可憐な少女と恋のレシピ   作:のこのこ大王

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第7章 予想外の提案

 

 

 

 

 

 学園の授業も終わる頃。

 僕は厨房で忙しなく動き回っていた。

 

 もちろん、寮母としての仕事である。

 

「ふぅ、あとはこれを入れるだけっと」

 

 僕は、種類ごとに分類した食材を

 テンポよく倉庫に入れていく。

 

 料理人とは、何も料理をするだけではない。

 こうした地道な食材運びなどもあり

 結構な重労働なのだ。

 

 特にお菓子作りの職人なんて

 見た目の華やかさからは、想像も出来ないほど力仕事である。

 

「これで全部かな」

 

 ため息を吐きながら数を再度確認する。

 

 女性ばかりの場所で性別を偽る毎日に

 正直、苦労することも多い。

 

 しかし、こうして一人で何も気にせず作業している時は

 その苦労からも解放され、気楽にやれるようになってきた。

 

 女子寮に馴染むことに慣れることが良いことなのか悪いことなのか

 あまり考えたくない話だが―――

 

 

 

 

 

第7章 予想外の提案

 

 

 

 

 

「だ~れだっ♪」

 

「わっ! えっ、なにっ!?」

 

 考え事をしながら作業をしていると

 誰かによって突然後ろから

 手で目を覆い隠され、身体を密着される。

 

 女の子のスベスベとした手の感触に

 密着した身体からは、良い匂いが漂ってくる。

 それに何より背中の方で自己主張する柔らかな膨らみのおかげで

 何もかも冷静に考える暇など無い。

 

「わ・た・し・は、誰でしょう?」

 

 耳元でささやくように聞こえてくる言葉は

 とても色っぽく聞こえた。

 

「み、耳元で・・ひゃうっ!

 はなし、かけない、でぇ・・・!」

 

 誰かは解らないが、女の子に密着され

 柔らかな膨らみを押し付けられて

 耳元で色っぽく囁かれれば

 嫌でも男として興奮してしまう。

 

 それはそれで色々とマズイ。

 

 とりあえずこの状況から脱出することが先決だ。

 

「あんっ♪ 動かないでっ♪」

 

 拘束から逃れようとすると

 更に後ろから強く抱きしめられる。

 

 とりあえず誰なのか解りませんが

 そんなに愉しそうに抱きつかないで下さい。

 スカートなので下側が反応してしまうとアウトなんです。

 

 だが強く抱きしめるために

 目を覆っていた手が離れている。

 そこで何とか後ろを振り返ると―――

 

「えっ!?

 く、九条 綾子・・・さまっ!?」

 

 危うく年上につける敬称の「さま」を忘れそうになりながらも

 慌ててつけることに成功した自分を褒めてやりたい。

 

 ・・・いや、そこじゃない。

 問題は、そこじゃないんだ。

 

「あら? 私のこと、知ってるの?」

 

 こうして直接会話するのは初めてだというのにも関わらず

 何故僕は、彼女に抱きしめられているのだろうかということ。

 女性同士は、スキンシップが多いというのは

 この学園に入って嫌というほど理解していることであり

 僕にとっては毎回正体がバレないかとヒヤヒヤするものであるのだが

 少なくとも初対面でここまで積極的に来られたことはない。

 

 ・・・いや、神城さんという例があったか。

 でも、彼女はむしろ例外の―――

 

「お~い。

 何を考えてるのかなぁ~?」

 

「ひゃぅ!」

 

 まるで子供に対して言うような子供っぽい声で

 僕の頬っぺたを指で突っつく綾子さま。

 

「ど、どうして綾子さまが、ここに?」

 

「一度、楓ちゃんとお話ししてみたかったから」

 

「何もこんな時間でなくても」

 

「ほら、よく思い立ったらって言うじゃない?」

 

 そう言われても思い立ったらでわざわざ授業が終わってから

 スグに厨房まで走ってきたかのような時間に来る必要は無いと思うんだが。

 

 まだ自由時間ですよ?

 

 あと、ずっと定期的に指で頬をツンツンするのを止めて下さい。

 

 神城さんの時も、それはそれで危なかったが

 今回は、それ以上に危ないかもしれない。

 

 可愛いよりも綺麗・美人という言葉の方が似合う美少女に

 抱きしめられているというだけで、僕の男としての理性など

 色々なものが、そろそろ我慢の限界を迎えようとしている。

 

「そ・れ・よ・り・もっ。

 楓ちゃんは、私のこと知ってたのね」

 

「は、はい。

 この前、中庭で皆さんとお話しされているのを見かけた時に

 一緒に居た神城さんと御堂さんが色々と教えてくれました」

 

「あら?そうなの?

 それなら声をかけてくれれば良かったのに」

 

「皆さん、とても愉しそうにされていたので」

 

「楓ちゃんなら、いつでも歓迎よ?」

 

「お、覚えておきます」

 

 何とか話を終わらせてこの状況を脱出したかった。

 だからだったのだろうか。

 

「絶対よ? お姉さんとの約束よ?」

 

 不意打ちのように耳元で今までとは全く違う

 色っぽい大人の女性のような声で囁かれ

 思わず飛び上がりそうになるほど、ドキッとしてしまった。

 

 そんなことを知ってか知らずか

 彼女は、何事も無かったかのように

 スッと抱きしめるのを止めて僕から離れる。

 

 そしておそらく真っ赤になっているであろう僕の顔を見て

 満足そうに笑う。

 

 どうしたらいいのかと困っていたら

 助け舟が来たようで、別の生徒達が厨房に入ってくる。

 

「綾子さま、ごきげんよう」

「綾子さま、こんにちは」

 

「ええ、ごきげんよう」

 

 入ってくる娘達は、次々と彼女に挨拶をしていく。

 

「あら、もうそんな時間なのね。

 それじゃあ、私も着替えてくるから

 また後でね、楓ちゃん」

 

 そういうと彼女は、厨房から出て行った。

 

 気分的には嵐がようやく過ぎ去った気分である。

 だが気を抜いている場合ではない。

 むしろここからが本番なのだから。

 

 そして色々と準備をしていると

 スグに時間となり、全員が厨房に集まる。

 

 やはり女性ばかり集まっている場所で

 その全員から注目されるのは、未だに少し緊張する。

 

「えっと、みなさん初めまして。

 もうご存知の方も居るとは思いますが

 私は、二条 楓といいます。

 

 寮母として今回、色々と指示などをさせて頂きますので

 よろしくお願いします」

 

「はい!」

 

 元気の良い声が返ってきて自然と気合が入る。

 

「では、今回から

 皆さんには、調理を担当して―――」

 

「はいは~い」

 

 これから調理担当の発表しようとした時

 何だか気の抜けるような柔らかな声が響いてきた。

 

「話を邪魔しちゃってごめんなさい。

 少し良いかしら?」

 

 声の主は、やはりというか九条 綾子だった。

 

「どうしました?」

 

「今回、私は

 楓ちゃんのお手伝いがしたいな~」

 

「ん、っと・・・え?」

 

 予想外の一言に思わず彼女が何を言っているのか解らず

 混乱してしまう。

 

「だ~か~ら~。

 私は、楓ちゃんの調理補助がいいな~って」

 

「ええっ!?」

 

「あら、ダメ?」

 

「い、いや。

 綾子さまには、メインの料理を―――」

 

「何だかそういう雰囲気だったから、先に声をかけたのよ。

 ねえ? ダメかしら?」

 

 そんな上目遣いで瞳をうるうるとさせながら見つめないで下さい。

 思わずそのお願いを聞いちゃいそうになります。

 

 彼女の予想外の一言によって

 周囲からもざわめきが起きていた。

 

 

 

 

 

第7章 予想外の提案 ~完~

 

 

 

 

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

しばらく時間が取れない期間が続き
投稿が大幅に遅れている状態になっています。

大変申し訳ありません。

これ以上遅れるのもどうかと思い
現行で完成している部分だけを先行投稿させて頂きました。
そのためかなり文字数が少なくなってしまっております。

とりあえず早急に続きを書きたいと思います。

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