死が無き者の鎮魂曲 凍結中   作:鴉紋to零

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多分、これが上半期最後の投稿です

八月からは今まで以上に遅れます。確実に


対ペルセウス戦 《上》

怒号が、絶叫が、悲鳴が、美麗な白地の廊下に響く

 

風切り音が響いたと思えば、水の荒れ狂う音がする

 

剣が空を裂く音がして、鈍器が当たる音がした

 

そんな音達を背で感じながら、逆廻、琥珀、ジン、アートは白亜の宮殿を駆け抜けていた

 

音もなく、気配もなく虎視眈々とルイオスの喉元を食い千切らんと迫っていた

 

引き付け役を任せた春日部と久遠の身を案じながら、四人は廊下をかける

 

先頭の琥珀が後続の三人にハンドサインで行く先を示している

 

と、直ぐに頂上に到達した

 

入る直前に、彼は三人にアイコンタクトを取る

 

本当に良いのか、と

 

透明になっている者同士なら見えるようになっているため、彼は直ぐに表情は読めた

 

アートは相変わらず無表情だが、逆廻はニヒルに笑い、ジンは緊張した面持ちで頷く

 

それを見た彼は、アートの手を引きながら最奥目掛けて駆け抜けた

 

「到着、ですね」

 

アートの手を握っていた琥珀が手を離す

 

連動して後ろの二人の姿が現世に現れた

 

「皆さん…………!」

 

感極まった様子で胸に貯めていた息を吐く黒ウサギ

 

と、彼の視界が少しだけ暗くなった

 

理由を調べるために辺りを見回す彼は、直ぐに答えを見つけた

 

「____ふん。ホントに使えない奴等。今回の一件でまとめて粛清しないと」

 

膝まで覆う羽の生えたロングブーツ、亜麻色の髪が風に揺られている

 

ゲームマスター、ルイオス・ペルセウスその人だった

 

「まあでも、これでこのコミュニティが誰のおかげで存続できてあるのか分かっただろうね。

自分達の無能っぷりを省みて貰うにはいい切っ掛けだったかな」

 

嘲笑を顔に張りつけ、彼等をこれでもかと言わんばかりに見下すルイオス

 

と、唐突にルイオスは高度を下げ、彼等の前に降り立った

 

自由落下の速度より早いが、彼からすれば気にすることもないだろう

 

「なにはともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう。…………あれ、この台詞言うの初めてかも」

 

何処かおどけた様子でルイオスは宣言した

 

当然と言えば当然だろうが、未だ入る前に感じた不快感は拭えない

 

(それに…………)

 

ルイオスが腰に下げている赤褐色の液体、あれは何か嫌な予感がする

 

「琥珀、あれ、知らない、の」

 

琥珀の考えていることを読んだのか、アートが琥珀に耳打ちする

 

博識と言うイメージの強いアートが知らないとなると、多分、分かるのは本人だけだろう

 

(でも……)

 

教えてくれないんでしょうねぇ等と、分かりきったことを心の内でぼやいた

 

と、ふと彼は顔を上げると、ルイオスは燃え盛る弓を取り出した

 

夜空に一番星のように赤々とルイオスの弓が燃えている

 

「…………炎の弓?ペルセウスの武器で戦うつもりはない、ということでしょうか?」

 

いぶかしむ黒ウサギに対して、軽く芝居がかった動作で返答するルイオス

 

「当然、空が飛べるのになんで同じ土俵で戦わなきゃいけないのさ」

 

それに、と言葉を続けるルイオス

 

「つい先日録でもないことがあったから、滅多なことでは降りないつもりさ」

 

その表情からは憤怒が見てとれた

 

悔しさを噛み締めているその様子を彼は見て、愛用の薙刀を抜きながら考察する

 

(白夜叉さんは特に何かしていないでしょう……となると、誰が……)

 

軽く素振りをして技を直すと同時に、ルイオスが高く飛び上がり、一言、叫んだ

 

「目覚めろ__"アルゴールの魔王"!!」

 

絶望が襲来する

 

その叫び声と同時に逆廻は拳を構え、彼はジンを背にする

 

「アート、一旦ギフトカードの方へ」

 

懐にしまってあるギフトカードを取り出して、アートの方へ向ける

 

「わかった、の」

 

アートの返事を聞き、アートをカードに戻した刹那

 

音が、聞こえた

 

美声だった……最初は、だが

 

絶望の調を奏でる

 

終りが歌う、吟う、唱う、詠う

 

人とは格の違う数千年前の怪物が、今ここに顕現した

 

「な、なんて絶叫を」

 

と、呟く黒ウサギとジンの頭上に唐突に現れた岩石が降ってくる

 

「避けろ!」

 

逆廻の鋭い警告、だが、それよりも早く彼は岩石を切り払う

 

空中で細切れになった岩石が砂塵となって二人の上空で風に消える

 

「二人とも、そこを動かないようにしてくださいね」

 

彼からすれば、何処に動かれても全て切り払えるが、些かそれは手間だった

 

「ッ!!……やはり、お前がッ…………!」

 

その光景を見たルイオスは盛大に舌打ちをする

 

赤髪の男の言う通りだった

 

果てしなく強い、技を一目見ただけで十二分に理解できた

 

「くそッ……!」

 

苦々しい言葉と共に弓を構えるルイオス

 

「逆廻君、アルゴールの方は任せます。僕はルイオスさんの相手をした方が良さそうですからね」

 

構えられた弓矢の先は一点……彼の頭部のみを狙っていた

 

彼が静かにつま先で地面を軽くと彼の体は風に祝福されるように持ち上がり、その身を包んだ風に導かれるようにしてルイオスと同じ高度まで飛翔する

 

「さて…………始めましょうか」

 

彼は薙刀を構える

 

慣れ親しんだ基本的な構えにして、絶対の構え(要塞)

 

彼が構えたと同時にルイオスは炎の矢を放つ

 

空中で分裂、拡散した矢は宛ら散弾銃の弾丸のように彼の全身を射ぬかんと彼に迫る

 

「ふっ___」

 

軽く息を吐くと同時に彼の腕がぶれた

 

同時に当たる筈だった矢が自ら彼を避けていく

 

音もなく、風を切る音すら立てない神業

 

神の領域に足を踏み込んでいると思われても仕方のないほどの武

 

それが彼の、唯一にして最強の武器だった

 

「くそッ!!」

 

ルイオスは叱責と共にヘルパーをギフトカードから取り出して、彼に突っ込む

 

黄金色に輝く英雄の剣

 

だが、それでも

 

十中八九使い手の技量不足ゆえに

 

「確か……こうでしたっけ」

 

即座に薙刀を捨て、無手となった琥珀は己に振り下ろされるヘルパーの柄を掴み、そこを軸にルイオスを地面に向かって投げる

 

勿論、ヘルパーを相手の手から奪っておくことも忘れない

 

「グッ!?」

 

短い悲鳴と共に落ちていくルイオス

 

その姿は宛ら、イカロスのようであった

 

ルイオスの落下地点には狙いすましたかのようにアルゴールが居た

 

逆廻に手痛い反撃を食らったのだろうか、脱力して体を休ませていたアルゴールの頭上にルイオスは落下した

 

舞い降りるように敵から距離を取っている逆廻の元へ彼は降り立つ

 

「お疲れ様です。逆廻君」

 

「別に、あれくらいじゃ、まだまだ準備運動だ」

 

首の骨を鳴らす逆廻は言葉通りまだまだ余裕そうだ

 

彼の目から見て特に外傷もない、大丈夫だろうと判断した彼は今だ拭えない不快感を気にかける

 

もういっそのこと、あの赤褐色の液体を取り上げてしまった方が早い気がしていた

 

「くそッ……!やっぱり頼るしかないのかッ…………!」

 

そんな声が彼の耳に届いた

 

刹那、彼は地を駆けていた

 

「琥珀!?」

 

逆廻の戸惑いの声も置いておいて、彼は間を詰める

 

不味いと判断した彼は、即座に地を駆け抜けてルイオスに肉薄する

 

だが、遅かった

 

回避を許さない石化の光の壁が彼に迫ってくる

 

同時に、アルゴールの絶叫にも似た咆哮が響く

 

迫り来る壁を跳躍と風による飛翔で飛び越えて、上空から状況を伺う

 

と、その時だった

 

「…………?あれは、あの時の……?」

 

ついこの前、路地裏で倒れていた少女が、アルゴールの覚醒に合わせてルイオスの側に走ってきていた

 

そして、ルイオスが何かを叫ぶと、直ぐに手で闇色の何かをルイオスの首筋に付けた

 

未だに光で見えないアルゴールの変化を見ることを諦めて、彼はまた逆廻の隣に降り立つ

 

「どうやら、第二ラウンドに入りそうですよ」

 

その声色には何時もと変わらないようで、だが、僅かな緊張が含まれていた

 

「そうみたいだな」

 

彼と逆廻は、改めて気合いを入れた

 

トクン、と彼の心音が彼の全身に伝わった

 

覚醒の時は、近い

 




…………つい先日、僕にとってとても大切な人を亡くしました

この作品は、その人ともう一人の友人と僕で作り上げたものです……

ですが…………大切な人を亡くした今……この作品を書き続ける意味があるのだろうかと……悩んでいます

なので…………ここまで来てここで止めるのは気になるだろうと思いますので頑張って書きますが…………もしかしたら、次が最終話になるかもしれません…………

その時は……申し訳ありません…………

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