朝、クレマンティーヌが目覚めリビングへ行くとフェンリルが居た。
「珍しいじゃん、フェンちゃんがもう起きてるなんて」
いつもならフェンリルがあくびしながら眠そうにリビングにくるのをクレマンティーヌとネルが迎えるのだが、今朝はしっかりと起きている。
「たまにはこんなこともあるさ、それよりもクレマンティーヌに聞きたいことがある」
「なぁに?もしかして3サイズの事?や~ん朝から元気ぃ~」
身体をくねらせるクレマンティーヌ
「ちょっと真面目な話だよ。お前、法国に居たんだったよな?」
法国という言葉にクレマンティーヌは不快感を現した。自分の過去を話すのは好きじゃない
「何、その話ならしたくないんだけど」
「そう機嫌を悪くしないでくれ、俺はお前が過去に何をしていようが関係ないと言っただろう。俺が聞きたいのは六大神と八欲王の話さ」
「六大神と八欲王?何で今さらそんなの子供でも知ってる事じゃん」
子供でも知っている事なのかとフェンリルは驚く
「俺が聞きたいのはそんな誰でも知っているような話じゃないんだ。お前はプレイヤーって知っているか?」
「どこでそれを聞いたの?」
驚いた。何しろ国を挙げて信奉する六大神の正体に関わる事なのだから、その存在は法国でも一部の者しか知らない極秘事項、秘密を洩らそうものなら本人とそれを聞いた者を皆殺しにするだろう。
「その感じ、知っているんだな?」
「先に答えて、どうしてプレイヤーのことを知っているの?」
「俺がそのプレイヤーだと言ったら?」
「まさか・・・」
言葉を失った。幼い頃から耳にたこができるほど聞かされた六大神の話、自分がフェンリルに感じた神としての存在は間違いではなかった。
「はは何それ、本物の神様じゃん」
「そんなどこにいるかもわからない神様とか言われたくないんだけどな、それよりも六大神とかの話を聞きたいんだけど」
「私も真面目に話聞いたりしてたわけじゃないからそんなに詳しくはないけど―――」
クレマンティーヌの講義が始まった。
600年前、人類は他種族との生存競争に敗れ絶滅の危機に瀕していた。その時現れた六人のプレイヤーとNPCによって人類は救済され、現スレイン法国の基礎を創り上げた。これによりプレイヤーは後に六大神と呼ばれNPCは従属神と呼ばれることになる。
それから100年が経った頃、新たに八人のプレイヤーがこの世界に現れると彼らは瞬く間に国を滅ぼし世界を支配した。その抗争によって優れた種族は力を落とし人類が滅びを免れる一因ともなった。
六大神は現れてから100年の内に多くが隠れ最後に残った一人は八人のプレイヤーによって殺され、六大神亡き後彼らの従属神は多くが堕落し、魔神と呼ばれ世に災いをもたらす存在となった。
八人のプレイヤーは欲深く互いの物を欲して争った挙句、最後には皆死んでしまったという。この欲深さから彼らは八欲王と呼ばれることになった。
また八欲王によって今の魔法が広まったという。
「―――っと六大神と八欲王の話はこんなところかな」
「なぁ、子孫は残さなかったのか?神とまで呼ばれる強力な力を持つ存在であるならば子孫を残そうとするもんだと思うんだけど?」
「あぁ、神人のことね」
「しんじん?」
「神の力を覚醒させた人ってこと」
面白くなさそうにクレマンティーヌは話始めた。スレイン法国は六大神の血を引き力を覚醒させた者を神人と呼び貴重な戦力または次代に血を残す者として隠匿されている。現存しているのは三名でいずれも六大神が残した遺産を装備しているという。
「それは誰か知っているか?」
「クソッタレを二人ほどね」
クレマンティーヌの心底嫌そうな顔を見て、フェンリルはそれほど嫌いなのかと深く聞くのはやめておいた。
「もういい?」
「OK、分かった。この話は以上だ」
その日の夜、フェンリルはモモンガの元へ一人で訪れていた。蒼の薔薇とクレマンティーヌから聞いたプレイヤーの話を直接する為だ。
モモンガの執務室にはいつもなら護衛の為エイトエッジアサシンが何体か控えているのだがフェンリルがモモンガと二人きりで話がしたいと言った為、緊急の要件以外は何者も通すなとの命令を受け今は部屋の外で見張りをしている。
「―――という事です」
フェンリルが話した六大神と八欲王の話をモモンガは頭の中で整理する。
六大神をプレイヤーとすれば従属神はNPCやシモベにあたるのであろう、とすれば彼らは自分と同じくギルドホームごと移動してきたと考えられる。とすればスレイン法国がギルドホームそのものもしくは近くにある。
神の遺産を持つというのであればおそらくはシャルティアにワールドアイテムを使用した者もスレイン法国の者である可能性が高い、そう考えた瞬間モモンガに怒りが湧いたがすぐに鎮静化されてしまう。
「ふー厄介な相手ですね。スレイン法国は」
「ですです。きっといろいろ情報を持っていると思うんで、モモンガさん怒りは抑えてくださいね」
「分かっています。ですがシャルティアへのつけはいずれ必ず払ってもらいます」
再び沸き上がった怒りを沈める。
「そう言ってもらって良かったです。もしスレイン法国に攻め込む!なんて事になったらどうしようかと」
もしそうなればこの世界に終末が訪れる事になるのではとフェンリルは心配していた。
「そうしたいのはやまやまですけどね、相手はワールドアイテムを持っているかもしれないとすれば、うかつには手が出せませんよ」
フェンリルが言ったように本当は今すぐナザリック全軍を上げてスレイン法国を攻め滅ぼしてやりたいところだ。
「ところでなんで俺がモモンガさんだけに話したと思います?」
確かに守護者達にも共有すべき話ではある。だがうかつに話せばシャルティアの一件で守護者達の憎悪は燃え上がりスレイン法国を攻め滅ぼす手段を考えるだろうだが、モモンガが命令しなければ実行する者はいないはず、特にデメリットらしいものが見当たらない。
「なんでって・・・なんで?」
「それはですね・・・神人の事があるからですよ」
「神人?別に・・・あっ」
プレイヤーの血を引く者がいると分かれば行動に動く者が出てくるかもしれない主に二人、特に片方は頭が良い分、神人の話をしなくても気づく可能性が大きい。
「アルベドは喜ぶでしょうね~」
ニヤニヤと笑うフェンリル
「いやいや、フェンリルさんもですよね!」
抗議する。立場は同じ、いやまだこちらはアルベドやシャルティアに知られていないだけまだましだと
「俺は・・・その・・・そうなんですよねぇ、二人とも知ってるんでこれからどうなんのかなぁ、だからモモンガさんだけに話したんですよ、感謝してください」
「あ、それはどうも」
「でも、まぁ、今すぐそういうのが起きるとは思いませんけど、いづれは覚悟決めたほうがいいのかなぁ、どう思います?」
「知りませんよ」
ピシャリと助けの手を絶つモモンガ
「冷たい!モモンガさん冷たい!・・・ふふっ」
「「あっははははは」」
フェンリルとモモンガが笑い合う
「はぁ、でどうするんですか?ナザリックでもスレイン法国の情報を集めますけど」
どうするのか尋ねられ少し考える
「俺はちょっと手を引きます。さすがに国相手じゃ下手なことできませんから、それに帝国は法国から距離が離れていますからね、今は帝国で大人しくしてますよ。藪をつついて蛇どころか竜が顔出したら大変ですからね」
その竜をひっ捕まえて殴り殺しそうだ。とモモンガは思ったが口にしなかった言ったらきっと、その手があったかと考えを変えてしまいそうだから、しばらく大人しくしているというのならそれがいい
「それが良いですよ」
「そういえば、ちょっと話変わりますけど、タレントってあるじゃないですか、あれって神人とかとは違うんですかね?」
「違うとは?」
「いえね、ユグドラシルのスキルをこっちの世界のタレントに似たものもしくは同一だとして、タレントを持った人間はプレイヤーやNPCの血を引いていて、オリジナルが持っていたスキルをランダムに発生させた存在だとすると、その本質は同じではないのかなと思ったんですよ」
「確かに、その疑いはあるかもしれませんね」
「あと、タレントの発生って完全なランダムなんですかね?どっちかの親が持っていたらそのタレントは子に受け継がれないんですかね?もし受け継がれる可能性があるなら母親と父親がタレント同士ならどちらが引き継がれるのか」
「それなら同質のタレントを持つ者同士の子はそのタレントが強化されるのかということも気になりますね」
堰をきった様に出て来る異形2匹の疑問は尽きない、後にこの疑問から家畜の品種改良とも悪魔の所業ともいえるタレント保有者の掛け合わせがデミウルゴス主導の元行われることになる。
もっと早く書けるようになりたい