勇者代理は現代兵器とともに   作:Bishop1911

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氏名:伊達龍一
スキル:
・軍事知識 ・ーーー


第1章 勇者代理
1-1


人生はもっと長く続くものだと思っていた。

可愛い幼馴染と共に育ち、苦楽を乗り越えいつかは結ばれる。

そんな理想を描いていた事もあった。

 

 

「ーーいちっ、龍一ッ!起きてっ!起きてよ!!」

 

薄暗い視界の中で聞き覚えのある声が俺の名前を読んでいる。

 

瞼に明るい光が当てられる。

 

眩しい…

 

「お願い!目を開けて!」

 

「Please move away!

Increase voltage…Charge!」

 

ピピィーッ

 

「Clear!」

 

ーードシュッ

 

背中が反り返るほどの強い衝撃。

全身の筋肉が一気に縮むような感覚。

 

痛い…!苦しい!!

 

少しだけ明るさの戻った視界に映ったのは何かの液体で顔や服を真っ赤に汚した幼馴染のアキだった。

腹部に圧迫感を感じた俺は視線を下げると俺の腹を必死に押さえる救急隊員が視界に映る。

 

「ど…ぅ…した…アキ…?」

 

うまく喋れない。

 

「何!?何て言ったの!?」

 

「そ…ぇ、…どう…した…?」

 

なんとか振り絞った声はアキの耳に届いたらしく、ぼやけた視界の中でアキの表情に安堵の色をなんとか確認できたが、今度は手で顔を覆ってしまった。

今の視界ではよく分からないが、鳴咽を堪えているのはきっと顔を覆う手の内側は涙でくしゃくしゃになっているからだろう。

 

「あんたの血に決まってるじゃない…、

あんたの…あんたのおかげで私は無事よ…!」

 

血…?

 

「His heart rate has fallen!!Aki, please continue to tell him!」

 

でも、人生は残酷だった。

 

ーー数分前ーー

 

「あーあ…、せっかくグアムまで来たのになぁ…」

 

修学旅行で訪れたグアムのとあるショッピングモールで幼馴染みのアキとテーブルを挟んで座った俺は、今日何度目かもわからないため息を吐き出した。

 

「なに?あんたまだ言ってるの?」

 

「だってさ…修学旅行だぞ?アメリカだぞ?

できればラスベガスが良かったけど、贅沢言え無いから妥協してグアムだぞ?

島に射撃場は3カ所あって米軍基地もあるのに見ることすらできないんだぞ?」

 

「…それもう6回目。

あんたもいい加減別の楽しみを見つけなさいよ。」

 

楽しみと言っても、グアムと言ってミリオタが思いつくのは米軍基地やビーチ、射撃場と戦争史跡くらい。

クラスで軍事系のオタク仲間は幼馴染みのアキただ1人。

探さなくても見どころなんて山ほどあるこの島でも、俺が興味を持てる場所なんて指が10本もあれば足りる。

 

しかしそのほとんどが先生の『危ないから行っちゃいけませんリスト』に載っているとなれば、修学旅行自体乗り気になれないのも理解してほしい。

 

かく言うアキは日本の大型書店で購入した『白い死神と呼ばれた男』なる単行本を片手に日本でもどこにでもある某ファストフード店で買ったよくわからない飲み物を飲んでいる。

南国で北欧の英雄伝を読んでいるあたり、彼女も俺と心境は変わらないのかもしれない。

 

「じゃあアキは俺が他の男子みたいにビーチで水着の美女を見物したいって言ったらどうするんだよ?」

 

「へー…、私じゃご不満?」

 

「いえ、滅相も無い。」

 

「まったく…、男子ってなんでそんなにーー」

 

半ばお説教モードで俺への愚痴をこぼし始めたアキの話は、俺の視界に入った1つ下のフロアを歩く大男2人組のせいで開始早々右から左へダダ漏れだった。

 

「ーーだし、この前だって…て、聞いてる?」

 

大男2人はフロアの中央でボストンバッグを下ろすと、呼びかける警備員には目もくれずバッグの中をガチャガチャと探っている。

 

 

逃げろ

 

 

誰でも無い俺の本能がそう叫んでいた。

コレと言って根拠は無い…が、厨二病真っ盛りの中学時代に散々妄想した「もしテロリストが目の前に現れたら」で何度も予習した妄想が今目の前で現実となろうとしている気がした。

 

「…アキ、移動しよう。」

 

「突然何よ、話逸らさないでくれる?」

 

気の強い幼馴染みは相変わらずだが、今回ばかりは負けてられない。

俺はアキの手を掴んで椅子から立ち上がらせると、強引にショッピングモールの出口がある方へと足を向ける。

 

「いいから来い!」

 

「急にどうしたの?ちょっ、痛いって!」

 

アキが手を振り払おうとした時だった。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

聞き覚えのある言語で叫ばれた神を讃える文句とともにショッピングモールのエントランスを閃光と爆音が包み込んだ。

 

爆風とその衝撃で壁に叩きつけられ、頭が割れそうな頭痛と耳鳴りの奥にかすかに破裂音が聞こえる。

 

パパパパン…パパパパパパパパン…

 

「銃声…?」

 

少しずつ耳鳴りが治るとその疑問は確信に変わる。

そこからは悲鳴と血と銃弾の飛び交う地獄の幕開けだった。

 

「な…、何が…?」

 

俺の隣に倒れていたアキはまだ状況が飲み込めていないのか、それとも現実を受け入れきれないのか。

どっちにしろこの場に留まるわけにはいかないだろう。

 

「早く逃げよう!」

 

逃げ惑う観光客の背中にバラクラバで顔を隠した男たちの凶弾が襲い掛かる。

警備室を飛び出してきた警備員が拳銃で応戦しているが火力も防御力も違う。

 

制服の上に何も纏っていない警備員に対してドラムマガジンをつけた自動小銃を乱射するテロリスト2人は、常夏の島には似合わない着膨れした体型で銃弾を物ともしない。

おそらく防弾ベストで身を固めているのだろう。

 

アキを引っ張る俺の脚は恐怖で何度ももつれそうになるが、今俺が握っている命はひとつじゃない。

恐怖で感情が支配されそうになるたびに俺はアキの方を振り返り、もうひとつの命を握っている現実を自覚し、自分を鼓舞し続けた。

 

何があってもアキだけは逃さなければならない。

 

それは幼馴染として以前に、男として譲れない決意に近いのかもしれない。

俺はアキの手を強引に引いて無人のファストフード店のカウンターに滑り込み、銃撃が止むのを待った。

 

「引き回して悪かった。腕…大丈夫か?」

 

アキは狭いカウンターの中で小さくコクリと頷くと、小刻みに震えながら俺の手をぎゅっと握りしめている。

 

「龍一、私たち…死ぬのかな…?」

 

ポツリとアキがそんな言葉を漏らした。

普段強気な彼女が絶対に漏らすはずのない感情を。

 

こんな時に俺まで弱気なことを言ったらダメだ。

俺だけでも平静を取り繕えばアキも少しマシになるはず…

 

「なに言ってんだ、こんなとこで死んでたまるか。

俺の人生はステキなお嫁さんと結婚して、ハッピーエンドを迎えるって決まってんだ。」

 

少しでもアキの恐怖を和らげてやろうと戯けた調子で喋った精一杯の軽口だったが、声は震えるし、よく考えたら死亡フラグだ。

それでもアキはクスリと笑い、

 

「私じゃ…ダメ…かな…?」

 

冗談っぽくそう返した。

 

今、何て言った?

 

「…は?」

 

アキの独り言のような呟きは俺の解釈では告白に等しいものだが、昔から好意をいだいても友だち以上に発展しないと諦めていただけに、その驚きは人一倍大きかった。

 

「だから…、ううん、こういう時だから死んでも後悔しないように全部言うわよ。

私…、あんたのことが好き。昔っから大好きだった…!

あんたはどうなのか知らないけど…私がそういう女だったってことは忘れないでよ。」

 

「俺も…好き…だ。」

 

頰がカアーっと紅くなるのを感じながらアキの方を見ると、アキも頰を真っ赤に染め上げて口をパクパクさせている。

 

「あ、あんたそれ嘘じゃないでしょうね!?

べ…別に死ぬかもしれないからって気を遣わなくてもいいのよ…?」

 

「嘘じゃない…!昔から好きだった。でも…なんか恥ずかしくて…」

 

バダダダダダダダッ

 

「きゃっ!?」

 

再び鳴り響いて銃声で今の状況を再認識した俺は深呼吸して思考をクリアにすると、カウンターから頭だけ出して周囲の様子を確認しながら次の行動をアキに説明した。

 

「そういえば俺、告白は夕日を背景にって決めてたんだ。

これ以上人生計画が狂う前に続きは外でやろう。」

 

「うん、私も賛成。」

 

いつもの調子をなんとか取り戻したアキの手を引いて壁や柱に隠れながら

テロリストに見つかることなく出口まで到着したが、あと少しというところで再び銃声が空気を震わせ、俺とアキの足を止めた。

咄嗟にアキの盾になる位置からアキを伏せさせた俺は、銃声が鳴り止んだのを合図にテロリストがこっちを向いてないことを確認してラストスパートをかけようと立ち上がる…が、走り出したところで足が絡まり、追いかけるようにモールの空気を震わせた銃声と同時にアキの上に覆い被さる形で倒れた。

 

「…ごめん、今…うッ!?」

 

すぐに立ち上がろうとした俺の脇腹に熱した鉄を当てたような痛みが突き抜け、続いてすうっと体から力が抜けていく。

ついに立ち上がる力を奪われ、その場に座り込んでしまった俺は何が起きたのかもわからずに痛む脇腹を触ってみると、ヌルヌルとした感触とともに血の臭いが鼻孔を抜けた。

 

「俺…撃たれ…」

 

盾を先頭に銃を構えながら駆け付ける特殊部隊とアキに引き摺られる。

 

「わかってる…!わかってるから死なないで…!

い、今外に連れて行くから!」

 

遠のく意識を繋ぎとめられなかった俺は、重くなる瞼をゆっくり閉じた。


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