アフリカ某国。
アフリカの街にこの地域の人間ではなかなか見ないような高級車が一台走っていた。
その車の中にはたくましい体をした運転手の男性と銀髪の少女が一人。
その車は停まり助手席から少女が降りる。
「じゃあお義父さんはお仕事があるから。あまり遅く帰らないようにね。これはお小遣いだ。」
「ありがとう。」
運転手は運転席から体を伸ばしながら少女にお札を数枚渡し、少女はそれをスカートのポケットに入れる。
「好きなものを食べなさい。」
そう言って扉を閉めて車を走らせた。
「好きなもの・・・ね。」
少女は呟く。
そして辺りを物珍しそうに眺めながら、人混みの中に消えていった。
少女が向かった街は賑わっていた。
商いをする店が立ち並び、各々様々な食品であったり伝統工芸品らしき物を売っている。
少女は一つ一つ店を物色していた。
「お嬢ちゃん、どうだい?トウモロコシ美味しいよ。」
眺めていた露店の店主が売っていた焼きトウモロコシを指差しながら少女に語りかける。
「トウモロコシ・・・いただくよ。」
そう言ってポケットに入れていたお札を出して店主に渡す。
「オッケー。お嬢ちゃんこの国の人じゃないね。観光できたのかい?」
「いやお父さんの仕事についてきて・・・でもそんなところかな。」
「だろうね。身だしなみは綺麗だしいい服着てるから。うちじゃ中々いないよ。一人かい?」
「うん。お父さんは仕事で夜までいなくて一人で観光。」
「なるほどねぇ・・・。おっとお釣りだね。。ちょっとお釣り用意するから待ってね。」
そう言って店主は店の中に入っていく。
店の中からレジを開ける音が響く。
少女はその間も辺りを眺めている。
少しして店主が出てきた。
店主は辺りを眺める少女を見ながら、
「はいお釣り。せっかくだしおじさんがこの街のおススメスポットを教えてあげよう。」
そう言ってお釣りを渡しながら店の裏側を指差した。
「この街は表街道もいいけどその小道に入った街道も商いが盛んでね。珍しい工芸品が多いんだよ。ぜひ行ってみて。」
「そうなんだ、行ってみるよ。」
そう言って少女は向かって行った。
「気をつけてなー!お嬢ちゃん名前は?」
小道を進む少女に店主が大声で叫びながら聞いてくる。
少女は少し目線を下げ数秒考えて
「・・・ヴェールヌイだ。信頼できると言う意味の名なんだ。ダスヴ、おっと・・・じゃあね。」
そう言った。
店主も
「ヴェールヌイ・・・良い名前じゃないか。じゃあな!」
そう笑顔で返した。
「ここは・・・。」
店主が指差した街道に入ったヴェールヌイ。
しかしそこは工芸品など置いておらず、暗い雰囲気に包まれている。
ヴェールヌイが振り返ろうとした瞬間。
「人気のない道は危ないってお父さんに言われなかったか?ヴェールヌイ。」
店の前にいた店主はついさっき見た笑顔に比べて狂気が増したような笑顔でいつの間にかヴェールヌイの背後に立っており、そしてヴェールヌイの顔に布袋をを被せ腰と口に手を回し体をがっしり掴んだ。
そしてどこからともなく二人の男が出てきてあっという間にヴェールヌイを縛ってしまった。
「ちょろい仕事だなぁ。外国人の子どもは身代金要求して良し、売って良しと色々使い道がある。」
店主がそう言うと後から出てきた二人も頷きながら笑う。
「これで金が入りますね。最近は活動資金難でしたからしばらくはやっていけそうですわ。」
そのうちの一人が店主に返した。
「異国の地で誘拐は怖いだろうなぁ。ともあれアジトに運ぶぞ。」
そう言って店主は担ぎ上げ店の裏口に入っていった。
ヴェールヌイは抵抗することなくただただ沈黙したままだった。
店主たちは店の地下に下りた。
そこはお世辞にも綺麗とは言えず。小汚いイスと机、それといくつかの家具があるだけだった。
その地下の一角にはソファがあり、そこにはふんぞり返って座っている男、そして四人警護するように両脇に立っていた。
「リーダー!可愛いの連れてきましたぜ!」
布袋を外して口縄を外してヴェールヌイの顔をその男に見せる店主。
「おう、いい顔立ちしてるじゃねぇか。」
リーダーと呼ばれる男はヴェールヌイの顎を掴み舐め回すようにじろじろと見つめた。
ふとヴェールヌイが口を開く。
「いつもこんなことやっているのかい?」
店主が口を再度塞ごうとするもリーダーに手で制される。
「ああそうだ。外国人の子どもを見つけてはな。」
そうリーダーが返す。
「けどこんなやりやすい仕事は久しぶりでしたがね。」
横から店主が発言する。
「売ったお金でどうするの?」
「武器を買う。この国はある国に資源をよく持って行かれてるんでな。そいつらを追い払う聖戦みたいなもんだ。」
「私を買う人間なんているかな?」
「可愛らしい顔してるじゃねぇか。この国の税関や国境警備のお偉いさんは金を気前良く出してくれるぞ。」
そうヴェールヌイの質問に答え続けたリーダーは彼女の肩を叩き立ち上がり電話をかける。
「やぁ俺だ。ヤハトさんかい?新しい娘が入ったんだよ。あぁ子どもさ・・・。国境警備の重役のあんたなら他国でも取引できるだろ。あぁついでに何人か連れていくからぜひ見てくれ。また連絡する。」
そう言って電話を切る。
「よしこれで・・・。」
リーダーが電話を切りヴェールヌイの顔を再び見ると、微かに笑っていた。
「ヤハト・・・国境警備・・・重役・・・他国。」
ヴェールヌイは単語を暗記するように読み上げる。
周りはきょとん顔である。
「知ったところでお前は・・・。」
リーダーがそう言い返そうとすると、
「意味がないと思うかい?」
ヴェールヌイは遮るように話した。
「ありがとう。これで私の任務は終わりだよ。」
「何を・・・。」
リーダーが問いかけながらヴェールヌイを見ると異変に気づく。
「子どもにしては胸が・・・。」
ブレザーの襟を引っ張り中を除くリーダー。
そして叫ぶ。
「C4!!!!!!」
全員急いで離れようとするも、
「До свидания.」
瞬間、爆音と共にヴェールヌイの胸の周りから爆発が起きた。
間近にいたリーダーはもちろん部屋の中にいた人間は例外なく吹き飛んだ。
しかしヴェールヌイだけ何事もなかったかのように立っていた。
「化け物め・・・。」
瀕死の状態ながら上手く隠れて生き残った店主は横たわりながらヴェールヌイを見て呟く。
表情は憎しみと恐怖で満ちていた。
「そうだよ。君たちから見たら化け物かもしれない。」
そう語るヴェールヌイの顔はどこか悲しい顔をしていた。
店主は咄嗟に背中に隠していた拳銃を取り出しヴェールヌイの心臓に向けて弾丸を放つ。
弾丸は間違いなく当たった。
しかしヴェールヌイには傷一つ付かず弾丸は弾かれた。
「な、なんで・・・。」
店主は力が抜けたように手を下す。
「私たちを傷つけられるのは私たちかあいつらの武器だけ。」
無表情で淡々と話すヴェールヌイ。
ヴェールヌイはしゃがみこみ店主から拳銃を奪い、装填して店主の頭に向ける。
「くっそ・・・。楽な仕事だったのに。」
店主は悔やむ。
やがて一発の銃声とその場に残った少女の小さな呟き。
「化け物か・・・。」
爆心地となった店の周りには野次馬が多く集まっていた。
店はなんとか形を保っているが煙が充満していた。
「おいおい大丈夫か。」
「地下が爆発したらしいぜ。」
「トウモロコシが爆発でもしたのか?」
各々好き勝手言っている。
その煙の中からヴェールヌイが出てきた。
野次馬は心配して声をかけようとするもすぐ走っていた、示し会わせたかのように停まっていた高級車の助手席に乗る。
その高級車はすぐに走り去っていった。
その間10秒も経たなかった。
あまりの早さに野次馬は呆気に取られる。
車内、運転席の男は聞く。
「首尾は。」
「上々。失敗は煙で服が汚れたことくらいかな。」
ヴェールヌイは軽く叩きながら返す。
「いつも思うんだけど少女に爆弾付けて敵のアジトに飛び込ませるなんて心が痛まないのかい?アル。」
「名前略すな。アルシャヴィン少尉だ。」
男はアルシャヴィンという名前だった。
「いいじゃないか。フレンドリーで。」
「まったく・・・。だが言いたいことはわかる。傷つかないとはいえ、うちは艦娘の使う場所を間違えていると思うんだがな。良心の呵責はある。」
「艦娘に武器が通用しないからってこういう使い方はね。私たちは深海棲艦と戦うためにいるはずだけど?」
「いつだって便利なやつは本来とは違う目的にも使われるものさ。仕方ない。」
アルはため息をつきながら続ける。
「話を変えよう。次は俺も行くが、ターゲットが抵抗したら盾になってもらうぞ。」
「アルの盾、動いて避ける使えない盾かもしれないよ。」
「相手に合せて動いて当たってくれたら無敵の盾だけどな。」
アルは冗談のつもりだったがヴェールヌイは不満顔だ。
「とりあえず今回と次の作戦に備えて飯と・・・アイスでも食いにいくか。」
そう言うとヴェールヌイは一転目を輝かせて
「アイスはトリプルで手を打とう。戦意が高揚するからね。」
ヴェールヌイは人差し指で一を作り、ウィンクをして交渉する。
アルは苦笑い。
「アイストリプルで機嫌良くなるなら喜んで。」
そう言いながらぽつりと。
「お前は人間の子どもと変わらねぇよ。」
車を走らせ二人は次の目的地に向かうのであった。
艦娘に人間の兵器が効かないのってどうだったけ?確か深海悽艦は効かない設定あったようなと思いながら書いてましたね。
それでは。