何かしてろ、と言われてもこの村にある娯楽といえば、川遊びに野遊び、たまに来る吟遊詩人くらいで、今日はもう日が落ちた今は家で本を読むくらいしかない。
だがアマンダの家の本棚は違う世界から転生してきた俺からしてみれば宝の山だった。
ジャンルは戦記や伝記、魔法に関する本や魔物の図鑑など、この世界で生きていくのに必要なことばかりだった。
都市伝説や超常現象として扱われている出来事を扱った本に関してはツッコミどころが満載だったが、それも含めて俺は同世代の子どもに比べてかなりの博学だろう。
中でも特に読み込んだのは魔法の入門書だ。
自分の能力を知る方法や属性という概念についての他に、日常生活で使える便利な魔法や魔石の使い方とそれを応用した魔導具の解説など、入門書と呼ぶにはいささか分厚い本だったが、読み終えてみれば、なるほど分かりやすい。
この世界に存在する魔法の属性は無、火、水、氷、風、土、雷、光、闇の9種類で、
これを極めたり組み合わせたりする事でさらに可能性は広がるんだとか。
代表的なものとして氷属性の魔法が使えなくても、水属性魔法と無属性魔法の組み合わせで氷塊を生み出すことができるそうだ。
最近は孤児院の子どもたちも魔法の勉強を始め出し、俺が教会の手伝いをしている傍で手に火の玉を浮かべたりしながら一喜一憂している。
たまに魔法の勉強で成績の良い子どもが掃除をする俺を影で笑っているが、俺は何も草むしりをするためだけに教会に行っているわけではない。
実技の練習をする子どもはやたら声を張るし、練習場の中庭は俺が草むしりをする裏庭から丸見えだ。
門前の小僧とはまさしく俺のこと。
前も言ったがそれなりに練習はしてきた。
わざわざ教わらなくてもいくつかの魔法は俺はすでに使える。
「ルーク、今日は何属性だ?」
キッチンで野菜を切る音を響かせながらチラチラとこちらの様子を伺うアマンダは、調理に集中しているように見えて耳はしっかり俺の方を向いている。
「今日は火属性。」
「そうか。どんな感じだ?」
アマンダに見えるように手の平を見せた俺は、火属性魔法の基本詠唱を始める。
「炎よ来たれ…」
詠唱と同時に体内の血液を手の平に集める事をイメージし、続けて一瞬だけ火花をイメージした。
すると、ボッという音を立てて手の平にテニスボールくらいの火の玉が生まれた。
しかし数秒が経つと手の平にジリジリと焼かれるような感覚が出始め、
「あっつッ!?」
たまらず魔力の供給止めた。
「ハッハッハッ」
少しでも手を冷まそうと手に息を吹きかける俺の姿を見ながら、アマンダは料理の手を止めて大笑いしている。
「ん“〜〜〜…」
こっちは一生懸命やってるのに笑われるのは良い気分はしない。
「じゃあアマンダがやって見せてよ。」
「良いぞ。炎よ来たれ。」
ポッと可愛い音を立ててアマンダの手に小さな火球が生まれた。
ドヤ顔で火の玉を掲げる割にサイズはピンポン球程度だ。
「……ショボい」
「るっせー!火属性は苦手なんだよ…!」
赤面するアマンダから本に視線を戻し、どうして手の平が熱くなるのかを調べる。
「その…、なんだ…。大事なのは安定して魔力を送り続ける事だ。
いきなり高みを目指して上手く行くやつなんてそうそういない。
ゆっくりでいい。」
「わかった。アマンダサイズから頑張る。」
「あ”あ“!?お前もう一回言ってみろ!」
今日の夕食には大嫌いなカボチャが出た。