オーバーロード 白い魔狼   作:AOSABI

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3話

 玉座の間

 

 玉座にはモモンガ、アルベドをはじめとする守護者達は階段の下で跪き、主の言葉を待っている。

 

「面を上げよ。皆、忙しいところに申し訳ないな」

 

 主の謝罪にデミウルゴスが答える。

 

「モモンガ様のご命令以上に重要なことなど他にございません。いったい御用というのはどのような事でございましょうか」

 

「用というのは、お前達に我が友を紹介しようと思ってな」

 

 アルベドが質問する。

 

「友?でございますか?至高の御方々以外の方でしょうか?」

 

「そうだ。幾度となく我がナザリックと共に戦ってくれた歴戦の勇者だ」

 

「歴戦ノ勇者トハ」

 

 コキュートスが歴戦の勇者という言葉に反応する。

 

「紹介しよう、我が友である。フェンリルとその従者であるネルだ」

 

 モモンガが右手を軽く上げると、玉座の後ろのカーテンに隠れていた人狼とその後ろにダークエルフが付き従いモモンガの斜め前に出てくる。

 

「高い所から失礼する初めまして守護者の方々、私がフェンリルでこっちが―――」

 

「ネルと申します。以後お見知りおきを」

 

 深く頭を下げ挨拶するネル

 

 フェンリルが守護者達へ語り掛ける。

 

「私は諸君らに、諸君らが敬愛するモモンガさんやそれぞれの生みの親であるメンバーの方々と同じ様な待遇を求めるわけではない、それは諸君らの敬愛を侮辱する行為であると私は思っているし、その事で諸君らの曇りない忠誠の心をわずかでも曇らせたくない、ゆえにただ私がモモンガさんの友であることだけは認めてほしい。だがそれをただ認めることを出来ない者もいるだろう、友として敬愛する主の傍にいるに値する者なのだろうかと、それを私の力を示すことでそれを認めてほしい、私はモモンガさんの様な知略を持てぬ戦での先駆けを旨とする不器用な男だ。このような方法で示すことしかできない事を謝罪する。だがその力をもってモモンガさんの友としての証明としたいと私は考える」

 

 言葉の裏を考える者、どう反応して良いか分からぬ者、実力をはかろうとする者、守護者の反応は様々だがとりあえず敵意は感じない。

 フェンリルがモモンガの方を振り向くと、骸骨の頭が頷いた。

 

「私はこれを是とする。そしてこの戦いを受けるに値する者としてコキュートス、私はお前が適役であると確信している。同じ武人であるお前こそがフェンリルさんの思いを曇りなく受けることが出来ると、どうだ?やってくれるか?」

 

 指名されたコキュートスは少々驚いたが強者と闘えるという思いが勝った。

 

「有リ難キオ言葉、ソノ大役謹ンデ御受ケイタシマス」

 

 指名を受け入れたことにモモンガとフェンリルは安堵する。

 

「そうか、受けてくれるか、では試合は明日行うとする。以上だ」

 

 

 

 玉座の間での紹介の少し前、フェンリルの自室

 

「計画って、それしかありませんか?」

 

 提案された計画に骸骨の表情は変わらないがモモンガは心配している。フェンリルは頭を掻き、自ら立てた計画とはいえ複雑な顔をする。

 普通に紹介しようという提案をモモンガはしたが、フェンリルが友と紹介される以上は実力を示さなければならないと言い計画を提案してきたのだ。

 

「いや、まぁ、それしかないかなって、守護者達の話を聞く限りだと忠誠度がメチャメチャ高いじゃないですか?」

 

「そうですよ」

 

 忠誠度が高すぎてアンデッドの身体には無いはずの胃がキリキリと痛むという、モモンガのある意味では最大の悩みの種の一つになっている。

 

「で、モモンガさんが認めろって言ったらきっと従いますよ。表向きは、でも心の中ではどう思っているか分からない、不満かもしれないし、この状況でいらない不和を呼ぶのは避けたいんです。なら自分の力で示すしかないかなと思いまして、で、その役目は武人という設定のあるコキュートスが適任だと思います。アルベドやデミウルゴスは策を弄するキャラだし、その点でいうならコキュートスこそが刃を交えてうんぬんという事で一番認めてくれるかなと、いずれにしてもすぐ信用はされるはずはないので、そこはまぁ気長にやっていくしかないんですけど、まずはコキュートスに認めてもらう事を勝ち取ることが一番です」

 

 その説明にふむと頷くモモンガ、たしかに命令でいう事を聞かせるなんてブラック会社どころか恐怖政治もいいところだ。守護者の望む支配者を目指そうというモモンガの理想とは違う。

 

「たしかにそれならコキュートスが向いてますね」

 

 フェンリルは言わなかったが、守護者達はきっと自分が主であるモモンガに悪意を持って近づいてきたのか、または悪影響を及ぼさないかを調べてくるはずだ。主を思っての忠義の暴走は主の望まぬ事をする恐れだってある。

 

「それとですね―――」

 

 

 

 翌日、円形闘技場

 

 中央で対峙するフェンリルとコキュートス、観客席にはNPC達、貴賓席にはモモンガと守護者達が今か今かと開始の時を待っていた。

 

「これより我が友であるフェンリルと守護者代表であるコキュートスとの試合を行う!両者とも準備は良いか?」

 

 頷くフェンリル、その装備は大罪装備と名付けた白と金に彩られた手甲・胸当て・脚甲、腰には血に塗れた様な腰布を巻いている。いずれもゴッズ級アイテムの逸品だ。

 

 同じく頷くコキュートス、その手に握られているのはゴッズ級アイテムの大太刀、斬神皇刀のみ、だがこれは決してフェンリルを侮っているわけではない人狼の種族としてスピードに優れているからこそ、自身の持つ武器の中で最も早さと鋭利を持つ武器にしたのだ。

 

「まずは私の我がままに付き合ってもらうことに謝辞を言わせてもらう。ありがとうコキュートス」

 

「謝辞ナド不要デス、私モ歴戦ノ勇者ト聞キ、手合ワセヲ願イタカッタ」

 

「もはや言葉は不要か、その意気や良し」

 

「―――始めっ!!」モモンガが開始を告げた。

 

 張り詰める空気の中、睨み合う両者、どちらとも動かない。

 

『これが本当の闘いか』

 

 ゲームでは感じれない本物の闘いの空気、コキュートスから飛んでくる殺気とも言えるものが銃から放たれる弾丸のように身体に打ち付けてくる。常人なら気を失う程の空気だがそんな気はしない、それどころか心の奥底から湧き上がる闘争本能に笑みがこぼれるほど気分が高揚してくる。

 ナイフのような牙を剥き出しの凶悪な笑みは見るモノを凍てつかせる

 

『コレ程ノモノトハ』

 

 コキュートスも凶悪な笑みを浮かべるフェンリルの底知れぬ力をはかっている。

 先に動いたのはフェンリルだった。クラウチングスタートの姿勢を取り、ドッ!という音と共にフェンリルの居た場所がまるで爆発したように大きな土煙に覆われた。後に残ったのは大きく抉られた土

 

 ガギィィ

 

 金属のぶつかる音、コキュートスがフェンリルの右正拳を斬神皇刀で受け止める。

 

「これに反応して防御するとは、流石だ」

 

 などと言ってはみたがフェンリルに奇妙な違和感があった。『何だこれ?俺の動き速過ぎないか?』実戦だからなのか、それでも想定していた自分の動きが速過ぎる。

 

「何ノコレシキ、ムンッ!」

 

 斬神皇刀にはじかれる様に後ろに飛ぶフェンリル、着地したのは間合いギリギリ、まさにそこが死線、あと半歩でも動けばコキュートスの剣が目にも止まらぬ速さで飛んでくる。再度突撃するのではなくフェンリルが足を肩まで広げ腰を沈め、まるで銃の早打ちのような構えを取る

 

「いくぞ」

 

 フェンリルの両拳から何かが放たれた。

 

「クッ」

 

 飛んできた無数の何かをコキュートスが斬神皇刀で全てはじき返す。フェンリルの装備に飛び道具はない、ならば魔法かと疑うが発動までの時間が短すぎる。

 一番にそれに気づいたのはセバスだった。

 

「あれは・・・」

 

「何か気付いたのか?」

 

 主の問いにセバスが答える。

 

「はっ!あれはおそらく〈遠当て〉と思われます」

 

「〈遠当て〉?何かのスキルか?」

 

「私の修めているガイキマスターのスキルで気を砲弾のように放つものでございます」

 

 だが同じガイキマスターを取得しているのに速度が桁違いだ。セバスの〈遠当て〉をプロの投手が投げる剛速球とするならフェンリルのは銃弾だ。

 フェンリルのモノは相手へのけん制を目的としている為、グラップラーのスキル〈体術〉や他のスキル、装備によって威力を半分まで落とす代わりに溜めをほぼゼロまで短縮し極限まで速度を追及し散弾銃のように無数に放つコンボスキル〈ショットガンフィスト〉

 フェンリルの両手から放たれる〈遠当て〉の威力は決して脅威ではないが暴雨の如く襲うナザリック一の攻撃速度を持つコキュートスを圧倒する程の速度が恐ろしいまでの効果を発揮していた。

 コキュートスの技量を持ってすれば威力の低い攻撃などダメージを無視して攻撃できるのだが、攻撃をしようする僅かな動作に反応して威力が込められた攻撃が飛んできて阻害される。

 この緩急織り交ぜた攻撃に翻弄されていたがコキュートスの歩みは止まらずじりじりと間合いを詰めていく

 

『・・・スタンが取れないな』

 

 〈ショットガンフィスト〉に混ぜて状態異常・気絶を付与する〈スタンフィスト〉を何度か打っているが付与される気配がない。

 

『やっぱり、状態異常対策はしてるか・・・そうなると・・・』

 

 飛び下がり距離を取るフェンリル、コキュートスを睨み、拳を鳴らす。

 

「小手先の遊びでは児戯にもならぬか・・・今一度参る!」

 

 身を最大限まで低くして音速での突進、間合いに入った瞬間、斬神皇刀がフェンリルを一刀両断しようと振られるが、間一髪、背中の毛先を刈られるだけで何とか回避した。一瞬でも遅れていたら首が落ちていたところだ。

 

「コレヲカワストワ、流石ダ!」

 

『殺る気満々かよっ!』

 

 襲ってきた斬撃の速さと鋭さに毒づく、おかげで攻撃することもできなかった。

 互いの間合いの中で上下左右立体的に繰り出されるフェンリルの神速の突撃を迎え撃つコキュートスの神速の斬撃

 

 ガキン、ガキン

 

 と火花を散らしながら何度となく交わされる攻防、そしてフェイントによってコキュートスが大振りになった瞬間

 

『シマッタ!』

 

 フェンリルが消えた。〈転移〉の移動距離を犠牲にMPの消費と発動時間を抑えた移動距離僅か数mの超短距離の瞬間移動〈縮地〉を発動させ、瞬時にコキュートスの懐に移動したのだ。『コノ体勢ハマズイ!』胴ががら空きになっている。防御も間に合わない。攻撃をもらう覚悟を決め腹部に力を籠める。『貰った!』そこに破壊力に特化した〈マグナムフィスト〉を打ち込む。

 

「グハッ」

 

 腹部の甲殻装甲が大きくひび割れ深々と穿たれたフェンリルの右拳、だが〈マグナムフィスト〉の反動で動けなくなったところにすぐさま反撃が返ってくる。

 

「〈ピアーシング・アイシクル/穿つ氷弾〉」

 

「かはっ」

 

 無数の氷弾が無防備な身体に突き刺さりその激痛に顔を歪める。反動が解けた瞬間に下がり間合いの外に避難する。

 

『超いてぇー!!血がこんなに出てるよ!』

 

 死すら意識する無数の傷に体の半分を染めるほどの大量の出血、だが血はもう止まり傷が塞がり始め、それと同時に強烈なまでの痛みはもうなくなっていた。

 種族スキルの〈再生〉が発動している。ゲーム内ではHPの自動回復だったがこっちの世界では

 

『・・・グロい』

 

 それが感想だった。傷ついた箇所の肉が盛り上がり塞がっていく、まるでB級ホラー映画の特殊効果でも見ているかのようだった。

 そして気付いた事がある。それは今が満月の夜であるという事、〈再生〉は満月の夜にのみ発動するスキルでさらに人狼は全ステータスが30%upする。地下にある円形闘技場だが効果が発揮されていることに驚く

 違和感の正体はこれだったのかとフェンリルは納得した。

 

『何トイウ一撃ダ。甲殻装甲ヲ砕カレルトハ』割れた甲殻装甲の間から緑色の血が滲んでくる。

 

 コキュートスが血を流すほどの闘いはナザリックに連合ギルドによって侵入を許した時以来だ。

 

『心ガ踊ル、コレ程ノ強者ト闘ッテ死ンダトシテモ本望ダ』

 

 再び近距離戦闘を開始する。先程よりも苛烈な一進一退の攻防だがコキュートスとフェンリルの間に流れる空気が変わったように思えた。

 戦闘特有の冷たくも熱い刺すような空気が山の澄んだ空気のようなものに変わり、二人の攻防は徐々にまるで舞い踊るように美しい剣舞のようになっていく

 それをモモンガはほうと息を飲む。

 

『カッコいいな~何かゲームのPVみたいだ。それに・・・』

 

 楽しそうだ。コキュートスの表情は読めないがそれでも楽しそうに見える。武を修めている者同士何か通じるものがあるのだろうか、モモンガはマジックキャスターなので分からないが

 

 両者が距離を取り仕切り直そうとした瞬間、フェンリルの纏う空気が一変する。

 

『楽しい・・・なんて楽しいんだ・・・だから・・・殺してしまいたい・・・』

 

 気分が高揚すればする程、相手を壊してしまいたい破壊衝動と、この爪で引き裂いてしまいたいという欲望が疼く、疼きに反応するように目の前が赤く染まり視界が狭くなっていく

 まるで違う自分に意識を乗っ取られていくような感覚

 

 ・・・殺しても・・・いいよな・・・殺して・・・しまおう・・・

 

 まずい、これは

 

『モモンガさん!!』

 

 フェンリルとコキュートスの間にファイヤーボールが撃ち込まれる。爆発に巻き上がる土煙、両者が魔法を撃った者を見た。

 貴賓席で立ち上がっているナザリックの主にして死の王が黒い靄の様な絶望のオーラを放ちながら

 

「双方そこまでだ!」

 

 骸骨の眼に紅い炎が強く燃え上がっている。

 不測の事態に備えてフェンリルとの打ち合わせ通りに繋いでいた〈メッセージ〉のおかげでいち素早く行動出来た。何とかフェンリルの緊急事態に対処することが出来た。

 

『大丈夫ですか!?フェンリルさん!』

 

『・・・助かりました・・・あと少しで・・・〈滅獣化〉しそうになってました・・・』

 

 発動するはずのないスキルが発動しそうになったという事がモモンガとフェンリルのこの世界の謎を一層深めた

 

「これ以上はどちらかが死ぬまで闘うと判断した為止めさせてもらう。見事な戦いぶりであったコキュートスよ、刃を交えてどうであった?」

 

 モモンガがコキュートスへ問う。内心では認めてくれと祈りながら

 

「確カナ実力ヲ見マシタ。私ハモモンガ様ノ友デアル、フェンリル様ヲ信頼ニ値スル者デアルト認メマス」

 

 心の中でガッツポーズをする。計画が上手くいった。いやそれ以上だ。信頼するといってくれたのだ。

 

「そうか、我が友を認めてくれたか。守護者達よ、まだ信頼に値せずと思う者もいるだろう。私もフェンリルさんもそれを当然だと思っている信頼するというのは時間が掛かるものだ。だがそれを私は責める事はしない、命令ではなく守護者自身によって信頼して欲しいからだ。コキュートスは自ら刃を交える事で友であることを認めてくれた。諸君もそれぞれの方法でしていってほしい」

 

 恭しく受け止める守護者達

 

「ありがとうコキュートス、君に認められたことを誇りに思う」

 

「コチラコソ、貴方ト闘エタ事ニ感謝シマス」

 

 フェンリルとコキュートスが固く握手をする。作戦通りコキュートスの信頼を勝ち取ることが出来た。


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