。

 

「俺も…人間じゃないって言いたいのか…?」

 

「それは勿論。だってこの程度で痛みなんて無いでしょ?」

 

一色から言われて気付く。

俺の身体はコンクリートでできた床にミシミシとめり込んでいた。

なのにだ。まるで感覚が麻痺したように痛みというものは皆無に等しい。

 

有り得ない事実が目の前で起こっていた。

 

「───藤真君、よく聞いて」

 

彼女の真剣な眼差しが、俺を見つめる。

 

「私がこの学校に来て、この屋上で二人きりな理由は、最初からあなたを導くため。

そして藤真君に、人を殺してほしくないからよ────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────同日同時刻。

 

「はぁ…あのお人好しが……」

 

とある部屋の中で、一つのモニターを確認する男がいた。

写し出されているのは今現在の蕗之ヶ丘高等学校の屋上。

 

「割と本気で言ったんだけどなあ。

ま、困った奴を放っておけないのはいつものことか…。

それが軽いことでも、重いことでもな」

 

その屋上には二人の男女がいるのが見える。

 

藤真薊、それに一色葵。

片方は親友で、片方はまだよく知らない転校生。

端から見れば、男が女に押し倒され、如何わしいことを想像してもおかしくはない。

が、勿論のように彼はそうは思わない。

 

「やっぱり転校生も『同類』か……」

 

上体を、座っている回転椅子の背もたれに預け、その場をぐるぐると回る。

「狙いは何なのかは知らないが、邪魔されても面倒だ……」

 

彼は思う。

何故こうなったのか。

何故こうしているのか。

 

後悔はしていない。

この(ゲットー)から逃れられるならば、友と呼べる存在を巻き込むことも厭わない。

 

だからこそ────

 

「薊を導くのは俺だ。俺があいつを引き上げる」

 

思惑と共に、彼はゆっくりと立ち上がった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────さらに時は経ち、深夜11:00p.m.辺り。

 

今日の早朝の後を追うように、電灯に照らされた薄暗い通学路を歩いていた。

 

理由は他でもない。

今日に蕗之ヶ丘高校に転校生としてやって来た、一色葵に言われてだ。

 

『────今日の深夜十二時、またこの屋上に来て。詳しい話はその時に……待ってるから』

 

とまあ、デートのお誘いをされたわけである。

 

どちらかと言えば嬉しくなく、心踊らないデートなわけであるが、内容が内容だ。

行かなければならないと思った。

 

 

学校に到着し、運動場に行くと、そこには既に一色が待っていた。

相変わらず美しい容姿をしているが、前と違うのは着ている服。

学校の制服ではなく、黒い軍服のようなもの。

 

確かそう。龍雅に見せてもらったことがある。

ナチスドイツの軍服だったか。

何故か一色はそんな物を着ていた。

 

「おい、一色さん」

 

俺は遠くから一色に手を振った。

しかし、距離としては余り離れていないところからだったのだが、彼女は俺に気づいていないのか、振り向きもしない。

 

ずっとある一定の方向を睨み付けていた。

 

「……?一色さ───」

 

もう一度彼女の名前を呼ぼうとした時だった。

 

 

「───ほう……その男が、正義の剣との契約者か」

 

暗闇から聞こえた、男の鈍重な声。

その声を聞いた瞬間、背筋に電流が流れたかのようにビリビリと悪寒が走る。

それに加え、肌を通して分かるような威圧感もあった。

 

「全くもって、これは驚いた。

これもまたカールの差し金か?

相も変わらず嫌らしい男だ」

 

夕方とはうって代わり、太陽ではなく、月に照らし出された運動場。

その天然の灯りの中に、物陰から現れた一人の男が写し出されていた。

 

「『初めて』ではない……『久し振り』だな。

まさかお前とまた、会えるとは」

 

俺は「久し振り」と言ったこの男を見たことがなかった。

確かな記憶ががなく初めましてではあることに違いないはず。

 

なのに────

 

この男を見た時、俺は既視感という異変を心の中に感じていた。


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