可憐な少女と恋のレシピ   作:のこのこ大王

6 / 8
第6章 学園一の有名人

 

 

 人の賑わう大きなロビーで

 2人の女性が言葉を交わす。

 

「では、行ってきます」

 

 大きなキャリーケースを持っているのは、西崎 良子。

 楓に料理人としての道を歩むきっかけを作った料理人。

 

「悪いな西崎。

 色々面倒事を押し付けて」

 

 申し訳無さそうに言うのは、斎藤 真理。

 楓の伯母にして、伝統ある女学園の学園長。

 

 2人の上では電光掲示板が、次のフライト時間を忙しなく表示している。

 

 そう、ここは空港。

 

 真理が、これから旅立つ良子を見送りに来ているのだ。

 

「面倒事なんて・・・。

 私としてもチャンスですから」

 

「・・・そうだったな」

 

 笑顔で愉しそうに答える良子の顔を見て

 苦笑しながら、そう答える真理。

 

「・・・まあ、楓君には申し訳無いとは思いますけど」

 

「あれはあれで、良い経験になると思っている。

 ・・・それにまだアイツにこの世界は早すぎる」

 

「そうですね。

 彼には、彼自身の意思で歩んで欲しいですからね」

 

「それに将来の日本料理界を・・・いや世界の料理界全体を担う天才を

 あのクソジジイどもの金儲けに利用させる訳にはいかんからな」

 

 本音を隠さない言葉に、思わず良子は笑ってしまう。

 そう、目の前の彼女はそういう人だったと思いながら。

 

「・・・では、向こうに到着して落ち着いたら連絡します」

 

「わかった。

 まあ、その件以外に関しては何をどうしても構わない。

 

 ・・・思いっきり挑戦してこい」

 

「ありがとうございます!」

 

 真理に向かって一礼すると、荷物を持って搭乗ゲートに向かって歩き出す。

 

 

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 そして数十分後。

 

 空へと飛び立つ飛行機を、空港の屋上から見送る真理。

 

「・・・さて、私は私の仕事をするかな」

 

 大きく伸びをしてから

 彼女は、屋上を後にするのだった。

 

 

 

 

 

第6章 学園一の有名人

 

 

 

 

 

「またお願いします」

 

 学園に出入りしている運搬業者が挨拶をして帰っていく。

 

「ホントは、これも何とかしたいんだけど・・・」

 

 目の前には大量の惣菜パン。

 

 本当ならば、こういったものもこちらで用意したいのだが

 流石に学生が朝食や昼食を用意してられないため

 朝食は、地元の業者からパンなどを仕入れて配布し

 昼食は、学園側にある食堂に専門の料理人が来て用意してくれる。

 

 このやって来る料理人達は

 世界的に有名な料理店の格付け本で

 ☆1つを獲得しているレストランの人達らしい。

 

 この有名な格付け本では☆3つまでの三段階となっており

 ☆1つに満たない店は一切紹介しないという徹底ぶり。

 

 逆にこの本に認められ掲載されることは

 とても名誉なことであり、料理人達の目標の1つとなっている。

 

 学園生としても、一流のプロが提供する食事を食べられるのだから

 調理学校の生徒じゃなくとも羨ましい環境だろう。

 

「とりあえず用意するかな」

 

 昨日、様々な料理が並んでいたラウンジに

 大量の惣菜パンが並ぶ。

 一応、このパンを作っているのも有名なパン屋らしい。

 

「・・・流石、伯母さんというべきか、やっぱり伯母さんと言うべきか」

 

 あの人ならどんな無茶も押し通してしまいそうだなと

 くだらない事を考えながら、朝の準備を終える。

 

「さあ、今日も一日頑張るかな」

 

 自身に気合を入れて

 少しづつ起きてきた生徒達に挨拶をしていく。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 今日は、午前中ずっと教科書と睨めっこ。

 

 食品関連の法律や衛生に関する知識から栄養学に食品関連の知識に

 調理理論など、主に調理師免許取得に関しての話から

 変わった所では、お店を出店する場合の基本的な経営学などもあり

 なかなか興味深い内容で、真面目に授業を受けることが出来た。

 

 そしてお昼休みになると

 皆が一斉に食堂に顔を出す。

 

 寮では調理などに集中しているため気にもしていないが

 こうして年頃の女の子達が大勢集まっているのを見ると

 何だか入ってはいけない場所に入ってしまったような微妙な気分になる。

 

「・・・いやいや、そもそも入っちゃダメなことに変わりはない訳で」

 

 ほんの一瞬だが自分が女装をして紛れ込んでいる異物であることを忘れそうになってしまった。

 

「女性的な思考になって・・・いやいや、そういうことは考えちゃダメだ」

 

 何だか考えれば考えるほど墓穴を掘ってしまう。

 

「―――何がダメなのかしら?」

 

「ひゃぃ!?」

 

「きゃっ!」

 

 突然後ろから声をかけられ驚くと

 僕のリアクションに、声をかけた方からも可愛らしい悲鳴が聞こえてくる。

 

「あ、ああ・・御堂さんか。

 ごめんね、ちょっと考え事してて」

 

「え、ええ。

 私の声のかけ方が悪かったかもしれないけれど

 少し、驚いてしまったわ」

 

「いやいや、私が驚いて声あげちゃったから」

 

「いいえ、私の方こそ

 驚かせちゃってごめんなさい。

 

 ・・・ところで、何を考えていたのかしら?

 何かがダメだと聞こえたのだけれど」

 

「えっ!・・・ああっと、その

 ・・・そう、席が結構埋まってるからダメかな~・・・なんて」

 

 咄嗟に目の前の光景から、そんな苦しい言い訳をする。

 もっと良い言い訳の1つでも浮かべばよかったのだけど・・・。

 

「なら今日は天気も良いし

 外でというのは、どうかしら?」

 

「外?」

 

「ええ、まずは外で食べられるものを買いましょうか」

 

 そう言うと彼女は慣れた感じで少女達の中を進んでいく。

 僕は、離されないようにそれを追いかける。

 

 ・・・・・。

 ・・・。

 

「へぇ、こんな場所あったんだ」

 

「今日みたいな日は、他の娘達も

 こうして外で食べることも多いわね」

 

「そうそう、外で食べるのも愉しいよね!」

 

 とてもよく晴れた天気の中

 3人で中庭のベンチに座る。

 

 中庭は、綺麗な庭園になっており

 ちょっとした観光名所のようにも見えるほどだ。

 

「・・・ところで気になったのだけど」

 

「ん?

 何かな、ゆっきー?」

 

「何でアナタまで居るのよ」

 

「だって、2人して外に行くから・・・ねぇ?」

 

 いつの間にかついてきた神城さんは

 さも当然というような感じで隣に座っていた。

 

「・・・まあ、そうよね。

 アナタは、そういう人よね」

 

「さすが、ゆっきー。

 私のことを理解してくれてるんだね」

 

「今のは、諦めの気持ちが含まれているのだけれど?」

 

「相変わらずゆっきーが、私にき~び~し~ぃ~」

 

「へっ?

 ちょっと、きゃっ!」

 

 不満そうな声を出しつつも

 御堂さんに抱きつく神城さん。

 

 呆れた顔でため息を吐く御堂さんだったが

 そこまで嫌そうにしていない。

 喧嘩するほど仲が良いという言葉があるけど

 これが彼女達にとっては日常のことなのだろう。

 

 ふと周囲を見ていると

 少女達が集まっている場所があり

 そこでは、とても綺麗な上級生っぽい人を中心に

 みんなで昼食を愉しんでいた。

 

「・・・おっと。

 我らが寮母さまは、あちらが気になると。

 

 ふむふむ、なかなか目の付け所が良いですなぁ」

 

「何を芝居がかった演技をしてるのかと思えば・・・。

 あれは、綾子さまね」

 

「綾子さま?」

 

「あの中心に居る方。

 あの方が、九条(くじょう) 綾子(あやこ)さまよ。

 間違いなくこの学園で一番の有名人ね。

 

 まあ、有名ということでは彼女の家もそうなのだけど」

 

「日本のホテル業界最大手である九条グループのご令嬢で

 しかも本人は、去年の全日本学生料理大会の優勝者。

 

 まさに『彼女のことを知らないなんて』って所かしら」

 

 2人が彼女のことについて話してくれる。

 

 ちなみに学生料理大会は

 料理界の甲子園のようなもの。

 

 ここで良い成績を出せば有名店などから

 お誘いが来ることも多く、調理師を目指す学生達なら

 誰でも出場を狙う大会になっている。

 

 まあ既に調理師免許を持ち

 海外での実績もある僕なんかが参加しちゃいけないものだけど。

 

「綾子さま、お綺麗だよねぇ」

 

「見た目もそうだけど、料理の腕も素晴らしいわ。

 在学中に綾子さまに追い付けると良いのだけれど・・・」

 

 2人の話をなるほどと感心しながら聞く。

 

 彼女に関しての資料、あったかな~と考えつつも

 先ほど購入した玉子サンドを一口。

 

「あ、これ美味しい」

 

 流石は有名店なんて感心しながら

 その味を堪能した。

 

 そして午後から調理実習となっているのだが

 寮母としての仕事があるため、午前中だけで寮へと戻る。

 

 すると大量の食材などが既に運ばれてきており

 ちょっとした山のようになっている。

 

「あ~・・・これ全部1人で運ぶのか~」

 

 やる気が無くなりそうになるが、慌てて気を引き締める。

 

「よし、さっさとやってしまおう!」

 

 

 そして全ての食材を整理し終えた頃には

 すっかり夕方になっていた。

 部屋に戻って急いで着替える。

 

「・・・普通の調理服じゃダメなのかなぁ」

 

 鏡を見ながら、そう呟く。

 どうして1人だけこれなのかと。

 

 後で伯母さんに文句でも言いに行こうかと考えながら

 調理場に入ると、さっそく今日の準備に取り掛かる。

 

「今日は、上級生が多い日だからなぁ・・・」

 

 思い出すのは、中庭で見たあの光景。

 

 今日は彼女、九条 綾子が手伝いに来る日だ。

 

「学生チャンピオンか。

 ・・・うん、愉しみだなぁ」

 

 どんな料理を作ってくれるのか?

 そんな未知との出会いにも似たワクワク感で

 彼女達が来るまでの間

 食材などの準備をする楓だった。

 

 

 

 

 

第6章 学園一の有名人 ~完~

 

 

 

 

 

 

 




皆様、お久しぶりです。

日々の忙しさなど様々なことや
他作品などもあり、更新が大幅に遅れてしまいました。
とりあえず的な更新になってしまいましたが
止まってるよりかは良いかなと思い、投稿となりました。
定期的なペースに戻せるようにはしたいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。