明けましておめでとう御座います!
今年も仕事やらなにやら頑張りながらユル~く投稿していくので宜しくお願いします。
……静岡沼津……地下……災難避難センター
沼津市内の地下には、近年日本各地で発生している突然の災害やそれに伴う病院の収容数の限界やライフライン崩壊の二次的被害それらを考慮した世界中に会社を置く海外のとある多国籍企業が資金を出し市で着工に移した地下避難センターがある。頑丈なコンクリート壁に囲まれ日本の耐震基準、耐火基準、その他の圧力基準等も国が定めるものよりも遥かに上回った。
しかしこの地下避難センターが真価を発揮するのは災害が起きた時で有り、普段は資金を提供した企業の仕事場となっている……。
当然、仕事の内容等知る者は居ない。
「ほーら、お前ら暴れるなよ~」
そう言って医者等が着ていそうな白衣を身に纏った若い男は強化ガラスが張ってある部屋に僅か数センチの開口扉から動物の肉を放り込んだ。
彼の名は、飯野 哲(いいの さとし)
ガツ、ガツ
中の生物達は美味しそうにその肉を平らげて行く。
「そうか、旨いかお前ら!はは」
そんな彼を他所に後ろから溜め息が聞こえた。
「朝から楽しそうだね、飯野君」
「あ、谷田室長!御早う御座います!」
室長の谷田と言う男は心底呆れ果てたような顔をしていた。
「組織の上層部は君の腕を確かな物だと認めて東京からこの沼津研究所に送ったらしいが、どうにも私にはそれが実感出来ないよ、何か?17歳で最前線の仕事にありつけて受かれて自惚れているのか?」
「いえ……そんな事は……」
「確か君は……孤児だったな。君が産まれて両親は間もなく失踪……そして君はーー
「我々の組織に属する孤児院に入った…ふ、尤もあそこは孤児院とは表の顔で……この会社のように人間を子供の玩具みたいに扱う場所なのだが、ふふふ」
「……俺はその玩具遊びから逃れた人間です。数々の殺人ウイルスも俺には効きませんでした」
「産まれながらにして神に選ばれた人間と言うわけか……まぁいい、『奴の脱走』、『沼津の混乱』と危機続きだ」
「はい」
「アメリカからも伝令が来た、『昨日沼津警察署で確認されたクリムゾン・ヘッドはどうなったか』とな」
「く、クリムゾン・ヘッドが……!?」
「恐らくは……昨日打ち上げられた水死体のT-ウイルスの変異だろうな、頭蓋骨と腹部に傷があったそうだ。これも奴が元凶だ」
「やっぱり奴ですか……なんか相当イライラしてそうですよね……奴」
「ふ、我々への憎悪と自分の悲惨な人生にか?知った事か。組織の発展の為には人っ子一人の生涯なぞ安すぎる」
コッ、コッ、コッ……
離れていく谷田を他所に飯野はそっと呟く。
「安すぎる命……か。谷田さん……あんたら私利私欲の為に非人道的な事を繰り返す人間が……良く言えますね」
(尤も、今の俺はあんたらと同じ屑ですがね……でも俺は逃げはしない。いつか罪と向き合う時が来たら命を張ってでも罪を受け入れます)
飯野は数秒程、去っていく谷田の背中を見つめ……部署に向かった……
「ふふ、中々面白い小僧だな」
……
…………
………………
……………………
「どうかしら?千歌ちゃん」
「ひんやりして気持ちいい……ありがとう、梨子ちゃん!」
おしぼりをおでこにのせてもらった千歌は梨子に普段通りの笑顔を見せ、梨子は安心した。
「曜ちゃんは何処に?」
「皆を呼びに言ったみたい」
「まだ来て無いと思うんだけど……千歌ちゃん授業出れそう?」
「うん、梨子ちゃん達のおかげでね!」
「心配したわよもう!」
「ふふふ、ごめんでももう大丈夫」
二人ともすっかり安堵に包まれた、本来ならいつもと変わらぬ日常の中のいつもと変わらぬ普段通りの会話と言う出来事の筈なのにそれが二人に安心を与えたのだ。
……だが、『異常』は轟音を伴い『日常』を地獄へと変えようとそこまで迫って来ていた。
ボガァン!
二人はほぼ同時に驚いた。
「え……な、何かな……今の?……」
「少し待ってて……千歌ちゃん。私見てくるわ」
「きゃあ!」
轟音の正体は
「くくく、何処だっ!儂の目を見たあの小娘はぁ!」
今朝、千歌がぶつかった初老の男性が、浦ノ星女学院の校舎を破壊し穴をぶち開けた音だった……。
「ひ、あ……」
不幸にも他の仲間達を呼びに行こうとした曜はその場に居合わせてしまう。
ガク……ガク……
あまりの恐怖に曜は腰を抜かし地面に座り込んで一歩も動けなくなってしまった。
(千歌ちゃ……んの、話……本当だ……た)
思考さえも目の間の異常に支配される。
老人は近づき曜を上から見下ろした。
「う~む……こいつは違うな。儂が見たのはもっと髪の色が明るい小娘だった」
老人は確認すると、そのまま廊下を左の方向に進んで行った。
助かったのか……
未だに心臓ははち切れそうな程バグバクしている。
男性の姿が完全に見えなくなった時、曜は始めて立ち上がる事が出来た。
「……今の話が本当なら、あの男は千歌ちゃんの命を……くっ!」
スマホを取り出し慌ててトークアプリで千歌に発信する。
ピッ
『もしもし、どうしたの曜ちゃん?』
「千歌ちゃん、ごめんなさい!」
『え、突然なに?……曜ちゃんなんか悪い事したっけ?』
「したよ……私、千歌ちゃんに嘘をついた」
「千歌ちゃんが今朝見た……赤い目の人間はね……実際に居たの……」
『え……』
「音、聞いたよね。あの音は千歌ちゃんに自分の赤い目を見られた男が浦ノ星の校壁を破壊した音だよ……」
『う、そ…だよね……』
「……千歌ちゃん。こんな時に……ただでさえ沼津や内浦が大変な時に嘘をつける程私は馬鹿じゃないよ」
『ごめん……だよね』
「その……動ける千歌ちゃん?あの男は千歌ちゃんの事を狙ってるよ」
『っ!……そうなんだ。じゃあ学校サボるしかないね』
その言葉に曜は少し口元を上げながらも切羽詰まった様子で声を上げた。
「逃げて!早く学校の外にっ!」
『うん!……って、曜ちゃんは!?』
「私は生徒達を避難させてくよ。あの男……あんな力を持った男が見境もなく暴れたりしたら……どれだけ被害が出るか分からないからね……」
『そっか……実は梨子ちゃんがさっき様子を見に行くって言って出て行っちゃって……』
「梨子ちゃんが……。分かった。すぐに見つけて校舎から離れるように言うよ、とにかく千歌ちゃんは一刻も早く逃げて何処でも良いから遠くへ」
『分かった。まだ学校に来てないaquorsメンバーには私から伝える……曜ちゃん……待ってるからね!』
ピッ
「ふふ、待ってるからね……か。絶対行くよ、千歌ちゃん」
タッタッタッ……
「ふぅ、保健室に戸がある学校で良かった」
ガラガラ
出た先は中庭だ。
浦ノ星女学院の中庭は校舎の西側と向かい合うように部室や体育館等が配置されており、その間に人が自由に通れる道がある。
(此処から、校門に向かうか)
中庭には特にこれと言った変化が見られなかった。
千歌は音を立てずに素早く移動し校門の外へ出た。
「はぁ、こんな気が滅入る下校は始めてだよ……」
「あ、君!」
「はい!?」
いきなり話かけられ千歌はびっくりする。
声を掛けて来たのは若い男性警察官だった。
「すまないが、この近辺に凶暴な男が現れたとの情報が入ってね。どうだろ……不審な男を見なかったかい?」
「その男は私を探して今学校内を彷徨っています!まだ中には私の友達や生徒が居るんです!助けて下さい!」
千歌は必死に訴えた。
「……分かった僕が全力でこの学校の生徒達を助けるよ。だから君はまず自分の身を守る事を考えてくれ」
「はい……必ず、必ず宜しくお願いします!」
「少し待ってくれ」
「え?」
警察官は自身のスマートフォンを取り出しとある地図を見せた。
「沼津の全体で異変が起きていてね、この避難場所を目指してくれ」
「これって……」
千歌はじっと目を凝らす。
「沼津市民なら聞いた事が有ると思うが、地下の避難センターだ。もしもの時はここに避難するのがこの沼津市民の掟となっていてね。君もここに逃げなさい。あの男は絶対に捕まえる」
警察官は校舎に向かって走り出した。
「そういえばあったねそんなの。とにかく考えてる暇は無いね……なんか色んな所から黒煙が上がっているし……」
「お母さん、美渡姉、志満姉、私……自分で自分の身を守ってみせるからね……!」
災害避難センターを千歌は目指す。
……
…………
………………
……………………
……内浦海上……
大惨事が起こっている沼津市の様子を船に乗り海上から監視している者達がいた。
「このどさくさに紛れT-ウイルス感染者を沼津に放つとは……呆れるぜ大西」
「ただの感染者じゃ無い、改良に改良を重ねたプラーガで脳の前頭葉の壊死を防いでんだ。故に奴等は人としての自我と知能を保ったまま強靭的な身体能力と凶暴性を得る事が出来る、意志疎通も可能」
「ほう、相乗効果とT-ウイルスとプラーガの弱点を互いが互いに補強しあって弱点無しってわけかい」
「ふ、まぁ俺の駒としては戦力は下の下だがな……だがこんな町一つ乗っとるには充分過ぎる戦力だな」
海上に突然現れた船は、数分程滞在すると姿を消した。
おっさん快進撃