死が無き者の鎮魂曲 凍結中   作:鴉紋to零

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今回はオリジナル回です


少女と機械と押し売りと

彼はサウザンドアイズを出るときに貰った地図を片手にノーネームへ向かっていた

 

夕日に背中を押されながら、地図とにらめっこをしながら小走りになる琥珀

 

そんな時だった

 

ふと、回りを見るために首を上げた、その時、視界の隅に微かに人影が写った

 

ボロボロで、解れが酷いローブを身に纏った少女が、倒れ込むように奥の道の先へと消える

 

その光景を見て、どうしても彼は気になってしまった

 

何故、路地裏(こんな場所)にいるのか

 

何故、衣服がボロボロなのか

 

疑問点を上げればキリがないほど、彼はその少女に興味が湧いた

 

それと同時に、心配になった

 

身成は置いておくとして、あの動き方は異常である

 

補助器具が無いあたり、特別足が悪いと言うことでもあるまい

 

考察を考えているうちに、不安が募ってきた彼は、その少女の行く先を追う

 

件の少女は直ぐに見付かった

 

と言っても、曲がり角を曲がり、三歩進んだ先で壁にもたれ掛かった状態で休んでいたからである

 

その少女の淡藤色の髪が、琥珀の到来を告げるように少しだけ揺れる

 

「大丈夫ですか?」

 

あやすように、宥めるように、微笑を浮かべた彼は右手を差し出す

 

少女はその手を一瞥すると、ゆっくりと言葉を紡ぐ

 

「すい、ません……大丈夫で、す…………」

 

強がりなのか、はたまた、他者との触れ合いを恐れているのか、その言葉には、拒絶の言霊が含まれていた

 

だが、そんなことでこの愚者(琥珀)の行動が止まるわけがなく

 

「ですが……」

 

彼はやはり食い付く

 

彼は強情故に命を落とした者を多く見た

 

恐れ故に、自ら死を迎え入れる者を幾度も見た

 

故に、その程度では()()()()()()()

 

彼の庇護欲はその程度では止まらないのだ

 

「あなたは、優しいのです、ね。こんな、私にも、声をかけて、くださるなんて…………」

 

弱々しく紡がれる言の葉

 

その言葉が響くほど、彼の欲は増していく

 

何故、このような事になっているのか

 

何故、そんな服装をしているのか

 

疑問はあった。だが、今は聞くときではないと理性が本能を阻む

 

「一般的には、そこまでボロボロの人を見て、放っておく方が変ですよ」

 

安心させるような笑みを浮かべ、彼は言葉を返す

 

「歩けますか?」

 

あまり長くここにいるのは良くない

 

裏路地は人の目に付きにくい、そして、眼前の少女は不明だが、彼は名無しだ

 

そう思っての行動だろう

 

警戒心を抱かせないような笑みを浮かべ、彼女に手を差し出す

 

その行いに対しての返答は些か、予想の範囲を越えていた

 

「ありがとう、ございます・・・でも、私が触れると、呪われる、そうなので・・・」

 

一瞬、彼は目を丸くした

 

平安時代の、呪いの全盛期を聞いた事がある彼は、一瞬本気でそんな呪いがあったのかと考える

 

しかし、数秒後、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

翌々考えれば、呪いなんて幾つも受けているし、体内で封印している

 

今更一つ二つ増えたところで知れている

 

毒を食らわば皿まで、この言葉をその身で体現していたのであった

 

「気にしないでください。呪いなら、慣れてますよ」

 

己の返答の可笑しさに苦笑い半分、笑み半分で答えを返す

 

「で、でもかかってもいいものじゃ、ありませんし…………」

 

まだ食い下がる少女

 

普通ならここで断るのが一般的だが、彼は引かなかった

 

「そうですか?私は気にしませんよ」

 

優しげな笑みを浮かべ、柔らかく目を細めながら、彼は言葉を続ける

 

「呪いも祝福も、元を正せば似たようなものですからね」

 

その人に悪意有って与えるのか、はたまた、善意有って与えるのか

 

悪く言えば呪いであるし、良く言えば祝福だ

 

呪いなんて、所詮、そのようなものでしかないのだ

 

彼は少女の手を取り、ゆっくりと歩幅を合わせて歩く

 

「あ、ありがとう、ございます・・・」

大通りの噴水広場に出ると、少女は

 

「あ、ありがとうございます・・・もう、大丈夫ですから…………」

 

と告げた

 

まだ足取りが覚束無い節があるが、本人がこう言っているのだから、良いだろう

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

ゆっくりとベンチに腰掛けさせながら、彼は最終確認を取る

 

そして、何とか元気が湧いてきたのか、少女は少しだけ力強く返事を返した

 

「はい」

それだけ回復したのならもう大丈夫だろう

 

そう判断した彼は言葉を返す

 

「そうですか……分かりました。それでは、私は行きますね」

 

彼はまた地図を取り出して、行くべき方向を確認する

 

噴水広場という特徴的な建造物のお陰で直ぐにどちらに行くか分かったようで、直ぐに地図をしまった

 

行くべき方向に体を向けたとき、一言少女に言おうと思っていたことを忘れていた

 

「体を大事にしてくださいね」

 

流石に彼も、己の探知範囲外で少女の身に何かあったとしても駆け付けるのは困難を極めるのだ

 

社交辞令も含めて、心の底からその言葉を送った

 

「はい、ありが、とうございます・・・」

 

額に玉汗を浮かべながら、少女は礼を述べる

 

どういたしまして、と笑いながら返した彼は帰路を歩んでいく

 

彼の背中を目で追い掛けながら、少女はふと、こんなことを思った

 

(いい、人だったな。こんな、私に親密にしてくれるだなんて・・・でも、もう会うこときっと・・・)

 

悲観的な観測をする少女

 

そよ風の一陣が広場を駆ける

 

その時、少女が纏っているボロボロのローブの隙間から、ペルセウスの旗が描かれたギフトカードが顔を覗かせていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大通りを抜け、脇道を通り、また大通りへ

 

右に左に歩き回って彼はノーネームの元へ向かう

 

ふと、空を見上げたときに、己が助けた少女のことを思い出した

 

「あの人、大丈夫でしょうか…………」

 

何せ服装がボロボロで、容姿が整っているとなると、痴漢に遭う可能性がある

 

見たところ撃退できるほどの体術が使えるわけでもなさげだった

 

人通りが多いので問題ないとは思うが、それでも心配なものは心配である

 

「ちょっと、そこのお兄さん!」

 

と、唐突に彼は呼び止められた

 

回りを見回し、青年と呼ばれそうなのは彼だけなのかを調べる

 

運良く、なのかは分からないが、回りは比較的女性が多かった故に、彼は己のことではないのかという確信が持てた

 

「私ですか?」

 

声の主の方へ体を向ける

 

声の主はパステルカラーの髪を揺らしながら、ニコニコと笑みを浮かべている

 

胸につけた名札には喜未と書かれていた

 

身長は……目測、150cmといったところだろう

 

「そうそう!ちょっとイケメンの貴方だよ!」

 

常に笑顔を浮かべ、世辞を言う辺り、なかなかこの仕事をして長いのだろう

 

彼は微笑を交えながら返す

 

「イケメンではないですが…………何ですか?」

 

と、次の瞬間、彼女は友人同士で会話しているようなトーンで話し始める

 

「いやね?ちょっと困ったことがあってさー」

 

参ったなぁ、困ったなぁ、と雰囲気的に告げつつ、言葉を続ける

 

「はぁ……」

 

困っているとあれば、無視もできまい。と言うのが彼の心情だった

 

「ちょっとこれをみて欲しいんだけどさ」

 

ゴソゴソと露店の布の上に取り出したのは立方体の箱という表現が適正なものであった

 

何だろうと思い、立方体をじっくりと見つめる

 

全体的に配色は白色で、時より、淡い黄色のひかりを発光させている

 

眺めているうちにも説明は続いているようで

 

「いやね?これを前の発掘の時に手に入れたのはいいんだけどさ、起動してくれないんだよね」

 

稼働中っぽいんだけどね~と、軽く立方体を叩く

 

彼としては

 

「そうなんですか……」

 

としか言えなかった

 

「そこで、あなたにこれを引き取って欲しいんですよ!ああ、もちろん値段は入りませんよ。こちらから頼んでるんですから」

 

ズイズイと、顔をこちらに寄せてくる

 

彼は上体を軽く反らせながら、この展開に対しての本音を述べた

 

「え、ええと……それって、押し付けてるだけなのでは…………?」

 

その言葉を聞くと一転、パッと離れると彼女は宥めるように告げる

 

「まあまあ。私の眼と耳はちょっと特別でね…………道具の意思的なのか見えたり聞こえたりするんだけどもね」

 

一拍置いて、同情を誘うように彼女は続ける

 

「これがあなたをみた時からずっと叫んでるだよ。あなたのとこに行きたい、って…………」

 

彼女はまるでマッチ売りの少女のように、淡い思いを秘めた女の子のように続ける

 

「だから、どうかな?人助けならぬ道具助けをするつもり、ない?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ここで、断ってもよかったが、如何せん、それには興味があった

 

機械弄りなど趣味でもないし、好きでもないが、何処か惹かれる物があった

 

なので

 

「分かりました。引き取りましょう」

 

詐欺上等、押し売り上等、真っ向から貰った

 

「毎度あり!いやー、この子も喜ぶよ」

 

彼がギフトカードに例の物を入れている隣で、ゴソゴソとここからが仕事のように売り物を広げる

 

「んで、どうする?店の中も見ていく?」

 

自信ありげな笑みを浮かべ、後ろに置いていたであろう算盤で肩を叩く

 

「ええと、そろそろ帰らないと同士が心配するので」

 

彼はすまなさそうに軽く頭を下げる

 

事実、色々なことをしすぎてそろそろ夕日が落ちそうなのだ。悠長にしすぎたツケが回ってきていた

 

「あ、そっか。ごめんね?引き止めちゃって。それじゃ、ありがとうございましたー!」

 

笑顔で見送られるなか、彼は帰路を歩みだした

 

この出会いが、全ての始まりであると知らずに


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