オーバーロード 白い魔狼   作:AOSABI

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6話

 朝方、フェンリルがモモンガとメッセージのやり取りをする。クレマンティーヌの事とズーラーノーンが立てている計画の事だ。

 

『―――という計画が今あるそうです』

 

『それは使えそうですね』

 

 その情報が正確であるならば対処することが出来る。その計画のピースとなるンフィーレアはモモンガと行動しており、情報を流すクレマンティーヌはフェンリルが仲間にしている。ランクと名を上げるチャンスだ。

 

『どうしましょう?』

 

『そうですね。そのズーラーノーンとやらを監視して機会をうかがいつつ対処するのが良いと思います』

 

 モモンガの頭にデミウルゴスの事が浮かんだがこれくらいの事で頼るのも気が引けたので頭の隅に追いやった。

 

『ですね。情報収集しながらモモンガさんが帰ってくるの待ってます』

 

 

 

 冒険者モモンと一行がエ・ランテルに着いたのは満月が空に浮かぶ夜の事だった。

 ンフィーレアと漆黒の剣は荷を下ろす為に店で別れ、モモンガとナーベラルはハム助の登録をしに行く、その道中は街の住人達に見られるという羞恥プレイを味わうことになった。

 登録を済ませるとモモンガはナーベラルとハム助と一旦別れ、フェンリル達とエ・ランテルの廃棄区画で落ち合う。

 

 モモンガを迎えたのはフェンリルだけだった。

 

「お待たせしました。あれ?一人ですか?」

 

「お疲れ様です。ネルには周囲の警戒をしてもらっています。どうでした?冒険者としての初仕事は?」

 

「いや~何と言うか夢のない仕事でしたよ。でも良い経験にはなりましたね」

 

「そうなんですか?何かショックだな~でもまぁ仕方ないのかな?」

 

「それよりも例の件の方ですよ」

 

「おっと、そうでしたね。情報源のクレマンティーヌは今ズーラーノーンって組織の方に行っています。計画は深夜、ンフィーレアの事は誤魔化してもらいました。廃人になられるのは困るので。首謀者の名前はカジット、他に数名がいるという事です。とりあえず今わかっているのはこれくらいですね。あとはモモンガさんに探ってもらうしかないんですけど」

 

 フェンリルがモモンガに丸投げした。

 

「分かりました。ちょっと待ってくださいね」

 

 モモンガが漆黒の鎧を脱ぎ捨ていつもの姿に戻ると、十本の巻物を取り出すとそれを順番に展開させていく、魔法での情報収集を行うためのぷにっと萌えさん考案の『誰でも楽々PK術』による基本戦術である防御対策を行うと〈千里眼〉と〈水晶の画面〉を同時に発動させる。空間に浮かぶ画面には無数の人型が映し出される

 

「うーん見たところ強いモンスターは居ないみたいですね」

 

 見えるのはいずれも低位のアンデッドだが大群だ。 

 

「これだと他の冒険者に横取りされそうですね」

 

 一気にクラスアップを狙っているモモンガとフェンリルは他の冒険者に出来ないことを成し遂げなければならない、それだけに大規模なだけではなくその質も伴わなければならない。他の冒険者も出張ってくることを考えるとアンデットの大群だけでは心もとない

 

「どうしましょうか?」

 

「う~ん」

 

 困る二人、その時フェンリルに一つの考えが浮かぶ

 

「そうだ。モモンガさんの魔法で多少盛れませんか?」

 

「盛る?ってまさか、こちらでモンスターを用意するってことですか?」

 

「そうです。デスナイトとかを召喚してそれを俺達が倒すんです。いやこういうのはどうです?」

 

 フェンリルが提案したのは、墓所からスケルトンを大勢ととデスナイト2体を外に放ち、他の冒険者をそっちに釘付けにしタイミングを見てデスナイトをフェンリルとネルの二人で撃破、それまでにモモンガとナーベラルで墓所の中で首謀者を討伐するという計画だ。あくまで別のチームとして解決する。

 

「それでいきますか」

 

 

 

 

 最初にそれを見つけたのは墓所の衛兵たちだった。

 墓所に溢れかえるスケルトンの大軍、その前代未聞の異常事態に衛兵たちは抗ったがこの異常を伝えに走った衛兵一人を除き皆殺しにされた。

 門を破壊し蘇った死者の軍勢が生者の住む町に侵略を開始する。

 まるで地獄の釜の蓋が開いたかのように押し寄せるスケルトン、それを迎え撃つのは冒険者組合から緊急の依頼を受けた冒険者たち、死者の軍勢を押し返そうと躍起になる冒険者、数では圧倒的に不利ではあったが数多くの場数を踏んだ冒険者たちは協力して押し返していく

 だが冒険者たちの前にわずかに見えた希望は絶望によって粉々に打ち砕かれた。

 

 オオオァァァアアアアアアーーー!!

 

 雄叫びと共にスケルトンを蹴散らしながら現れたのは2体のデスナイトだった。

 ここにいる冒険者の誰も見た事のない大きなアンデッドに

 

「なんだ、こいつらは」

 

「こんなモンスター見たことないぞ」

 

 その右手にはフランベルジュ、左手には巨大なタワーシールド、鎧を纏った死霊の騎士、冒険者たちにこれから絶望をもたらす災厄 

 

 オオオァァァアアアアアアーーー!!

 

 おぞましい雄叫びに冒険者たちの背筋は凍り付いた。

 だがデスナイトはお構いなしに一番近くに居た男の冒険者を

 

「えっ?」

 

 フランベルジュで縦に真っ二つにした。

 それに他の冒険者は我を取り戻した。

 

「下がれ!魔法打てる奴は何でもいいから打て!絶対に接近するんじゃない!」

 

 数名のマジックキャスター《マジック・アロー》を放つ、幾つもの光球が2体のデスナイトに襲い掛かる。だがほとんどをタワーシールドで防がれたが幾つかがすり抜け本体に当たったが仰け反る事すらせずまるでダメージを感じている様子はなく、獲物を捕らえる肉食獣の如く獲物である冒険者を捕まえ殺していく。

 それはまさに無慈悲に吹き荒ぶ死の暴風のようだった。フランベルジュで斬りタワーシールドで殴り倒れた者は踏みつけ、同族であるはずのスケルトンごと時には建物、障害物を破壊し冒険者を確実に屠っていく、その光景は地獄だった。デスナイトの雄叫び、冒険者の悲鳴、阿鼻叫喚の地獄絵図

 

 それを建物の上から見ている二つの影、フェンリルとネルだ。ネルが使用した第9位階魔法《パーフェクト・アンノウアブル》によって誰にも気づかれる事無く、劇的な登場のタイミングを窺っているのだ。

 

「そろそろかな?」

 

「もうよろしいかと、これ以上は死人が出過ぎてしまいますし何よりデスナイトを倒す者が訪れないとは限りません」

 

 デスナイトを今ここにいる金や銀の冒険者では倒せないはずだが、この都市最高の冒険者であるミスリル級冒険者がどれほどの実力を持っているのか判らない為、到着する前に倒さなければならない。

 そう思っているとちょうど20人目の冒険者が殺されたところだった。

 

「そうだな、これ以上はランクアップにケチが付きそうだしな」

 

 フェンリルが腰に掛けた二つの剣を抜く

 

 パリッ、バリッ、バチチッ、

 

 二つの刃から雷光が走る。

 斬撃と共に雷属性の攻撃を与える事の出来るレリック級アイテムでその名をサンダーブレード〈双子〉、刃から走る雷光のエフェクトからフェンリルのお気に入りの武器の一つである。ただのビジュアルでのお気に入りなので武器としての性能はユグドラシルでは中の下といったところだがデスナイトなどの中級モンスターを相手にするにはレベル差を考えると十分な威力を持っている。

 

「それじゃ行くかな、とどめはお前に任せるからド派手な奴を頼むぞ」

 

「分かりました。派手なやつですね」

 

 ネルが《パーフェクト・アンノウアブル》を解くと、フェンリルが軽い足取りで空中へ躍り出る。

 

 

 

 

「はぁはぁ、何なんだこの化け物は」

 

 どれほどの魔法を撃ったのだろうか、どれほどの斬撃や打撃を加えたのだろうか、だがどれほどの攻撃を浴びてもこの化け物は決してひるまない、おぞましい声を上げ嬉々として人を殺していくあまりの恐ろしさに後方では逃げ出した者もいる。

 冒険者達をかつてない絶望が支配していた。危険なことや困難は冒険者には付き物だ。時にはその命をも簡単に落とす瞬間だってある、それは冒険者全てに言える事だ、だから周到に準備するし身に余る危険であるならば逃げる時もある、だが今目の前にいる死霊の騎士はそれを許さない。

 金や銀といった歴戦の冒険者が容易く屠られ、殺された者がスクワイア・ゾンビとして蘇りかつての仲間に牙を向ける。

 そんな絶望が満ちていたその時だった。

 

「オルァァァァァァァ!!」

 

 空から雄叫びを上がり、それにデスナイトいやこの場にいる全ての視線を釘付けになった。

 

 真紅の鎧を纏った男が雷光と共に降ってきた。

 

 落下と共にサンダーブレード〈双子〉がデスナイト目掛け振り下ろされる。

 

 ガキィィィィ!!

 

 だがデスナイトは容易くタワーシールドでフェンリルの攻撃を防ぐ、ユグドラシルであれば攻撃は防がれたのでダメージを与えることは出来ないのだが、

 

 グァァァァァ!

 

 一瞬の眩い光と空気を引き裂く轟音、デスナイトの身体を雷が貫いた。ユグドラシルでは起こりえない現象、金属で出来たタワーシールドを雷が走り抜け本体に雷属性のダメージを与えた。

 

(通電したのか!?)

 

 雷に打たれ白煙を上げるデスナイトが地面に片膝をついた。

 冒険者たちにそれは信じられない光景だった。だが奇跡の光景はまだ続いていた。

 

「まだまだぁ!!」

 

 まだ片膝をついているデスナイトに職業クラス〈ソードマスター〉を習得しているフェンリルがサンダーブレード〈双子〉での怒涛の連撃が襲う。斬るたびに雷光が走り、デスナイトはなすすべなく斬撃と雷の属性攻撃の嵐により瞬く間に体力を撃破寸前までにするもデスナイトの能力である1回だけHP1で耐えた。しかしフェンリルの攻撃で麻痺が付与されたため直ぐに動けないでいる。するとフェンリルはすぐに2体目のデスナイトに狙いを定め、雷の様に速く懐に潜り込む。

 

 それは周囲の冒険者には真紅の稲妻が走った様に見えた。それが後にフェンリルことウォルフの二つ名〈真紅の稲妻〉の由来となった。

 

 2体目のデスナイトが嵐のような斬撃によって雷に包まれると瞬く間にHPを削られ能力によってHP1で耐えたその瞬間にフェンリルは後ろに大きく飛び距離を取る。

 

「ルネ!」

 

「滅びなさい」

 

 偽名で呼ばれたネルが百万人に一人レベルの才能持ちが放つ事の出来る第5位階魔法である《ドラゴン・ライトニング》をとどめの一撃として放つ、周囲を昼間の様に明るくする程の光と建物が震える程の轟音を残し2体のデスナイトそして周囲にいたスケルトンは塵となって消えた。

 この魔法によりネルは〈雷光姫〉の二つ名を得ることになった。

 

「馬鹿な・・・」

 

 冒険者の一人がつぶやく、それがここにいる生き残った冒険者全ての思っていた事だった。

 悪夢の様に金や銀の冒険者が束になってもまるで刈られる草木の様に何もできず蹂躙される一方だったのに、芸術品の様に美しい真紅の鎧を纏った男と見たこともない凄まじい魔法を放ったエルフの女、まるで夢やおとぎ話の様に二人の美男美女があの悪魔の様な死霊の騎士を倒したのだ。

 そしてこの後さらに驚かされたのは二人が冒険者として駆け出しの銅である事だった。

 

 見事にデスナイト2体を倒すことに成功したフェンリルは

 

(決まったな、登場も倒し方も最高だ)と内心で自分のことを褒める。

 

「お見事です、ウォルフ」

 

 ネルが建物の上から降りてきた。

 

「いやいや、ルネのトドメの魔法も良かったよ。これで一気にランクアップもするだろう、だが・・・」

 

 迫りくる残存しているスケルトンの大軍を見ると一つため息をつく

 

「はぁ、もうちょっと頑張りますか、そうだMPに余裕はあるだろうけど一応《ドラゴン・ライトニング》が切り札ってことにして、あとは《マジックアロー》とか低位の魔法で他の冒険者をサポしてくれ」

 

「分かりました。サポートに回ります」

 

「それじゃよろしく!」

 

 フェンリルがスケルトンの大軍へ雷光の尾を引きながら走り出し、ネルが杖を構え魔法を唱える。

 その姿を見ていた冒険者は昔話に聞いた英雄譚を思い出したという。

 

「・・・づ・・・け・・・彼らに続け!」

 

「そうだ!彼らに続け!」

 

 声を上げ、フェンリルの後ろ姿に英雄の幻を重ねる。

 それに鼓舞された冒険者は武器を構え走り出した。その中にモモンと依頼を行った〈漆黒の剣〉もいたのは偶然の事だった。

 後に彼らはこう言っている「二人の英雄の誕生に出会えたことは生涯一の幸運だった」と

 フェンリル一行と冒険者達がスケルトンの軍勢を一掃し終えたのは朝日が差してきた頃だった。一掃するのは簡単な事だったがモモンガに少し時間が欲しいと言われたので時間を伸ばした結果だ。

 墓所に踏み込むとそこには静けさを取り戻した墓地と首謀者であるズーラーノーンを討伐したモモンとナーベそしてハム助だった。

 その場に見えないクレマンティーヌは当初の打ち合わせ通りズーラーノーンに在籍していた自らの痕跡を全て消し現在はとある場所に身を隠している。

 

 ズーラーノーンによって起きたこの事件を解決に導いた冒険者、モモンとナーベそしてウォルフとルネは見事にミスリル級へと昇格を遂げることが出来た。

 

 だが喜ぶフェンリルとモモンガの元にアルベドから一つの凶報が告げられたのはすぐの事だった。

 


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