勇者代理は現代兵器とともに   作:Bishop1911

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氏名:伊達龍一
スキル:
・軍事知識 ・ーーー


1-2

暗い…

 

水の中を沈んで行くような感覚…

 

ああ…、俺…死んだのか…

 

『ええ…!?ちょっ…タンマタンマ…!!違う違う違うソイツじゃ…!』

 

女の子の声…

 

歳はそう離れてないように聞こえる

 

『ああーーーーーーーーっ!!』

 

……ここ、どこ?

 

『ウッソでしょ!?なんで!もう意味わかんない!!』

 

意味がわからないのはこっちだ。

撃たれた記憶の次は女の子が近くで喚いている。

一瞬、病院かとも思いはしたが、これだけうるさい人間を摘み出さない病院は無いだろう。

 

水に沈む感覚はいつのまにか浮遊感に変わる。直後、背中を強い衝撃が襲った。

 

「…いっ…!」

 

体を起こすと、俺が落ちたのは薄暗い部屋の真ん中だった。

『薄暗い』というからには光源があり、テレビとしか思えないその光源を背景に1人の少女が振り返る。

だぼだぼのパーカーにツインテールの少女は、

 

「き、さ、まぁーーー!!」

 

そう言いながら俺の方へ歩み寄り、俺の胸ぐらを掴んで揺さぶる。

 

「なんてことしてくれたの!」

 

「ちょ…ちょっと…!」

 

「あんたのせいで全部台無しよ!」

 

「だから待てって!」

 

訳もわからず揺さ振られるだけの俺はまだ力がうまく入らない筋肉でなんとか少女の腕を掴むと彼女の手を振り払った。

 

「ここどこだよ!ていうか君は?!」

 

「ここはアタシの領域!アタシはアタシ。それ以上でもそれ以下でも無い!」

 

『アタシの領域』こと『暗い空間』を見回すと、部屋の隅にはテレビがあり、それ以外は何も無い。

 

「なんだこの部屋…?引きこもりの方がもっと豊かな生活してるぞ。」

 

「あーもう!うっさい!死人のくせに!」

 

死人…?

 

「もっとわかるように説明してくれよ…」

 

 

頭を抱える俺にそれから数分間ブーブーと罵倒するだけ罵倒してため息をついた少女は、仕方ないと言いながらどこからか取り出した分厚いファイルを片手に口を開いた。

 

「まったく…、どこから話そうかしら。まあアタシのことからで良いわね。

アタシはただの管理者。アタシしかいないから名前も必要無い。

アタシはアンタたちの世界では“神”って言われてる存在。」

 

「ちょっと待て…」

 

理解が追い付かないどころのレベルじゃない。

死んだのは確定で間違い無いだろう。

アキと脱出した後、保護された辺りまでの記憶は覚えてる。

 

だが、こいつが…神…?

 

「なによ。」

 

じーざす

 

「失礼なこと考えてるわね…。でも良いわ。

アタシだってアンタたちが思ってるほど凄いことしてる訳じゃ無いし。」

 

「何かしてるようにも見えないけど…。」

 

「へえー、仮にも神と呼ばれる存在をニート呼ばわりしようっての?

良い根性してるじゃない!」

 

神は手のひらに炎のように揺らめく青い球体を生み出す。

 

「うわっ!?ちょっと…!」

 

反射的にバックステップで間合いを取ると、神は炎のような球体を消した。

今までの人生で一度もできたことのない挙動に我ながら驚くがそれは置いておく。

 

「アタシは管理者なの。別にアンタたちだけ見てるだけじゃ無いわ。」

 

「”アンタたちだけ“…?」

 

他にも…?他の国ということか…?

 

「違うわよ!アンタたちとは別の世界も見てるの。」

 

俺の思考を読み取ったのか、俺が疑問を口に出すより先に答え、話を続ける。

 

「そして他の世界で役立ちそうな人材が死ぬタイミングと場所を調べて、

魂を拾ったら別の世界に送る。そして全てのバランスを保つのがアタシの役目。」

 

そこまで言って彼女は腕に抱えるファイルを俺に手渡した。

促されるままにファイルを開くと、中に挟まれているのは歴史の教科書に載っている偉人たちの写真ばかりだ。

 

「これは?」

 

「はぁ…、アンタ馬鹿なの?察しなさいよ!

こいつらは私が別の世界から拾ってきた魂。まぁ…役に立たないやつも居たけど。」

 

彼女がページをめくると、そのページには歴史上で独裁者や暴君と呼ばれた人物が数多く載っていた。

 

「…か、神だって間違えるのよ。」

 

俺の視線を受け流すように神はそっぽを向いた。

 

「じゃあ俺は…」

 

「違うわよ。」

 

ピシャリと言い放った神はファイルを取り上げてどこかへ消し去った。

 

「アタシが欲しかったのはアンタの隣に居た女!」

 

でも…、と繋げた神はビシッと俺を指差し、

 

「アンタが!」

 

ベシっと手刀を俺の頭に。

 

「アキを助けたせいで!」

 

バシっとスネにローキック。

 

「どれだけ計画が狂ったか!」

 

ボフっと鳩尾に拳を打ち込んだ。

 

「うごふっ!?」

 

神さま怒りの3コンボをモロに喰らってうずくまる俺を見下ろしながら、

神は何か結論に達したようにひとり頷いた。

 

「…こうなったら、アンタを送り込むしかないわ…!」

 

「え…?」

 

「世界は微妙なバランスで成り立ってるの。アンタみたいな一見役に立たない魂でも100回使い回せば世界の調和に必要なピースになるかもしれない。だからここで魂を余らせとくわけにはいかないのよ。」

 

いまいち自分が置かれている状況を飲み込めていない俺をキッと睨んだ神は突然、ふわりと宙に浮いたかと思うと俺の方に右手を伸ばす。

 

「転生させると子どもだから、とりあえず12歳で基礎能力が上がるようにして…」

 

「いや、その…!」

 

「魔王軍相手に戦った前の転生者は『俺の世界の兵器と銃があれば良い』って言ってたし…」

 

「へっ…!?」

 

「でも前の転生者は5歳で戦車を召喚しちゃったから殺されたのよねぇ…。まあそれも12歳にもなれば分別着くでしょ。」

 

「いや、だから…!」

 

「あとは自分で勉強しなさい。」

 

次の瞬間には俺の足元に紫色の魔法陣が現れ、神がブツブツと何か単語を呟く度にその魔法陣は複雑な模様のものへと姿を変える。

 

「ま、待ってくれ…!!」

 

「アンタは次の勇者が見つかるまでの繋ぎ。

これは運命に逆らった罰だからね。

あー、別に勇者を気取る必要はないけど、アンタを送る世界は私に反抗的な愚か者ばっかりなの。だから気をつけて。」

 

「俺は…!」

 

必死に懇願する俺の声が届いたか届かなかったかはわからないが、俺の最後の記憶はグルグルと廻る景色と徐々に暗くなっていく視界だった。


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