理力の導き   作:アウトウォーズ

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まずはアルキード滅亡のくだりから。
どうぞよろしくお願いします。


第1章 転生編
一つの国の終焉と、新たな伝説の始まり


 

その一報は、大陸中に激震を走らせた。

当初は誰しもが、大規模な火山噴火だと考えてたのだ。

しかし学のある人間はすぐさま、あり得無いことだということに思い至る。

けたたましい爆音とともに立ち昇った不気味な煙が見えるその方向に、活火山は無いはずなのだから。

当然、急速に情報が集められた。

危険を顧み無い冒険者達に依頼が出され、救援と称した偵察部隊が隣国より僅かな物資・食料とともに送り込まれ、最終的には高高度より俯瞰が可能な気球が放たれた。

 

そんな彼らが目を疑う惨状に言葉を失うばかりだった一方で、ことの影響を真っ先に受けたのは形式ばかりの国境警備にあたる兵士たちだった。

ただでさえ、隣国の中心方面に真昼間、突如として巨大な爆音と雲まで届くキノコ状の爆煙が上がり、その後に生じた地面の震えに怯えていたのだ。

そこに色をなして逃げ出してきた、国境周辺の住民達が雪崩れ込んで来た。

兵士達の詰所として設けられた主要街道沿いの関所はあっと言う間に処理能力を超え、道を外れて入国しようとする住民たちとの間ですったもんだの大混乱が生じる。

そんな混沌とする国境線をよそにようやく集まり始めた情報をもとに下された結論は、

一つだった。

 

魔王軍、再来‼︎

 

ことここに至って、誰の目から見ても明らかな超巨大爆発とそれがもたらした結果-ーアルキード王国の滅亡ーーについては、重要視されなかった。

本来、それ自体とんでもないことであるのだが、ことはそれだけでは済まされ無い。

勇者が首魁を破ったとされる魔王軍のもたらした戦火の爪痕に苛まれる各国には、その大災禍の記憶がつい先日のように残されていた。

次は我が身、とは誰もが想像することであった。

 

出入国の管理という機能は一夜も経ずに失われ、関所は前線基地へと様変わりした。

国境線を超えて流入して来る難民は見向きもされず、それを追撃して来ると予測される魔王軍の大軍勢に備えることが最優先とされた。

アルキードに隣接する各国は、先の戦禍からようやく再編がひと段落したばかりの軍を、係る国境線へ投入した。

一方で城壁を持たない大半の街・村の住民達は一気に難民と化し、国内で大移動が開始される。

そうした大量の移動を誘導・統制する機能を負うはずの軍は、最小限の人数しか割かずに冒険者ギルドへと実質丸投げした。

混乱の坩堝と化した最中に大事故・大事件が起きるのは先の戦役の教訓となっていたが、それに対応するための人員も物資も、手が回らないのが実情だった。

アルキードという国家、もといその国土の大半を一瞬にして消し飛ばす程の勢いを誇る魔王軍が、再度押し寄せてくるのだ。

どれだけ救えるかではなく、どこを生き残らせるか、に主眼を置いた作戦が立案され、即座に認可されていった。

 

当初の予測と異なり、魔王軍の初動が遅かったのが救いだったのだろうか。

不意打ちを受けたにもかかわらず、各国はなんとか地図上の想定通りに布陣を完了できた。

そして1日がすぎ、2日目の朝を迎えた。

遺書の執筆にひと段落した兵士たちが眠い目をこすりながら朝日を迎えられたことに喜ぶ中、将校達の間には不穏な空気が漂い始めていた。

ーー幾ら待っても、敵が来ないのだ。

これほど大規模な初撃を与えておいて、追い打ちが来ないのは純軍事的に見て不可解この上無い。

敏い一部の将校達が放った斥候もまた、敵勢力の情報ではなく、避難民たちからの要望を持ち帰るばかりである。

まさしく人類存亡の危機と思われた今回の騒動が、結局は単なる空騒ぎだったとして歴史に刻まれるまでには1ヶ月の時間を要し、その間将校達は部下の引き締めに頭をかかえることとなる。

彼らは半年後、此度の騒動の犠牲者の100%が避難誘導の無い地域で起きたことによるとの報告が文官から寄せられ、一層肩身の狭い思いをすることになるのだった。

 

もっともそれらは、少しばかり後の話である。

そんな人類の空前絶後の大慌てぶりを冷ややかに観察する、3つの目があった。

「いやあ〜、盛大な花火だったねえ、ピロロ?」

と、まるで道化師のような格好をした黒づくめの人物が、傍の一つ目に話しかけている。

「うんうん、人間ってばかだね。びっくりして移動するだけで、相当な数が死んじゃったみたいだよ?」

「フフフ。弱い生き物だねぇ。しかしさすがのボクでも、アルキードでの工作の結果が、各国の住民を屠殺することに繋がるとまでは予想できなかったなあ。」

惨憺たる各国の状況を視察しながらも冷徹な言葉を交わす彼らは、まさしく一連の事件の黒幕と言って良い存在だった。

彼らにアルキードでの政治工作を指示した更なる黒幕は、ここまでの波及効果を見込んでいたのかどうか。

それは本人のみが知るところではあるがいずれにせよ、この一連の騒動に注意が向けられているのは事実であった。

そのことにより、かつてはるかの昔に遠い彼方の銀河にて調停者としての役割を負わされた者の存在を、見落とすことになったのだった。

 

 

アルキード王国の国土の8割が灰燼と化し、隣接する国々が総力戦の体制を急ピッチで整え、それに泡を食った住民達が誘動もなく街道にひしめき、それを狙った犯罪者達が暗躍する、という負のサイクルは、3ヶ月に渡った。

そんな折、人里離れた村に、ひっそりと頼りなげに歩み寄る一人の少年がいた。

 

「おいお前!そこで止まれ!」

「何だ、難民か?こんな外れの村まで避難しに来やがったのか?」

 

村の入り口に差し掛かる場所には丁度、歩哨となる青年が二人いた。

見るからに自警団、という出で立ちの彼らは、大空走と呼ばれる一連の騒ぎにより悪化した治安を保つため、寝ずの番を張っていた。

そんな彼らにとって、真夜中に一人の見覚えの無い少年が訪問してくることは、晴天の霹靂となった。

気づけ酒の影響もあってか、一気に色めき立つのだった。

 

「言葉が……、通じるのか?」

 

来る時間と場所を間違えているとしか思え無いその少年は、煤けた印象を受ける割には、まるで王都で売られている絵本から抜け出して来たかのように整った顔立ちをしていた。

おまけに想像の斜め上を行くセリフをのたまうではないか。

幽霊か何かの類かとも思えるその浮世離れぶりは、青年達に無用の緊張と、無駄な想像を強いる結果となる。

 

「な、なあ。。どう考えても、この時間に子供が一人で避難してくる訳無いよなぁ?」

「ああ。ま、まずありえ無いだろ、普通。」

「じゃあ、こいつ……。」

「ひょ、ひょっとして魔王軍の改造人間だったりするのかな!?」

 

村の青年二人組は、少年一人を前にして泡を食って動揺し始めていた。

しかも勝手な思い込みから、である。

何を思ったのか、大した殺傷力もなさそうな長棒を震える手で握りしめ、ブルブルと震えるその様子が逆に危なっかしく、見る者の哀れを誘う。

少年はこういうときに冷静な側の誰もがやるように、ゆったりとした動作で両の手のひらを翳した。

しかしその動きを見た二人組は、色をなして怯え始めた。

 

「ああああ、あの構えはああああ!」

「きょ、きょきゅ大爆裂呪文!?そんなバカなあああ!」

 

何を怯えられているのか検討もつか無い少年は、さすがにため息をついた。

ハンズアップの動作すら相手を怯えさせてしまうのでは、最早冷静な対話などあり得無いように思えたからだ。

しかも二人組のうちの一人は、その僅かなため息にすら敏感に反応して悲鳴をあげ、昏倒する有様である。

 

「う、うわああああ!やられたああ!」

「オ、オニールぅぅ!!しっかりするんだ、傷は浅いぞ……って、み、脈が無いじゃないかぁ!?き、キサマ一体何をしやがったあ!」

 

上腕部で脈が測れたら、そっちの方が異常事態だろうに…。

検討違いの場所で脈を測ろうとして失敗している青年を目の前にしては、呆れ返るばかりである。

あまりの慌てぶりにこれ以上の動作はやぶ蛇になると感じた少年は、おとなしくそのままの姿勢をとり続けた。

もはやこれ以上の相手の反応には、心を動かされ無いようにと決めるのだった。

 

「オニールはなあ、来月、幼馴染のジェシカに、告白する予定だったんだぞ!そ、それをこんな非道いことしやがって‼︎ジェシカには何て言ったらいいんだぁ……」

 

最早自分からは視線を完全に外し、自分の世界に入りきっているその姿を見ながら、

少年にはこのごっこ遊びにも見える事態に警戒を抱き始めていた。

彼は経験として、敵軍勢力の中にごくごくたまに、こうしたコントのような意味不明なやり取りをする機械兵士がいることを知っていた。そうした彼らのやり取りは「よく見ると意外と面白い」とまことしとやかに囁かれていたのだが、あくまで噂の域を出ない。

が…。

今この目の前にいるのは、ひょっとしてその類なのでは?

という、自分でもよくわからない憶測が頭をかすめた時だった。

 

「この一発を我が友オニールに…そしてジェシカ、君に捧げる!僕たちの愛のために燃え上がれ!メラああああぁぁぁ!」

 

その、無駄に長ったらしい上に酷い友情の裏切りが含まれた口上に反して、その魔法はこの村の住民たちのレベルから見ても、何ともしょっぱい初級魔法だった。

スッカスカな魔力で見栄えだけ立派な炎をとり繕っているために、立ち木一本燃やせるかどうかすら怪しい一発である。

 

だが、人間の手から炎が放たれることなぞ想像すらしていなかった少年にとって、これはとんでもない事態だった。

彼の知る範囲において雷など通常あり得ないものを放出する輩は、破壊と裏切りを至上とする影の実力上位者に他ならないからだ。

 

ぶっ壊れた中古の機械兵士を相手にしているような気持ちは瞬時に吹き飛び、覚悟を決めるとともに右手を翳し、その炎を”受け止める”。

それは魔法を常識とするこの世界にしてすら、常識に反してなされた、まさしく奇跡といって良い現象だった。

だが、残念ながらこの場にそれを冷静に観察できる者はいない。

 

「何だ、大したこと無いな。それよりも…」

 

一瞬だけ気を張り、防御を実施した少年だったが……。

使い慣れた、魔法とはまた異なる理で作用する万能の力をまとい、受け止めて見た結果……。発声した言葉通りの感想しか浮かばなかった。ひょっとすると、素手で触れてみても大丈夫だったかもしれない、とすら思える。

 

だが、ここにはそれを見ていきり立つ青年がいた。

 

「な、なんだとおう!?こ、このオレの超必殺魔法がぁぁ!おのれ貴様、さては超・大魔王だなぁ!百億の人類の恨み、今こそ討ち果たしてくれる!受けてみよ!このランベルト・パーカーが誇る2万奥義の第9871秘剣、その名も『超ミラクルスーパーハイパー……って、痛い!何するの、やめて!」

「バカモン!こんな子供にメラとはいえ、魔法を向けるバカがあるかってんだい!……メラとはいえ。」

 

少年は、そして新たに現れた老婆から振り下ろされる杖に簡単にあしらわれる青年を見て、

最早この人間に見える存在の中身は、壊れた機械兵士なんじゃないかと本当に思い始めていた。

その疑惑は、老婆の次にとった行動により更に深まることになる。

 

「まったく……、ん?楽しそうに大騒ぎしてると思ったらこいつら、酒なんて飲んでやがる。ごめんな、坊や。今お仕置きしといてやるからな。……ヒャド!」

 

ーーあいつら、人間に偽装する能力でも身につけたか?

目の前のどう見てもヨボヨボの老婆が、何も持っていない手から吹雪を生み出し、

青年たちに浴びせかけるのを目撃した少年は、最早ついていけない、とばかりに口を開いた。

機械兵士でもなんでもいい、とにかく言葉は通じるのだ。

 

「はじめまして。私はアナキン・スカイウォーカー。夜分にお騒がせしてしまって申し訳ありません。どうか一晩の雨風を凌げる寝床を、お貸し頂けないでしょうか。」

 

その声は、かつての彼を知る者がいれば敵の偽装と断じて斬りかかるであろうくらいに丁寧で、そして穏やかなものだった。

 




スターウォーズの用語は、なるべく使わないように心がけました。
最初話くらいは、と思いまして。

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