死が無き者の鎮魂曲 凍結中   作:鴉紋to零

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執筆時間が何とか確保できたので、頑張って進めていきます……

誤字脱字があれば御報告のほど、よろしくお願いします


旧き魔王との邂逅

あの後、事の正しい顛末を聞いた彼は、そうですかと告げるだけだった

 

その後、戻ってきた黒ウサギに怒られながら抱き付かれるという物珍しい展開になったのはここだけの話である

 

なお、案の定というか、ジンを含めた問題児三人に対してはご立腹だった

 

そして、今は……

 

「待っ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

ご覧の通り、閉店間近の店から突っ張りを受けていた

 

軽く小走りで走ってきたので、皆それぞれ額が少し汗ばんでいる

 

中々に理不尽、そこにこの対応である

 

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

 

腕を組み、憤怒していることを顔に出している久遠

 

「ま、全くです!閉店時間の5分前に客を閉め出すなんて!」

 

言い分はまあ、触れないが、状況が分からないので彼はただ耳を傾けているだけだった

 

「文句があるなら他所へどうぞ。あなた方の今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

暖簾の下で腕を組み、睨みを効かせる店員に黒ウサギは驚きを隠せない

 

「出禁!?これだけで出禁とか」

 

「まあまあ。お互いに食って掛からないで話しましょうよ、ね?」

 

店員と同士の間に割り込み、この場の終わりのないヒートアップを止めるべく口を挟む彼

 

と、唐突に此方に足音が近付いてくる

 

足を地面につける回数からして、子供のものと思われる足音は

 

「いぃぃぃぃやほぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィィ!」

 

盛大な声によってかき消えた

 

空飛ぶ幼女、琥珀の横を光のように通過し、十六夜の鼻先を掠めながら、黒ウサギの胸(目的地)に突貫する

 

この場にいる誰もが知らないことだが、フライングボディーアタックと呼ばれるこの技の完成度は、完璧だったと言えよう

 

何故なら、体格差を諸ともせず、黒ウサギと共に空中で四回転を決め、数メートル後ろの水路に着水するほどだったからだ

 

「きゃあーーーーー………!」

 

軽くドップラー効果を混ぜながら響く黒ウサギの悲鳴

 

この唐突すぎる展開に、慣れている店員以外の四人は目を丸くした

 

「………おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

此方も此方でよく分からない会話をしていた

 

「し、白夜叉様!?どうして貴方がこんな下層に!?」

 

目を白黒させながら、白夜叉と呼ばれた幼女に問いかける

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろうに!フフ、フホフホフホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれここが良いかここが良いか!」

 

…………訂正、幼女ではなく、幼女の皮を被ったおっさん(変態)だった

 

ある種の感動の再開のように、頬すりをする

 

ただ、それを胸にするのは如何なものなのだろうか

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

羞恥により日頃以上の力で白夜叉を引き離し、とりあえず目先の店へ投げられた白夜叉は、キックベースのボールよろしく、蹴り上げられた

 

「おっと……」

 

やっとのことで現実に復帰した琥珀は、白夜叉なる人物の落下点に入り、その体を受け止める

 

「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を蹴り飛ばすとは何様だ!」

 

しっかりと彼の腕の中に収まりながら、十六夜を問い詰める

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

「逆廻君。ダメですよ、他人を、まして、初対面の人を蹴り飛ばしては」

 

顰めっ面の琥珀に言われたからか、顔をプイと背ける十六夜だった

 

「貴方はここの人?」

 

琥珀に引き続き、現実に戻ってきた久遠が皆が聞くべき疑問を口にする

 

「おお、そうだとも。この″サウザンドアイズ″の幹部で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育のいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

安定して変態だった。これは死ぬまで治らない類いなのだろう

 

「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」

 

もう慣れたのか、冷静で、そして冷ややかに白夜叉に釘を刺す店員の表情は、何処か諦めが入っていた

 

「うう………まさか私まで濡れることになるなんて」

 

「因果応報…………かな」

 

春日部の発言に同意するように鳴く猫

 

このようなカオスな空間で、琥珀はただただ苦笑いを浮かべるだけしかできなかった

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私達の元に来たと言うことは……………遂に黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

 

さも当然のように暴論を述べている白夜叉は変態故にか、生き生きしていた

 

「それにしても……おんしも中々に良い女じゃのう」

 

「へ?」

 

口元からジュルリと流れ落ちそうな涎を飲み、目を輝かせる白夜叉

 

(ま、また勘違いされてる気がします……)

 

不思議なことに、琥珀からは女性から匂いがちな甘い匂いがしているのだ

 

見た目も合間って勘違いされても仕方がない……

 

「ふふ、大丈夫じゃよ……ちょぉっと、触るだけじゃからのう…………」

 

迫り来る魔の手(変態の手)

 

刹那

 

白夜叉は宙を舞った

 

蹴り上げられた白夜叉はどんどん上昇し、そしてお星様になった

 

「琥珀さんは癒しなのですよ」

 

「手は、出させないわ」

 

「琥珀は私達が守る」

 

カッコいいポーズを決めている三人、その隣でヤハハと笑う少年一人

 

いったい何処の戦隊物なのだろうか

 

彼は苦笑いを浮かべ、流れ星となって帰ってくる白夜叉を待っていた

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

「うう、尻がヒリヒリするわい……」

 

「「「「自業自得です」」」」

 

流れ星となって帰投した白夜叉が蹴り上げられた尻を擦る

 

ちゃっかり店員が混じっているところを見ると、彼女もストレスが溜まっていたのだろう

 

「まあいい。話があるなら店内で聞こう」

 

尻を擦りながらなので、威厳もへったくれも無いが、店主らしく客を招き入れようとする白夜叉

 

「よろしいのですか?彼らは旗も持たない″ノーネーム″のはず。規定では……」

 

「″ノーネーム″だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任をとる。いいから入れてやれ」

 

渋々、苦虫を噛むような表情で店の扉の前から端に移動する店員

 

五人と一匹はサウザンドアイズへと入っていった

 

彼だけは終始ペコペコしていたが

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

開かれた部屋は部屋主に反して凛とした部屋だった

 

漢字一字で表すなら、静

 

この字が最も相応しい部屋だった

 

「もう一度自己紹介しておこうかの私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている″サウザンドアイズ″幹部の白夜叉だ。

この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

ふふん、と胸を張る白夜叉

 

容姿が相まって背伸びする子供のようだ

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

そんな白夜叉に呆れながら相槌を打つ黒ウサギ

 

「その外門、って何?」

 

その隣で皆が初めて聞く言葉について問う

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部近く、同時に強大な力を持つもの達が住んでいるのです」

 

黒ウサギの手書きの地図を見て、一同。似たようなことを思ったようで

 

「…………超巨大玉ねぎ?」

 

「いえ?超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかと言えばバームクーヘンだ」

 

(年輪に、よく似ていますね…………)

 

一名声には出さなかったが、似たようなことを考えていた四人

 

声に出した三人の感想に、ウサミミを力なく垂らす黒ウサギ

 

逆に、白夜叉は呵々と笑う

 

「ふふ、うまいこと例える。

その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。

更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は″世界の果て″と向かい合う場所になる。

あそこにはコミュニティに所属していないもの、強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞ___その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は黒ウサギの持つ水樹の苗に目を向けて、二、三頷く

 

「して、一対誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」

 

予想の境地に無かったのだろう、オーバーリアクションに見えるほど白夜叉は驚嘆した

 

「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」

 

「む、それもそうか。しかし神格を倒すなら同じ神格を持つか互いの種族によほど崩れたパワーバランスがあるときだけのはず」

 

顎に手を当てて、考えを巡らせる白夜叉

 

と、唐突に黒ウサギがちょっとした疑問を聞く

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知りあいだったのですか?」

 

「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の前の話だがの」

 

その言葉を聞いた時、若い三人の目付きが変わった

 

「へえ?じゃあ、お前はあのヘビより強いのか」

 

獲物を前に舌嘗めずりをするように問い掛ける逆廻

 

「ふふん、当然だ。私は東の″階層支配者″だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶものがいない、最強の主催者なのだからの」

 

最強、その言葉が完全に三人の闘志に火をつけた

 

「そう…………ふふ。貴方のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティになると言うことけしら」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ、景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

隙をうかがうように目付きを鋭くして軽く睨みあう両者

 

話を半分ほど聞き流し、ずっと庭に見とれていた琥珀がここに来て初めて雰囲気が良くないことに気付く

 

「え、えっと、三人とも、何をする気なんですか?」

 

困惑しながらキョロキョロと両者の顔を見合う彼

 

「抜け目のない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

 

「は!よくわかってんじゃねぇか」

 

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

彼より後から気付いた黒ウサギが止めに入るが、時既に遅し

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に餓えている」

 

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

両者の表情は笑顔なのだが、その笑みは何処か肉食獣染みていた

 

「ふふ、そうか。ーーーーしかし、ゲームの前に一つ確認しておくことがある」

 

「何だ?」

 

うずうずしている三人をじっと見ながら、覇気を纏った白夜叉は告げる

 

魔王としての頃の、圧を最大限に発揮しながら

 

「おんしらが望むのは″挑戦″か___もしくは″決闘″か?それとも___」

 

旧き魔王の牙が唸る

 

 

 

 

 

 

 

「闘争か?」

 

森羅万象を統べる魔の王が、牙を向けた

 


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