死神と9人の女神   作:獄華

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黒幕には少しだけしか触れません


第4話 糧は忠誠

警察署の暴動事件から一夜が明けた沼津市内

ざわ、ざわ。

 

件の警察署はマスコミと聴衆に取り囲まれ焼き焦げた廃墟に等しき外見をしている、本格的にこの署に火の手が回り始めたのは午前1時頃、阿吽絶叫の中署員は火の手と動く死体を掻い潜りながら出口や一階二階のガラス等を割って逃げたようだ。

まだ、警察側からは国民に対して発表されてはないが少なくとも死者は20数人を越えていると現地の情報と近隣住民達から寄せられた情報を元に数社のテレビ局で放映……だがここで暴動の根源に触れる報道はどの局もしなかったのである……つまりこの時点で死体が暴れまわったと言う恐ろしい事実を知っているのは当時勤務していた署員達だけなのだ。

詳細な情報は警察側からの記者会見を待つ事となった。

 

 

……

…………

………………

……………………

 

 

『今日の午前11時より警視庁から代表が今回の暴動について釈明会見を開く事になっています』

 

「怖い事件ね」

 

「うん……」

 

朝食を食べながら千歌と千歌の母親はニュースを見ていた。

千歌の母親の顔がここまで険しくなったのはいつ以来だろうか?

 

「国民を犯罪や危険な事から守るのが警察なのに、年頃の娘も居るんだからしっかりしてほしいわ」

 

「ぇへへ、なんか恥ずかしいな」

 

「笑い事じゃないの。千歌だってもう少しで大人になるんだから、こんなご時世なんだから自分の事は自分で管理出来るようにならなきゃ駄目だからね?」

 

「は~い」

 

「本当に分かったのかしら……この子……」

 

「あーもう大丈夫だよ!皆が居ればどんな困難も乗り越えられるもん!だからお母さんが東京に居たって大丈夫!」

 

「ふふ、そう。ところで……バスが来るまであと30秒も無いわよ?」

 

「え……うわっ!本当だ!じゃ、お母さん行って来ます!」

 

「行ってらっしゃーい、気を付けてね~」

 

「分かってるって~!」

 

ガラガラガラ

 

「あの子ったらまた表口から……はぁ、言った側から先が思いやられるわね…」

 

母親の独り言を聞き、こっそり隣部屋に忍び込んでいた二人の娘は口元を上げて静かに笑う、その様子に母親は気付いているのかいないのか………こうしていつもと変わらぬ旅館 十千万(とちまん)の一日が始まった。

 

…………

 

「もーう!遅いわよ!千歌ちゃん!」

 

「ごめん!話に夢中になっててー!」

 

目と鼻の先にはバス停で千歌を待つ梨子、早く行きたいが一心で彼女は掛ける。

 

「あ!千歌ちゃんストップ!」

 

「へ?」

 

ドォン

 

「きゃ!」

 

衝突した、人と、あまりの反動で千歌は後ろによろめいてしまうが明らかに自分に非があるため両足に力を込め自身の姿勢を保ち不安定ながらも「ごめんなさい!」 と頭を下げた。

梨子も「本当にすいません!」と頭を下げる。

 

ぶつかった相手は初老の男性で「良いんだ」とだけ返事をし、旅館の左方の道を何事も無かったかのように機械的な動きで歩いていく。

(良い人?……なのかな……)

 

一般人ならば怒ってもおかしくないくらいの痛みだと思ったが、あの男性はそんな素振り1つしてない……少し不思議だ。

……まるで千歌の事が最初から眼中に無いような……

 

ブブー

 

「「あ、乗りまーす!」」

 

ガシャン

 

揃って声を出した二人は大急ぎでバスに駆け込む。

 

「はぁぁぁ……」

 

「間に合ったわ……ね」

 

朝っぱらからくたくただ。

 

「ヨーソロー!御早う!千歌ちゃん!梨子ちゃん!」

 

息を乱しながら「御早う」と二人は曜に返した。

 

いつも通りの日常だ。

昨日のあの悲惨な出来事が嘘に思えてくる。

 

「よっと」

 

乗降口に近い方から千歌、梨子、曜の順序で一番後ろの席に3人はついた。

 

「それでさ……」

 

先程の明るさとは何処へやら曜の口調が暗くなった。

 

「昨日警察署で何で暴動何て起きたんだろうね?」

 

悪い人が暴れたのかな、と曜は冗談混じりに付け加えた。

 

「どうなんだろう?……ネットでは『唸り声が聞こえた』とか、『何者かが暴れていた』とか、色々聞いたけど……」

 

「ふ~ん……」

 

梨子と話す曜の顔……涙こそ流して居ないが海辺で変死体を見つけた時と同等かそれ以上に暗い。

 

(はぁ…、意味分かんないよ、次から次へと)

 

不貞腐れ気味に窓枠に肘をついた千歌は歩道へと目を通す、あんな事件が起きても社会が止まる事は無い。サラリーマンや学校の教師等がいつもと変わらず通勤している。

 

(さっきのおじさん…だ)

 

そう言えばこんな男性今までこの時間帯に見掛けた事が無い、越して来たのか?旅行者か?

 

ブロロ

 

バスが男性が歩く横を通過し歩道に影がかかる……その影に、千歌は恐ろしい物を目に焼き付けてしまった……

 

 

 

 

暗闇が歩道を支配した数秒間、男性の両目が赤く発光したのを

 

 

 

「待って!梨子ちゃん!千歌ちゃんの様子が!?」

 

「ち、千歌ちゃんどうしたの?」

 

「いやぁ……いやだよ……もうこんな夢覚めて……!」

二人が何があったか聞き続けるが千歌は身体を震わせ踞るだけだ。

 

 

 

……

…………

………………

……………………

 

 

「あの、小娘…儂の正体に気付いたか?……ふん、まあよい、あの御方の為にも組織の繁栄と再生の為にも!邪魔者は全て殺す!女子供問わずな!」

 

男性は千歌の制服を見てある考えを浮かべた。

 

 

『あの御方の娘と同じ服装だ』

 

「儂に生きる希望を与えて下さったあの御方に栄光あれ!」

 

男性は何処か吹っ切れていた……精神も……肉体も……

 





新キャラ おっさん

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