フェンリルがネルを隣接したドレスルームでの待機をさせ、部屋には二人だけになった。
「モモンガさんどうだったんですか?無事に帰ってきたという事は味方だったようですね」
「それは良かったんですけど、守護者達の自分に対する評価が異常に高くって・・・」モモンガがため息をつく
モモンガを表現するのに『いと高き」とか『至高の』とか、本人はいったい誰のことを言っているのだろうとすら思っていた。
「あ~それは苦労しそうですね。ご愁傷さまです」
手を合わせて拝むフェンリル
「も~それよりも、まず報告ですね。スキルは使えたみたいですから問題ないですね。あと魔法も普通に使えました。あと色々ありますがそれは実際にやってもらうしかないんですけど」魔法を使う感覚などは実際にやってもらうしかない。
「それとナザリックの外の事なんですけど」
「沼地のはずですよね」
「いえ、どうやら草原のようです。何の変哲もない草原」
「草原?じゃあ本当に・・・」
「そうです。外は夜だったようなのでそこまで詳しくは調べてはいませんがどこかに転移したと考えるべきでしょうね」
「あとは、フェンリルさん達を紹介するタイミングですよね」
「モモンガさんの話を聞く限りだとNPCは絶対的な忠誠を誓っているはずですけど、ギルメンでもないオレにどうでるかですよね。下手すると敵認定されて殺されるなんてこともありえますからね」
「それは・・・」ないとは言えない。
「でも、ネルを見るとそうでもないのか?」今のところネルはモモンガに対して敵意などは向けていない。だがそれが他のNPC全てに言えるわけではない。
モモンガとフェンリルが腕を組み「う~ん」と悩む。まだまだ分からないことが多すぎる。
と、フェンリルの腹が鳴った。
「腹減るんすね・・・どーしよ」
リアルだったら冷蔵庫に入っているものでも適当に食べるのだが
「フェンリルさん、飲食不要アイテム付けてないんですか?」
「あれ、結構なレアアイテムじゃないですか、それに今の装備構成だと装備スロット空いてないんですよね」
「あ~ガチ構成ですか、じゃあ仕方ないですよね~、私も泣く泣く外したアイテムとかもありますし」
「う~ん・・・あっそういえば・・・」何かを思い出したようにフェンリルがアイテムバックを漁る。
「あったあった」そこから出てきたのは、剥き出しの何も加工されていない大きな骨付き生肉の塊、特別な効果もないただのユグドラシルの食材アイテムの一つだ。
「スゲー何だこれ」フェンリルもモモンガも自分の頭よりも大きな生肉の塊など初めて見る。リアルだと料理として加工されたものを食べることしかしていなかった。
「うわ、何かシュールですね」
ただ気になるのはアイテムバック内でどのように保存されていたかだ。見た目は新鮮そのものだが
「食べられるのか?見た目は大丈夫そうだし・・・においは・・・腐った感じもない。あとはこれをどう料理するかだけど・・・」
モモンガを見てみるが首を横に振る
「料理スキルは持ってませんよ」
「ですよね。オレも料理スキルなんて持ってないし・・・いや、いっそこのまま食べてみるか・・・」
人間の体なら問題だろうが、人狼となったこの身体ならおそらく問題はないはず、
「あ~~むっ」口を大きく開け生肉の塊にがぶりと噛り付く。
「どうですか?」表情は変わらないが心配そうな声をかける。
口の中に広がる野性味溢れる獣と血の匂いに嫌な感じは無い、むしろこの匂いに唾液と食欲が出てくる。乱暴に食い千切り租借すると噛むごとにいっぱいに広がる肉と血の味は今まで食べてきた全てが霞むほどの美味さだ。咀嚼しミンチになった肉をごくりと飲み込む。
「美味いっすよ、これ」
「え~本当ですか?」何の処理も味付けもされていない生肉が美味いなどと聞いたことがない。モモンガの今の身体では食事を取ることなど出来ないが
「リアルだと合成食とか食べてたじゃないですか?」
「ええ」たしかにと頷く、コンビニ弁当をイメージして話すフェンリルだが、食事に興味の無かったモモンガは味の付いた液状食料を思い浮かべる。
「それとは比べ物にならない位、美味いっす。というより本物の肉って感じ、いやちゃんと食事をしているって感じですかね」うまく伝えられない自分の語彙の少なさが嫌になる。
「食べられるのなら良かったですね」
「ですね。とりあえずこれを食べ終わったら作戦会議といきましょう」