死が無き者の鎮魂曲 凍結中   作:鴉紋to零

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はい。キツいです

主に受験勉強がキツいです

極論から言うと生活するのが辛いです

そして、久し振りだから戦闘描写もキツいです

あ、渇望の関係ですが、軽く独自論のようなものが入ってるので「あれ?」とか、「おかしくない?」とかは御了承を


無手之一式

琥珀達がノーネームにやって来て早一週間

 

彼は木の前で座り込んでいた

 

己の望むものはなんだ

 

己が渇望はなんだ

 

(私は…………()()()())

 

この世の全てを

 

この世に生きる命の総てを

 

その渇望を一点に集めろ

 

抽象的で構わない

 

ただ、そこに……

 

風が吹く

 

これだけで小さな火種は消えてしまうほどの、風

 

だが、彼の前で蝋燭の炎は灯したまま、赤赤と燃えている

 

よく見ると、その炎の周りにはうっすらと淡い…とても淡い青色の光がその炎を包んでいた

 

その輝きが炎を守っていたのだ

 

彼は既に活動を使いこなしていた

 

この鍛練を初めて早三日、今やその防壁を張り続ける時間は丸一日となっていた

 

「…………ふぅ、今回はこのくらいにしましょうか」

 

そう呟くと、彼は活動を止めた

 

と、同時に蝋燭の炎が風に巻かれて消えた

 

何処か儚い散り様に少しだけ目が奪われる

 

だが、彼は直ぐに意識を空想から現実へと戻した

 

理由は明白だ。とある人物に見られていたからである

 

正確に言うと、見られ続けていたからである

 

犯人(アート)は1メートル近く離れた草原に腰をおろしてじっと、何かを言うことなく見ていた

 

「…………私を見ていて面白いですか?」

 

彼は動作の上では、座禅したまま三日過ごしたに過ぎない

 

こんなものを見て、何処の誰が面白いのであろう

 

だが、彼女は満足したようで

 

「おもしろ、かった、よ?」

 

無表情な瞳の先に満たされた色を醸し出しながら、彼女はそう返した

 

確かに、彼は停止している方が美しい

 

静の中に美がある。そう表現するのが最適であろう

 

「そう、ですか」

 

歯切れが悪くなりながらも返答を返す

 

あまり他人に見られるのは慣れていないのだ

 

人とはそこまで関わり合わなかった彼は自然で生きてきた直感で視線を見抜けるが、あまりそれに耐える精神力は持ち合わせていないのである

 

「え、ええと……そろそろ、戻りましょうか」

 

「ん」

 

アートは琥珀の隣を占領するように並んでノーネームの本拠地へと帰った

 

日が沈みかけている黄昏時は、とても神秘的だった

 

 

 

 

 

森の中の草原は存外に本拠地から遠く、彼等が急いでいなかったのもあるので二人が到着したのはもう夜も更けた頃だった

 

本拠地は一階の一室のみ光が点っていて、それ以外は真っ暗だった

 

と、そのとき

 

「はい……………申請に行った先で知りました。このまま中止の線も在るそうです」

 

黒ウサギの落ち込んだ声が室内に響く

 

「なんてつまらないことをしてくれるんだ。白夜叉に言ってどうにかならないのか」

 

その発言を聞いてか、逆廻の落胆した心持ちの声が聞こえた

 

「どうにもならないでしょう。巨額の買い取り値がついたらしいですから」

 

黒ウサギの口からその事柄の理由を聞いた逆廻は舌打ちをして更に不快感を募らせる

 

「何かあったんですか?二人とも」

 

二人の話声を聞いた彼が、扉から頭を覗かせて問う

 

「はい。実は……」

 

黒ウサギは先程逆廻に言ったことと同様のことを述べた

 

二度目の説明で、内容が好ましい内容ではなかったからだろうか

 

黒ウサギの瞳に映る落ち込みようは先程より酷かった

 

「そうですか…………分かりました」

 

黒ウサギの話を聞き終わった彼は、目を閉じ、思案すること数秒

 

そして、目を開いてこう伝えた

 

「何にせよ、挑めないものは仕方がありません。また別の機会を待ちましょう」

 

口元にいつもの朗らかな笑みを浮かべ、彼は告げる

 

だが、その後、少し茶目っ気を付けながらこう続けた

 

「ですが…………案外、予想もしないところで縁という物は訪れます。挑む時は、存外に近いかもしれませんね」

 

そう告げると、彼は就寝の挨拶をして自室に戻った

 

まさか昨晩のうちに己の言ったことが実現するとも予想もせずに

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

 

次の日、またしてもアートに抱き締められた状態で起床した彼は、逆廻の口からまさかの事実を聞いた

 

「そう、ですか……そうなりましたか」

 

まさかあの一言がバタフライエフェクトになったのではと彼は己の行いを悔い始めた

 

その時、逆廻から予想にもしなかった提案を受けた

 

「琥珀。お前に手伝って欲しいことがある」

 

とても真剣な瞳で琥珀の瞳を凝視する逆廻

 

「私に、ですか?」

 

彼がそんな逆廻に対して瞳に浮かべたのは疑問だった

 

物草だからとか、面倒だからとか、その手の理由ではなく純粋に何故己なのかという思いだった

 

「逆廻君。私は皆さんのような特異な恩恵は持ち合わせていませんよ?」

 

ある意味ではアートがその恩恵に値するのだが、彼はそのような考えをしていなかった

 

そんな彼の問いに、逆廻は不敵な笑みで返す

 

「冗談キツいぜ、琥珀」

 

逆廻は見抜いていたのだ

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「バレてましたか」

 

その時、彼はここに来て初めて()()()()()()()()()()

 

刹那、辺りにいた鳥は飛び立ち、獣も森の奥へ姿を隠した

 

「それで、逆廻君のことですから、何か方法はあるのですよね?」

 

不敵とも取られかねない笑みを浮かべ、彼は逆廻にそう訪ねる

 

「ああ。当たり前だろ」

 

そして彼等は、黒ウサギを助けるため。そして、レティシアを助けるために動き出した

 

彼等が向かったのはとある海だった

 

そこには……

 

「クラーケンとグライアイ…………ペルセウスの神話に出てくる魔物でしたっけ?」

 

背負っていた薙刀を抜刀し、臨戦態勢となる琥珀

 

その隣では拳を打ち合わせた十六夜が心なしか楽しそうな笑みを浮かべている

 

「挑戦者よよくぞ参った」

 

指揮棒(タクト)を振るうように大儀そうに腕を振り上げる一つ眼のグライアイ

 

「汝試練を乗り越え我等を打倒……」

 

その海から溢れんばかりの巨体を晒し、定型であろう言葉を述べるクラーケン。だが

 

「悪いが、こっちには時間がねぇんだ。とっとと始めさせてもらうぜ」

 

既に臨戦態勢にあった逆廻は拳を構える

 

型もなく、重心も悪いが、その気迫は鬼気迫るものがあった

 

「すみませんが、同士のためです。どうか、御覚悟を」

 

腰だめに薙刀を構え、重心を前傾姿勢で片足にかける

 

彼は攻めるのは苦手だが、今回はやむ無しとして攻めの体制であった

 

「その意気込みよし。ならば……!!」

 

「さあ、始めるぞ!!」

 

グライアイの言葉に重ねるようにクラーケンがそう吠える

 

その言葉を聞いた瞬間、二人は地を蹴った

 

クラーケンの頭上からパッと飛び降りたグライアイに十六夜が拳を振るう

 

空中での拳である。踏ん張るもののない空中での力は分散する

 

良くて半分ならば問題ない……

 

その思考が甘かった

 

「グギュ!?」

 

瞬く間にグライアイは遥か彼方に吹き飛んでいく

 

その光景に驚嘆するクラーケン

 

表情のない瞳に驚きが現れる

 

「余所見は厳禁ですよ」

 

穏やかな声と共にクラーケンの側頭部に彼の蹴りが刺さる

 

柔軟性ゆえに打撃には強い蛸の頭

 

なのでグライアイ程は……そうクラーケンは考えてしまった

 

()()()()()

 

反撃の為に吹き飛ばされながらも触手を琥珀に伸ばす

 

「慢心 ダメ 絶対……なんて言う言葉がありましたね」

 

刹那、琥珀の姿がかき消えた

 

「アート、今のは大丈夫でしたよ?」

 

眼と音を頼りに琥珀を探すクラーケンに琥珀の声が届いた

 

クラーケン()の真後ろから、聞こえた

 

「でも、いや。なの」

 

苦笑いを浮かべる琥珀の隣にアートが立っていた

 

いや、正確には飛んでいたと言うべきか

 

あの時、アートが観察対象である琥珀の身を案じてテレポートの恩恵をギフトカードの内部より発動したのだ

 

故に、琥珀は強制的に二の手を打てずに移動させられた

 

その隙をクラーケンは見逃さない

 

戦闘のリズムを掴むために八本のうち五本の足で琥珀を狙う

 

だが、その足は空中で弾かれた

 

()()()()……なの」

 

アートか掲げるように右手を挙げて、不可侵の領域を作り出していた

 

よく見れば、弾かれた場所に薄く輝く膜が見えた

 

「アート。大丈夫ですって」

 

苦笑いにも似た困り顔でアートを眺めている

 

アートはやはりと言うか、無表情の瞳の奥に心配そうな色を浮かべている

 

「琥珀!倒さないなら俺がやっちまうぞ!!」

 

グライアイを殴り飛ばし、海の中に落下した逆廻が海面に顔を出しながら叫ぶ

 

「ああ、今終わらせますよ!」

 

波の音にも負けないような力強い声が琥珀から発せられる

 

「アート。逆廻君を引き上げておいてくれませんか?」

 

纏っている風の数を増やしながら何故か()()()()()()琥珀

 

「…………わかった、の」

 

アートはそう告げると降下して逆廻の元へ向かう

 

それと同時に、琥珀の思いを察したのか、アートは不可侵の領域を解いた

 

「ぬ!舐めた真似を……!!」

 

怒りの声を上げるクラーケン

 

一度に動かせる最大量の触手を振り上げる

 

「…………行きます」

 

右手を隠すように力を構え、滞空に必要な分の風以外を足に纏わせる

 

振り下ろされるクラーケンの触手

 

縮地に勝るほどの爆発的な加速を起こす琥珀の風

 

その二つが、交錯する

 

クラーケンの触手が琥珀に触れる直前

 

琥珀がぶれた

 

まるで元からそこにはいなかったように

 

そして……

 

「我流 無手之一式 風魔」

 

淡々と、告げる

 

クラーケンの額には人が作ったと思えないほどのクレーターが出来ており、その内部で何が行われているのかは明白だった

 

ぐらりと傾く巨体

 

「お手合わせ、ありがとうございました」

 

クラーケンが最後に見たのは、此方に向かって丁寧に御辞儀をしている彼の姿だった


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