スキル:
・軍事知識 ・ーーー ・召喚能力(ロック)
・基礎能力向上(ロック)
翌日も朝早くに目を覚ました俺は、自室を出てリビングに入った所でいつもと違う事に気付いた。
リビングの中央に陣取るテーブルの上にはマグカップが2つとロウソクが燃え尽きたランタン。
ろうが溶けた匂いや紅茶の匂いに混じって記憶にあるヒトの匂いがする。
教会でいつもパンとお手伝いの代金をくれる時に嗅いだことのある匂い。
「くんくん…この匂いは…、メアリー…?」
どうやら夜、俺が寝た後にメアリーが来てアマンダと何か話していたようだ。
そしてメアリーの匂いはアマンダの部屋へと続いている。
ニンジャよろしく差し足抜き足忍び足でアマンダの部屋のドアに近付いた俺は、静かにドアを開ける。
部屋の隅に置かれた小さなベッドの毛布は不自然に膨らみ、
その隙間からはふくらはぎの筋肉が発達しているアマンダの脚と真っ白で華奢なもう1人の女性の脚が見える。
俺はそっとドアを閉じた。
「ん……?」
見なかった事にしておいたほうがみんなハッピーになれる事は間違いないが、
匂いからしてベッドに居るのはアマンダとシスターだ。
何があったか考えたくは無いが、仮にも教会の人間であるメアリーが同性同士で関係を持つのは良いのだろうか?
前世のキリスト教では異端とされていたのだが…
「うーん…」
腕を組んで考え込む俺の背後でアマンダの部屋のドアが開き、下着しか身に纏っていないアマンダが現れた。
「あぁ…、ルークか。今日は教会に行かなくていいぞ。」
「わかった。」
動揺しない風を装って答えた俺はアマンダから視線を外す。
やはり肉体年齢に精神年齢が影響されるのか、これまで意識してこなかったアマンダの裸体も12歳という思春期真っ盛りの俺の目には危険なものに映る。
寝ぼけているのか、おぼつかない足取りでそのまま井戸のある裏庭に消えたアマンダを見送った俺は、メアリーの分も含めた3人分の朝食を作り始める。
作っている間にバスルームから戻ってきたアマンダは焼き上がったベーコンを摘み食いしてテーブルについた。
「ルーク」
「何?」
フライパンから手を離さずに上体だけ回して振り向く。
「今日は村のどこかで遊んでこい。」
「良いのか?」
「ああ。こんな日があっても良いだろ?」
朝食を作り終えた俺は自分の分を食べ終えるとすぐに出かける準備をした。
といっても、前世の俺の年齢を足すと今の俺は20歳近い。
特に子どもらしい遊びをしたいとも思わなかった俺は、魔法の本を片手に村の外を目指した。
無論、やる事は魔法の練習だ。
一般的に獣人は身体能力に優れる反面、魔法の制御は難しいと言われている。
孤児院や学校で魔法を学ぶ多種族の子に負けても仕方ない事だが、ここは前世の日本と違って命がかかってくる。
あって欲しくは無いが、魔法の技術が劣るせいで怪我をさせられたり、最悪死ぬような事は絶対に避けたい。
村を出る前にアマンダにもらった銀貨を使って昼食用のパンと果物を買うために市場に入った俺の鼻は早くも美味しそうな匂いを嗅ぎつける。
パンや果物はもちろんだが、魔物の肉の串焼きや魔物の肉をパン生地で包んだ肉まんのような料理など、いろんな誘惑が俺の足取りを右へ左へ寄り道させ、
「あら、ルークちゃん!いらっしゃい!今日もお遣いかい?」
「よおルークの坊主じゃねえか!久しいな!これ持ってけ!」
お金は減っていないのにいつのまにか俺の両手には山のように食べ物が積め込まれた紙袋が載っていた。
申し訳なさからお金を払おうとしたが断られるため、とりあえず全部受け取った俺は、これ以上ただで食べ物を貰うことが無いように路地に入った。
村と言っても国境に近いためそれなりの規模があるアルコ村は飲食店や宿屋が立ち並んでおり、その通用口が並ぶ路地裏は日が当たらずジメジメとした空気が立ち込める。
そこは市場とは打って変わって生ゴミの臭いが鼻をついた。
嗅覚の良さが災いしてあまりの不快感に足を速めた俺だったが、
商店の裏を通る時に鼻が錆びた鉄の臭い…いや、血の臭いを嗅ぎつけた。
この世界に転生してから動物の血の臭いしか嗅いだ事の無い俺でも、
前世の自分が死ぬ時に嗅いだ血の臭いは鮮明に覚えている。
俺は足音を消して血の臭いがした細道を敢えて素通りし、商店の通用口の影に身を隠す。